転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第41話 願いの力

 

 ニューヨークへ近づいているというハリケーン。

 その災害対処に、私は初めて取り組む事になった。

 

「ハリケーンの進路と、上陸位置は?」

 

 通話しながら確認すると、軍人の声が耳に響いてくる。

 

「メリーランド州のオーシャンシティから上陸し、北上してニューヨークへ向かうと思われます」

「ではオーシャンシティへ向かいます。国連が保有している、今までに集めた魔石を全てそこに集めてください」

「了解しました」

 

 私はすぐに用意されていたチャーター機で東海岸まで飛び、メリーランド州へと向かった。

 オーシャンシティは名前の通り、海岸沿いにあるリゾート地だ。

 だが明日にはハリケーンがこの街に来るという事で、浮ついたようなムードはない。

 私はすぐに町の警察署へ案内され、打ち合わせに入る事になった。

 

 署内はピリピリとした雰囲気で、私が入ると警官たちは少し驚いていた。

 だが、そこは本職だ。こちらにキビキビと敬礼し、中を案内してくれた。

 

 会議室で話す事になったのは、黒髪の女性だった。 

 

「危機管理庁のシャロン・ニコルスよ。あなたがリナ・マルデリタさんでいいわね」

 

 ニコルスさんと名乗ったスーツ姿の女性は、私を観察するように眺める。

 

「はい。よろしくお願いします。魔石は用意できましたでしょうか」

「ええ、全て専用のトラックに詰め込んであるわ。あなたが今回持ってきてくれたものと合わせれば三万一千弱。

この数は、今回の大型ハリケーンの対処としてはどうかしら?」

「魔石だけでは少し心もとない数字ですが。私の力も合わせて何とかなると思います。進路の方は?」

「この街に明日の午後二時には上陸する予想よ。あなたの身の安全については、米軍が万全の体制でサポートするから安心して。

ただ正直言って、ハリケーンを消すなんて信じられない話だけど……」

 

 やはり人類の常識から言って、台風を消すという行為は考えられないのだろう。

 ニコルスさんは不安げに私を見下ろす。

 

「マルデアでは常に危険な災害の種を排除する部隊がいます。私一人では不安かもしれませんが、魔石があれば何とかなります」

「そう。そうね。あなたの言葉を信じる他ないわ。それに、あなたは危険を冒して地球人のためにわざわざここに来てくれたんだもの。それだけでも、感謝すべきね」

「そう言っていただけると嬉しいです。ただ大丈夫だとは思いますが、避難準備の方もお願いします」

「もちろん、それはしっかり手配しているわ」

 

 話し合いが終わり、次は災害対策の部隊と細かく話し合う事になった。

 今度は、軍人たちとの打ち合わせだ。

 

「マルデリタ嬢。まず伺いたいのですが、魔法を使う上で我々がサポートできる事はありますか」

 

 装備に身を包んだ黒人の男性が、私を見下ろす。

 

「魔術行使においては、私にお任せください。魔石だけを用意してくだされば、あとは私がやります」

「魔石の設置場所は?」

「なるべく上陸を正面から受け止められるような海岸付近が望ましいです」

「つまり、屋内からの使用はできないという事ですか」

「はい。直接空に向けて放つ必要があります。ただ、ハリケーンの直撃を待つ必要はありません。この町が暴風域に入る前に排除します」

「わかりました。すぐにこちらで場所を定め、魔石を運びましょう」

 

 打ち合わせが終わると、部隊の人たちはすぐに動き出した。

 私は署内でハリケーンの進路を確認しながら、朝まで休みを取る事にした。

 

 

 そして、翌日の午前八時。

 警察署の前には、災害対策部隊の大きな車が何台も止められていた。

 ハリケーンの暴風域に入っても耐えられるような、丈夫な大型車だ。

 

 私はその一台に乗せられ、部隊とともに海岸へと向かった。

 魔石の運搬には収縮ボックスが使われているようだ。

 三万個の魔石が三つのボックスに分けて納められ、厳重にロックされている。

 縮小ボックスはまだ貴重品だから、こういう所で使われているのだろう。

 いずれもっと広まれば一般的に使われるようになるだろうけど、それはまだまだ先の話だろう。

 

 海岸に着くと、海は既に荒れているようだった。

 その海岸は高く、浸水のない場所を選んだようだ。

 風は強くなっていた。

 

「では、魔石の配置に入ります。位置は、このあたりでよろしいでしょうか」

「はい、お願いします」

 

 私が頷くと、部隊の男たちがボックスを持って海岸に出て行く。

 しっかりと訓練しているのだろう。縮小されていた魔石が、手際よく積み上げられていく。

 

 これだけの量の魔石を地球に持ち込んだ時点で、災害排除に必要な事の九割は終わっている。

 マルデアの人たちを笑顔にしたゲーム貿易で、ここまでの数を用意する事ができた。

 まだまだ駆け出しだけど、ここまでの私たちの努力の結晶と言えるものだ。

 

 残りの一割は、正確なタイミングで私がしっかり魔術を行使する事だ。

 ガレナさんやスカール氏、沢山の人たちの協力と思いが詰まっている。

 だから、ちゃんと成功させる。

 

