転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第58話

 マルデア星。

 ワープルームに戻ってきた私は、いつものようにオフィス街にあるガレリーナ社へ向かう。

 もう五時過ぎで、仕事は終わっている頃だ。

 

 ビルの二階に上がると、フロアから賑やかな声がした。

 何やらみんなで集まってゲームをしているようだ。

 大モニターに写されていたのは、汽車のスゴロクでお馴染みのあのゲームだった。

 

「あぁぁっ、赤字転落だわああああ!」

「ははは、サニアがまたビンボーだな」

「次の目的地は……、仙台っす!」

 

 みんなでモム鉄……、なんて会社だよ。

 普通に日本の地名も知ってるし、この人たち地球文化に親しみすぎだよ。

 

「あの、みなさん。一応、私が帰って来たんですけど……」

 

 恐る恐る声をかけると、サニアさんとメソラさんが振り返った。

 

「お帰りなさい! 今日あたり帰ってくると思って、みんなで待ってたのよ」

「スタ2の現物を見せて欲しいっス!」

 

 こちらの姿に気付くと、すぐに群がってくる社員たち。

 どうやら、私がアーケードを持ち帰るのを待ち構えていたらしい。

 仕方がないので私は輸送機からスタ2の業務用機を取り出し、オフィスの隅に置く。

 そして用意した変換機をつけて、電源を通した。

 すると、モニターに映像が流れ始める。

 

「おお、これが本物のアーケードか!」

「迫力満点ね!」

 

 ガレナさんとサニアさんが、業務用の存在感に目を輝かせていた。

 

「このおっきいボタンで操作するんですね……」

 

 フィオさんも、アーケードのボタンやスティックに興味津々のようだ。

 

「じゃあまずは、テストプレイしてみないとっスね!」

 

 メソラさんの提案で、早速マルデアにおける対戦テストをしてみる事になった。

 

「はこぉーけん、はこぉーけん、はこぉーけん!」

「フィオさん、飛び道具の連打はズルいっスよっ」

 

 みんなで順番に遊びながら、私たちは新しい機種の感触を楽しんだ。

 ガレナさんは、機械の状態をチェックしていた。

 

「うむ、こちらの星でも問題なく動くようだな」

「ええ。同じゲームなのに、アーケードの臨場感は凄いわね」

 

 サニアさんは腕組みしながら、業務用が持つパワーを感じているようだった。

 そう。やはりアーケードには雰囲気がある。

 たった一つのゲームのためだけに、ドンとスペースを取る。

 その心意気がムードを生むのだ。

 

「この感覚を、マルデアの皆にも届けたいものだな」

「ええ」

 

 ガレナさんの言葉に、みんなが頷いた。

 

 さて、まずはこのアーケード機をお店に置いてもらう必要がある。

 単価のでかい商売なので、一台買ってもらうのも簡単ではない。

 でも、とにかくやってみるしかない。

 

 

 翌日から私は気合を入れて、スタ2の営業に向かった。

 最初にやってきたのは、一番付き合いの長い都内の玩具屋さんだ。

 

「ふむ、これがアーケードか。随分と大きなゲーム機だな」

 

 スタ2の業務用機を出して見せると、店長は物珍しそうに眺めていた。

 

「はい。店の入口に一台置いておくだけでいいんです。

一回負けるまでのプレイが一ベルになります。お客さんからの売上は、全てそちらの取り分となります」

「なるほど。完全にこちらが買い取るシステムか。だが価格が四千ベルとは、なかなかだな……」

 

 やはり販売店にとってアーケードは、最初の購入費がネックだ。

 

「長く置いておけば仕入れ値をペイして、その後はずっと利益が出る仕組みです」

「ふむ。まあガレリーナさんのゲーム商品はよく売れるしね。

このスタリーツファイターというのも面白そうだし、一台置いてみようか」

 

