転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第6話 新しくなってる!

 アメリカ政府の偉いさんたちが見守る中。

 私は透明に輝く魔石を置いて、説明を始める。

 

「魔石はマルデアにおいて資源という扱いですが、まあ簡単に言いますと。

この石を使えば、念じるだけで簡単な魔法を扱う事ができます」

「魔法、ですと」

 

 私のプレゼンに、席についていたエリートな高官たちが、目を輝かせた。

 やはり、地球人たちの興味はそこにあるだろう。

 私が生きていた頃の地球では、創作の世界に山ほど魔法の類があったが、現実にはなかった。

 憧れはするが絶対に実現できないもの。それが地球にとっての魔法だ。

 

「ええ、このように念じるのです。飛べ」

 

 石を手にして呟くと、私の体がフワリと宙に浮く。

 

「おおっ」

「浮いたぞ!」

 

 さすがに、政府のお偉いさんたちもこれには驚いているようだ。

 

「素晴らしい。それは我々地球人にも使えるものなのですかな」

「マルデアでは小さい子でも出来るので、使えると思います。

ただ前例がないのでやってみなければわかりません」

「なるほど。ならば実際に試してみてもいいかね」

「ええ、どうぞ」

 

 私がテーブルに石を置くと、眼鏡の男はそれを手に取り、「飛べ」と口にした。

 すると、彼の体がフワリと浮き上がる。

 

「ほ、本当に浮いた!」

「実在する魔法をこの目で見れるなんて、夢のようだわ」

「なんということだ……」

 

 彼らはかなり驚いているようだ。

 

「あ、石が……」

 

 地上に降りた眼鏡の男は魔石に目を落とす。

 

「石が先ほどよりも小さくなっているな」

「ええ、魔石は魔力の結晶であり、消耗品です。一定の魔力を消費したら消えてしまいます」

「なるほど……」

 

 彼らは魔石の価値を見積もっているようだ。

 

 魔石は他にも、数をたくさん集めれば色んな使い道がある。

 軽い魔法を使えるだけの代物ではないのだ。

 それを説明すれば、もっと大きな価値があるとわかってもらえるだろう。

 ただ今回は、もう一つ別のものも持ってきた。そっちの方が実用性を即時に伝えられるだろう。

 

「次に、これです」

 

 私はバッグの中から、大きな収納ボックスを取り出した。

 

「なっ……。バッグより大きなものが出てきたぞ」

 

 それを見た高官たちは、目を見張っている。

 

「おわかりになったでしょうか。このバッグもそうですが、こちらのボックスにも収縮の魔術がかけられています。

実際のスペースよりも遥かに多くの物を入れる事ができます」

「そ、それは凄い。どれくらい入るんだね」

「これは百倍くらいですね。体積と同時に質量も収縮するので、ここに入れた物の重さは百分の一になります」

「百倍……。しかも、重さが百分の一だと」

「これが出回れば、物流に革命が起きるぞ!」

 

 今度は、高官たちが騒ぎ始めた。

 物流というのは、世界を支える重要なものだ。

 トラックや船、飛行機などで食料や製品、荷物を運ぶ。

 これをスムーズに行うために、どれだけの金をかけて道路を整備しているか見当もつかない。

 また、物を置いておく倉庫にどれだけのスペースを取っているか。それを百分の一に出来るとしたら、地球にとっては革命だろう。

 その分排気ガスが減ったら、環境にも良いとは思う。

 ただまあ、今の私が持ってこれる量ではそんなに出回らないだろうけど。

 

「これ一つで、トラック二台分は入るのかしら……」

「輸送の規模が格段に変わりそうですな」

「在庫管理の概念も変わりますよ」

 

 ボックスに群がるスーツの男女。

 やはり、国を動かす高官たちである。

 実用性が高そうなものに対するリアクションがいい。

 まあ、今回はこれくらいでいいだろう。

 

「この魔石と収納ボックスを、こちらは商品としてご用意します。まあ、現状調達できる量には限度がありますが」

「素晴らしい。魔術文明の力は偉大ですな」

 

 賞賛する高官たちだが、色々とまだ解決しなければならない問題はある。

 何しろこの魔石もボックスも、私の給料で買ったものだからね……。

 政府のサポートがないから、こっちはギリギリなんだよ。

 

