転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第60話

 

 パーティ当日。

 私は珍しく魔女服に身を包んで実家を出た。

 黒のワンピースに三角帽子。腰には儀礼用の小さな杖。

 魔術師の正装である。

 

 ワープステーションで都内のオフィス街に移動し、私は目的地へと向かった。

 白い綺麗なビルの三階が、パーティの会場のようだ。

 

「すみません、招待状をもらったガレリーナ社の者ですが」

 

 入口にいた受付の人に声をかけると、女性はニコリと微笑む。

 

「お待ちしておりました。こちらに魔力印をお願いします」

 

 書類に書かれた私の名前欄に指を当て、少し魔力を注ぐ。

 

「ありがとうございます。どうぞ、パーティをお楽しみ下さい」

 

 扉を開けて中に入ると、そこは広々としたフロアだった。

 中では二十代くらいの正装をした男女が、楽しそうに語り合っている。

 みんな若い人たちで、フランクな雰囲気だ。

 堅苦しい感じの集まりをイメージしたけど、だいぶ違ったね。

 

「おや、随分と可愛らしい経営者さんだな」

 

 と、近くにいた銀髪の男性がこちらに声をかけてきた。

 まあ私は十六だから、この中でも若い部類になるのだろう。

 

「はじめまして。ガレリーナ社のリナ・マルデリタと申します」

「ああ、これは失礼。エヴリウォーク社の代表、スニーデルだ。よろしく。

さて、いきなりだが。これが何だかわかるかい?」

 

 男性社長は自分の足を上げ、靴の裏をこちらに見せた。

 何か魔術印のようなものが入っている。

 

「はあ。何でしょう」

「これはわが社自慢の製品、エヴリウォーカー・ネオさ。

これがあれば、どんな場所でも歩く事ができる」

「どんな場所でも、ですか」

「まあ、見ていたまえ。エヴリウォーク!」

 

 呪文を唱えると、社長さんは靴の裏をフロアの壁に向けた。

 すると彼の体は横向きになり、そのまま壁をスタスタと歩いて登っていく。

 上の縁(ふち)までくると、今度は体を逆立ちにして天井を歩き出す。

 まるでゼルドのギミックみたいな靴だね。

 

「はっはっは。どうだねマルデリタ君。壁でも天井でも、どこでも地面にしてスイッと進める。

それがわが社のエヴリウォーカーさ!」

 

 コウモリのように宙づりになった社長さんは、髪を逆立てながら笑っていた。

 そのパフォーマンスに、会場はざわついている。

 

 そんな中で、不敵に笑う女性の姿があった。

 

「ふふふ、なかなか面白いじゃない。では、うちの製品も皆さんにお楽しみ頂こうかしら」

 

 女性が手に持ったクラッカーのようなものを掲げ、パチンと音を立てる。

 すると、そこから色とりどりの花が飛び出していく。

 

 それはパーティ会場を包み込み、鮮やかな花束の背景を作り出していった。

 どうやら、パーティ用の魔術装飾のようだ。

 

「これが、我がファレオブル社の製品。『パーティ・ドレッシング』ですわ。パーティに華やかな色どりをお楽しみあれ」

 

 こちらもなかなかの派手さである。

 

 そこからは、次から次へと新興経営者たちの商品自慢が続いた。

 なんというか、大胆で変わったコンセプトのものが多いようだ。

 

 定番系の商品は老舗企業がシェアを牛耳ってるからね。

 若い企業は、新しい何かを生み出そうと頑張っているんだろう。

 

「さて、マルデリタ君。あなたはどんな商品を扱うのかな」

 

 期待の目を込めて、こちらに目を向けるスニーデル社長。

 私は少し緊張しながら、バッグに手をやった。

 

「は、はい。私の会社はビデオゲームという娯楽製品を輸入、販売しています。

今回は新商品である、業務用のゲーム機を持ってきました」

 

 私はバッグからスタ2のアーケードを取り出した。

 

