転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第33話 おお、これが文化の力

 イギリスに降りた私は、映画撮影への参加を頼まれてしまった。

 ワンシーンを手伝うだけという話だったので、私は承諾する事にした。

 

「あの、私の演技がダメでも知りませんよ」

「問題ない。本物の存在感に勝るものはないさ。セリフはこの二つだ」

 

 監督が台本を渡してくれる。確かに覚える事は少ないようだ。

 二つのセリフを頭に入れ、私は塔に上って撮影の準備に入った。

 

 ピリピリとした雰囲気の漂う現場に、私もつい緊張してしまう。

 yutubeの自撮りとはわけが違うよ……。

 

 と、下から声が響き始める。

 

「3、2、1……」

 

 カウントダウンで撮影が始まり、カメラが回る。

 すると、演技モードに入ったルイナとオーリスの二人が歩いてきた。

 

「ビゴールがあの塔に入ったまま、出てこないんだ」

「調べましょう」

 

 話し合いながら、私のいる塔に近づいてくる二人。

 タイミングに合わせて、私は浮遊魔術で飛び降りていく。

 フワリとルイナの前に現れると、彼女は目を見開いた。

 

「わっ、あ、あなた何?」

「うふふ、私は西の塔に住むこわーい魔女よ。もしあなたが塔について調べるつもりなら……」

 

 私がセリフを口にしながら少しタメを作ると、オーリスがこちらを睨む。

 

「……どうするつもりだ?」

「さあ、どうなるかしら。でも、覚悟することよ。うふふふ」

 

 私は意地悪な笑みを浮かべた後、浮遊魔法で飛び去っていく。

 

「カット!」

 

 カメラが止まり、撮影が終わる。

 

「素晴らしい。二人とも、いい演技だった!」

 

 監督はルイナとオーリスを褒め称えていた。

 多分本番では私の部分はCGとの差し替えになるんだと思う。

 そうだよね?

 二人の演技を引き出しただけで十分だよ。うん。

 

「リナ、ありがとう。私、ちゃんと驚けたわ」

「僕もだ。本物の魔法使いだもんね」

 

 ルイナもオーリスも、すがすがしい顔をしていた。

 

「あはは、お役に立ててよかったです。ただ私そろそろロンドンへ行かないと」

「もう警察に連絡しておいたわ。すぐに迎えが来るそうよ」

 

 スタッフの女性は、気を利かせてくれたようだ。

 待つ間、私はルイナと少しお喋りをして過ごした。

 

「あの、さっき聞きそびれたんですけど。これ何の映画を撮ってるんですか?」

「ハリ・ホッタシリーズの新作よ。凄いタイトルだから私も緊張してて……。まあ、宇宙人だから知らないわよね」

 

 ルイナは軽く笑いながら肩をすくめる。

 一応、ハリ・ホッタは政府からもらったゲームの中にもあったからタイトルは知ってる。

 前世では聞いたことがなかったから、1995年以降に生まれたシリーズなんだと思うけど。

 ゲーム化もしてる映画ってことは、きっとでかい作品なんだろうね。

 

「この建物も、凄いですね。有名なお城ですか?」

 

 私はそう言って、背後の荘厳な建物を見上げる。

 すると、ルイナはクスクスと笑いながら答えてくれる。

 

「城じゃないわ。オクスフォードっていうイギリスの名門大学よ」

「えっ……」

 

 私でも聞いたことのある超有名大学だ。観光しとこうかな。

 そんなことを考えているうちに、迎えの車がゾロゾロとやってきた。

 

 こうなるともう、私は大人しく連れていかれるだけだ。

 私は護衛に囲まれながら、二人にお別れを言って車に乗り込んだ。

 

 

 ロンドンにたどり着いたのは、その日の夕方だ。

 早速、私は恒例になった政府との挨拶に向かった。

 

 メディアのカメラが集まる前で、私はスーツを着た金髪のおじさんと握手をする。

 

「ようこそ我らがユナイテッド・キングダムへ」

「リナ・マルデリタです。お招き頂いて光栄です」

 

 この人がイギリスの首相らしい。

 

「魔術品を持ってきてくださったとか。こちらにお返しできるものがあればいいのですが。

ロンドンを案内いたしますので、是非ゆっくりとご覧になってください」

「ありがとうございます。見返りはもう十分に頂いております。

ドンキューキングは素晴らしいゲームですから」

 

