転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第31話 売り込めレトロ

 レトロゲームセットについての話し合いは終わり、次はゼルドの伝承だ。

 こちらは、膨大なテキストの翻訳をサニアさんと共に進めている最中である。

 

 ローカライズ班の開発室に向かい、私はチェック作業を始めた。

 携帯モードでプレイすると、マルデア語が少し潰れて文字が見にくくなっている。

 

「少しゲーム中の文字が小さくて、マルデア語が読みにくいですね」

「そうですか。では、フォントサイズを少し上げましょう」

 

 彼らは文句ひとつ言わず、こまやかな部分まで修正してくれた。

 

「ボイス部分については申し訳ないのですが、現状マルデア語で声を用意するほどの余裕はありません」

「仕方ないでしょう。日本語ボイスのまま、字幕をつけておきましょう」

 

 マルデアでプロの役者を雇って収録すると、かなりの金額がかかる事がわかった。

 まだ数千本規模でしかソフトが売れない状況では、そこまでの投資はできない。

 

 地球でも日本語のボイスがついてない洋ゲーは多い。仕方のない事だろう。

 これもいずれ解決すべき問題として、後回しすることにした。

 

 

 一通り打ち合わせを終えた後、私は郊外の倉庫に向かった。

 新しく生産されたスウィッツをもらい受けるためだ。

 今回は、七千台の本体を用意してくれた。毎回千台ずつ増えているね。

 

 こうなると、すぐに遠い星で待つお客さんの下へ届けなければならない。

 

 ソフトや周辺機器を輸送機に詰め込み、営業さんに挨拶する。

 そして腕のデバイスを起動し、私は地球から姿を消した。

 

 

 マルデア星。

 私はワープルームに降りると、すぐに研究所を外に出てオフィス街へと向かう。

 ガレリーナ社に戻ると、耳慣れた通話対応の声が聞こえてきた。

 

「も、申し訳ありません。本体の入荷はもうしばらくお待ちいただきたいと……。ひぃっ」

 

 通話が切れたのか、フィオさんが悲鳴を上げた。

 

「うう、私に怒らないでほしいです……、もう……。ゲームします」

 

 扉を開けると、フィオさんは現実逃避するように画面にかじりついて塊ダマスィーをやっていた。

 ヘンテコなノリと個性的な遊びが特徴の、塊転がしゲームだ。

 

「ら~ららららら~塊だますぃ~」

 

 仕事中に鼻歌まで歌うとはいい度胸だ。

 まあ通話対応をちゃんとしてるなら文句は言わないけど。

 

「ただいま戻りました」

 

 私が中に入っていくと、ガレナさんが起き上がるようにこちらを向く。

 

「ようやくか。それで、入荷はあったか?」

「ええ。ただ現状用意できたのは、七千台です」

「七千台で一か月持たせろっていうの? もっと用意するように言ってよ」

 

 サニアさんは不服そうに眉をしかめている。

 

「これでも頑張って増やしてもらってるんです。

それに来月は新作ソフトが出ますから、そのタイミングに合わせて大量に出荷してもらう予定です」

 

 私の説明に、ガレナさんが肩をすくめる。

 

「まあ、どちらにしろある分を売るしかないのだ。

すぐに発注リストに合わせてワープ局へ届けよう」

 

 私たちはデバイスでリストを確認しつつ、発送先の手配を進めていった。

 

「やっぱり玩具屋ばっかりですね」

「そうね。デパートからは特に追加発注もないわ」

「客層の問題だろうな。デパートで娯楽を買う客はいない」

 

 今のところ、玩具屋に来る子どもとその親がスウィッツの客の中心だ。

 マルデアの首都に玩具屋はそこまで多くはない。

 そのうち全国に営業網を広めていく必要があるだろう。

 

 大人向けのソフトが出たら、それに合わせて大人が来る店にも営業をかけたい。

 ただまあ、それはゼルドが来てからになるだろう。

 

 

 さて、レトロゲームパックは来月発売だ。

 すでにソフトのサンプルはもらっているので、明日から販売店に新作ソフトをプレゼンして回る必要がある。

 早いうちに小売の発注を取っておかないと、発売日なのにお店にソフトが並んでない、なんてことが起きてしまう。

 

 ただ、それも明日からだ。

 今日はスウィッツの出荷作業を終えたところで、私は仕事を終えて帰宅する事にした。

 

