転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第19話 発売に向けて

 マルデア星。

 ガレリーナ社に戻った私は、まずyutubeで地球のみんなに報告する事にした。

 輸送機から商品のスウィッツを一つ取り出し、カメラで自撮り撮影をする。

 

「地球のみなさん、こんにちは。

見てください、ついにスウィッツをマルデアに輸入しました。

これから、この星に地球のゲームを広めます!」

 

 ガレナさんがカメラにひょっこりと顔を出した所で、私は録画を止めた。

 十数秒の短すぎる動画だったが、構いはしない。

 このまま投稿だ。

 yutubeにアップすると、すぐにとてつもない数のアクセスが集まり始めた。

 再生メーターはぶっ壊れているのか、止まったまま動かない。

 いいねだけがすぐに一万を超えていた。

 

 他のSNSでも、画像とともに投稿はしておいた。

 瞬間的にあふれるコメントが凄まじい。

 

xxxxx@xxxxx

「ついに俺たちのゲームが宇宙へ飛び出したんだ!」

xxxxx@xxxxx

「ありがとう! 私たちは誇りに思うよ!」

xxxxx@xxxxx

「グラシアス! ありがとう!」

xxxxx@xxxxx

「マルデアがNikkendoを好んでくれるといいね」

xxxxx@xxxxx

「ビデオゲームを選んでくれてありがとう!」

xxxxx@xxxxx

「マンマミーヤ!!」

xxxxx@xxxxx

「俺たちは今、新たなゲーム史の第一歩を見ているんだ」

xxxxx@xxxxx

「WAHOOOOOOO」

 

 盛り上がっているのは、やはりゲームファンが多いらしい。

 みんな喜びを表してくれていた。

 さて、地球の人たちに伝えた所で、次はいよいよ納品だ。

 

 

 翌日から、私とガレナさんは手分けしてスウィッツを小売へと運ぶ事になった。

 ワープ局に転送を頼む事も考えてたんだけど、冊子やポスターをせっかくもらったのだ。

 一つ一つ手渡して、店に宣伝をお願いしたかった。

 ワープステーションを利用すれば一瞬で他の駅に飛べるので、地球ほど手間はかからない。

 デバイスで発注のデータを確認しながら、私はガレリーナ社のビルを出た。

 

 まず行くのは、最初に発注を取った玩具屋さんだ。

 カウンターで店長を呼んでもらい、早速現物の商品を見せる。

 

「これが本体のケースになります。既にソフトを一本同梱しておりますので、開けたらそのまま遊べます」

「ふむ、変わった箱だな」

 

 地球のパッケージが物珍しいのか、玩具屋の店長はじろじろと眺めていた。

 

「こちらは別売りのコントローラーです。追加で買ってもらえば、四人まで一緒に遊べます。

あとはレースゲームのソフトを五本ほどご用意しました」

 

 マルオカーツのパッケージを台の上に置くと、彼は表のイラストを見下ろしながら言った。

 

「華やかな絵で良いな。こちらも楽しそうだ。それで、こっちはポスターかね」

 

 次に店長が目をつけたのは、販売促進用のグッズだ。

 

「はい。このポスターを店内に飾っていただけると嬉しいです。

それから、スウィッツの説明用に冊子があります。これを読めば、お客さんもすぐにどんな遊び道具なのかわかると思います」

 

 取り出した冊子を開き、店長は驚いたように目を見開く。

 

「ほう。魔術冊子ではないようだが、十分見栄えするな。おたくは小さな販売会社だと聞いていたが、随分しっかりしているんだな」

「このゲーム機を作ってるメーカーさんが大手ですから、宣伝にもご協力頂いてます」

 

 店長は企業ロゴを見下ろしながら、唸るように感心していた。

 

 私はデバイスに出荷のチェックをつけながら、店を回っていく。

 それから数日かけて、発売日までに四千台のスウィッツを小売に全て出荷した。

 会社のオフィスでガレナさんと落ち合い、発注と出荷を最終チェックする。

 

「すべて出荷できましたね」

「ああ。これで明後日の発売日を待つだけだな」

 

