転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第70話

 

 学園祭に参加した私たちは、スウィッツを出展した青年をサポートする事にした。

 マルオカーツをシアターモードの大画面で流すと、学生たちは面白いように集まって来た。

 

「それっ、赤コウラだ!」

「ちょっと、やめてよぉ」

 

 コントローラーを握った男女が、楽しそうに声を上げている。

 

「なあ、これどこで売ってるの?」

「はい。スウィッツは玩具屋さんなどで本体400ベル、ソフト80ベルでご提供しております!」

 

 ゲーム機を欲しがる人もいたので、私はもはやガレリーナの社員として動くようになっていた。

 

 ちょっとだけと思ってたけど、もう乗りかかった船だ。

 私たちは夕暮れまで出店を手伝い、学生たちにゲームをアピールした。

 

「ありがとうございましたー」

 

 夕食時になってお客さんが途切れたので、私たちは店を閉める事にした。

 これでまた、ゲームの認知度が少し上がったかもしれない。

 ほんのちょっとだけどね。

 普及させるっていうのは、こういう事の繰り返しだと思う。

 

「あーあ、休日だったのに働いちゃったわ」

「あはは、そうですね」

 

 背伸びするサニアさんと笑っていると、お店の青年が頭を下げてきた。

 

「あの、ありがとうございました。わざわざ手伝ってもらって」

「いいんですよ、私たちはガレリーナ社の者ですから。自社商品の宣伝に、手伝うも何もありませんよ」

 

 私が会社の名前を出すと、彼は驚きに目を見開いた。

 

「ガレリーナって、スウィッツの通信対応をしてる所ですか!?」

「は、はい」

 

 通信対応が一番に来るって、どういう認識なんだろう。

 私が頷くと、彼は恐縮したように頭を下げた。

 

「その、すみません。勝手にスウィッツを使って店を出したりして」

「いいんです。あなたがゲームを愛して、みんなに広めようとしてくれたんでしょう?」

 

 私が問いかけると、彼は首を横に振った。

 

「いえ、そんなかっこいい動機じゃないんです。

大学でやりたい事もなくて。ただ何となく、親に言われたから進学して、単位落とさないようにしてただけなんです。

でも、今年スウィッツに出会って、ようやく何かにハマったんです。

いずれ就職だし、学生のうちにやりたい事をやっておこうと思って……」

 

 彼は顔を落としながら、小さく語った。

 そんな青年の姿を見て、サニアさんが私の脇をこづいた。

 わかってますよ。うちも学院卒の社員は欲しいんですから。

 

「あの、もしよかったらですけど。ここも就職先に考えてみてください。

小さい会社ですし、親御さんは喜んでくれないかもしれませんけど。

ここなら、あなたが就職してもやりたい事ができるかもしれません。

少なくとも、未発売のゲームはプレイし放題ですよ」

 

 そう言って、私は彼に名刺データを渡した。

 

「……は、はい」

 

 彼はデバイスに表示されたガレリーナ社のプロフィールを見下ろしたまま、固まっていた。

 まあ、彼の人生だし。ここからは自分で考えるだろう。卒業までゆっくり考えるといい。

 私たちはすぐに退散し、学院を出た。

 

「あの人、来るでしょうか」

「ゲームバカなら、きっと来るでしょ」

 

 サニアさんはニヤリと笑みを浮かべて、そう言っていた。

 ともかく、学祭見学はこんな感じで終わったのだった。

 

 

 

 

 休日が明けると、日々は目まぐるしく進んでいく。

 やるべき仕事に追われているうちに、マルデアに戻ってから一か月ほどが経った。

 

 そろそろ、また地球へ出発の時だ。

 

 三万五千の魔石と三百五十個の縮小ボックスを購入し、輸送機に詰め込んでカプセル化していく。

 これで準備はOK。なんだけど……。

 

 次にどの国へ行くかというのが、なかなか決められなかった。

 

 もちろん、国連と日本に行って新作ゲームを受け取るメインルートは決まっている。

 その前に適当な国に訪問すればいいだけなんだけど。

 

