転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第18話 はじめての輸入

 ポンコツワープが東京と京都を間違え、私は秋葉原にやって来てしまった。

 

「おい、リナ・マルデリタのコスプレだぜ」

「私服verとか、めっちゃレベル高いな」

 

 男性たちが私を指さす。

 すると何やら人が集まってきて、私の前でカメラを構え始めた。

 

「すみません、撮影いいですか?」

「え? はあ」

 

 振り返ると、パシャリパシャリとシャッターが光る。

 

「え、あの……」

「あ、ちょっとyutubeの感じで笑顔もらっていいですか?」

「は、はい」

 

 しゃがみこんだカメラマンに指示を受け、私はついyutube撮影の感じで微笑んでしまう。

 

「おおっ、めっちゃ似てる!」

「リナたんそっくりだ……」

「しかも、リナの使うリヤカーのレプリカまで持っているとは……」

「これは神レベルのコスプレだぞっ」

 

 また白い光がバシャバシャと走る。

 何がどうなっているんだ。

 私が持ってたリヤカーも、コスプレアイテムの一つと思われたらしい。

 カメラマンたちは謎の統率力を持ち、前列は姿勢を低くし、後列は膝立ちになって撮影する。

 何だこの文明は。私、知らないぞこんなの。

 

「あの、写真はネットに掲載してもよろしいでしょうか」

 

 と、前列にいた眼鏡の男性が訪ねてくる。

 別に私の写真なんて既にネットに溢れてるから、それはどうでもいい。

 

「いいですけど、すみません私ちょっと……」

 

 私が手を前に出すと、前列のカメラマンが顔をあげる。

 

「衣装替えですか?」

「いやその、ちょっと用事があるので……」

「わかりました。撮影中止っ。撤収!」

 

 男性の合図で、カメラマンたちは引き下がっていく。

 なんという規律の取れた集団だ。意味不明すぎる。

 

「あのカメコ、さすがだな」

「姫のトイレっぽい状況をすぐに判断してカメコの群れを動かす。まさにカメコのリーダーだぜ」

 

 遠巻きに見ていた男たちがカメラマンの振る舞いを評している。

 なんだこの世界は。

 

 私はあわてて輸送機を引いて移動し、用意した帽子を目深にかぶる。

 一番目立つのはやっぱピンクの髪と耳だから、ボウシをかぶれば目立たずに済むだろう。

 

 それにしても、なんだここは。

 そこいらで今のような撮影会が行われている。

 これがコスプレのイベントなのだろうか。 

 

 壁際では、大勢の人を集めている女性もいる。凄い際どい衣装だ。

 

 私はその場から退避し、人気のない方へと向かった。

 隅の方にトイレがあったので、ちょうどいいので入っておく事にした。

 ちょっと緊張したから、小の方がしたくなったのだ。

 輸送機を表に置いて個室に駆け込み、私は用を済ませる。

 

 ふう。

 毎回こんな調子じゃ、ランダムワープに乗じて奈良に行くとか、そういうのも難しいかもしれない。

 何しろ私、リヤカー持ってるから。

 目立ってすぐ人が集まってしまうよね。

 

 と、独り言ちていたその時。

 ガタンっ、と誰かが倒れるような音がした。

 

「ああもう、こんな時にっ」

 

 苛立ったような声が聞こえて、私は慌てて扉を開けた。

 

 見ればトイレの入口で、華やかな白いドレスを着た女性が座り込んでいる。

 

「どうしたんですか?」

「何でもないわ。ちょっと転んじゃっただけよ……。それより、あなたリナ・マルデリタのコスプレ?」

 

 彼女は私の顔を見ると、驚いたように問いかけてきた。

 否定するのも面倒だし、ここは合わせておこう。

 

「……。は、はい」

「すごいわね。帽子被ってもそっくりだなんて。羨ましいわ」

「あの、それより、その足……」

 

 女性の右足は、足首の部分がかなり腫れ上がっていた。

 これは結構な怪我だ。

 

「ヒールが合わなくて、コケた時に変に足がねじれちゃったの」

「大丈夫ですか?」

「なんとかするわ。今日は私、なんとしても目立たないと」

 

 そう言って、無理に立ち上がろうとする女性。

 だが私が見る限り、少なくとも捻挫。下手したら骨にダメージが入っている。

 

 彼女は足を引きずるようにして前に進む。コスプレにそこまでの情熱を注ぐ理由があるのだろうか。

 

「あの、ムリしないでください。すぐ病院に行った方がいいですよ、それ」

「ダメよ。約束したの」

 

 私が止めようとするも、彼女は強い眼差しでそう言った。

 

