ウルトラのキセキ ~One More Sunshine Story~   作:がじゃまる

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ギリギリ滑り込み!!!
先に謝っておくと蒼人さんカズオさんごめんなさい()


6話 追憶と予感

 

パイプ菅の張り巡らされた薄暗い通路。

コンクリート製の壁や床に反響する警報音や赤い光は、この施設において非常事態を示すものだ。

 

『ハヤテ達が目標をそのポイントまで誘導している。確保はそちらのタイミングでいい』

 

「了解」

 

徐々に近づいてくる床を叩く音と銃声からそろそろと判断し身構える。

どんな奴かは知らないがよりにもよってここに侵入するとは運がないのか、はたまた能がないのか。どうであれ奴を確保するという自分の役割に変わりはない。

 

「行ったぞ!」

 

仲間の声と合図の発砲音。

同時に視認した影が真下に至ろうとしたそのタイミング。潜んでいたダクトの通気口を蹴り飛ばすと同時に奴へと降りかかった。

 

「だあぁらっ!!」

 

『ッ……!』

 

死角からの強襲。

だが完全に不意を突いたと思ったその襲撃は、まるで予見されていたかのようにひらりと回避されてしまう。

 

『全く単純で能のない……やはりこの世界を選んで正解でしたね』

 

「んじゃ、その無能連中のもんパクるお前はそれ以下か?」

 

瞬時に床を蹴り飛ばして再び取り押さえに掛かるが、またも触れることすら叶わず壁と衝突しかける。

 

「何に使うつもりだ、その˝スパークドールズ˝」

 

『貴方達が知る必要はありませんよ。無能な人類に変わり我々がこの技術を有効活用する……悪い話ではないでしょう』

 

「ざけんな! どうせろくでもないことに使うんだろうが!」

 

威勢よく返したはいいものの、人間の肉体だけでは奴を捉えることは不可能だろう。

スマートな甲冑を纏ったような外観に隙を伺わせぬ佇まい……まさしく強者、と呼ぶべきなのだろうか。

 

「まあ、どうだっていいや……ここで捕まえりゃいいだけの話だ」

 

『それは……!』

 

腰から特殊な形状を取るデバイスを手に取り、見せつけるようにして翳す。

 

「無能以下になる覚悟はできたか……? 行くぜ!」

 

『そうか……この世界にも―――』

 

直後に溢れ出た眩い光。

機械的でありながらも全てを照らすような輝きが、闇の先へと伸びていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません長居しちゃって。ピアノ、ありがとうございました」

 

「ううん。こっちこそ作曲任せちゃってごめんなさい。千歌ちゃん、早く歌詞掛けるといいわね」

 

少し前まであった喧騒と音色を遠ざかる足音が運び去ってゆく。

やがてそれが玄関口の向こうへ消えていくのを確認すると、桜内梨子は張り付けていた笑顔を解いた。

 

「……」

 

静寂の舞い降りた自室の中で一際目立つ黒いピアノ。

以前は張り付くように弾き続けていたことを思い起こしつつ、その屋根の表面を滑らせた指に付着した()()()を一吹きで払う。

 

「…楽しそうに弾いてたなぁ」

 

腰を下ろしたピアノ椅子にはまだ少し温もりが残っていた。

その熱に突き動かされるように唯一埃の払われていた鍵盤蓋を開くと、触れることをやめた白い輝きがその姿を見せた。

 

 

久々に弾いてみようか。

 

 

どうしてそう思ったかはわからない。

ただ彼の演奏を見て聴いたあの時から、胸の奥で何かがざわついているのだ。

 

「っ……」

 

指の腹に触れたひんやりとした感覚を込み上げてきた何かと一緒に押し込む度に奏でられる音。

ひどく懐かしく感じる演奏が、僅かの間部屋の中を満たした。

 

「思ってたより弾けた……身体は忘れてないのかな」

 

懐かしい感覚や驚きと共に浮かぶのは彼の演奏。

技術や演奏の質、弾いた曲の難易度だってそうだ。その全てにおいて自分の方が上……けれど何故だか負けている気分がする。

 

表面的なものじゃない。もっと内面的な何かが、彼にはあって自分にはないのだ。

 

「…姉さん?」

 

その答えはすぐに、いや、既にわかっていた。

けれどそれを口にするよりも早く、意識はいつの間にか部屋の入り口にいた弟へと向けられる。

 

「遥……どうかした?」

 

「いや……あの人達帰ったはずなのにピアノの音がするから……。もしかして弾いてた?」

 

「う、うん……なんかちょっと、弾いてみようかなって思って」

 

咄嗟に鍵盤蓋を閉じつつ遥の顔色を伺う。

廊下の窓枠から差すぼんやりとした後光のせいでハッキリとはわからないが、少なからずよいものでないのは確かだった。

 

