転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第57話

 

 試合のイベントが終わった後。

 私はスタッフルームに戻って、大会運営の方と挨拶をした。

 

「いやあ、盛り上がりましたよ。来て頂いてありがとうございました」

「いえ、こちらこそ楽しかったです」

 

 スマホでゲーム配信サイトを見ると、大会の模様が今もリアルタイムで流れていた。

 コメント欄の視聴者たちは大いに盛り上がっているようだ。

 

「やべえ、同時視聴者数が百万超えてたぞw」

「リナを見に来た一般人だろうな」

「来てくれてありがとうリナ!」

「マルデア人よ、スタ2を楽しんでくれ!」

 

 喜びに溢れた人々の声を見ると、私も嬉しくなる。

 仕事にも気合が入るってもんだね。

 

 

 それから、会場の前に警察の車が何台もやってきた。

 

「午後五時二十七分、マルデリタ嬢の無事を確認!」

 

 毎度の事だけど、警官たちは私の事で大騒ぎだ。

 なんか色々申し訳ないね。

 

「マルデリタ嬢、こちらの車へどうぞ。王宮で国王がお待ちです」

「ど、どうも」

 

 私は案内されるがままに黒塗りの車に向かう。

 と、その時。後ろから大きな声がした。

 

「リナ、君は本物のリナだったんだね!」

 

 振り返ると、バイクにまたがった青年の姿があった。

 サムットさんだ。

 

「リナ、ありがとう! いい試合だった。NINJAは大切にするよ!」

 

 警察に止められながらも、彼は叫び声を上げていた。

 

「ええ、サムットさんもお元気で!」

 

 青年に手を振り、私は後部座席に乗り込んだ。

 これが旅の出会いと別れってやつだね。

 

 

 さて、出発だ。

 私を乗せた車はバンコクにある王宮へと向かう。

 荘厳な宮殿に入っていくと、国王が出迎えてくれた。

 

「ようこそ、マルデア大使殿。タイの旅はいかがでしたかな」

「とても温かい国で、楽しかったです。パヤオにいた優しい青年が、私を案内してくれました」

 

 縮小ボックスを渡すと、彼らは喜んで土産を沢山くれた。

 毎回何かしらいっぱいもらうんだけど、どう扱うか迷うんだよね。

 とりあえず、お母さんに渡したら喜んで使ってるけど。

 

 政府との挨拶を終えると、車はホテルへと走り出す。

 途中で、有名なワットアルンという塔のような形をした寺院を見た。

 灯りに照らされて黄金色に輝く塔が、前を通る川の水面に映し出される。

 とても奇麗な眺めだった。

 

 

 宿泊所に着くと、私はいつものようにスイートルームへ案内された。

 ベッドの上でゆっくりしながらネットを見ると、大会の時に撮影されたのだろう。

 私の動画が出回っていた。

 

 中でも人気があったのが、私が入場口から空を飛び、試合のリングに降りてくる映像だった。

 

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「凄い、飛んでる!」

xxxxx@xxxxx

「リナ・マルデリタ参戦!」

xxxxx@xxxxx

「ファイティングポーズとってるね」

xxxxx@xxxxx

「みえた」

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「会場めっちゃ盛り上がってるな。俺も行きたかった」

 

 

 もちろん、私がトキダさんと対戦する動画も流れていた。

 

xxxxx@xxxxx

「見ろ。それっぽく接戦に持ち込むトキダのやさしさを」

xxxxx@xxxxx

「リナはよくがんばったよ」

xxxxx@xxxxx

「女の子がアーケードのボタンをバンバン叩いてるの可愛い」

xxxxx@xxxxx

「良い戦いだった!」

xxxxx@xxxxx

「日本の選手が使ってる鬼のようなキャラは何だい」

xxxxx@xxxxx

「それは鬼だよ」

 

 格ゲーに馴染みのない人からもコメントが来ていたようだ。

 私がyutubeに上げなくても動画が勝手に出回るのは、便利と見るべきなのだろうか。

 まあ盛り上がってるようで何よりだ。

 そんな感じで、タイの旅程は終わったのだった。

 

 

 翌日。

 私は朝一番でチャーター機に乗り、ニューヨークへと向かった。

 国連本部の会議室に向かうと、スカール氏がいつにも増して疲れた顔をしていた。

 なんかもう、やりきれないといった表情だ。

 

「スカールさん、どうしたんですか?」

「いや、マルデリタ嬢が気にするような事ではないんだが……。

君はネットの格闘ゲーム大会の番組に出たようだね」

「はあ、それがどうかしましたか」

「うむ。それを見た各国のテレビ局などから、君への出演依頼が殺到しているんだ」

「え……」

 

