ウルトラのキセキ ~One More Sunshine Story~ 作:がじゃまる
最後の話となるエピローグは翔琉君と春馬君視点となります
『クソッ……こんなはずでは……!』
焼け焦げた身体を引き摺りながら、幾重に連なる時空の狭間を敗走する。
恥辱と憤慨に塗れた逃避の中、瞬くのは己が野望を阻んだ忌々しい光だ。
『やはり私一人であの方の意思を継ぐべきだったのだ……! 何故あんな子娘になど……!』
計算が狂った原因を何度も模索するが、結局はこれに帰結する。
全ては本来あの世界に存在しないはずの光。その発露が全てを瓦解させた。
『許さんぞウルトラ戦士…………次こそは必ず……!』
「次だぁ……? 逃がすと思ってんのかよ」
全ての狂いへと繋がった声の飛来を察知し、咄嗟に翻した身体を掠める銀色の閃光。
思考の内では屠るべき憎悪の対象であったそれも、今のこの瞬間に限っては絶望の象徴に他ならなかった。
「よぉ……借りは返しに来たぜ蝙蝠野郎」
銀翼を携え迫りくる文字通りの白刃。
回避の不可を悟った肉体は無謀な打ち合いへと転ずるが、最期の一撃が奴を捉えることはない。逆に刻み込まれた斬撃は鎧に覆われているはずの身体を深々と切り裂いていた。
『馬鹿、なぁ……、こんな…ところでェ……!』
遠くなる感覚と共に暗転する視界が底へと落ちてゆく。
直後に訪れたのは完全なる漆黒。暗闇に沈んだ意識が再び浮上することは二度となかった。
「……っと、いっちょあがりぃ」
背後で上がる爆発を機に張り詰めていた緊張の糸を解く。
彼等に比べ少し遅くはなったが、これで自分の果たすべきケジメは果たした。
「デバイザーの生体反応が消えてねぇからまさかとは思ったけど…………一応追尾してみて正解だったな」
もし奴を取り逃したことで更なる悲劇を生んでいたら。そう考えるとあまり気分のいいものではない。
正直別世界のことなどを気に掛けている余裕などないのだが………まあ少なからず、これで妙な心残りを残すことはないだろう。
『……この分じゃ、もう終わっちまったみてぇだな』
寄り道を終え、今度こそあるべき場所へ帰還しようとした刹那、覚えのある声が耳を撫でた。
忘れもしない。これは自分が初めて触れた、自分以外の―――、
『よぉ。久々……ってほどでもねぇか』
振り返った先で見たものは、自分と同じ白銀の鎧を纏った巨人。
その姿形は直前まで共に戦った者と共通するが、同一の者でないことはすぐに理解した。
『ウルトラマンの存在しない、様々な平行宇宙を滅ぼし続けてる奴がいる。宇宙警備隊の方もやっと尻尾を掴んだとこだったんだが………まさかお前に先を越されるとは思ってなかったぜ』
赤と青のツートンカラーの中に走る銀色のライン。象徴的な胸の光に、粗暴な印象ながらも強い意志を感じさせる双眸はあの時と変わらない。
『おかげで手間が省けた。宇宙警備隊を代表して礼を言うぜ、翔琉』
けどたった一つ、あの時と明確に違うものがある。
装甲を解き、称賛の意と共に手を差し出してきた彼の姿を、生まれた違和を抱きつつ眺めた。
『…ん? おい、どうしたさっきからぽけーっとしやがって』
「…え? あ、ああ……わりぃわりぃ」
遅れて重ねた手のひら。その瞬間、やはりと実感する。
目の前の巨人の中に、あの時肩を並べた˝彼˝の気配はもうなかった。
『しゃんとしろよ。この件については感謝するが、お前の方の戦いはまだ終わっちゃいねぇんだろ?』
「……わかってるよ」
けど憂いなどはなかった。感ずるものはむしろその逆とも言える。
彼はあの先も、仲間と共に駆け抜け………掴むべき未来を、掴み取ったんだ。
『…っと、あんま長居してもいらんねぇか。俺の方も任務が立て込んでるもんでな』
感慨の間もなく、束の間の再開は再度合着された鎧によって幕を閉じる。
『またどっかで会おうぜ。それじゃあな………シェアァ!』
突き出した拳を胸の輝きに当てた後、蒼き勇者は次元の穴の中へと飛び去ってゆく。
時間にして数分にも満たない邂逅。けれどこの胸に充ちるものは、時間などでは測れないものだ。
「そっか………やり遂げたんだな、お前は……」
自らも纏う白銀は彼等から受け取ったもの。力だけじゃない。学び、感じた想いは、今も自分の中にある。
「……負けてらんねぇよな。やってやるよ、俺だって!」
