転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第105話 イベントタイム!

 

 ポツモンを生み出したのは、虫取りが好きな一人の少年だった。

 彼は少年時代、野山で色んな生き物を追いかけて遊んだという。

 その体験が、ポツモンのアイデアの元となったのだ。

 

 ゲーム好きな仲間たちとサークルを結成した彼は、ゲームの同人誌を作るようになる。

 そのサークル名は、ゲイムフラーク。

 

 彼らはいつしか会社を立ち上げ、自分たちでゲームを作り始める。

 そう。

 同人サークルから始まった集団が、世界中に愛される『ポツモン』を生み出したのだ。

 

 正にゲーム好きの夢を体現したような会社。

 そんなゲイムフラークの本部は、都内一等地のビル内にあった。

 

「ようこそリナさん。ゲイムフラークへ」

 

 入口で迎えてくれたのは、さわやかな雰囲気の男性だ。

 彼こそがポツモンの生みの親であり、この会社の代表取締役。

 遠隔でやり取りは進めてきたけど、直接顔を合わせるのは初めてだ。

 

「は、はじめまして。リナ・マルデリタと申します」

 

 ちょっと緊張してしまった私は、ぎこちない笑顔で握手を交わした。

 

 それから会議室に入り、社の面々と改めて話をする事になった。

 

「ついに完成しましたね」

「はい」

 

 テーブルの上に置かれているのは、完成したマルデア版ポツモンのパッケージだ。

 パッケージの裏には、『151のモンスターを集めよう!』というキャッチコピーが描かれている。

 

 最初はやっぱり、151種類でいきたい。

 今後の展開も考えた上で、初代作品からスタートする事になった。

 

 本当はもっと早く出す予定だったんだけどね。

「フルパッケージで初代をそのまま出すのはどうなの?」っていう話になって。

 なんと、マルデア版のデビューにふさわしい特別バージョンを用意してくれる事になったのだ。

 その開発期間は、一年を軽く超えた。

 

 出来上がったのはもはやローカライズと言うより、リメイクと呼ぶべき代物だ。

 初代の内容はほぼそのままに、見た目は美しい緻密な2Dグラフィックにアップデートされている。

 

 現代の2Dビジュアルは凄い。

 スク・ウェニの『オクタパス・トラブラー』は、ドットスタイルでありながら芸術的な雰囲気を作り出した。

 海外でも『カップヘッズ』や『オルとくらやみの林』など、緻密に描かれた2Dゲームが賞賛を浴びている。

 

 そんな技術の進化により、初代のポツモンは2Dのまま新しい魅力を打ち出す事に成功した。

 モニターでプレイ映像を確認しながら、私は感嘆のため息を漏らす。

 

 背景に描かれた草原は、息づくように風になびく。

 立ち並ぶ建物は、豪華に色づいている。

 

 まるで2Dの世界が輝いているような。

 そんな新しい、そしてどこか懐かしいポツモンの世界が、画面の中に展開されていた。

 タイトルは『ポツモン スーパーレッド ハイパーグリーン』だ。

 

「やはりこれは、素晴らしい出来ですね」

「ええ、これならフルプライスで堂々と出せます」

 

 和やかな雰囲気で、私たちは話し合いを進めていった。

 

「マルデアでは、子どもたちが生き物を探して遊ぶような事はあるんですか?」

 

 営業さんの問いかけに、私は頷く。

 

「ええ。フェルクルを見つける遊びは、私も子どもの頃よくやりました」

 

 マルデアの色んな場所に生息する妖精や、小さな生き物たち。

 それを探して観察する遊びは、私たちの間でも親しまれていた。

 

 多種多様な生き物を見つける喜び。

 それはポツモンの楽しさの基本となるものだ。

 

 地球で親しまれたポツモン集めは、きっとマルデアでも流行る。

 私たちはそんな未来について語り合い、笑い合って時を過ごした。

 

 それから、都内のホテルで一泊する事になった。

 スイートルームに案内された私は、ベッドに腰かけて日本のSNSを眺める。

 案の定、水元公園で撮影された映像がすごいバズってた。

 

 フェルが謎の光パワーで大型犬を大人しくさせるシーンだ。

 動画の下には、沢山のコメントがついている。

 

xxxxx@xxxxx

「完全にポツモンバトルです」

xxxxx@xxxxx

「フェルクルかわいぃぃぃぃいぃぃ」

xxxxx@xxxxx

「ゴールデンレトリバーをなだめてる。かなり強いな」

xxxxx@xxxxx

「リナが最強のトレーナーに見えてきた」

xxxxx@xxxxx

「ケガしなくてよかったね」

xxxxx@xxxxx

「フェルクル、君で決めた!」

xxxxx@xxxxx

「リナとフェル、ポツモンのアニメに出ないかな……」

xxxxx@xxxxx

「つうかマルデア版のソフトを地球にも出してくれ!」

 