 さあ、どんな反応が来るか。

 魔術製品ではないし、見下される事も覚悟していた。

 若手経営者たちの反応を伺うと、彼らは興味深そうにゲーム機を見ていた。

 

「ほう。ビデオゲームか」

「最近、玩具屋を中心に販売を伸ばしているという話ね」

「すると、君があのゲームの販売会社かね」

 

 彼らは意外にも、スウィッツを知っていた。

 若い経営者だけあり、最近出てきた製品もちゃんとチェックしているらしい。

 

「はい。地球と交流して、マルデア向けのローカライズを受け持っています。

こちらの新製品は、お店に置いてもらう業務用のゲーム機になります。

お客さんがその場で遊んだり、対戦したりするものです。

よかったら触ってみてください」

 

 私のプレゼンに対して、フロアにいた社長たちの半数近くが食いついてきた。

 

「ふむ、ワンコインで遊びに参加できる仕組みか」

「気楽でいいわね。やってみようかしら」

 

 早速、スニーデルさんと女性社長がキャラクターを決めて対戦を始める。

 

「えっと、これがパンチね」

「おっと、やってくれたな!」

 

 ボタンを押せば、画面の中のキャラクターが拳を突き出す。

 女性社長はテンポよく攻撃を決め、勝利を掴み取っていた。

 

「くっ、負けてしまった……」

 

 負けたスニーデルさんが大げさにしゃがみ込むと、女性社長は得意げに笑みを浮かべる。

 

「ふふ、あなた弱過ぎよ。それにしても、なかなか面白いじゃない。

うちのブランドの雰囲気には合わないけど、ちょっとした余興にいいかもしれないわね」

 

 女性社長の言葉に、スニーデルさんが頷く。

 

「うむ、このスポーツ感は我がエヴリウォーク社にふさわしい。

ぜひうちのオフィスに一台検討したいところだ。カタログなどはもらえるかね」

 

 なんと、発注を匂わす言葉まで頂いた。

 

「ありがとうございます! こちらがアーケードのカタログになります」

 

 私が値段や仕様について書いた紙を出すと、興味を持った何人かの社長が受け取りに来てくれた。

 そうこうしているうちに私のプレゼンは終わり、次の会社に注目が向かう。

 

 だが、そんな中。

 ずっとアーケード機に見入っている人がいた。

 四十代くらいの男性だ。このパーティではかなり年配の部類だね。

 

「これは……、凄い。私が追い求めた理想的な娯楽の形だ……」

 

 彼は何やら呟きながら、スタ2の画面を食い入るように眺めていた。

 

「あの、お気に召しましたでしょうか」

 

 声をかけてみると、彼は勢いよく振り返った。

 

「もちろんです、私はずっとこんな娯楽を求めていたんだ……。

あ、失礼。私はブラームスと申しまして、今年から個人の雑貨店を経営しております。

以前から、スウィッツの発注もさせて頂いておりまして」

「本当ですか。いつもありがとうございます」

 

 どうやら、うちと付き合いのある小売の人も来ていたらしい。

 

「いえいえ。ゲームは売れ行きがいいので、主力商品にして私の店を娯楽専門店にしようかと思っていたのです」

「娯楽専門店、ですか」

 

 その響きに、私は強く惹かれるものを感じた。

 思わず目を見開くと、ブラームスさんは頷いて続ける。

 

「ええ。そのために店の改装をしていたのですがね。

スウィッツはまだソフトも少なく、娯楽店として看板になるものが欠けていました。

何か刺激がないかとパーティに来てみたのですが、このアーケード機は凄い。

これがあれば、ゲーム中心の娯楽店が完成しそうです。

ぜひ、私の店に置かせて頂けないでしょうか」

「も、もちろんです!」

 

 決して大口の受注というわけではない。

 でもそれよりも、マルデア人が自分の手で娯楽専門店を作ろうとしている。

 しかも、ゲームがメイン商品だ。

 私にとってそれは、とても大きな一歩に見えた。

 

 新装開店には少し時間がかかるみたいだけど。

 出来たら、一度見にいってみようかな。

 

 


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