転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第48話

 イタリア滞在二日目。

 私は御大層な案内を受け、ローマを半日ほど観光する事になった。

 まずやってきたのは、トレビの泉だ。

 

 周囲が観光客たちでごった返す中、護衛に守られながら私は泉を眺めた。

 水の中にはコインが沢山入っている。

 

「この泉にコインを一枚投げると、またローマにもどる事ができると言われています。

二枚で、想い人と結婚できると。

三枚で恋人と別れる事ができるという話です。

噴水に背を向け、肩越しに後ろに向けて投げるのがマナーです」

「はあ……」

 

 案内の人が色々と説明してくれた。

 ほんとなんだろうか。

 いや、まあ観光地ってそういうもんだよね。

 

 私も投げてみる事にした。

 

「それっ」

 

 一枚、二枚。終わり。

 

「おおっ、リナ・マルデリタが二枚投げたぞ!」

「誰か意中の相手がいるのかしら!」

 

 周囲の観光客たちが盛り上がっている。

 

 いや、別にね。結婚したいっていうわけじゃないよ。

 むしろこう、出来るもんならさせてみろっていうか。

 そういう未来を私に提示できるならしてみてくれって感じでね。

 投げてみたんだよ。

 ほんとだよ。

 

 それから、アサクラで登った事のあるコロッセオなんかを見て回った。

 闘技場の壁も登ってみたかったけど、さすがに私も理性が働いてやめておいた。

 

 真実の口でちょっと抜けないふりをして恥をかいてみたり。

 その映像をネットに晒されて笑いものになったり。

 

 まあ色々あったけど、イタリアはいい思い出になった。

 せっかく初めての国に行くんだから楽しまないとね。

 そして、長靴の国とお別れする時がやってきた。

 

「チャオ、イタリア」

 

 チャーター機ですぐに出発し、去り行く国にさよならを言う。

 次に向かうのはニューヨークだ。

 

 

 そして、半日後。

 私は国連本部のビルにいた。

 会議室で目の前に座ったのは、難しい顔をした外交官だ。

 

「マルデリタ嬢。フィレンツェで悪党と一戦交えたというのは本当かね」

「ええ、ちょっと成り行きで……」

 

 私が頷いてみせると、スカール氏は複雑そうに眉を寄せた。

 

「そうか……。いや、そのニュースを聞いた時は驚いてね。

怪我でもしたのではないかと思ったが。やはり君は強いのだな」

 

 スカール氏が『やはり』と言ったのは、理由がある。

 軍人たちと交流した時に、色々と試してみたのだ。

 私の魔法障壁と銃弾、どちらが強いのか。

 

 やはり、地球で襲われた時の対策はしておく必要がある。

 ナイフや鈍器などで襲われても防ぐ自信はあるけど、銃弾を受けた経験はさすがになかった。

 撃たれた時にどうなるかは知っておきたかった。

 

 結果は、少なくとも市井に出回っているレベルの銃では、私の魔術服についた自動障壁を超える事は不可能という結果だった。

 貫通力のある弾で撃ちまくっても、服には傷一つつかなかった。

 

 その結果はスカール氏も知っているはずだ。

 

「大抵の事は私一人で大丈夫だと思いますので、ご安心ください」

 

 私が小さな胸を張って見せると、スカール氏は困ったように頷いていた。

 

「うむ……、いや、まあ、こちらも出来るだけサポートしよう。強いとは言え、君の体は一つなのだからな」

 

 どうやら私を気遣ってくれているようだ。

 会うたびに頭の輝きが増し、髪が少しずつ薄くなっている気がするけど。

 スカール氏もストレスが溜まっているんだろうか。

 

 さて、国連に魔石を渡したらここでの取引は終了だ。

 次は日本である。

 

 

 私はチャーター機に乗り、羽田へと飛んだ。

 永田町を経由し、恒例の首相との挨拶を済ませる。

 残りの縮小ボックスを渡した後、私は都内のある企業へと向かった。

 

 そこは、とても立派なビルだった。

 

 スクエイア・ウェニクス。

 日本を代表するロール・プレイング・ゲームのメーカーである。

 以前から、マルデアでどのような順番でゲームを出して行くか、色々と考えていた。

 その結果、ある一つの指針が浮かび上がった。

 