 私はあえて堂々と、首相の前でゲームの話をした。

 

「ドンキューキングですか。そう言えば、我が国のゲーム会社をご覧になりたいとか」

 

 場にそぐわない話題に首相は少し驚いた顔を見せたが、そこは国のトップである。

 外交スマイルでその場を取り繕っている。

 

「ええ、今度マルデアでイギリス開発のゲームを発売させていただくので、そのご挨拶にと」

「それはよかった。我が国が生み出した娯楽を、遠い星の人々に楽しんで頂けるのは光栄な事です」

 

 和やかに話は進み、首相との会談は終わった。

 

 その後は豪華な会食をし、いつものようにホテルの最上階に案内される。

 スイートルームも慣れると当たり前に感じてしまうのが怖い所だ。

 

 ベッドに寝そべりながらテレビを見ると、イギリスのトーク番組で私の話題になっていた。

 

「我らがユナイテッド・キングダムに初めてリナ・マルデリタさんが来訪し、首相と会談しました。

彼女はマルデアの魔術製品をお土産に持ってきてくれたそうです。

とても喜ばしいニュースで、国民たちは喜びに沸いているでしょう」

 

 司会者が映像を交えながら説明すると、右側に腰かけた五十代くらいの男性が語りだす。

 

「ええ。これまでずっとアメリカ中心で、ヨーロッパはただ見ている事しかできなかった。ようやくと言ったところですな」

「その第一歩がイギリスになったのは、政府の手腕というべきでしょうか」

 

 司会の問いに、男は首を横に振る。

 

「いや、どうも偶然のようです。首相との会談で、マルデリタ氏はビデオゲームの話題を口にしていました。

どうやら今度マルデアで発売するゲームが、わが国の企業による開発らしいのです。

そして彼女はその会社と挨拶するために来たというのですよ」

「なるほど。とはいえ、マルデアが目を付けたゲームをイギリス企業が開発していたわけですから。

偶然というよりはやはり、イギリスが歴史を通じて文化を生み出してきた努力の賜物と捉えるべきではないでしょうか」

「そうかもしれませんな。いや、ゲームは全く遊ばないものでね、失礼なことを言ったかもしれない。

だがこれは、マルデアに対して一般的な外交手段が通用しないという事です。

彼らは資源や技術の保有国よりもゲームを優先し、そこに革命的な魔術品を渡しているのです。

カナダのシロップでお菓子を作り始めた店がマルデアにあるようですが、その取引はまだ僅かなものと見られている。

マルデアとの交渉は、イギリスも含め世界中の政府が苦労することになるでしょう」

 

 大学教授とテロップに書かれた論客が、大真面目にゲームの話をしている。

 私にはそれが面白くてしょうがなかった。

 

 どうやら、私のゲーム好きを印象付ける事には成功したらしい。

 と、流していたテレビから気になる言葉が耳に入ってきた。

 

「明日の晩には、大使の前でイギリスが誇る演劇が披露される模様です。

果たしてシェイクスピアの物語は宇宙へ届くのでしょうか」

 

 司会がカメラに向かって目線をきめる。

 イギリスを代表する文化として、シェイクスピアの演劇が見れるらしい。

 なんか楽しみだな。

 

 私はウキウキしながらスマホをいじり、SNSを眺める。

 と、トップに見覚えのある画像が出た。

 昼間会った俳優のルイナとオーリス、そしてピンク髪の少女……、つまり私。

 三人でオクスフォード大学の前で撮った写真だった。

 

『リナ・マルデリタがハリ・ホッタ新シリーズの俳優と三ショット!

マルデア親善大使が映画界へ進出か!?』

 

 そんな見出しが出ていた。

 

 その関連で見ていくと、ルイナの公式らしいアカウントのツイットがバズっていた。

 

「本物の魔法使いに会えちゃったわ!」

 

 彼女の呟きと共に、ルイナと私のツーショット写真が添えられている。

 

xxxxx@xxxxx

「ワオ! ハリ・ホッタにリアル魔法使いが出るのか!?」

xxxxx@xxxxx

「それは凄い。是非実現してくれ!」

xxxxx@xxxxx

「JKローラングと対談して!」

xxxxx@xxxxx

「イギリスのテレビに出てくれないかな」

 

 コメント欄は大いに盛り上がっている。

 どうやらハリ・ホッタは世界的な大作映画らしい。

 エンタメにおいてもイギリスの影響力はでかいみたいだね。

 

 


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