転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第66話

 国連本部の会議室。

 対面に腰かけたスカール氏は、チタルム川のその後について語ってくれた。

 

「現在チタルム川に世界中の注目が集まっている。

観光目的で奇跡が起きた川を訪れる者も出始めているようだ。

それを受けて、政府は『汚染を減らし、状態の維持に努める』と声明を出した」

「それは良かったですね」

 

 私が笑みを浮かべると、スカール氏は書類を置いてこちらを見据えた。

 

「それで、だ。マルデリタ嬢。君は次回からどう動くつもりかね。

各国で今回のような事をしていくつもりなのか、それとも……」

 

 真剣な表情で体を前に乗り出すスカール氏。

 今後も各地を浄化して回るのか、という問いかけだろう。

 貿易が拡大して一度に運ぶ魔石の量が増え、それも可能になってきている。

 しかし……。

 

「そうですね。私がどうしても対処したい場所が見つかればやりたいですが。

なるべく、地球に魔石を溜める事を優先したいと考えています」

 

 今回は、魔石が五万あればこれだけの事ができると証明した。

 今後も対処の規模を拡大して、実績を積んでいく必要がある。

 

 ただ、魔石が全く溜まらないのはダメだ。

 何か異変が起きた時のためにも、地球側が魔石を大量に保有しておいた方がいい。

 だから、しばらくは国連に運び続ける事になるだろう。

 

 スカール氏もそれが頭にあるのか、再び頭を下げてきた。

 

「ありがとう。そう言ってもらえると助かる。君の行動指針については、上手く民衆に伝えておこう」

「わかりました。そう言えば、縮小ボックスってどれくらい広まりました?」

「緊急時の物資運搬のために警察や軍が保有しているが、かなり数が増えてきた。

今回もらう物は、試しに流通に回してみようと考えている。

輸送に使うトラックの量が減れば……。まあ排気ガスも、少しは減るかもしれんな」

「ええ、そうですね」

 

 彼は私の望む事を分かっているらしい。

 私たちは頷き合い、握手をして会議を終えた。

 

 

 ニューヨークを出ると、次は日本だ。

 チャーター機で羽田に降り、永田町で政府とのご挨拶を済ませる。

 お土産に和菓子をもらって、カメラの前で食べてしまった。

 どら焼き、美味しいよね。奈良の実家でも売ってたから、懐かしい味だ。

 

 そう言えばインドネシアでもどら焼きの販売店を見かけた。

 あっちではアニメのドラいもんの食べ物っていう認識らしい。

 ドラちゃんが海外にどら焼きを広めているのかな。

 美味しそうに食べるもんね、あのタヌ……、猫型ロボット。

 

 

 さて、ここからようやく大事なゲームのお仕事だ。

 今回はちょっと忙しいよ。

 新作もあるから、複数のゲーム会社を回る予定になっている。

 

 まず最初は、スタ2についての報告と追加分の入荷だ。

 車は都内を走り、格ゲーメーカーへと向かった。

 社のビルに入ると、以前会った面々が温かく迎えてくれた。

 

「いやあ、ニュースで見ましたよ。遠い星の学生たちがアーケードに群がるなんてね」

「そうそう。新鮮なのに、懐かしい風景だったよ」

 

 営業や開発の方たちは、私のSNSの投稿を見ていてくれたようだ。

 マルデアにおけるスタ2の門出を、みんなで喜んでくれていた。

 

「まだ対戦という所までは行っていないのですが。口コミで話題が広がっている所です。

今後も継続して営業していくつもりです」

「頼もしい限りですな。新しく五百台を用意させて頂きましたので、お受け取り下さい」

 

 私は倉庫で追加生産されたアーケード機を受け取り、輸送機に詰めていく。

 挨拶を済ませると、私は次の目的地へ向かうべく車に乗り込んだ。

 