 地球が作ってきた家庭用ゲームの歴史を、もう一度マルデアで作ろう。

 

 というものだ。

 そうすれば、現地の人たちも一つ一つゲームを受け止めてくれると思った。

 すると、次に出すべきタイトルが見えてくる。

 

 ゲームの歴史をたどるなら、マルオ、ゼルドに続いて絶対に出しておかなければならないゲームがある。

 

 社を訪問すると、一人の六十代くらいの男性が出迎えてくれた。

 

「ようこそリナさん」

「は、初めまして。リナ・マルデリタと申します」

 

 目の前にいるのは、そう。ドラゴン・クアストの生みの親だ。

 

 ファミコム時代から変わらぬ普遍的な魅力を放ち続ける、歴史的シリーズ。

 ファンタジー冒険RPG、王道中の王道である。

 

 

 シリーズ誕生となった第一作の発売は、1986年。

 当時RPGはまだほとんどパソコンでしか展開されておらず、日本人にとっては親しみのないジャンルだった。

 

 それがブームとして花開いたのは、1988年の第三作だ。

 発売日にはゲーム店に行列ができ、いち早く遊びたいゲームファンたちがこぞって買いに走った。

 ゲームが描き出す物語と冒険の世界に、みんなが夢中になったのである。

 

 ドラクアの登場は後にFinal Fantasiaを始めとするフォロワーを山のように生み出し、和製RPGの礎となったのだ。

 

 

 

 挨拶を終えた私たちは早速、会議室へと向かった。

 新しく訪問するメーカーで、こうして話し合いの場を持つのは初めてだ。

 緊張感の漂う中、営業社員が資料を配っていく。

 

「では、ドラゴン・クアストのマルデア向けローカライズについての会議を始めます。

既にガレリーナ社さんと話を進め、テキストの翻訳は八割ほど進んでいます。

ビジュアルは特に変更の必要がないという事で……」

 

 進行役の社員が、これまでのやり取りの流れを説明していく。

 ゼルドの完成を待ちながら、既にこちらの作業もだいぶ進んでいた。

 タイトルは、スウィッツにも発売された最新作だ。

 

「HPやMPなどのステータス表記についてはどうしましょうか」

「マルデアで体力や魔力を表す古い言葉があります。それに置き換えれば問題ないと思います」

 

 シナリオについては既に出来ていたので、私たちはシステム面の話を詰めていた。

 マルデアにRPGを、そしてストーリー性の強いゲームを届けるのは、今回が初めてとなる。

 当然、ローカライズ作業はこれまでよりも大きくなる。

 

 RPGというジャンルは、これまで出してきた直感型のゲームとは違い、色々なお約束がある。

 戦闘においては、レベルやHP、MPといった数値が表す意味を理解してプレイする必要があるのだ。

 

 マルデアの人たちは、まだコマンドバトルすら知らない。

 1985年当時の少年たちと一緒だ。

 

 そんな彼らにRPGというジャンルを伝えるには、しっかりとした翻訳が重要だ。

 実際にこういう作業をやってて思ったけど、ビギナーにも優しく入りやすいドラゴンクアストを選んでよかったね。

 

 と、概ね話し合いが終わった所でプロデューサーが手を上げる。

 

「進捗状況は良いようだね。来月には発売できるよう、話を進めても構わないかな?」

「はい。間に合うと思います」

 

 ゼルドでノウハウを得て、社員も少しは増えた。

 一つのゲームに対するローカライズ作業はだいぶ早くなってきたと思う。

 ローカライズのチェックが終われば、すぐに製造して発売に向かえるだろう。

 

 

 RPGメーカーとのやり取りを終えた私は、ビルを出て車に乗り込む。

 その足で、すぐに郊外の倉庫へと向かった。

 

 いつものように変換機の部品を引き渡し、二万台のスウィッツやソフトなどを輸送機に詰め込む。

 さて、これで今回の地球のお仕事は終わりだ。

 帰ったら、ゼルドの反響はどうなっているだろうか。

 そう考えると、一刻も早くマルデアに戻りたくなった。

 

「それでは、失礼します」

 

 私は営業さんに挨拶をした後、リスト型のワープデバイスを起動させる。

 次の瞬間には、私の体は故郷の星へと戻っていた。

 

 


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