転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第45話

 夜が明けて、ついにゼルドの発売日である。

 ガレリーナ社の社員たちは朝からオフィスに集まっていた。

 いつものゆるい社内とは違い、緊張感が漂っているのがわかる。

 

「いよいよですね」

 

 デスクを囲んでみんなに声をかけると、ガレナさんが頷く。

 

「うむ。新しいタイプのゲームに触れて、プレイヤーたちはどんな声を上げるだろうか……」

「まあ、絶対ハマるだろうけどね。めちゃくちゃ面白いし、自由な世界なんだから」

 

 サニアさんは自信満々のようだ。

 

「はい。ただ、自由すぎてどうしていいかわからない人がいるかもしれませんね」

 

 フィオさんは、オープンワールドの自由度が受け入れられるかどうか心配していた。

 

「今までより一時代先のゲームっすからね。でも、大丈夫っしょ」

 

 メソラさんは、見た目通り楽観主義のようだ。

 

 さて、新作の発売日は質問の通話が山ほどかかってくる。

 どんな状況になってもいいよう、全員でデバイスの前で待機だ。

 時刻は午前十時。

 購入者が遊び始めたであろう時間帯に、通話のコールが鳴り始めた。

 プレイヤーとなったお客さんたちは、早速様々な疑問をぶつけてきた。

 

「ねえこれ、東にも西にも道があるっぽいんだけど。どっちに行ったらいいのかしら?」

「どっちでもいいですよ」

 

「ゴブリンたちが火の回りで楽しそうに踊ってるよ。殺すの可哀想な気がするなあ」

「ええ、殺さなくてもいいですよ」

 

「松明で草むらに火をつけたら、どんどん燃え広がってるわ! 山火事になったらどうしましょう!」

「まあ、そこまでは広がらないと思いますよ」

 

「雪山に来たら、主人公が凍えて死んじゃったんです! どうしよう!」

「服か料理で防寒しましょう」

 

「始めたばっかりなのにもうボスの城が見えるんだけど。倒しに行っていいの?」

「難しいと思いますけど、出来るもんならどうぞ」

 

 

 やはり、与えられた自由に面食らっている人が多かった。

『広い世界の中で好きに遊んでいいよ』というコンセプトは、今までにマルデアで発売したゲームの常識を覆すものだ。

 

 今回のゼルドは最初のチュートリアルを終えたら、もうどこに行ってもいい。

 世界中を好きに旅して、遊びまわる事ができる。

 そうするうちに強くなって、各地の協力を得られる。

 そしてラスボスにも向かえるようになるという設計だ。

 

 もちろん最初からラスボスに突撃する事もできる。

 自由が売りのゲームだから、最初はちょっと困るのだろう。

 

 しかし玩具屋からは、驚きの声が上がっていた。

 

「いやあ、マルオがいないからどうなるか不安だったんだけどね。もっと仕入れておけばよかったよ。

すぐに売り切れてしまってね。みんなが冒険の世界に期待していたよ」

 

 販売については、かなり好調のようだった。

 マルオではない事から渋っていた店からも、追加発注がつき始めていく。

 

 動画サイトを見れば、生放送でゲーム画面を見せながらゼルドを称賛している人もいた。

 

「このゲーム、凄いんだよ。

盾の上に乗れば、丘の斜面をサーフィンして滑り降りれる!

まるで広い世界が全部遊び場になったみたいだ」

 

 マルデアにはまだゲーム配信という文化はなくて、視聴者はほとんどいなかった。

 でも、確かな口コミの一歩を感じる事ができた。

 

 このゲームの本当の評判がわかるのは、一ヵ月は後になると思う。

 普通のプレイヤーはガレリーナ社のゲームに人生かけてるような連中とは違うのだ。

 ゆっくり一月、二月かけて遊んでから、話題が広がる事を期待している。

 

 今はみんな、夢中になって遊んでいる事を願うのみだ。

 そんなこんなで、発売初日は無事に終わったのだった。 

 

 

 さて。

 私は業務をしながらも、地球の情勢について日々観察を続けていた。

 