「約束、ですか?」

「ええ。私はアニメ系の小さな劇団をやってるの。

だから、こういうイベントでコスプレして劇の宣伝をするのよ。

今度の演目は、みんな気合入ってるの。

私がお客さんを呼び込んでくるって約束したから、やらなきゃ……」

 

 どうやら使命感に燃えているようだ。

 私は、彼女に手助けをしてあげたいと思った。

 

「あの、ちょっと待ってください。いい薬がありますから」

「え、薬?」

 

 私はバッグから魔石を出し、彼女の足にあてがう。

 魔力を込めて治癒を祈ると、足の周囲が小さく光り、彼女の足の腫れが引いていく。

 

「え、嘘……」

 

 彼女はそれを見下ろして、茫然としていた。

 

「これである程度は平気だと思います。歩けますか?」

 

 問いかけると、彼女は恐る恐る足を前に出した。

 

「……。ええ、治ってるわ。これ……、魔法? あなた、本物のリナなの?」

 

 女性は、信じられないと言った表情でこちらを見やる。

 

「あはは、あまり無理せずに頑張ってくださいね。じゃあまた」

 

 これ以上は、騒ぎになったら面倒だ。

 私は急いでその場を去る事にした。

 

「あの、ありがとう!」

 

 遠くから声を張り上げた彼女に手を振り返し、私はイベント会場を後にした。

 

 それからすぐに交番を見つけると、私は警官にパスポートを手渡して本人証明をした。

 そこからはいつもの如く護衛に囲まれ、私は京都へ送られて行ったのだった。

 

 

 

 夕方にはなったが、ゲーム会社にたどり着く事ができた。

 今回は、手続きをして荷物を受け取るだけだ。

 

 まずは社内で書類にサインし、我がガレリーナ社とゲーム会社の取引をしっかりと契約という形にした。

 

「これが異星の企業との契約書……」

「ああ、日本とマルデアを結ぶ史上初の契約書だ」

 

 スーツを着た営業職の人たちは、感激したように書類を眺めていた。

 その後、私たちはビジネスの状況について話し合う事になった。

 

「マルデアでは、小売さんの受注はいかがですか?」

 

 問いかける営業さんに、私は自信を持って頷く。

 

「はい、商品がとても魅力的なおかげか、既に販売店から四千台ほど発注してもらっています。

あとは、お客さんが買ってくれるかどうかですが……」

 

 私が少し不安に顔を落とすと、ビシッと七三分けの男はニコリと笑みを浮かべる。

 そして、段ボールからカラフルな紙の束を取り出した。

 

「一応、こちらで宣伝用のポスターなどを用意しました。

スウィッツを紹介する小冊子や、ポップなどもあります。是非お店に置いてもらって下さい」

 

 開かれたのは、ゲーム機と丸顔おじさんのキャラクターが描かれた鮮やかなポスターだった。

 これなら店頭でスウィッツの存在が目に留まりやすいだろう。

 他にも、宣伝用のグッズを色々と用意してくれたらしい。

 

「ありがとうございます! これなら、お客さんも目に留めるはずです。小売さんに本体と一緒に渡しておきますね」

「期待しています。販売が順調なようなら、すぐに次の五千台をご用意します。その後の増産も考えますよ」

「よろしくお願いします」

 

 商売の話を終えて、私は一階のロビーへと向かった。

 普段は何もない場所だが、そこには大量のゲーム機が置かれていた。

 五千台のハイパーマルオが入ったスウィッツと、マルオカーツのパッケージソフトが三千本。

 そして周辺機器などが入った箱がズラリと並べられている。

 

「すぐに運び込む人員を用意しましょう」

 

 営業さんはすぐに手配しようとしたが、私はそれを手で制止した。

 

「必要ありません。私一人で十分です」

 

 

 私は念動力を使い、スウィッツを一気に十台ほど浮かせて輸送機に入れる。

 すると、スウィッツは1000分の一ほどの大きさに縮小されて輸送機の隅に収まった。

 それを繰り返して、次々と本体を輸送機に入れていく。

 十分ほどかかっただろうか。

 五千台のスウィッツと周辺機器たちは、簡単にリヤカーみたいな輸送機に収まってしまった。

 

「こ、これはすごい。こんな小さい荷台に全部収まるなんて……」

 

 営業さんは私の作業に目を見開いていた。

 私はフロアに何もなくなったことを確認し、彼に挨拶をする。

 

「これで全部ですね。では、私はマルデアに戻ります」

「は、はい。本日はどうもありがとうございました」

 

 丁寧に頭を下げる男性に、私は頷いて答える。

 

「ええ。こちらも宣伝用のものまで用意して頂いて、ありがとうございました。

最初の五千台、しっかりとマルデアの人たちに届けたいと思います。

では、失礼します」

 

 私は腕につけたデバイスを起動し、マルデアへとワープした。

 

 


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