 私にテレビに出て欲しいってことだろうか。

 

「君は星の大使で、タレントのような露出はしないと思われていた。

だがああいう番組に出演するとわかると、メディアは黙っていない。

タレントとして見れば、君は絶対に視聴率が取れる金の卵だからね。

まあ安心してくれたまえ。君が望まぬ限り、出演依頼はこちらで止めておくよ」

「そ、そうですか」

 

 テレビか。一回くらいは記念に出てもいい気がするけど、今は忙しいね。

 私はとりあえずスカール氏にそのあたりの事を頼み、今回の会議を終えた。

 

 魔石を全て渡し終えた後は、チャーター機で日本へと向かう。

 

 さあ、次はゲームだ。

 

 

 日本に降りて永田町を経由した私は、そのまま大阪へと向かう。

 やってきたのはもちろん、CAPKEN社だ。

 

 巨大なビルをエレベーターで上がり、案内されるがままに一室へ。

 

「ようこそリナさん。はじめまして」

「はじめまして。よろしくお願いします」

 

 社長さんと握手を交わし、少しばかり談笑する。

 それから別室で、社員の方々と本題に入る事にした。

 

 傍に置かれているのはもちろん、『スタリーツファイター2』のアーケード機だ。

 

「ついにスタ2が星を超えるのか……。感慨深いけど、ちゃんと受け入れられるか心配だね」

 

 年配の社員たちがアーケードの回りに集い、その思いを語り合っていた。

 

 スタリーツファイターは、文字通り格闘ゲームの顔役とも言える存在だ。

 1991年に発売された第二作が爆発的なヒットとなり、日米を中心に格ゲーブームを巻き起こした。

 当時ゲームセンターという空間の中では、スタ2が強い事がステータスだったのだ。

 負けたら本気でキレる人もいて、リアルでぶっとばされそうだったけどね。

 

 このゲームのローカライズには、かなり慎重な議論がなされた。

 なぜならスタ2は、地球文化に強く根差したゲームだからだ。

 登場するファイターは、空手家や力士。

 チャイナドレスに軍人。ボクサーや僧侶などなど。

 各国を象徴するような戦士たちが揃っている。

 

 こういった要素がマルデアで受け入れられるかは、少し不安があった。

 ビジュアル変更の案も出て、何度も話し合った結果。

 

「やっぱこのまま、変更なしでいこう」

 

 それが結論だった。

 見栄えに変更を入れたら、それはもうスタ2じゃない。

 キャラの色が殺されてしまう。

 ファイターたちの個性が爆発してこそ、スタリーツファイターなのだ。

 

 だから、そのまま出して勝負する。

 それが彼らの答えだった。

 

「触ってもらいさえすれば面白さは伝わると思います。

あとは私たちの営業で、しっかりお店に置いてもらえばきっと上手くいきます」

 

 私が社員さんたちにそう告げると、プロデューサーの男性はこちらに手を差し伸べてきた。

 

「ありがとうリナさん。じゃあ、スタ2をよろしくお願いします」

 

 しっかりと握手をした後、私は倉庫へと向かった。

 新品で用意されたアーケード機が、ずらりと並んでいる。さすがに重厚感があるね。

 

 この業務用機の値段はお安くない。何十万円という値段で販売店に卸すものだ。

 店側は多くの人に遊んでもらえれば利益が出る形になる。

 

 これは一台で二人対戦ができるタイプで、コントローラーが左右についていた。

 

「とりあえず最初は試しに五百台という事で、ご用意させて頂きました」

「すみません。色々と都合を合わせて頂いて」

 

 硬貨の投入部分は、マルデアのコインサイズに合わせてもらった。

 電源については、私がアーケード専用の変換機を用意している。

 

「遠い星でアーケード文化や格闘ゲームが根付く事を祈っております」

 

 営業さんはそう言って頭を下げていた。

 私が輸送機にアーケード機を全部詰め込むと、彼はとても驚いていた。

 

 それからゲーム機メーカーの倉庫に向かい、いつものように変換機の部品を受け渡す。

 スウィッツを三万五千台とソフトや周辺機器などを輸送機に入れて、今回のスケジュールは終わりだ。

 

 沢山の人の想いが詰まったスタ2と言うゲームを、私はしっかりと背負った。

 さあ、マルデアに帰ろう。

 

「それでは、失礼します」

 

 腕のデバイスを起動すると、私の体を光が包んだ。

 


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