転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第百十九話 町を見下ろして

 五月の終わり。

 ブラームス店には、今日も対戦台に人だかりが出来ていた。

 

「おい、誰かあの格ゲー少女倒せよ」

「半端ねえよあの子……」

 

 ニニアちゃんが男たちを次から次へとなぎ倒している。

 台の上には順番待ちのコインが並び、ムンムンとした熱気が漂う。

 

「いやあ、筐体が足りなくてね。あと二台は欲しい所ですよ」

 

 店長も嬉しい悲鳴を上げ、アーケードは盛況のようだ。

 ただ一方で、スウィッツの活気はだいぶ落ち着いたと言える。

 

 この三カ月。

 アーケードに二つ新作を出した事もあり、家庭用ではソフトを一本しか発売しなかった。

 

「そろそろ、新作ソフトを期待させてもらいますよ」

 

 ブラームスさんも、家庭用ゲームの盛り上がりを望んでいるようだ。

 そろそろ、新しい風を吹かせる時が来た。

 

 次のソフトは、オールスター的なものと言ってしまっていい。

 

 ただ、その内の一つは結構気合が入っている。

 地球でも情報が漏れたのか、大々的にニュースが出ていた。

 

『ついにアメリカ産のゲームが宇宙へ! オールスターに『サムシティ』が選出か!?』

 

 サムシティは1989年に誕生した、都市経営シミュレーションゲームの金字塔だ。

 プレイヤーは市長となり、何もない土地に一から町を作り上げていく。

 

 その斬新な遊びに、世界中のゲーマーたちが夢中になった。

 私も当時テレビの前で市長になり、いろんな町を作ってメチャクチャやったものだ。

 

 地球のSNSを見ると、英語圏のコミュニティが異様な盛り上がりを見せていた。

 

xxxxx@xxxxx

『サムシティがマルデア進出か。懐かしい市長としての思い出が蘇るな』

xxxxx@xxxxx

『ああ。娯楽施設ばかり作って、誰も仕事しない町になったもんだ』

xxxxx@xxxxx

『警察署を作るの忘れて、真っ黒な犯罪都市になったりな』

xxxxx@xxxxx

『バカ市長しかいない……』

xxxxx@xxxxx

『ていうかあれ他所の星で出せるのか? 近代都市を作るゲームだろ』

xxxxx@xxxxx

『かなり大がかりなローカライズをしてるのかもな』

 

 

 ゲーム内容について予想している人もいるようだ。

 

 確かにこのゲームは、地球の現代的な都市を作るゲームだ。

 そのまま出すと、文化的な違いで少し問題がある。

 

 マルデア向けのアレンジにはかなり手間をかける事になり、開発期間は一年を超えた。

 その結果。

 メーカーさんも力が入ったのか、ローカライズの範囲を超えた凄いものが完成してしまった。

 

 詳細は、また後で触れる事になる。

 他にも豪華なタイトルを用意してるから、みんなに届けるのが楽しみだね。

 

 

 さて。

 そろそろ地球に向かう頃合いなんだけど。

 

 六月のゲーム業界には、大きなお祭りがある。

 ロサンゼルスで開催される世界最大のゲーム見本市、『E4』だ。

 

 大手ゲームメーカーがこぞって参加し、新作ゲーム情報を一気に公開するこのイベント。

 ゲーマーたちも毎年、大いに盛り上がるらしい。

 

 私もアメリカのゲームに携わる関係で、E4に参加する事になった。

 フィンランドのようなお忍びではなく、公にメディアにも出演する予定だ。

 

 

 そんなわけで、目的地はアメリカのカリフォルニア州、ロサンゼルスに決まった。

 誰もが知る、世界有数の大都市だ。

 

 今回は十万個の魔石と、千個の縮小ボックスを輸送機に詰め込んだ。

 準備を整えて、出発当日。

 

 私はいつものように、魔術研究所へと向かう。

 第三研究室に入ると、ガレナさんがやたらシリアスな表情をしていた。

 

「リナ、ロサンゼルスは危険だ。魔術服があるとは言え、気を付けていくんだぞ」

「はい?」

「知らんのか。強盗、殺人、轢き逃げ。あそこは何でもありだ。命を大事にな」

 

 気遣うように、私の背中をポンポンと叩く社長。

 

 ロサンゼルスってそんな危ない町だったっけ。

 首をかしげていると、デスクの上にゲームのパッケージが見えた。

 ああ、これか。ガレナさんに変な知識を吹き込んだのは。

 

 グランド・セフツ・アート5。

 ロスっぽい都市を舞台にした、オープンワールドゲームの代名詞だ。

 

 道端の人を撃ち殺したり、車を盗んだり、道路を逆走したり。

 何でもやりたい放題の成人指定ゲームである。

 

 ガレナさんはこのゲームをプレイして、やばい都市だと思ってしまったのだろう。

 

「ガレナさん。これ、あくまでゲームですから。ロサンゼルスは治安が良い方らしいですよ」

「な、何だと……?」

 

