転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第34話 レトロオールスター完成

 翌朝。

 イギリス警察に守られながら、私は車でレワ社のあるトウィクロスという町を目指した。

 マンチェスターやリバプールなど有名な都市は数あれど、観光でトウィクロスに向かう人間はあんまりいないかもしれない。

 バーミンガムの北東にあるその町は、緑に包まれたのどかな場所だった。

 車が停まり、私は護衛に囲まれながらある建物の前で止まった。

 ここが、スーファムドンキューを作った場所……。

 会社というより、別荘みたいな感じだね。

 

 こちらの来訪に気付いたのか、入り口から何人もの社員が現れる。

 そして、代表らしき人物が前に出てきた。

 

「ようこそ。リナ・マルデリタ嬢」

「初めまして。お招き頂いて感謝します」

 

 私が一礼すると、代表の男性はにこやかに微笑む。

 

「いえ、こちらこそわざわざ来ていただき、ありがとうございます。

ドンキューキングを気に入って頂けたとか」

「ええ、マルデアで商品展開をさせて頂くので、ご挨拶にと」

「それはご丁寧に。しかし、我々は当時の社員ではありません。

ドンキューキングを制作したスタッフの多くは、もうレワにはいないのです」

「そうですか……」

「ですが、今日は特別です。ぜひ、あの二人とお話しください」

 

 そう言って代表が紹介してくれたのは、二人の還暦を迎えたくらいの男性だった。

 

「はじめまして、ミス・マルデリタ」

「私たちは兄弟で、昔この会社を創設した者です」

 

 90年代前半。三十年近く前に作られたゲームだ。

 その開発者は、すでにこのくらいの年でもおかしくない。

 

「ではあなた方が……」

「ええ、ドンキューキングの開発者でもあります」

 

 にこりと笑って見せる二人は、とてもカッコよく見えた。

 私の来訪を知って駆け付けてくれたらしい。

 

「あ、あの、私、スーファムのドンキューキング大好きで、とても楽しかったです!」

「ははは、そう言ってもらえると嬉しいね」

「我々にとっても、思い出の詰まった作品です。ぜひマルデアのみんなに届けてあげてください」

「はい、お任せください!」

 

 それから少しの間、私は兄弟と話をした。

 私は緊張してわけのわからないことを色々言ってしまったと思う。

 だが、彼らは笑って許してくれた。

 

「はは、ミス・マルデリタは本当にゲームが好きなんだね」

「はい。地球のゲームをマルデアに知ってもらう事が、私の使命だと思っています」

 

 終始私の熱弁を受け入れてくれた兄弟は、とてもいい人だった。

 一時間ほど滞在した後、私はすぐにロンドンへと戻る事になった。

 

 

 そしてその晩。

 私はイギリスのロイヤルファミリーと挨拶し、劇場へと足を運ぶ事になった。

 上演されたのは、私でも名前は知っているタイトル。

 

 シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』だった。

 

 多分、宇宙人の私にわかりやすいタイトルを選んでくれたのだと思う。

 

 実際にじっくり見た事がなかったので、私はその内容に驚かされた。

 古くからいがみ合う家柄同士のロミオとジュリエットが、禁断の恋に落ちる。

 そして、何とか密かに結婚式を挙げる。

 

 そこまでは良い話だなと思って見ていた。

 ただ、その後のストーリーが凄い。

 

 殺されたり殺したり追放されたり……。家柄を巡って愛憎の物語が展開される。

 最終的にはもう、取り返しのつかない死の結末へと向かって行ってしまう……。

 

 いやあ、これが悲劇ってやつだね。

 演劇ってあんまり見たことなかったけど、見入ってしまったよ。

 壇上に立った役者たちが、ホールの空気を支配しているようだった。

 

 劇的に演じられた二人の死に、なんとなく私は胸が熱くなるのを感じていた。

 

「さて、いかがでしたかな?」

 

 ロイヤルファミリーの方がこちらを見て微笑む。

 

「ええ、とても切ないお話でした」

 

 つい涙を流してしまい、私はロイヤルなハンカチをもらう事になった。

 どうも前世との通算年齢が高いと、涙もろくていけない。

 

 

 翌日は、観光案内の時間だった。

 ビッグ・ベンと呼ばれる洒落た時計塔を眺めながら、ロンドンの市街を歩く。

 

 バッキンガム宮殿では、衛兵の交代式を見せてもらった。

 赤い制服を着た兵士たちが、音楽に合わせて行進していく。

 その姿は、観光客にも名物になっているらしい。

 

 丸二日ほどかけて、この国の文化や伝統を味わう事ができた。

 

