転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第29話 そうなんです

 ワープで地球にやってきた私だったが、今回はちょっと予想を超えていた。

 降り立った場所は、真っ白だった。

 

 風が凄い。雪がビュンビュン舞っている。

 吹雪だな、これ。視界が悪すぎる。

 ここがどこなのか全くわからないよ!

 

 やたら地面が傾斜になってるし、人里なんてどこにも見えない。

 雪山ってとこだろうか。

 

 ガレナさんが頑張ったと言ってたし、アメリカ国内だとは思うけどね。

 

「私、遭難しました? そうなんです!」

 

 もはや冗談を言う他ない。

 まあいい。こういうケースが起きる事は予想していた。

 これでも名門学院卒の魔術師である。なめてもらっては困る。

 私は自分の体に掌を向け、魔力を込めて呟く。

 

「過酷なる環境から我を守れ」

 

 すると、私の周囲を暖かい空気が包み込む。

 吹雪や火災のようなヤバい現象から身を守る魔術である。

 これで、とりあえず凍える心配はなくなった。

 

 ただ、場所がわからないのは問題だね。

 

「風よ、彼方の声を我が耳に届けよ」

 

 次の呪文を唱えると、ヒュウと音がして吹雪の中を魔術が広がっていく。

 これは、遠くにいる人間の声を拾ってくる魔術だ。

 

 人里の方向さえわかれば、何とかなるだろう。

 と、魔術が探知した声が響き始めた。

 

「……だめだ、もう、お前だけでも……」

「しっかりしろ。少し休んで、吹雪がやむのを待とう……」

 

 どうやら、西の方角に二人の男性がいるらしい。

 ただこれ、あっちも遭難してるパターンだ。

 とりあえず行ってみよう。誰もいない場所にいるよりはマシだ。

 

 私は吹雪の中、輸送機を押して声のした方向へと急いだ。

 デコボコした山の道を、宙に浮かんで飛び越えていく。

 

 少しすると、小さく光が見えてきた。

 目を凝らすと、明かりのついた小さなテントがあるようだ。

 私はそこに近づき、声をかけてみる事にした。

 

「あのー、すみません」

「なに、人か!」

 

 多分まだ動ける方の男性が、テントから顔を出す。

 

「お、女の子……?」

 

 彼は、私の姿を見て驚いているようだった。まあそうだよね。

 女子がたった一人でリヤカーひいて吹雪の中を歩いているんだから。

 びびるよね。

 

「そちらは遭難ですか?」

 

 問いかけると、髭面の男性は立ち上がって頷いた。

 

「ああ。面目ない話だがな。

登山中に吹雪で体力をやられて、仲間が動けなくなってしまった……。

君は、こんな所に一人で来たのか?」

「は、はい。ちょっと道がわからなくて案内してもらいたいのです。

その前に、まずはそちらのお仲間さんを何とかしなきゃいけませんね。

見せてもらえますか」

 

 私はその場に屈み、テントを覗き込む。

 中では、若い細身の男性が息を荒くして横たわっていた。

 体力が奪われているのだろう。なら、魔石なしでいけそうだ。

 

「生命の力よ。かの者を癒し、力を宿せ」

 

 倒れた男性の腹に手を当て、魔術をかけていく。

 すると、彼の体が淡く光り出した。

 

「な、なんだこれは……」

 

 仲間が驚きながらその様子を見守っていたが、私についての説明は後だ。

 

 十分に魔力を注ぎ込むと、どうやら目を覚ましたらしい。

 

「……。ん? どうしたんだ。体が、動くぞ」

 

 細身の男性が体を起こすと、仲間が声をかける。

 

「おい、大丈夫か?」

「ああ。なんだかわからないが、体力が元に戻ったみたいだぜ」

 

 仲間に抱えられながら、彼は起き上がって自分の体を見下ろしている。

 

 さて、次は吹雪だ。

 私は先ほど自分にかけた呪文を、もう一度二人に向かって口にする。

 

「"過酷なる環境から、かの者たちを守れ"」

 

 魔術をかけると、暖かい空気が今度は男性たちを包んでいく。

 

「なっ、さ、寒くないぞ」

「いきなり温かくなった! あ、あんたは……」

 

 二人とも、私を見ながら口をあんぐりと開けている。

 さすがに、こちらの事に気づいたようだ。

 

