転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第22話 みんなに伝えよう

 新入社員となったサニアさんには、公式ページの運営をお願いする事になった。

 彼女はさっそく私から管理権を受け取り、ガレリーナ社の公式ページをいじり始めた。

 

「どうせマルオの質問で多いのは、星のコインの場所でしょ?」

 

 手早くデバイスを打ち込みながら、彼女が問いかけてくる。

 

「そうですね、攻略のメインはそれです。あとは凄く基本的な事です。

セーブしますか? で「はい」を押していいかとか。

マルオとお別れしてないけど電源を切っていいのかとか、そういう質問が来ました」

「何よそれ……。超初歩的な事から書かなきゃダメみたいね」

 

 サニアさんはため息をつきながらも、手際よくページを作り上げていった。

 その日のうちに攻略ページが出来上がり、公式ページはだいぶ公式っぽくなった。

 

「うむ。デザインがだいぶ良くなっているな」

 

 ガレナさんが満足そうにページを眺める。

 

「夕方から質問の通話も半分くらい減りましたよ。

公式ページにアクセスが集まり始めたみたいです。ありがとうサニアさん」

 

 私が礼を言うと、サニアさんはフンと鼻を鳴らした。

 

「こんなの朝飯前よ。さあ、帰る前にもう一回マルカーするわよ!」

 

 そして、すぐゲーム機に飛びつく。

 彼女は心からゲームが好きみたいだ。

 少し変わってるけど、いい人が入ってくれたようでよかったと思う。

 

 次第にゲームをクリアした人たちから、感想のメールが届き始めた。

 珍しい遊びを楽しめたというものや、マルオ楽しい!という子どもたちの声。

 何回も繰り返し遊んだというコアな意見をもらう事もあった。

 私たちは、しっかりとマルデアにおけるゲーム販売の第一歩を踏み出したのである。

 

 

 それから少しして、売り上げたゲームの利益がガレリーナ社に入ってきた。

 4000台分近くのスウィッツとソフト、周辺機器の売り上げだ。

 運送費やガレリーナ社のコストを引けば、それが利益になる。

 

 マルオカーツが好評を受けた事もあり、120万ベル以上の金が手元に入った。

 日本円でいうと、1億2000万円くらいかな。

 ついにゲーム機によってマルデアの金を得る事に成功したのである。

 零細企業にしては、最初から結構な規模だ。

 まあ、地球の全力サポートを受けているから当然といえば当然だけどね。

 

 これを資金に、私は五千個の魔石と五十個の収縮ボックスを購入した。

 これまでに私のポケットマネーで持ち込んだものとは、桁が違う数だ。

 

 ただ、今すぐ地球に行く事はできない。

 まだ、スウィッツの次の生産分が出来ていないからだ。

 

 

 待っている間、私はゲームが売れた事を地球の人たちに報告する事にした。

 それに魔石の事についても、ある程度みんなに知ってもらうべきだと思った。

 

 まだ大衆は、軽い魔法が使えるようになる道具くらいの事しか知らないみたいだし。

 政府だけが本当の価値を知ってるというのは、あんまりよくない気がする。

 

 こういう時は、自由に情報を発信できるyutubeが便利だ。

 デバイスを構え、いつものように自撮りで撮影を始める。

 

「こんにちは、地球のみなさん。

マルデア大使のリナ・マルデリタです。

先日発売したゲーム機ですが、マルデアの人たちがとても喜んで遊んでいます。

すぐに売り切れになってしまい、みんな地球の娯楽を欲しがっているみたいです。

素晴らしい娯楽をありがとうございます。

さて、みなさんは私が初めて地球に行った時の会見を覚えているでしょうか」

 

 私は箱から透明な魔石を取り出し、カメラに向ける。

 

「地球人の皆さんも、この石があれば魔法が使える。

それをお見せする事が出来たと思います。

魔石はシンプルに使えば、このように少しの奇跡を生み出すものです」

 

 石を揺らすと、その上に小さく火が揺らめいた。

 

「ですがこれを十個、百個、千個と合わせれば、大きな奇跡を起こす事ができるようになります。

魔石とは、願いを叶える力の結晶です。

例えば、このように汚れた水の中に入れると……」

 

 私はバケツの中の黒々とした汚水に、魔石を放り込む。

 そして、そこに手をかざして魔力を注ぎ込んだ。

 すると、汚れが浄化されて水がきれいに透き通っていく。

 

 それをカメラで撮影しながら、私は語り続ける。

 

「とまあ、このような事もできます。

沢山使えば、川なんかでも綺麗になるかもしれませんね。

現状、そちらに持ち込める魔石の数は多くはありませんが。

ゲームのおかえしに、少しずつお届けしていきたいと思っています。

私たちは遠い星同士ですが、ようやく貿易の第一歩を踏み出しました。

マルデアと地球が、より良い未来を作っていけるように祈っております。

それでは、失礼します」

 

 私は一礼して、撮影を終えた。

 そしてデバイスで少し編集して、yutubeに投稿する。

 すると、これまでよりも異様な勢いで動画が伸びて行った。

 どうやら、これまで見てくれていた人たちだけではなく、政治的な方面にも話題を呼んだらしい。

 私の発言は世界中に広まり、各国のテレビでも報道された。

 

「魔石には未知の可能性がある。環境汚染の問題も、あの浄化の力があれば解決できるかもしれない。

我々はそれを私利私欲のためではなく、地球の未来のために使うべきだ!」

 

 翌日のテレビで、アメリカの人気司会者はそう主張した。

 

「願いを叶える力というなら、不治の病を治す事も可能ではないでしょうか。

様々な可能性を考えるべきですね」

 

 ヨーロッパの世界的なスポーツ選手が、インタビューでそう答えた。

 

「魔法の収納箱は、流通の概念を変えるものだ。それにもし魔石が大量にあれば、地球から災厄を消し去ることができるのではないか。

マルデアが地球にもたらす利益の大きさに驚いている」

 

 アジアの名門大学教授が、カメラの前でそう語った。

 

「まだ魔石がそこまで有効だと証明されたわけじゃない。

マルデアが商品の価値を過剰に言ってたらどうするんです? 慎重に考えるべきですよ」

 

 有名評論家が、ネット配信で息を巻いた。

 

 様々な有名人や政治家が、それぞれ私の動画についてコメントし、己の主張をした。

 大衆もSNSでつぶやき、動画配信で主張し、語り合った。

 

 私の動画は、文字通り世界を巻き込んで大論争を巻き起こしたのだ。

 これはちょっと予想外の展開だった。

 でも、みんなで話し合った方が健全だよね。

 

 マルデアの影響力は、地球にとって大きくなってきているのかもしれない。

 地球の人たちのほとんどは、私が本当に一人で地球と貿易しているとは思わないだろう。

 その事実を知っているのは、多分まだアメリカの中枢だけ。

 

 私が一人でやれる事は限られている。気負っても仕方がない。

 だから、焦らずにやりがいのある仕事をしていこうと思う。

 好きなゲームを売って、一つずつ笑顔を作って。

 地球に少しずつ魔石を届けて行けたら、それでいい。

 

 奈良の親にも会って、元気な姿を確認しなきゃね。

 

 

 

 それから少しして、日本から良いニュースが舞い込んだ。

 政府の協力もあり、マルデア向けスウィッツの生産が早まりそうだという。

 数日後には六千台のスウィッツが用意できるという事だった。

 あっちに行くとなると、魔石や変換機の部品も持っていかなければいけない。

 私はまず国連に連絡を入れて、ニューヨークにある本部に向かう事になった。

 

 


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