「何か作業の邪魔になってたのならごめんね? 今日はもうやめるから」

 

「ううん。本当にちょっと、気になっただけだから」

 

姉弟間のものとは思い難い、ぎこちない会話と空気が続く。

互いに互いの秘めた何かを恐れている。こちらに越してきてから幾度か訪れたこの瞬間が、何よりも苦手だった。

 

そして、無限にも感じられた数拍の沈黙の後―――、

 

 

 

 

 

 

 

 

「…姉さんは……ピアノ、続けたかったの……?」

 

遂に言ってしまったと思った。

答えなんてわかっているから、その上で姉がどう振舞うかなんてわかりきっているから。だから胸の内で抱えたままにしていたのに。

 

作曲を割り振られた時に姉が見せた顔、そして春馬の演奏を見る姉の様。

それを見て、やはりと確信してしまったから、いっそのこと、直接その口で言ってもらいたいのかもしれない。

 

けれど、言ってはいけないことだったのは確かなんだ。

これを聞かれれば、姉はあの時のことを想起しなければいけなくなる。姉にとって甚い記憶に他ならないあの時を。

 

()()()()()()()()()()自分にそれを掘り起こす権利はない。そのはずだったのに。

 

「…そう、見えた…?」

 

問い返してきた姉を見て、己の行為を呪う。

頷きも、首を振ることもしないまま、また沈黙が流れた。

 

「梨子―! お友達よー!」

 

「あ…、はーい!」

 

そんな苦しい時に終止符を打ったのは母の声。続けて聞こえたのは千歌の声か。

 

こんな時間に何の用があるのかは知らないが、一旦とは言えこの会話と瞬間から抜け出せて安堵する。少し苦手意識のある先輩だったが、今回ばかりは助けられたと言うべきか。

 

「……」

 

薄暗い部屋の中でも黒を主張するピアノを見下ろしながら、先程聞こえてきた姉の演奏を思い出す。

同時に呼び起こされるのは、いつの日か絢爛な舞台の上で音を奏でていた姉の姿。

 

綺麗だった、美しかった……何より、楽しそうだった。

そんな輝かしい光景が蘇る度にそれを奪ってしまった痛みとやるせなさが込み上げてくる。

 

 

「遥く~ん!」

 

「……?」

 

その過去から逃げるように部屋を出ると、丁度階段を駆け上がってきた千歌と視線が合った。どうやら自分にも用があるらしい。

たまに未来や陸、曜の幼馴染に対して向けられる甘えるような声は……どことなく、嫌な予感を醸した。

 

「いきなり押しかけてきて悪いとは思うんだけど……ちょっと頼まれてくれない?」

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら~、やっぱり似合うじゃない未来君」

 

「全っ然嬉しくないです……」

 

容姿通りのおっとりとした笑みを向けてくる千歌の姉―――高海志満(たかみしま)に未来が向けるのは顔を赤らめた苦笑い。

 

幼馴染の姉とは言え大人の女性。未来だって健全なる男子高校生なのだしこんな至近距離で身体を弄られればドギマギだってするものだが……今この時ばかりはそれにも勝る何かが破裂寸前なほどに膨れ上がっていた。

 

「おぉ~、やっぱ可愛いじゃん未来―。それに春馬君……だっけ? 君も中々似合ってるよ」

 

「…どうも」

 

もう一人の千歌の姉―――高海美渡(たかみみと)に弄られている春馬と互いに悲壮な視線を向け合う。彼の中でタイガが爆笑している声が聞こえるような気がした。

 

人手が足りないから旅館の手伝いをして欲しい。もしかしたらそんな千歌の頼みごとを聞き入れたのが全ての間違いだったのかもしれない。

 

「…凄くデジャヴが……」

 

「……春馬もか?」

 

「前に色々ありまして……未来さんも?」

 

「小さい頃の話だけどな。……まさかこの年になってこんなことする羽目になるとは思わなかったけど」

 

形や経緯こそ違えど、共に同じ傷を負った過去を持つ者同士心が通じ合うような感覚がした。全くもって嬉しくはないが。

 

「…まあ、陸の奴に見られてないだけまだマシか……。千歌に口滑らせないように言っとかないとな……」

 

「あら? さっき板前さんが仙道さんのところにお魚注文したからそろそろ陸ちゃんが届けに来るとか言ってたけど」

 

「はいぃッ!?」

 

こうなってしまった以上は仕方ないと無理矢理抑え込んだ羞恥心が志満の一言で勢いを取り戻してしまう。

そして噂をすればなんとやら、そういう奴というのは最悪の瞬間に現れるもので。

 

「うぃーす。例のブツ届けに来ました」

 

「なんか運び屋みたいになってるよ」

 

