転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第67話

 

 マルデア星に戻ると、今日はまだ空が明るいようだ。

 下校時間なのだろう。

 都内の繁華街は、学生たちで溢れていた。

 

 彼らは買い物をしたり、魔術的な趣味に打ち込んだりしながら日々を過ごしている。

 ビデオゲームという遊びは、この星においてはまだまだニッチで、知らない人も多い。

 

 いつか道行く彼らにも、ゲームの楽しさが伝わる日が来るだろうか。

 そんな風に考えながら、私はガレリーナ社へと足を進めた。

 

「ただいま戻りました」

 

 オフィスに戻ると、社員のみんなが一斉に振り返る。

 

「お疲れっす! ついにサニックが来たんスね!」

「お帰りなさい。どうだった?」

 

 どうやらメソラさんもサニアさんも、アーケードが気になって仕方がないらしい。

 まあ、気持ちはわかる。

 新しいプレゼントが届いたような感覚だろうね。

 

「はい。ちゃんと持ち帰ってきましたよ」

 

 私は輸送機から二つのアーケードを取り出し、変換機をかまして電源をつけた。

 オフィスに三つの台が並ぶと、結構派手だね。

 

「これがサニックのアーケード……! とてもクールです!」

 

 フィオさんは、やたらハアハアと息を荒げながら青いネズミの映像に見入っていた。

 隣に置いたぷやぷやの台からは、連鎖ダメージの声が響き渡る。

 

『いたっ、やったね~、うげげっ』

「ふふ。やっぱりぷやぷやは可愛いわ。この掛け声が良いのよねえ~」

 

 ほんわかした世界観に、サニアさんが夢中になっていた。

 

「さあ。売り込む前に、まずはテストプレイだ!」

 

 社長のガレナさんが、率先してアーケードを遊び始める。

 

「ええ、マルデアで動作するか、しっかり確かめなきゃいけないわ!」

 

 当然、サニアさんをはじめ社員たちもそれに乗っかっていく。

 うん。これがガレリーナ社だよね……。

 

『えいっ、ふぁいおー、あいすすたーむ、だいやきーと!』

「ガレナさん、いきなり四連鎖は強いっスよ!」

 

 やっぱり、みんなで遊ぶと"ぷやぷや"の対戦が盛り上がる。

 このゲームの基本構造はテトラスに似ているが、より対戦に特化したシステムを構築している。

 私も前世ではかなりハマったゲームの一つだ。

 みんなでアーケードを楽しみ、今日の仕事は終わりになった。

 売り込みの営業はまた明日からだ。

 

 

 ワープステーションを経由し、私は地元の町を歩く。

 公園の前を進むと、久しぶりに実家が見えてきた。

 見れば裏手の店の前で、二人の子どもが何やら向かい合っている。

 

「はこぅーけん! はこぅーけん!」

「たつまきせんぷーーーかく!」

 

 ポーズを取って技を叫ぶ少年たち。

 ああ、こういうの懐かしいね。現実でバトルごっこしちゃうやつ。

 でもマルデアの子はみんな小さいけど魔力があるから、ごっこでは済まない。

 

 少年が力を込めて拳を突き出すと、そこから風が巻き起こる。

 魔術師の卵たちだからね。

 

「こら、魔法を向け合うのは危ないからやめなさい」

 

 お母さんが子どもたちに注意をしていた。

 駄菓子屋周辺っぽくなってきたなあ。

 と思ったら、雰囲気だけではないらしい。

 

「おばちゃん、これちょうだい」

「はい、魔法あめ一つ20ガルね」

 

 お母さん、子供向けに安いお菓子とかも売り始めてるし。

 ちなみに100ガルで1ベルなので、飴は20円くらいになる。

 

 私が帰宅すると、母さんは店を畳んで夕食の支度をしてくれた。

 

「知り合いが食品会社に勤めてて、安いお菓子なら一箱から発注していいって言うからね」

 

 肉野菜を炒めながら、母さんは楽しそうに話す。

 

「それで置く事にしたの?」

「ええ。うちの店って子どもが集まるじゃない? みんなとっても可愛いのよ。

お小遣い握りしめてウチのお店に来るの見てると、癒されるのよねえ。

だから、あの子たちが買いやすいものを置こうと思ったの」

 

 とても優しい顔で、お母さんはにっこり笑う。

 

「うん、完全に駄菓子屋コースだね」

「ダガシヤ? 何それ」

「地球にあるお店の形だよ。子どものお小遣いで買える安いお菓子とか、アーケードとか、オモチャとかを売るの。

小学院くらいの子が集まって、コミュニティが出来るんだ」

「あら、それいいわねえ。私、はりきっちゃおうかしら」

 

 お母さんはノリノリだった。

 店ごとに毛色の違いが出てくるのは、なんだか面白い。

 

「それで、これ新作の業務用機なんだけどさ……」

 