 みんな、楽しそうに語り合ってるね。

 フェルのファンアートを描いてる人もいて、ほんとにポツモンみたいな感じで描かれていた。 

 愛に包まれたSNSを眺めながら、私はベッドの上で眠りについた。

 

 

 そして、翌朝。

 私はホテルを出て、都内にあるイベントホールへと向かった。

 

 ポツモンのイベント会場は、やっぱり華やかだ。

 場内には沢山のキャラ風船が飾られ、あちこちで対戦会が行われている。 

 物販にも人だかりが出来てて、さすが人気ゲームといった雰囲気だ。

 

 控室に案内されて待っていると、メインステージのイベントが始まった。

 着ぐるみのポツモンたちが、ステージ上で音楽に合わせて踊り始める。

 客席には多くのファンがつめかけ、贔屓のキャラクターに声援を送っていた。

 

「あはは、なんか楽しそうだね」

「うむ。黄色いのがいっぱい踊っとる」

 

 フェルと舞台袖から眺めていると、ステージに女性司会者が出てきた。

 

「では、本日のサプライズゲストを紹介します。

何とマルデア星からお越しの、リナ・マルデリタさんです!」

 

 呼び込みを受け、私はステージに上がっていく。

 

「ポツモンファンのみなさん、こんにちは! リナ・マルデリタです!」

 

 マイクを通して挨拶すると、わっと会場が沸き上がる。

 

「本物のリナだっ!」

「やっぱり噂通り、マルデアに出すんだわっ」

「きゃぁぁぁー!」

 

 お客さんたちは、思い思いに声を上げている。

 みんな、キャラのヌイグルミを掲げたりして喜んでくれていた。

 

 司会者は会場の熱狂をなだめつつ、しっかりとした調子で話を進めていく。

 

「ポツモンとトレーナーは、信頼し合うパートナー関係です。

リナさんには、フェルクルさんという素敵なパートナーがいらっしゃるみたいですが。

お二人の仲の方はいかがでしょうか?」

 

 司会者の質問に、客席の視線がこちらに集まる。

 仲と言われても、最近知り合ったばっかりだけどね。

 私がフェルにマイクを任せると、妖精の少女は堂々と言った。

 

「フェルとリナの仲は、ふつう!」

 

 その解答に、会場が大きな笑いに包まれる。

 司会者の女性は、苦笑いしながら体裁を取り繕ってくれた。

 

「あ、あはは。お二人の仲は『普通に良い』という事で。

ファンの皆さんからは、フェルクルちゃんはフェアリーポツモンみたいという声が多いですが。

何か特殊な『わざ』などはあったりするんでしょうか?」

 

 わざ? フェルクルの技って凄い漠然としてるよね。

 良く知らないから、これも妖精さんに振ってしまおう。

 

「フェル、なんか技ある?」

「えーと。100万個あるけど、わすれた」

 

 指で数えながら、とぼけた事を言う小さな少女。

 百万個全部忘れるとか、なかなか出来る事じゃないよ。

 

「昨日、光出すやつやってたじゃん」

「あ、そうだった。光パゥワー!」

 

 私が助け船を出すと、フェルは思い出したように勢いよく空に舞い上がる。

 そして、観客たちの頭上を飛び回った。

 

 キラキラとした何かがお客さんたちに降り注ぎ、会場が淡い光に包まれる。

 

「おおーっ! すごい!」

「なんか、ちょっとあったかいような気がするわ!」

「光パゥワー、こうかばつぐんだ!」

 

 得体のしれない何かを浴びた人々は、嬉しそうに手を上げて喜んでいる。

 まあ、みんなが盛り上がってるようだし、害もなさそうだから良しとしよう。

 フェルクルは基本的に人を傷つけるような事はしないからね。

 

 

 そんなこんなで、私のイベント出演は手短に終わったのだった。

 

 まあ、私の仕事のメインはこっちじゃないからね。

 本番は、マルデアに戻ってからだ。

 

 

 会場を抜けた後、私は入荷品を受け取るために倉庫へと向かった。

 今回はちょっと、特別な量だ。

 

 受け取ったポツモンのパッケージは八万本。

 スーパーレッドとハイパーグリーンの2バージョンを、それぞれ四万本ずつ。

 

 もちろん、これを売り込むのは簡単じゃない。

 でも、パッケージを見ると何だかやれそうな気がしてしまう。

 ゲームが持つ不思議な魅力が、私を後押ししてくれる。

 

 さあ、マルデアにまた新しいゲームを運ぼう。

 

「では、失礼します。フェル、行くよ」

「がってん!」

 

 妖精の少女がしがみついたのを確認し、私は地球から消えた。

 

 

 


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