転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第15話 日本へ行ったらやっぱり…

 世界初の宇宙人yutuberとなった私は、あれから何本か日常的な動画を上げた。

 再生回数は毎回億を超え、もう天文学的な数字にも慣れた。

 まあ世界で唯一リアルな異星人の生活が見れる場所なのだから、当然と言えば当然だ。

 

 世界中の研究所や大学で、学者たちが私の動画を解析しまくってるらしいからね……。

 一般の人たちも、私が使う魔法やマルデア星の雰囲気を楽しんでくれている。

 コメントも沢山ついて、いい形で地球人と交流出来てるんじゃないかな。

 

 こうなるとyutubeから広告収入をもらえるんだろうけど、地球マネーが増えてもあんまり意味はない。

 魔石の購入に必要なのは、マルデアの金だ。

 それを稼ぐために、今はゲームに賭けている。

 

 

 少しして、ゲーム会社から変換機の生産体制が整ったという連絡があった。

 あとは、こちらで生産した魔術部品を地球に届け、マルデア向けのスウィッツとして製造してこちらに持ってくる経路の確立だ。

 

 そのために、ガレナさんが素晴らしいものを用意してくれた。

 荷物を手軽に、大量に運ぶための魔術輸送機だ。

 研究所の裏手に用意されたワープルームの前に、ガレナさんは部品を詰め込んだ輸送機を持ってきてくれた。

 

「この輸送機に乗せた荷物には、自動的に空間縮小の魔術がかかる。

変換機の部品はもちろん、ゲーム機本体を五万台くらいなら入れる事ができるだろう」

 

 やはりマルデアの技術は段違いである。輸送機というよりはただのリアカーみたいに見えるが、千倍の容量を詰め込む事ができる。

 なおかつ、手で押してもほとんど重さがない。タイヤなどついておらず、底は少し浮いている。

 これ一つあれば、大きなビジネスを動かすような輸送が簡単にできてしまうスグレモノだ。

 

「今回は手始めに部品を一万セット載せている。元手を増やせば、もっと生産できるだろう」

「色々ありがとうございます」

 

 商売の始まりは、やはり慎重にいかねばならない。

 一万台のゲーム機をマルデアで売れるかどうか。それが始まりだ。

 この商売は普通とは違い、マルデア側において金を作れればそれでいい形になる。

 地球側の製作費などでいくら円やドルの赤字を出しても、アメリカや日本の政府が補填するから問題はない。

 とにかくマルデアの通貨であるベルを稼げばいいのだ。

 

 

「ガレナさんは一緒に行ったりしませんか?」

 

 私が誘い掛けてみると、白衣の研究者は冷めた目で首を横に振った。

 

「私はゲームには興味があるが、地球という星には興味はない」

 

 どうやら、マルデア人の地球拒否反応はみな同じらしい。

 

「そ、そうですか。では、行ってきます」

「うむ。気を付けるといい。輸送機は貴重品だから、地球人にあげたりしてはいかんぞ」

「はい、わかりました」

 

 ここまでの輸送車は、高級品だろう。私のポケットマネーでは手が届かない代物だ。

 少し丁重に扱いながら、私はワープルームに荷物を持ち込んだ。

 

「では、健闘を祈る」

 

 そうして、私は再び地球へと旅立ったのだった。

 

 降り立ったのは、真っ暗な空の下だった。

 あれ、何で夜なんだろう。

 左右はビルに囲まれていて、ネオンが周囲を照らしてるおかげで足元は明るい。

 車が走り、排気ガスの臭いがする。

 

 どこだここは……。

 わかりやすくゲーム会社のビルを指定したはずなのに、やっぱガレナさんのワープはあやふやだ。

 

 私は輸送機を引きながら、ゆっくりと周囲を確認していく。

 あ、でもこれなんか来た事ある場所だ。

 遠くにそびえるタワーは、あれ通天閣じゃないか。

 それにこの、都会なのに溢れ出る謎の下町感。

 

「ここ大阪じゃん!」

 

 やばい。浪速王国だよ……。しかも夜中とか。

 いや、別に大阪が嫌いなわけではない。前世では何度も遊びに来た場所だ。

 でも、今の私にとってはあまりよろしくない場所だ。

 

「なー、見ろよあれ」

「へんなリアカー引いてる子おるな」

 

 早速、その辺を歩いていたカップルが私を指さす。

 さすがは野次馬根性日本一。すぐに気づかれてしまった。

 