 新しいアーケードのカタログを見せると、母さんはとても喜んでいた。

 

「どっちも可愛くて面白そうね。二つとも買いたい所だけど、うちの予算的に一つよねえ。どっちにしようかしら……」

 

 母さんはチラシを眺めながら、悩ましげに頭をひねっていた。

 

 

 

 翌日。

 ガレリーナ社に集まった私たちは、新作アーケードの営業に出る事になった。

 

 前回のスタ2での実績を踏まえ、スウィッツソフトとは大きく異なる営業ルートだ。

 

「まずは、前回スタ2が売れた店舗に売り込むわよ」

「ああ、私はマジックランドと旅館から行こう」

 

 サニアさんやガレナさんは、アーケードの販売実績がある店から向かうようだ。

 私は何を置いてもまず、ブラームスさんのお店に向かう事にした。

 

 ワープステーションを経由して、都外の繁華街に向かう。

 通りの外れまで行くと、娯楽専門店の文字が見えてくる。

 

 お店の前にあるスタ2の台には、やはり男子学生たちが集まっていた。

 中に入ると、ちょうど親子連れがソフトを買っている所だった。

 

「これね、テトラスにドンキュー、マルオまで入ってるんだよ!」

 

 子どもが母親に説明しながら、オールスターパッケージを握って店を出て行く。

 入れ違いで入っていくと、ブラームスさんが迎えてくれた。

 

「やあ、マルデリタさん。待っていましたよ。地球から新作が入荷したとか。どんなタイトルか、楽しみで楽しみで」

 

 事前に連絡を入れておいた事もあり、彼は待ちかねていたようだ。

 

「はい。こちらのアーケードになります」

 

 輸送機を取り出し、お店の中にサニックの台を設置する。

 すると、ブラームスさんはがっつり食いついてきた。

 

「おお! これは、とてもクールなキャラクターですな」

 

 彼はアーケードの側面に描かれたサニックのイラストに見入っているようだ。

 

「ええ。地球ではマルオのライバルと言われているキャラクターなんですよ」

「本当ですか。確かに、見栄えがいい」

 

 それから、お店の魔力源に繋いで変換器をかまし、業務用機を起動する。

 画面には、素早く走り抜けるサニックの映像が映し出された。

 

「おい、何か新しいゲームらしいぜ!」

「かっこいいキャラだな」

 

 スタ2を遊んでいた学生たちがこちらをのぞき込んでいる。

 彼らも新作のアーケードに興味津々のようだ。

 

 まずは、ブラームスさんが試しにゲームを始めてみる。

 

「マルオと同じ、ステージ型のゲームのようですな」

「ええ、ですがサニックはスピードが違います」

 

 説明に従ってブラームスさんが操作すると、サニックがいきなりダッシュし始めた。

 青い塊は丘を駆け上がり、ジェットコースターのようにギュンギュンと進んで行く。

 

「これは凄い! 今までのゲームにはない速さだね!」

 

 ブラームスさんが感激したように話すと、店の入り口から見ていた学生たちも声を上げる。

 

「あの青いやつ、ガンガン走ってるぜ……」

「やってみてえ……」

 

 どうやらサニックの魅力は、星を超えても通じるようだ。

 

 サニック・ザ・へジハッグが生まれたのは、1991年の事。

 日本国外で高い人気を誇り、近年公開されたハリウッド映画は大成功を収めた。

 今も世界に愛される、スピードスターな青ネズミだ。

 

「いかがでしょう。もう一つ、ぷやぷやという台もありますが」

「もちろん、二つとも貰いましょう!」

 

 ブラームスさんは、即決で二台とも購入を決めてくれた。

 この決断力。さすがはこの娯楽専門店を作り出した人物だね。

 

 アーケードが稼働し始めると、学生たちはすぐにサニックの台にコインを投入していた。

 そして、やってみたかったのだろう。

 

「おらおら、はしれーーーっ」

 

 サニックをガンガンダッシュさせ、一気にステージを進めていく。

 しかし、そう簡単にはクリアできない。

 ステージに配置された敵が、サニックの行く手を阻む。

 

「あれ、取ったリングが飛び散ったぞ!」

「敵に当たっちゃダメなんだろ。リング回収しないと死ぬって書いてあるぜ」

 

 説明書きを読みながら、学生たちは楽しそうにゲームを攻略していた。

 サニックはダメージのシステムが独特だ。

 プレイしていた少年も、あたふたしている内にやられてしまった。

 

「くそ、一面で死んじまった!」

「どけヘタクソ、俺が華麗なプレイを見せてやろう」

 

 もう一人の少年が、颯爽とコインを投入する。

 

 スタ2が呼び込んだお客さんだけあって、若者たちは血気盛んだ。

 ブラームスさんのお店は、少しずつゲームセンターに近づいているようだった。

 


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