「私はリナ・マルデリタと言います。諸事情でその、少し山を歩いています」

「や、やはりか。顔もネットで見たままだ。それにこの不思議な力は、疑いようもないな」

「じゃあ、やっぱこれが魔法か……」

 

 驚く二人だが、ゆっくりしてもいられない。

 

「すみませんが、ふもとまでの道はわかりますか?」

「あ、ああ。そうだな。案内しよう」

 

 二人は簡易テントを畳み、担いで歩き出そうとする。

 

「あ、荷物は全部こっちで受け持ちますよ」

「そ、そんな。大の男が担ぐものだぞ」

 

 常識的に、少女に荷物を持たせるわけにはいかないと思っているのだろう。

 男性たちは自分で運ぼうとしている。でも、それじゃ歩くのが遅くなるんだよね。

 

「大丈夫です。魔術式の輸送機ですので入れれば重さはありませんから。

どうぞ、リュックも全部ここに入れてください」

 

 私が促すと、彼らは恐る恐る荷物を輸送機の中に置く。

 すると、大きな荷物が輸送機の中で米粒のように縮小されていく。

 

「ち、小さくなったぞ!」

「取り出すときは元に戻るので、ご心配なく」

「……、す、凄いな魔術ってのは」

 

 身を軽くした彼らは、ふもとに向けて歩き出す。

 ザクザクと雪を踏みながら、足取りは軽い。

 

「吹雪だというのに、全く問題がない」

「こりゃいいや。でもさ、何でリナ・マルデリタがこんな所にいるんだ?」

「いや、あははは。ちょっとその、ワープが変な所に飛んだりするので」

 

 私が誤魔化すように言うと、男性は神妙な様子で頷いた。

 

「ああ、噂に聞いた事があるな。ランダムで落ちてくるというやつか」

「いえ、決してランダムというわけではないんですけど……。あと、これは内密にお願いします」

「……そ、そうか」

 

 私が口に人差し指を当てると、二人は察したように頷いてくれた。

 

「なるほど、あんたも色々苦労してるんだな。これからどこへ行くんだ?」

「ニューヨークの国連本部です」

「お、おお。やっぱそういうとこだよな。っしゃ、俺たちも一地球人として、安全な所まで姫を送り届けるか」

「むしろ、俺たちが守ってもらってるように見えるがな……」

 

 気合を入れる男性とは裏腹に、もう一人はため息をついているようだ。

 吹雪の中、私たちはぬくぬくとした空気に包まれながら山を下りて行ったのだった。

 

 

 

 さて、何とか吹雪を抜けて安全な所まで降りてきた私たちだが。

 このあたり、普通に観光客が多いようだ。

 ワシントン山という、アメリカ東海岸の有名な山だったみたいだ。

 

「ねえあれ、リナ・マルデリタじゃないかしら?」

「どうして山にいるの?」

「観光じゃないかな」

 

 うん。めっちゃ目撃されている。

 もうこの山に来た事は隠せないだろう。

 

 なら、むしろ来た事をアピールしておいた方がいい気がする。

 私は二人とともに山をバックにして写真を撮影し、それをSNSに投稿しておく事にした。

 

「ワシントン山に登りました! とても美しい景色です!」

 

 こうしておけば、観光かなって思われるかもしれない。

 毎回迷ってると思われるよりはだいぶいいだろう。

 コメント欄は、山好きな人達が盛り上がってくれているようだった。

 

xxxxx@xxxxx

「やあ、宇宙人も山が好きなんだね」

xxxxx@xxxxx

「ワシントン山の景色は最高よ。リナが私の好きな山に来てくれて嬉しいわ」

xxxxx@xxxxx

「この時期は吹雪が危険だけど、大丈夫だったかい」

xxxxx@xxxxx

「リナと一緒に登山できるとは、幸運な男たちだ」

 

 

 ネットを見ながらしばらく待っていると、地元警察と思しき人達がやってきた。

 

「リナ・マルデリタ嬢の安全を確認した! 本部に連絡を!」

「はっ!」

 

 慌ただしく連絡を取り合いながら、私のために動いてくれる警官たち。

 頭が下がる思いだ。

 

 ともかく、雪山へのワープを問題なく乗り切る事ができて、よかったよかった。

 


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