 実家に帰ると、母がすぐに夕飯を用意してくれた。

 

「ふうん、玩具屋さんしか相手にしてくれないの」

「そうなの。まあ、今のところはそれでいいんだけどね」

 

 母さんと話しながら、手料理を食べる。

 やはり、ここに帰ってくると安心する。

 

 地球は前世の故郷とはいえ、ホテルや飛行機での寝泊まりは気疲れもある。

 私は慣れ親しんだ自室のベッドでゆっくりと体を休めた。

 

 

 

 そして、翌日。

 私たちはさっそくレトロゲームパックを売り込むべく、手分けして販売店を回ることにした。

 

 都内の大きなおもちゃ屋に向かうと、店長が対応してくれた。

 

「いやあ、スウィッツは子どもたちだけでなく、親御さんにも好評でね。

新作ソフトは出ないのかと、よく聞かれるんだよ」

 

 店長さんは、お客さんの様子について説明してくれる。

 既に次のタイトルを期待されているようだ。とてもいい循環である。

 

「ありがとうございます。ゲームソフトはローカライズだけでも時間がかかりますので、ポンポンとは出せませんが。来月に新作の発売が決まりました」

「ほう。それはどんなものかね」

「こちらにサンプルがあります。今までのゲームよりスケールは小さくなりますが、珠玉の名作ゲームを集めたオールスターパッケージです。一つ一つとても面白いので、お試しください」

 

 私がサンプルソフトの入ったスウィッツを取り出し、カウンターの上に置く。

 店長さんはさっそく、自分でプレイしながら内容を吟味し始めた。

 

「ふむ、複数のゲームが遊べるわけか。しかし、このテトラスというのはよく出来ているな。

ブロックを一列そろえると消えるんだね」

「ええ、直線の棒で四列を一気に消すと、高得点が得られます。

他にもソフトが七本入っていますので、バラエティ豊かなラインナップをソフト一本で楽しむ事ができます」

「ふむ、これは魅力的だな」

 

 カウンターで店長さんと話し合っていると、店に入ってきた子どもがサンプルのパッケージを見たらしい。

 

「あー! あたらしいスウィッツのソフト! おかーさん、かって!」

「もう、先月マルオの走るやつ買ったばっかりでしょ。お誕生日まで我慢しなさい」

 

 母親が諭しているが、子どもの好奇心は止まらない。

 遊びを求めて玩具屋に来る先入観のない子どもたちは、地球産だろうがなんだろうが面白ければ手に取ってくれるのだ。

 

「ふむ。やはり受けも良さそうだね。うちはとりあえず、十本ほど発注させてもらおう」

 

 すると、自然に店長さんも乗り気になる。

 やはりまずは、おもちゃ屋から切り開いていくべきなのだろう。

 私はワープステーションで飛び回りながら、小売店を回っていくのだった。

 

 ガレリーナ社のオフィスに帰ると、ちょうどサニアさんも戻ってきた所だった。

 

「どうでした?」

「ええ、なかなか好評で、受注も多くもらえたわよ」

 

 どうやら、サニアさんも手ごたえを感じているようだ。

 

「ソフトについては、どれがウケてました?」

「そうね。テトラスやドンキューはもちろんだけど、ロッツマンやグラディアスの人気が高かったわ。

宇宙の敵をやっつける話は、子どもだけじゃなく大人も喜ぶみたいね」

「確かに、シューティングゲームは店長さんたちに受けがよかったですね」

 

 グラディアスは、ファミコム時代を代表するシューティングゲームだ。

 宇宙を飛び回りながら、迫りくる敵を弾や光線で打ち抜き、自分の戦闘機を進化させていく。

 

 こういった世界観は、他の星から侵略戦争を受けた経験のあるマルデアにとっては身近に感じるのかもしれない。

 ロッツマンも、可愛いSFチックな雰囲気がウケているらしい。

 レトロゲームパックに収録されたこの二作品は、予約販売を伸ばすのに大いに役立ってくれた。

 

 狙い通り、マルデアの人たちは古いゲームでも楽しんでくれそうだ。

 と、サニアさんが思い出したように指を立てる。

 

「そういえば、お菓子屋のシェラードから連絡があったわよ。

シロップを使った新商品が出来たから、よかったら来てほしいって」

 

 そういえば、メープルシロップを発注してくれたお店があった。

 そっちにも、少し顔を出さなきゃね。

 


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