 ともかく、こちらの出し物は終わった。今度は向こうが貿易品を提示する番だ。

 武器とか技術とか、そういうのはいらない。

 マルデアの魔術文明には勝てないと思う。

 

 私が席に戻ると、眼鏡の男性は気を取り直したように語りだす。

 

「それでは我々地球が提示するものになるが、先日通信させて頂いた中でマルデリタ嬢の要望によれば、珍しい娯楽品が欲しいという事で」

「ええ、そうです」

 

 マルデアはすごい魔術世界だけど、娯楽はしょぼい。なんていうか、エンタメを作る気概があんまりないのだ。

 

「そこで、我々は地球の娯楽品を一通り用意させて頂いた。

我らがアメリカが誇る映画から、世界中の各種玩具まで揃えている。

地球の創意工夫が生み出した自慢の一品たちだ。

その中から、マルデリタ嬢のお眼鏡に叶うものを今回は差し上げたい。

電気が必要なものであれば、必要な環境まですべて準備させてもらう」

 

 なるほど。料理と同じパターンか。宇宙人の趣味とかよくわかんねえから全部そろえた。好きなのもってけというやつだ。

 

 私は用意された部屋に入り、中にあった娯楽品を眺めていく。

 モニターに映し出されるド迫力の映像や、何やら未来感のある乗り物。

 子ども用の玩具まである。

 その中で、私の目を引いたのはやはりというか、アレだった。

 

「……これは、Play Static 5!? そしてこれは、スウィッツ? Xbaxってなんだ!」

 

 そう、ゲーム機だ。

 私が死んだ1995年当時、PlayStaticという機種が出ていたというのは知っていたが、それが5代目にまでなったのか。

 ソフトを見れば、どうやら今Final FantasiaはPlayStaticから出ているらしい。

 やばい、スクエイアとエニクスが合併してる……。しかし洋ゲーが増えたみたいだな。リアルな絵の渋いパッケージが多い。

 スウィッツのソフトは日本産っぽく、カラフルなキャラがパッケージを彩っている。

 それに、Xbaxという見慣れない名前。新しい参入もあったんだろう。

 こっちは完全な洋物っぽさがある。このパワー感はきっとアメリカだろう。

 どれもデザインが昔とは似ても似つかない。最新のゲーム機という感じだ。

 と、近くにいた男性が声をかけてきた。

 

「ビデオゲームがお気に召しましたかな」

「ええ、ぜひやってみたいです。あ、ゼルド!?」

 

 『ゼルドの伝承』は、子供時代に夢中でやっていたアクションパズルゲームだ。

 ゲームを起動すると、なんと3Dの立体世界を自由に駆け回るゼルドになっているではないか。

 壁も登れる。木を切れる。

 遠景がとってもきれいだ。しかもグライダーで飛んでいける。

 すごい。これはすごいぞ。

 

 だが、私はここで思いとどまった。

 今は交渉中である。

 あまり子どもっぽい所を見せてはいけない。

 私はマルデアの代表として、アメリカのトップと交渉しにきたのだ。

 

「……。我々マルデアとしては、ビデオゲームを試しに幾つか頂きたいと思います。非常に興味深い娯楽ですね」

 

 私はそう言って、震える手でゲームをやめた。

 今ここでもっとやりたかったけど、我慢だ。

 

 金塊をもらってもマルデアでは何の価値もないけど、ゲームなら売れるかもしれない。

 ただ、市販するならマルデア向けに仕様を合わせる必要がある。

 地球の家庭は電源で機械を動かすけど、マルデアは魔力でデバイスを動かしてるから。

 この辺は、一度持って帰って考えなきゃいけないだろう。

 

 そんなわけで、こちらは魔石、向こうはビデオゲーム。

 今回はこんな感じで、よくわからない物々交換が成立した。

 

「魔石は私が地球に来る際、毎回お持ちします。もちろん、今後も地球にとって有益なものを提示できると思います」

「それはありがたい。これからも、末永くお付き合いいただきたいものですな」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 最後は外交官と少し談笑し、初の交渉は終わった。

 でも、明日はついに世界に向けた会見があるんだよね。

 

 


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