 ガレナさんも疲れた顔ながら、満足そうに頷いていた。

 

「もう一つ欲を言えば、試遊台などを用意したかったのですが。さすがにそういう場所はとってもらえませんでした」

 

 前世の子ども時代、家電量販店などでファミコムの試遊台があったのを覚えている。

 両親が買い物をしている間、ゲーム売り場でずっと遊んでいたものだ。

 あれは販売促進の効果があるのだろう。

 だが、あれを店にやってもらうにはまだまだ信用が足りない。

 

「試遊台か。研究所でなら可能かもしれんな」

 

 と、ガレナさんが何か思いついたように言った。

 

「研究所で?」

「うむ。テストルームという場所がある。開発した試作機などを置いて、不特定多数に試用してもらうための場だ。

そこにスウィッツを置いておけば、好奇心旺盛な研究者連中が触るだろう」

「それはいいですね!」

 

 彼女の提案は、魅力的なものだった。

 というより、待っているだけじゃそわそわして仕方がない。働いていたかったんだと思う。

 私は早速スウィッツを二台ほど用意し、研究所へと向かった。

 そして、三階のテストルームにやってくる。

 ガレナさんの説明通り、その広い部屋には様々な魔術試作機が置かれている。

 室内にいる研究者たちは試作機に触れ、使用感などをデバイスに書き込んでいるようだ。

 

「こんな所にゲーム機を置いていいんでしょうか」

「構わん。たまにメチャクチャな物も置いてあるから、何でもいいのだろう」

 

 ガレナさんが軽い調子でそう言った。

 私はテーブルの上にスウィッツを置いて、少し離れた椅子から眺める事にした。

 と、そこに研究者たちが近づいてくる。

 

「ねえ。これ今置いて行ったのリナ・マルデリタじゃない?」

「地球のものかしら。ガレナ・ミリアムと会社立ち上げて、なんか輸入してるって噂だったけど」

 

 白衣の女性二人が、スウィッツを眺めながら話し始めていた。

 

「デバイスに変わったボタンがついてるわ」

「ええ、遊び道具らしいけど。地球の玩具なんて初めて見るわね」

 

 と、赤髪の女性がスウィッツを手に取った。

 

「ふうん、映像が出るのね。スタートボタンは、ここね」

「遊ぶつもりなの? 私もう行くよ」

 

 一人はすぐに立ち去ってしまったが、もう一人はとりあえず遊んでくれるようだ。

 

「右に行けばいいのかしら……。あれ、当たったら死ぬの?」

 

 どうやら即死したらしい。

 すぐやめるかと思いきや、彼女はその後も割と長い事ゲーム機を操作していた。

 

「むっ、もうっ、なんで取れないのよっ」

 

 なんかムキになってボタンを押しまくっている。

 仕方がないので、私は行ってみる事にした。

 

「あの、どうかしましたか?」

「ここ、茶色いブロックに囲まれてコインが取れないのよ」

 

 画面を指さす女性に、私はすぐに状況を理解した。 

 

「ブロックを壊すには、上からお尻でドッスンすればいいんです。

ジャンプ中に下ボタンを押してください」

「ドッスン? ……、あ、できたわ」

 

 あっさりと取れたコインに、彼女は目を瞬かせる。

 

「はい、おめでとうございます」

「……ほ、褒めないでよこんな事で。ただコイン取っただけでしょ」

 

 少し恥ずかしそうにする女性に、私は笑みを浮かべながら言った。

 

「どうですか。面白いですか?」

「そうね。なかなか悪くはないわ」

 

 まんざらでもない表情で、ゲームを再開する彼女。

 

「スウィッツの発売日までそこに置いてますので、よかったら遊んで行ってください」

「わかったわ……」

 

 生返事をしながら、女性は画面に夢中な様子だった。

 どうやら、ハマりつつあるようだ。

 ゲーム女子はガレナさんだけではなかった。これなら、マルデアでも売れるだろう。

 

 そうこうしているうちに、二日が経った。

 ついに発売日がやってきたのだ。

 

 

 


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