 

 さて、イギリスの旅はその日で終わり。

 私はチャーター機でニューヨークへ向かい、国連本部に魔石を引き渡した。

 そして、毎度おなじみ外交官のスカール氏との会議だ。

 

「イギリスはどうだったかね?」

「ええ、とてもいい時間が過ごせました。これからも、できれば色んな国を巡りたいと考えています」

 

 まあ、私が行ける所は限られてるかもしれないけどね。

 

 今後の予定について話し合った後、私は国連本部を出た。

 さて、最後は日本だ。

 

 チャーター機での移動中、私はデバイスを通して日本のメディアを眺めていた。

 

『リナ・マルデリタがハマったイギリス演劇!』

 

 そろそろゲーム以外のネタが欲しかったらしく、テレビではシェイクスピアが話題になっていた。

 日本のタレントたちが『ロミオとジュリエット』や『ハムレット』などの劇について話し合っている。

 私の顔がメディアに映ってるのも、もう見慣れてきたような気がする。

 

 さて、今回降り立ったのは関西空港だ。

 飛行機から車に乗り換えた後。

 

 私は、以前日本政府に頼んでおいた古都の観光案内を受けることになった。

 古都の観光なら奈良に向かう可能性もあると思ったので、こちらからお願いした事だ。

 だが……。

 

「こちらが清水寺です」

 

 案内人が、目の前にある有名なお寺を紹介してくれる。

 うん、京都だね。

 綺麗だし、とてもいい場所だと思う。

 このあたりは私も前世で何度か来たから、見たことがある。

 

 ただ今回は、奈良へ向かうコースはなさそうだった。

 まあ、一歩ずつ進めていくしかないのかな。

 私はお寺から京都の市街を見下ろしながら、ふうと息をついた。

 

 その日はそれで終わり、私はホテルで一夜を過ごした。

 

 

 

 そして翌朝。

 私はNikkendoへと向かった。

 ここからは本題の仕事だ。気持ちを切り替えなきゃね。

 

「これが、新作のパッケージになります」

 

 会議室に入るなり、営業の方はすぐに完成した製品を見せてくれた。

 レトロゲームセットのソフトパッケージが、ついに輸出する段階までやってきたのだ。

 これを持って帰って発注を取って、すぐに発売へと向かう事になる。

 

 オールスターの顔役になるのはもちろん、テトラスとスーパードンキューキング。

 それ以外にも、人気を博した名作レトロゲームが並んでいる。

 今回は、文字の少ないアクション系ゲームとファミコムを中心にしたラインナップだ。

 

 シューティングゲームの代名詞、グラディアス。

 難関アクション、魔界シティ。

 定番シューティングアクション、ロッツマン2。

 名作謎解きパズル、ソロモニアの鍵。

 敵を飲み込んで能力をコピーする、星のカビア 夢と湖の物語。

 そしてマルオの初代作品、マルオブラザーズ。

 

 RPGなどは、ローカライズの手間を考えると今回は除外するしかなかった。

 格闘ゲームについても、しっかりと準備をした上で改めて出す事になった。

 それらを抜いても、ファミコム時代を中心とするトップゲームたちの集まりだ。

 

 パッケージには色とりどりのゲームが踊り、『テトラス&オールスターゲームス』というマルデア語のタイトルが中央に表示されている。

 新しい商品の完成に、私はワクワクが止まらなかった。

 テストプレイをしながら、私は営業部長と語り合う。

 

「魔界シティはやはり難しいですね。子どもたちは大丈夫でしょうか」

「投げ出す子も多いでしょう。ですがこういうものが一本あった方が、きっと盛り上がると思います」

「グラディアスの裏技コマンドは、そのまま使えますね」

「ええ。ガレリーナ社さんの采配で、みんなにこっそり教えてあげてください」

 

 私はマルデアで遊ぶ子どもたちを想像しながら、一通りゲームを試した。

 

 ゼルドの方は大まかな翻訳作業が終わったところだ。

 あとは日本とサニアさんで連絡を取りながら細かい修正を行っている。

 これはもう待つしかない。

 

 本社でのやり取りを終えた私はまた郊外の倉庫に向かう。

 変換機の部品を置き、スウィッツ本体やレトロゲームパックのソフトを輸送機に詰め込んだ。

 なんと今回は、本体が一万三千台だ。新作ソフトに合わせた大規模な出荷になる。

 荷物を積んだ後、私は営業さんに挨拶をする。

 

「では、失礼します」

 

 そして、腕のデバイスで地球を後にしたのだった。

 

 

 


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