その一つ一つに突き動かされた身体は時空を超え、天地翔琉は、守るべきものが待つ場所へと舞い戻った。
瞼を閉じれば思い出す、語るには少々現実味を欠いた、夢のような出来事。
きっと誰に言っても、過去の自分すら信じはしないだろうけど、それでも確かに―――ここにあった。そんな体験。
『―――春馬』
声に引き戻され、身体を離れていたかのようにどこか遠くにあった意識に飛び込んでくる景色。
閑散としつつも温かかったあの場所とは違う、見慣れたビル街を雑踏が行き交う都会の喧騒。ここは自分達の世界だ。
「ごめん考え事してた……どうしたのタイガ」
『信号。とっくに青になってるぞ』
「……あ」
指摘され、今にも点滅を始めようとする信号機の下を慌てて潜る。
どっと沸き上がってくる疲労に溜息をつきつつ、再び歩み出した足は目的もなく東京の街を彷徨った。
『おいおい大丈夫かよ。戻ってきてからずっとその調子だぞ』
「ごめん……なんか、ずっと頭から離れなくて」
『ふむ……君達が飛ばされたという世界の話か』
『でもよ、その世界の英雄?達と一緒に脅威は退けたんだろ? だったら気に揉むこともないじゃんかよ』
既にこの世界に帰還してから数日が経つというのに、三者三葉に投げかけられる声音には未だに懐かしさすら感じる。
この世界へ戻ってきた時、別時空へと移ったあの瞬間から時刻が変わっていないどころか、濃霧などを含む一連の異常現象を覚えている者はいなかった。
記憶が残っているのは自分と共にあの世界へ飛ばされた相棒と、こちら側へ取り残した二人の仲間だけだ。
「そういうのじゃないんだけど、なんかこう、もっと別なものと言うか………」
『……あの少女達のことか?』
自分の意を読み取ったかのような声に頷く。
「あれでよかったのか、なんていうつもりはないよ。世界だけじゃない。あの子達の心も救った未来さんは本当にすごかったと思う。………でもあの子が初めに助けを求めに来たのは、俺だったはずなんだ」
悠久の時を超え、その魂が薄れつつある中でもなお、友のため時空を跨いでまで救おうとしたその想い。是非はあれど、それ自体は美しいものだ。
だからこそ、思う。
「俺はあの子達に、なにかすることができたのかな………って」
確かにあの世界の勇者達に触れ、変化を促すことくらいはできたのかもしれない。
けれど、結局自ら踏み出し、世界を救うまでに至ったのは彼等自身だ。特別自分が何かを成したという訳ではない。
それがずっと、心に引っ掛かり続けている。
「……未来さんなら、どうするかな………」
「お、春馬―――!」
思案の中へ割り込む声が一つ。
雑音に囲まれた街の中でその主を探し辺りを見回せば、自然と、列を成す人々の傍らに身を置いた青年の姿が目に入った。
「未来さん……」
噂をすればなんとやら、とかいうやつか。自分達へ手を振る彼はある意味求めていた者。
脳裏へ映し出されていた少年の顔が数年後のものへと更新される。本来自分の知る彼はこちらであるはずなのに、こうして大人となった姿と対峙するのは少し違和感があった。
「いやー、丁度良かった。ちょっと付き合ってくれないか」
「……はい?」
手招きされるままに寄ってみれば、掛けられた言葉の内容に首を傾げる。
それなりの長蛇となりつつある列の先にあるのはここらでは有名なスイーツ店だ。少し前に姉貴分がここの甘味は美味しいなどと満足げに語っていた記憶がある。
だが自分の知る限り、この場所と彼は結びつかないものだが………、
「実はうっかり冷蔵庫にあったカレンのプリン食ったら機嫌損ねちまってな。それで詫びも兼ねて甘いものでも買って戻ろうかと思ったんだが………ちょっと俺一人で並ぶにはハードル高くてな、ここ」
語られた理由に再度列を見返してみれば並んでいる多くは若い女性だ。
なるほど。確かに成人男性一人では入りづらい空気感だろう。
「頼む春馬この通りだ! なんか好きなの奢るから………な?」
重ねた両手を前に頭を下げてくる姿はとても地球を守る……などと声高々に語っていたあの時とは繋がらない。
なんとも情けない様に断りきることは出来ず、結局、かつての英雄と共に甘味を求める列の一部となるのだった。
「それで何か悩みでもあるのかよ、後輩」
「え…」
並び始めて数十分ほど経っただろうか。
無事詫び入れの品も手に入った折、店内併設の席でコーヒーを呷った彼は不意にそう零した。