玄関口の方から聞こえてきた会話に血が凍るような悪寒を覚える。しかも声からして曜もいる。

予期せず訪れた事態に未来が戦慄きを見せていれば、美渡は意地悪い笑みを浮かべて玄関口の二人へと声を投げかけた。

 

「おーい陸―! ちょっとこっち来なよ、未来が面白い恰好してるよ」

 

「ちょっ…、美渡さんそれだけは―――」

 

止めても間に合わない。逃げるが吉か。

そう判断し逃走を図るが、着慣れないかつ動きを制限させるその衣服の裾を思い切り踏みつけて転倒し―――顔を上げた先で陸達と視線が合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃはははははははッッ!!! 傑作だなオイ……!」

 

「ふむふむ……これは中々……」

 

腹を抱えて爆笑するバカ()とカメラアプリを起動してシャッターを切りまくっているアホ()を殴りたくなる衝動を必死に抑える。

 

ただ頼まれごとをしに来ただけなのにどうしてこうなるのだろうか。神に嫌われているのだろうか。そしてこのバカに蹴りを入れてもいいのだろうか。

 

「お前等覚えとけよ……!」

 

「まあまあそんなに照れることないじゃん未来君! ほら、可愛いよ~」

 

向けられた曜のスマホには未来が顔全体を真っ赤にした瞬間が切り取られていた。身に纏った簡素ではあるが色彩豊かな着物も、それっぽく見せるための化粧も志満に施されたものだ。

 

まあ、要するに女装させられているのである。

 

「くはは…腹いて……。んで、何がどうしてこうなってる訳よ」

 

「…千歌に頼まれたんだよ。晩飯御馳走するから旅館手伝ってくれって」

 

「あー、そういや漁港祭の季節は毎年そんなだったな」

 

漁港祭は県外からも人が集まるため、夏というシーズンも相まって千歌の実家のような旅館にとっては繁忙期なのだ。

 

加え市役所勤めである未来の両親もこの時期は忙しく、数日家に帰ってこれないことも珍しくない。

 

よって食事や洗濯等は自分でこなさなければいけないという面倒事が付き纏う。勿論そのこともあって春馬を泊められたので一概に悪いことばかりとは言えないが、今回はそれを千歌に利用された形になるだろう。

 

「こっちも終わったよー……って、曜ちゃん達も来てたんだ」

 

その千歌の声と共にガラリと隣の部屋に繋がる襖が開かれ、同じく女装させられた遥が死んだ顔で現れる。

既に羞恥心の向こう側へと到達してしまったのか、最早陸達に目撃されてしまっていることも気に留めていないようだった。

 

「遥……別に無理しなくていいのよ?」

 

「いや……いいよ、もう……」

 

未来が言うのもアレな気はするが、お揃いの着物を着た梨子と並ぶと遥は妹としか思えないというのが正直なところだった。

 

隣にいる春馬も中性的な顔立ちをしているし、かくいう未来も男らしい容姿をしているかと言われればそうではない。

 

残念なことに自分達は女装が似合う条件を満たしてしまっているのだ。

 

「まあいいんじゃねーの? お前等は野郎にしちゃ可愛い面してんだしよ」

 

「だから嬉しくないんだよ……!」

 

実を言うと少しコンプレックスなこの容姿。女装も含め弄られてあまり気分のいいものではない。

ただそれは陸も理解しているのか、特にそれ以上は言うことなく玄関口に足を向ける。

 

「とりあえずやるからにゃ頑張れよ。一回決めたらやり通すのがお前だろ」

 

「あれ、陸帰っちゃうの? 私達も手伝って行こうよ」

 

「そ、そうだ陸! お前も俺等と―――」

 

「おい! 陸来てるのか? いるんなら厨房手伝ってくれ、手が足りねぇ!」

 

今がチャンスだとばかりに曜に続いて陸もこちら側に落とそうとするが、忙しさゆえか罵声響く厨房から届いた声に早くもその目論見は打ち砕かれてしまう。

 

「つー訳だ未来……悪いな」

 

「ぐっ……!」

 

微塵もそう思ってないであろう邪悪な笑みを張り付けたまま戦場へと赴く陸の背中を見送る。

その始終を見守っていた春馬達の表情には、哀れみと同情の色が滲んでいた。

 

 




中性的な容姿が揃ってるんだし女装をさせろという強い意志をどこからか感じたのでやりました。後悔はしてません。ちなみに無許可です(ガチ)

女装のインパクトで薄れているかもしれませんが徐々に桜内姉弟の秘めたものが見え始めて……?

そして冒頭の彼はええ、˝彼˝ですよ
本格登場はまだですがとりあえず彼がこの騒動に巻き込まれるまでの経緯……となります

それでは次回で
改めてごめんなさい!!!!
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