 私は、風の強まりを肌で感じながら、その時を待った。

 

「このあたりには既に避難指示が出ています。我々も安全ではない」

 

 部隊長が、私の傍で呼び掛けてくる。

 

「わかりました。もう少しだけ待ちます」

 

 もう一時間ほど待つと、かなりの強風が体を叩きつけてきた。

 どうやら、ハリケーンが来たようだ。

 

「マルデリタ嬢、これ以上待つのは危険です」

「了解しました。では魔術を行使します」

 

 私は前に出て、積み上げられた三万の魔石の前に立った。

 手を前にかざし、できるだけの魔力を込める。

 

「願いの力よ。眼前に立ちはだかるは、強き風の渦。恐るべき厄災から我らを救いたまえ」

 

 呪文の言葉と共に、巨大な魔石の塊がキラキラと輝き始め、空に広がっていった。

 風で唸る空が、大きな光で覆われていく。

 海岸から広がる景色全体が、魔術で支配されていくようだった。

 

 手元にあった魔石の山は恐るべき勢いで溶け、宙に消えていく。

 すると、その直後。

 

 槍のように強かった風が、フワリとやわらかくなった。

 激しい気象が、突如穏やかな雰囲気になってしまった。

 

「な……」

「強風が、止んだ……!」

「まさか、本当にハリケーンが消えたのか!」

 

 部隊の男たちは信じられないといった様子で、海の向こうを観察している。

 

「完全に消えたわけではないと思います。ですが、かなり小規模なものになったでしょう……ふう」

 

 私はため息をつき、その場に座り込む。

 久しぶりに、かなり魔力を消費した。

 

「マルデリタ嬢っ」

 

 私が崩れ落ちたのを見て、部隊長が駆け寄ってきた。

 

「あ、大丈夫です。疲れただけですから」

「そ、そうですか。ともかく、あなたの仕事は終わったのですね」

 

 確認の言葉をかけてくる部隊長に、私はしっかりと頷いてみせた。

 

「ええ、あとはハリケーンの気流がどうなったか、確認が必要ですが」

「ならば、まずは安全な所まで戻りましょう。確認はそれからでいいでしょう。失礼します」

「わっ」

 

 私は部隊長に抱き抱えられ、車の後ろにある寝台に寝かせられた。

 

「あの、ほんとに大丈夫ですけど」

「あなたが病気にでもなったら、私の立場がありません。安静にして頂きたい」

「は、はあ」

 

 どうやら、休ませてもらえるようだ。

 それから、すぐに町の警察署へと戻る事になった。

 

「す、すごいわ。本当にハリケーンが消えてしまうなんて」

「魔石の力は本物だったのか……」

 

 危機管理庁の人たちは、観測していた激しい気流が穏やかになっていた事に驚いていた。

 署の警官たちも、何をどう信じて良いのかわからないような、不思議な雰囲気だった。

 

 

 災害排除の成功は、衛星がしっかりと観測したらしい。

 そのニュースは、テレビなどですぐさま世界に報じられた。

 

「ニューヨークを目指していたハリケーン三号が、オーシャンシティの前で突如、ほぼ完全に鎮静化しました

政府の発表によりますと、マルデア星の大使であるリナ・マルデリタ氏が、三万の魔石を用いてこれを排除したという事です」

 

 昼のトークショーでも。

 

「これは本当なのでしょうか。本当に災害が魔石によって排除されたなら、これは地球史上初となる快挙です」

 

 討論番組でも。

 

「衛星が追いかけていたハリケーン三号はほとんど消えてしまいました。残ったのは強風程度という事です。

テレビをご覧の皆様、これは紛れもない事実です。本当に災害が消されたのです!」

 

 映画チャンネルでも。

 

「魔石の力が証明された瞬間です。マルデアが運ぶ奇跡の石は、確かに災害を排除する力を持っていた。リナ・マルデリタの魔法が、地球の脅威を消し去ったのです」

 

 スペースチャンネルでも。

 

「国連は午後にも記者会見を行う予定で、事務総長自らハリケーンの消滅について説明を……」

 

 どこのチャンネルも、この話題しかなかった。

 

「す、すごいですね。みんな喜んでる」

 

 私がモニターを眺めながら呟くと、ニコルスさんは肩をすくめた。

 

「当然よ。あなたは人類が悲願し続けた、誰も成しえなかった事をやってのけたのよ。

こんな歴史的瞬間に立ち会うだなんて、私も運がついてるのかしらね」

 

 彼女は力が抜けたように椅子に座り込む。

 警察の方々はというと、みな静かに私の姿を見守っているようだった。

 

 ニコルスさんは気を取り直したように立ちあがり、こちらに手を伸ばした。

 

「リナ・マルデリタさん。感謝するわ。

あなたは災害から我々を守り、地球の未来に大きな希望を与えてくれた」

 

 私は彼女の手を握り、握手を交わした。

 すると、警察の人たちから大きな拍手が起きた。

 

 なんというか、照れる瞬間である。

 

 

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