「なんかあの子宇宙人のリナちゃんに似てない? めっちゃ可愛いし」

「え、すごい似てる!」

 

 大学生らしき集団が私を見つけた。やばい凄い勢いで写メされてる。

 

「ほら、めっちゃリナに似てるわ」

「ねえ、こんなとこで何してんの? コスプレ?」

 

 ついに近づいて来た学生軍団に声をかけられてしまった。

 

「い、いえ。そういうわけじゃないんですけど……」

 

 私が何とか答えると、女子大生は楽しそうに笑う。

 

「そうだよね。だってさあ、こんな夜中に一人でリアカー引いてコスプレとか、めっちゃ笑えるやん」

「え、じゃあ本物?」

 

 問いかけてくる学生に、どう答えていいものやら。

 

「いや、あの……。私、京都に行きたいんですけど……」

 

 戸惑いながら声を上げると、男子学生は呆れたように言った。

 

「京都って、もう終電終わってるで。朝にならんと行けんわ」

「しゅ、終電っ!?」

 

 十二時超えてた……。

 

 そうか。今までアメリカ時間に合わせてたから、日本時間に合わせるの忘れてたのか。

 あのポンコツワープ、どうしようもない。

 ああ、どうしよう。でかい輸送機があるからタクシーも使えないし。

 日本政府には昼に行くって言っちゃったしなあ。

 とりあえず朝まで待って、それから連絡を取るかな……。

 頭を抱えて悩んでいると、女子学生が声をかけてきた。

 

「ねえ、あたしらそこの焼き鳥屋で夜明かしするから、もしよかったら来る?」

「そうそう、一人でこんなとこいたら危ないで。お店で朝までいたら安全や」

 

 どうやら誘ってくれているようだ。

 焼き鳥屋か。飲み屋みたいなもんかな。

 まあ、夜中に大阪の街をさまよい歩くよりはマシかもしれない。

 私は魔術師だし、自衛する手段もある。

 普通の学生に何かされてしまうほど弱くはない。

 ここはお言葉に甘えて、朝になってから行動しよう。

 

「じゃ、じゃあよろしくお願いします」

「よろしく! あたし、土田あかり」

「……私は、リナ・マルデリタです」 

 

 私はあえて本名を名乗った。

 バレバレならもう、堂々と行こう。

 

「え、ほんとに本物なの?」

 

 大学生たちは、私の自己紹介に驚いていた。

 

「俺yutubeでチャンネル見まくってるからわかるわ。声もまんまやし、間違いないって」

 

 彼らはスマホを取り出して、yutubeの映像と現実の私を確認しているようだ。

 

「ほんまや、完全に同じ顔で同じ声やん」

「よっしゃ、リナちゃん俺がおごったるわ! ついてきー!」

「ちょ、チャンネル登録者5000万人おるやん。億万長者やろこの子」

「小さいのにお金持ちやなあ」

 

 陽気な大学生に囲まれながら、私は近くにある飲み屋に入った。

 だが、一つ問題がある。輸送機をどうするかだ。

 盗まれないように魔術ロックをかける事は簡単だが。

 店に入れる事はできないしな。

 とりあえず、店員さんに聞いてみる事にした。 

 

「すみません。これ、店の前に置いていいですか?」

「えっ、ちょっとそれは……」

 

 輸送機を見た店の人が渋い顔をする。

 

「店長さん、この子リナ・マルデリタやで! 宇宙人が困ってたら、融通したるのが大阪人やろ?」

 

 と、あかりさんが私を勝手に紹介し始めた。

 

「えっ、ほんまにリナちゃんかいな?」

 

 店長はこちらを振り返る。

 こうなったらもう、店も味方につけるしかない。

 私はパスポートを出し、顔写真と名前の欄を見せた。

 すると、店長さんは目を丸くして私を見下ろした。

 

「ほ、本物……。それやったら歓迎や。どうぞ、車でも宇宙船でも置いてってや!」

「ど、どうも。あんまり他の人には言わないようにお願いします。ちょっとワープ間違えて、夜中の大阪に来ちゃいまして」

「そういう事かいな、わかった! 朝までこの店がリナちゃんを守ってみせるで!」

 

 気合を入れて腕まくりをしてみせる店長。

 なかなか頼もしい人だ。

 

 私は店内に入り、朝まで時間を潰す事にした。

 


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