 ハリケーンの排除でしばらく地球人たちは盛り上がっていたが、少し落ち着いてきた所だろうか。

 冷静になって考え始める人も増えてきた。

 

 SNSでは私の魔法行使の映像を巡り、活発な議論が始まっていた。

 

xxxxx@xxxxx

「この災害排除ってさ。魔石があれば誰でもできるの? なんかリナは呪文唱えてるように見えるけど」

xxxxx@xxxxx

「もし誰でもできるなら、リナ・マルデリタがわざわざ危険な所に行かないよ。大使なんだから」

xxxxx@xxxxx

「つまり、彼女にしか出来ないってこと?」

xxxxx@xxxxx

「さあ。マルデア人ならできるかもしれないわ」

xxxxx@xxxxx

「そのマルデア人が他に誰も来ないじゃないか。リナ・マルデリタに頼るしかないってこと?」

xxxxx@xxxxx

「今後、対処のノウハウを教えてもらえるかもしれないね。

だが、魔石が災害や汚染の全てを解決するという考えは気が早すぎる」

xxxxx@xxxxx

「環境汚染などは、我々の問題だよ。他所の星に頼る前に、自分たちで何とかしようとする気概が必要だ」

 

 みんなの命に関わる事だけあり、話し合いも真剣だった。

 確かに、汚染については地球人たちみんなの意識も大事だと思う。

 まあ、魔石は今後も運んでいくけどね。

 危険な災害の種やどうしようもない汚染というのは、地球に沢山存在するから。

 少しずつ対処する規模を上げていくしかないだろう。

 

 

 

 さて、ゼルドが出た事もありスウィッツ本体は一気に売れた。

 その売り上げで、ガレリーナ社の貯金は既に500万ベルを超えた。

 

 余裕が出てきたので、私は新型の輸送機を購入する事にした。 

 値段は100万ベル。日本円にして一億円相当の高級品だ。

 でも、それだけの価値はある。

 

 今までの輸送機は大きなリヤカーをそのまま押さなければならなかった。

 それに、そろそろ載せる量も限界だった。

 新型は、まずスウィッツを十万台は載せる事ができる。

 それに、輸送機そのものをカプセルに圧縮してポケットに入れる事ができるのだ。

 持ち運びがとても便利な携帯サイズで、積載量も凄い。

 一億払う意味はあるってもんだよ。

 

 こんな感じでワープルームも買いたい所なんだけど、星間転移規模のものはそもそも市販していないらしい。

 入手不可ってどういうこと……。

 

 まあ、それはさておき。

 輸送機の購入費を差し引いて、私は魔石一万五千個、縮小ボックス百五十個を購入した。

 少し貯金に響く額だったけど、地球にある魔石が一気に減ってしまったので補填すべきだと思う。

 ゼルドの評判は次に帰った時に聞くとして、私は次の新作に向かう必要がある。

 

 これがまた大作で、既にローカライズ作業に入っている所だ。

 今回は日本に行って、その企業と直接話す予定になっている。

 

 ただその前に、ワープ先として新たな国へ訪問する予定だ。

 私はまず最初の行先について、オフィスでガレナさんと話し合う事にした。

 

「それで、今回はどこへワープするのかね」

「はい。私こないだアサシン・クラッド2やったんですけど。

せっかくなら、ゲームの舞台になったイタリアを観光してみたいと思いまして」

 

 アサシン・クラッド。

 主人公は暗殺者となり、主に古いヨーロッパを舞台に暗躍するゲームだ。

 

 エツァオ・アウデトーレを主人公としたアサクラ2の三部作は、ルネサンス期のイタリアが舞台となる。

 レオナルド・ダ・ヴィンチなどが登場人物に出てきたり、中世の街並みが美しく描かれていたり。

 時代観光的な要素も併せ持つゲームなんだ。

 まあ、マルデアで次に出すタイトルとは違うんだけどね。

 

 私はこのゲームを遊んで、どうしてもイタリアに行ってみたくなった。

 イタリア語もがっつり覚えた。

 

「うむ。そのくらいの感覚で選ぶのがいいだろう」

 

 ガレナさんは、私の表情を見て思う所があったらしい。

 そうして、次の行き先は決まったのだ。

 

 

 


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