「最近春馬の様子が変だって、昨日ノワールの奴から聞いてさ。そしたら丁度見かけたし、いい機会だと思ってな」
「え、何でそれ知ってるんですかノワール先輩」
「深く考えるな………そんで、そこんとこどうなんだよ」
向けられた真っ直ぐな瞳はあの世界で出会った彼と重なった。
澱みも、まして歪みもない。平行世界を隔てた別人だとは言えど、やはり本質は同じなのだと実感させられる。
だからこそ、彼の出す答えが知りたかった。
「……もし、助けを求めてきた人の力になれなかったとしたら………未来さんならどうしますか?」
促されるままに切り出した問いが生む暫くの静寂。
一瞬考える仕草を見せた彼が次に発した言葉は………意外にも、単純なものだった。
「…次こそは力になれるよう頑張る、かな」
殆ど即答に近い形で出された答えに目を丸くする。
彼の言う次が必ずしも同一の人物に対する次でないのはすぐにわかった。でもそれは何かを守るという道の中で出した答えの一つなのだろう。
「勿論ずっとそれじゃダメなんだろうが、出来なかったことにいつまでも囚われてもいられないだろ? 特に、俺達みたいなのはさ」
ラフに重ね着されたジャケットの下で見え隠れする˝GUYS˝の文字。
彼等が地道に紡ぎ磨いてきた翼は今や更に大きな空へと羽ばたかんとしている。それは彼の掲げた答えが正しかった証明ともとれる。
「……それでいいんでしょうか」
「ま、俺の考えが正しいだなんて言わねぇさ。あくまで参考程度にしてくれりゃいい………たっぷり悩んで納得できる答えを見つけろ若人。それがお前達の特権だろ?」
確かに、
けれど今の自分が求めてしまっているのはその縛りとは乖離するもの。どうしたらいいのかと言う疑念に対する、明確な結論だ。
「……お、今年ももうそんな季節か」
混雑する思考を引き戻す旧懐を含む声音。
注がれていた視線の先に焦点を合わせれば、街中のモニターに表示された˝Love Live˝の文字があった。
「春馬のとこの子達も出るんだろ? ラブライブ」
「え、ええ……皆頑張ってます」
「青春って感じでいいねぇ。俺も是非見届けたいとこだが………今回のは無理そうかなぁ」
どうやら直前までの話は既に終わったらしく、代わりに語られるのはかつての思い出ばかり。
結局答えと呼べるものは得られず、煮え切らぬまま自らもグラスに注がれた飲料を口に含んだ―――その時。
「いよいよね……ラブライブ!」
吹き抜けた一陣の風が、白百合の芳香を運び込む。
「はしゃいでいるねぇ~。そんなに楽しみ?」
「当たり前でしょ。………私達も、いつか……!」
モニターの前に形成された小規模な群衆の中、二人の少女が意識を射止める。
「高校生になったら絶対なるわよ! スクールアイドル!」
「うん……約束、だもんね」
語られる夢から香る微かな残滓。それが自分の知るものなのかは定かではない。
けれども気付けば口元には、自然と笑みが浮かんでいた。
「…なんか、急にいい顔になりやがったな」
「そうですかね?」
やがては雑踏の中へと消えていった二人を見送りつつ、深く息を吸い込む。
(そうだ……俺の成すべきことは何一つ、変わってない)
様々な出会いが灯してくれた心の火は今もここにある。
力強く燃え上がってゆくその熱を胸いっぱいに感じ取りながら、追風春馬は、まだ見ぬ未来へ想いを馳せる。
「……俺も頑張らなきゃなって、思いました」
限りない未来の、その先へ。
ずっと変わらない夢があった。ここから始まる夢を見つけた。その輝きを追い求める道は、これからも続いてゆく。
灯った光は消えはしない。ウルトラの星は今日も―――ここにある。
ちょっとしたサプライズと、意味深なラストシーンも絡めつつ………これにてウルトラのキセキ、完結となります。
中々グダグダな投稿頻度を晒す結果となってしまいましたが、なんとか走り抜けることができました。
ここまでお読みくださった皆様、そしてコラボを引き受けてくれた各作者様方、本当にありがとうございます。
現状ウルトラの方は暫く書く気はないのですが、まあ恐らく舌の根も乾かぬ内に戻ってくることでしょう()
改めましてここまでお付き合い頂きありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう