イナズマイレブンーー通称イナイレの世界に転生したら全員が同じことをしたいと言うはずだろう。
……そう、必殺技だ。
設定上、体内の気を放出することによって超次元なプレーが出来るこの世界。
運がいいことに俺は主人公である円堂守の近所+同い年で生まれ主人公の幼馴染みポジションを手に入れることが出来た。
円堂に着いて行けば凄い必殺技が使え、果ては世界一の景色すら拝めることが出来る筈だ。
勿論、その為の努力は欠かさない。毎日、ボールを触り体を鍛え続けた。
そして、月日が経ち。
『遂に来たぜ!!』
正門の先に見える雷門中の校舎を見据え、俺たちは思い切り叫んだ。
転生して十数年、ようやくこの日が来た。
ここから俺こと、下平翔(しもひらかける)の物語は始まるんだ!
***
雷門中に入学して、すぐに俺たちはサッカー部の入部申請もとい同好会申請を冬海に出した。
円堂は部員集め、俺は先に部室の状態を確認することにした。原作では円堂がボールを持った状態で木野と遭遇することでマネージャーとして入ってくれる。俺が居ない方が都合がいいだろう。それに汚い部室を掃除するのは時間が掛かるからな。
「ん?」
部室にたどり着くと部室の前に先客がいた。
紅く長い馬の尻尾のような髪にスカートを履いているので女ということは判断出来る。
誰だあの女?
あんな奴原作に居たっけ?
「よく来たわね……って、円堂じゃないじゃない」
はあ?
「誰だお前?ここはサッカー部の部室だぞ」
「知ってるわよ、そんなこと。そういうあんたこそ、誰よ。聴いたなら先に名乗りなさい」
OK。理解した。俺コイツと絶対相性悪いわ。
「……下平翔」
「下平翔ねぇ……聴いたことないなぁ」
「おい。名乗ったんだから、お前も名乗れよ!」
「落ち着きなさいお・さ・る・さん。
……私の名前は大空明日香(おおぞらあすか)よ。知らない?」
大空明日香……?
「ダレ?」
「サッカーやってるのに知らないの!?」
慌ててスマホを取り出して俺に見せつけてくる。
画面には女子のジュニアリーグでチームを優勝へ導いた凄いMFとしての記事、目の前の女……大空明日香のことが表示されていた。しかも、それだけではない。
「お前必殺技が使えるのか!?」
「どう?驚いた」
どや顔が少しムカつくが。
「……ああ、知らなくて悪かった」
こればかりは俺が悪い。
ここまでサッカーで大々的に掲載されるほどの有名人なんて知りもしなかった。
それになにより俺が注目したのは彼女が必殺技を"小学生"の時点で使えていたこと。
原作でも宇都宮虎丸という小学生が居たが、それはあくまで彼が世界大会に召集される程の天才だったからに過ぎない。
俺や円堂が幾ら頑張っても身に付けられなかったのがそれの証明になる。
コイツ、そんなに凄いのか。
「なら何でこんなところにいるんだ?」
サッカー部すらない、雷門中になぜいる?
「それは……」
「それは?」
「……そんなの私の勝手でしょ?」
「おいおい」
「別に理由なんていいでしょ。それくらい」
「それくらいって、お前ならもっと上を目指せるだろ!?」
何故ある才能を伸ばそうとしない。こんなとこで燻らせるなよ、俺が欲する才能を。
「うるさいわね。アンタには関係ないでしょ!」
「知ったからには関係ある!お前スゲェんだろ?もっと上手くなりたくないのかよ!?」
「……はぁ」
何だコイツまるで理解してないなって目は。
「私はね。サッカーが"上手かった"っていう結果だけが欲しかったのよ。彼に振り向いて貰うために……」
「何?」
「アンタには言ってもわからないかもだけど、約一年後に彼がこの学校に転校してくるのよ。だから、私は彼を迎えるためにここに来た。ただ、それだけよ」
一年後に転校。そして、サッカー部に入部する人間。
「……それって、豪炎寺のことか?」
「え?」
「え?」
『え?』
もしかして、コイツも転生者?
***
とりあえず部室の掃除を終えた俺たちは4人で帰ることになった。
あれから、円堂たちが来るまでの間、大空明日香は俺と同じ手順でここに来たということが判明した。
他は知らないが俺たちにとって転生の手順というシステムは、1.神様と出会う。2.転生か天国or地獄の選択。3.転生したい場所、時間、環境。4.スキル(特殊能力)の修得。5.転生する。という大まかに5つの流れになっている。
俺たちが自由に決められるのは2~4だが、実際はポイント制であるため、ある程度は妥協しなければならないところも出てくる。
俺はイナイレ世界への転生、円堂と同い年+近所の家庭で産まれることを希望しただけで大半のポイントを消費してしまいスキルは体が少し頑丈にできるだけしか選択出来なかった。
……対して大空明日香はというと、神様に3を全て任せて、ポイントを消費せず選択された場所に併せてスキルを選択したらしい。才能と原作知識、後は容姿。豪炎寺は得た原作知識から登場キャラの中で一番まともに見えたから惚れたらしい。運だけで俺が欲しい物を得ているとは何とも羨ましい限りだ。大空明日香の将来は安泰だろう。ああ、忌々しい。
「で、これからどうするわけ?」
「とにかく地道に部員集めと必殺技の修得だな」
染岡、半田には早めに入部して貰うつもりだ。俺自身の目標としては一年後の帝国戦までに何かしらの必殺技は欲しいところ。
「イナビカリ修練場は使わないの?」
「使わない。下手に原作から乖離したくないからな」
「……一応、常識があって安心したわ」
「うるさい」
円堂に着いて行けば全国に、世界に行けるんだ。問題を起こして物語を破綻させるつもりは更々ない。
「なあ、下平何話してるんだ?」
「これからのことさ。部室は手に入れたが部員集めとか練習場とか色々な問題は山積みだからな」
「けど、それを乗り越えなきゃサッカー部は出来ないんだろ?だったらやるしかないだろ!」
自然とそんな言葉を言えるなんてやっぱり主人公だな円堂は。円堂が出来るって言うんなら。
「……まっ何とかなるか俺たちなら!」
「二人なら出来るよ」
「そうだ!俺たちならサッカー部を作れる。作ってそして、俺たちはFF(フットボールフロンティア)にーー」
「無駄だ」
『ん?』
誰だ俺たちに水を差した奴らは。
「雷門にサッカー部など出来ない」
「?木戸の知り合いか?」
「私知らない……」
「お前は……」
全身タイツ集団。一見どこぞの戦闘民族に出てきそうな服装していると思えるが俺たちは知っているコイツらの正体を。
「サッカー部は出来ない。確実に」
「どうしてそう決めつけるんだ?わかんないだろ。サッカー部は作れるさ。本当にサッカーが好きな奴らが集まれば」
「サッカーが好きな奴などいない……」
「居ない?なぁに言ってんだ。……サッカーが好きな奴なら居るぜ、ここに!俺たちがな。な、下平!」
「……ああ!」
おっと危ない。アイツらの危険性に萎縮しちまった。
「下平?」
「嫌いになる守くん」
「!俺たちはサッカーを嫌いに何てならないぞ」
「……そうか」
『Move Mode』
彼が……アルファが持つボールによって、俺たちの視界は白く包まれた。
……プロトコルオメガなんて聞いてないぞ。