 なんといきなり、一つだけど発注が決まった。

 これまでの付き合いから、信用してもらえたようだ。

 私は勢いづき、ワープステーションで次の店に向かう。

 

 だが、その後の売り込みはあまり上手くいかなかった。

 といっても、ゲームの中身の問題ではない。

 

「うちはそんな大きいものを置くスペースがないよ」

「音が出るのか。ちょっと困るね」

 

 アーケード機を見せた瞬間に、『これはうちじゃ設置できない』という声が多かった。

 やはり特殊な商品なのだろうか。

 スウィッツを置いてもらっている販売店を回っても、なかなか難しい反応だった。

 地球だとゲームセンターという専門のショップがあったり、

 スーパーやデパートの一角がゲームコーナーになったりしていた。

 だが、そういう場をマルデアでいきなり作り出すのは難しい。

 私は一旦ガレリーナ社に戻り、すぐに作戦会議を開く事になった。

 

「やっぱり、スペースが問題なのかしらね」

「あとは音ですね。店のムードに関わるという話です」

 

 サニアさんと話し合っていると、ガレナさんが思い出したように言った。

 

「そういえば、うちのオフィスに置いたアーケードは盛り上がっているな」

「そうね。毎日社員の誰かが遊んでるわ」

「うむ。やはり、店に置くという考えを捨てるべきなのかもしれん」

「どういう事?」

 

 サニアさんが首をかしげると、ガレナさんは頷いて言った。

 

「うむ。スウィッツは購入者が持ち帰って家で遊ぶ物だったが、アーケードはそうではない。

その場で支払い、その場で盛り上がるものだ。そういう物を置くなら、広い施設の方がいいのではないか」

「施設、ですか」

 

 そういえば、地球では旅館なんかにもアーケード機があったような気がする。

 十分なスペースがあって、楽しい遊びが似合う場所。それが狙い目かもしれない。

 

 

 それからアイデアを出し合い、私たちは再度営業に出る事になった。

 

 

 

 私が向かったのは、都内にあるマジック・ランドというレジャー施設だ。

 遊園地みたいな乗り物から流れるプールまで、さまざまな遊びが用意されている。

 魔術で作られているため、かなり華やかだ。

 マルデアでは数少ない定番の娯楽施設として人気がある。

 

 私は何とか頼み込み、営業担当の方と話をさせてもらう事になった。

 スタ2のアーケードを出して見せると、ゲームに対しては好意的に見てくれているようだった。

 

「へえ、一回一ベルでこんな遊びが出来るのか。確かに面白いね。

でもうちにこんな機材置いたら、プールもあるし濡れて壊れるんじゃないかい?」

「いえ。できれば、休憩所に置いて頂きたいのです」

 

 マジックランドの売店の近くには、広い休憩施設がある。

 そこは水もないしスペースもあるので、丁度いいと思った。

 念のため、コントローラー付近には防水の魔術をかけておいた方がいいかもしれない。

 

「これ一台置いておけば、マジックランドさんの集客力なら必ず利益が出ると思います」

 

 私のプレゼンに、営業の男性は唸った。

 

「ふむ……。ではこうしよう。試しに一週間ほど置いてみて、反響が良いようならそのまま買い取る。

ダメなら返品というのはどうだね」

「……。わかりました。それでよろしくお願いします」

 

 飛び込みの営業で、置いてもらえるだけマシだ。

 ソフトの力があれば、お客さんを魅了するのは間違いない。

 

 私はそう信じ、次の営業先へと向かった。

 

 喫茶店や旅館、ショッピングモールなどを回って、私は売り込みをかけて行った。

 もちろん無名企業の営業なので、門前払いも山ほど食らった。

 でもゲームをちゃんと遊んでみてくれた人は、試しにフロアに設置してくれる事が多かった。

 

 アーケードを広めたい。格闘ゲームの面白さを知ってほしい。

 その一心で、私は営業を続けて行った。

 


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