 驚愕と言った様子の社長。この人、大丈夫だろうか。

 私はちょっと不安になりつつも、フェルとワープルームに入る。

 

「じゃあ、よろしくお願いしますよ」

「う、うむ。健闘を祈る」

 

 少し弱気な合図と共に、私たちの体は光に包まれていった。

 

 

 

 次の瞬間。

 私は、目もくらむような景色の中に立っていた。

 吹き付ける強い風。

 目下には、大都市の世界が広がっている。

 

「おお、でっけー町!」

 

 フェルも周囲を見回して驚いていた。

 どうも、超高層ビルの屋上に立っているようだ。

 

 遠くに見える山の方には、HOLLY WOODという文字が見える。

 うわあ、ハリウッドだ。

 

 という事は、ここはロサンゼルスで間違いないらしい。

 ちゃんと目的地付近に降りる事に成功したようだ。

 

 しかしこの町を見下ろす眺めは、かなりサムシティっぽいね。

 

 自分が作った町の中を人々が行き交い、経済が動いていく。

 そんな景色を眺めて楽しむのも、都市経営ゲームの醍醐味だ。

 

 目に魔力を集めると、遥か下にある地上がくっきりと見えて来る。

 

 うーん、すごい眺めだ。

 道行く人みんな、それぞれの人生を歩んでいる。

 

 だが、よく見ると大通りで交通渋滞が起きているようだ。

 結構な数の車が足止めを食らっている。

 

 渋滞は、サムシティにおいても重要な問題だ。

 交通が滞ると人の動きが悪くなり、都市の機能が低下する事もある。

 

 さて、原因はなんだろうか。

 

 道路を辿って観察していくと、だいぶ先の十字路で大量の水が噴き出していた。

 なんだあれは……。

 

 傍でトラックが倒れているし、ただごとではない。

 ちょっと行ってみよう。

 

「フェル、降りるよ」

「おうっ」

 

 妖精と目くばせをして、私は屋上から足を踏み出した。

 

 

 

 十字路の上空へと飛んでいくと、パトカーが何台もやって来ていた。

 

「お、おい、空から誰か降りて来たぞっ」

「桃色の髪……、リナだわ!」

 

 こちらに気づいたのか、警官たちが声を上げている。

 ただ、下の道路はもう水浸しだ。

 

「何があったんですか?」

「ああ、地下を通る水道管が破裂して、地面から水が噴き出したんだ!」

 

 男性警官が地上から身振り手振りで説明してくれた。

 

 確かに、コンクリートをぶち破って巨大な噴水のように水が溢れ出している。

 その勢いは止まらず、近くにあった学校にまで浸水し始めていた。

 

 都市を構成する機能が少しでも破壊されれば、こんな事態が起きてしまうわけだ。

 警察たちも対処法がないのか、ひとまず近隣住民の避難を進めているようだった。

 

 倒れたトラックからは、荷物が雪崩のように落ちている。

 なんかドラゴンの首みたいなのも見えるし、ゲーム関係の展示品だろうか。

 E4にまで影響しかねないトラブルのようだ。

 

「私が何とかします!」

「で、出来るのかね?」

 

 戸惑う警官を後目に、私は水が噴き出す地点へと向かった。

 

 サムシティでも、災害などで町が危険な事態に陥る事はある。

 たまに隕石が降ったりするからね、あのゲーム……。

 

 そういう時は、早急に対応するのがプレイヤーである市長の務めだ。

 

 私は魔石を大量に取り出し、水の中に落としながら念じた。

 

『願いの力よ、罅割れた都市を元の姿へ!』

 

 呪文と共に、噴水場となった地面が輝き出す。

 すると水道管は、溢れ出す水に抵抗するように塞がっていく。

 

「おおっ」

「水が止まったわ!」

「き、奇跡だ!」

 

 しっかりと割れたコンクリートが元に戻った所で、私は地上に降りていく。

 

 トラックから落ちた荷物の中には、『Monster Funter』と書かれた看板が見える。

 これ、CAPKENさんのやつだ……。

 

 私は慌ててトラックを浮遊魔術で起こし、荷物も修復しておいた。

 

「お、俺の車が元通りに……。た、助かった……」

 

 安心して崩れ落ちる運転手は、どうやら怪我もなかったようだ。

 

 しかしあんな大きなひび割れ、自然に起きるものなのだろうか。

 首をかしげていると、警官たちがビシリと列を作っていた。

 

「マルデリタ嬢、あなたには随分と助けられたようだ。

ロサンゼルス警察として感謝させてもらいたい」

「い、いえいえ」

 

 彼らの規律正しい敬礼に、私はちょっと照れてしまうのだった。

 

 その後、路上に溢れた水はしっかりと排水され、道路は元通りになった。

 渋滞は解消され、トラックも無事E4会場へと向かったようだ。

 ゲームならミッションクリアってとこだね。

 

 現実の町もこうして、日々いろんな障害を乗り越えているのだろう。

 

 私は一瞬だけ、ロサンゼルスの市長になった気分だった。

 




すみません、ここから先はなろうで読んで下さい。
複数サイトで投稿する体力がないので。

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