 次の訪問先は、東京の品川にある立派なビルだ。

 やってきたのは、誰もが知る娯楽と遊びの老舗企業、SAGAだ。

 

「初めましてマルデリタさん。ようこそ」

 

 ビルの入口で歓迎してくれたのは、まだ若いスーツ姿のさわやかな男性だった。

 三十代くらいに見えるけど、この人が社長さんらしい。

 

 案内を受けて上階のフロアに行くと、巨大モニターに二つのゲームの映像が流れていた。

 

 ゲームから流れる音楽と共に、可愛らしい掛け声が上がる。

 

『えいっ! ふぁいおー! あいすすたーむ!』

 

 響く連鎖の声が、心地よいリズム感を生み出していく。

 

 一つ目のゲームは、落ちモノパズルゲームの金字塔。

 『ぷやぷや』だ。

 カラフルな色のブロックと、可愛らしいキャラクター。

 1991年に生まれ、今もなおeスポーツとして競われる歴史的名作である。

 

 そして、二つ目のモニター。

 青いネズミがステージを素早く駆け巡り、ジェットコースターのように景色が移り変わる。

 世界中で愛される看板ゲームタイトル。

 『サニック・ザ・へジハッグ』だ。

 

 そう、今回の新作はサニックとぷやぷや……。

 と言いたいんだけど。

 それだけじゃないんだよね。

 

 実は次のスウィッツの新作は、以前やった『オールスターシリーズ』の第二弾なのだ。

 スーファム世代を中心に、八つのソフトがラインナップされるセットパッケージになる。

 そこに初代サニックとぷやぷや通が収録される事になった。

 

 そして、私がこの会社を訪問した理由がもう一つある。

 オールスターパッケージを発売する前に、アーケードとしてサニックとぷやぷやを出す事になったのだ。

 

 これは、家庭用とアーケードの商売を両立させるための我が社なりの策だ。

 私たちの会社はまだ小さく、二つの事業を同時進行できるほどの規模はない。

 

 だから、同じタイトルをアーケードと家庭用の両方で出す事で、ローカライズや取引の手間を極力減らした。

 おかげで、最近は毎月のように新作をリリースする事ができるようになってきている。

 

 今回のオールスター8タイトルの内、3タイトルはアーケードで先行発売する形になる。

 スタ2とサニック、ぷやぷやだね。

 

 残りの五つはスウィッツ専用のソフトになる予定だけど、これはまた来月のお楽しみだ。

 とにかく強力なタイトルが集まったので、私もめちゃくちゃ楽しみにしてる。

 

 ただ、それは次回に置いといて。

 今回は、二つの顔役をマルデアに持ち込む事になっている。

 

「いよいよ、サニックとぷやぷやが星を超えて行くんですね」

 

 集まった社員たちが、二つのアーケード機を眺めながら語り合っていた。

 みんなやはり、思い入れが強いのだろう。

 どちらも三十年の歴史を持つタイトルであり、長く地球で愛されてきた。

 面白いのはもう間違いない。

 あとは私がお客さんの元まで運ぶだけだ。

 

「しっかりとマルデアのみんなに届けてきます。よろしくお願いします」

 

 私は社員たちと握手を交わし、倉庫へと向かった。

 こちらも、最初は五百台ずつからのスタートだ。

 あんまり多いとわが社でまだ処理しきれないからね。

 アーケード機を輸送機に詰め込むと、最後は京都だ。

 

 Nikkendoでオールスターについての会議をした後、また郊外に向かう。

 今回はスウィッツを三万五千台。それに合わせてソフトなども受け取り、全て輸送機に収めた。

 

 さて、これで今回の地球の旅はおしまいだ。

 受け取ったのは、二つの輝くアーケードと、時代を超える遊び。

 これも私たちの手で、マルデアに広めなきゃね。

 

「では、失礼します」

 

 営業の方に挨拶をして、私はリストデバイスを起動した。

 すると、私の体を光が包んでいった。

 

 




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