 私の中に、小さな悩みが芽生えていた。

 インドネシアの人はあれで満足したけど、他の国はどうする。

 そんな事を考えると、次の国を選び辛くなってしまった。

 観光的に行ってみたい国は沢山あるんだけどね。

 

「はあ、どこに行けばいいかな……」

 

 二階のオフィスで世界地図を見ながら悩んでいると、サニアさんが隣に腰かけた。

 

「悩むくらいなら、別に日本に直行でもいいんじゃない?」

「そうっスよ。ゲームと魔石を運ぶだけで、リナさんは十分仕事してるっス」

 

 メソラさんも、ペーパーマルオを遊びながら慰めてくれた。

 みんな、いい人たちだ。ゲームバカだけど……。

 

 でも、私は各地に行くのはやめたくない。

 いろんな人に会って、色んなものを見てみたい。

 

 じゃあ、どこへ行ったらいいか。

 デバイスをいじりながら、地球各地の情報を眺める。

 

 と、一つの国が目に入った。

 それは、ドイツだった。

 

 ドイツ語と言えば、カルテなどの医学用語が有名だ。

 医療の本場と言っても良いかもしれない。

 

 そうだ。いっそこの国のカウンセラーにでも相談してみようかな。

 

 マルデア人に地球の事なんて相談しても、「行かなきゃいい」で終わるからね。

 地球人なら、親身になって考えてくれるんじゃないだろうか。

 

 そんなわけで、次の行き先はドイツに決まった。

 我ながら変な決め方だけど、まあいいや。

 

 私は国連に行先を連絡して、翌日の朝には魔術研究所に向かった。

 

「ふむ、ドイツか……。どこの町が良いんだ?」

 

 ガレナさんがデバイスの前に立ち、マップを調整している。

 

「町なんて指定しても、ピッタリ当てた事ないじゃないですか。

国境は越えないように、国のど真ん中にでも指定して下さい」

 

 私は投げやりに言って、ワープルームに入った。

 

 ドイツは、シミュレーションゲームが好きな国と言われている。

 アメリカ人は派手な銃撃ゲームでストレスを発散し、日本人はRPGで剣と魔法の世界を冒険する。

 その頃、ドイツ人は農作業カーで田植えに勤しむゲームに夢中だった。

 そんなネタがネットで散見される。

 

「ドイツ人はゲームの中でも働いてるのか!」

 

 みたいなね。あの国の勤勉さが良く現れた話である。

 ただまあ、こんな視点からドイツという国を見る人は少ないかもしれない。

 

 ドイツと言えばBMWやベンツと言った高級車が有名だ。

 幅広い文化を持ち、ソーセージやビールなど料理のイメージも強い。

 なので、グルメなんかも楽しみつつ相談先を探そうと思っている。

 

 目的を達成するまでは、プライベートで動きたい。

 しっかりとヘアバンドで黒髪に変装して、帽子も被っておく。

 

 さて、いよいよ出発だ。

 

「では行ってまいります」

「ああ。危険だったらすぐに腕のデバイスで帰ってくるんだぞ。では、健闘を祈る……」

 

 ガレナさんの言葉と共に、私の姿はマルデアから消えた。

 

 

 次の瞬間。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 

 360度、周囲から凄まじい雄たけびが聴こえた。

 なんだここは。

 

 目の前には、芝生が広がっている。

 ユニフォームに身を包んだ男たちが、フィールドを駆けまわっていた。

 

 ここは、どうやらサッカースタジアムらしい。

 試合場の周囲には何万人もの人々が詰めかけ、試合の行方を見守りながら歓声を上げている。

 私はそんな観客席の最前列にいた。

 うーん。次に発売するゲームは、別にサッカーゲームではないんだけどね……。

 

「ノウアアアアアアアアアア!」

「ロベーーールツ!」

「トゥーマーーーーーーーーーース!」

 

 謎の応援が飛び交いまくる。

 私はもはやパニックだ。

 でもあの選手たちのユニフォーム。FIFAAで使った事があるチームだ。

 

「バイエルン! バイエルン!」

 

 フリーキックを獲得すると、向かい側の客席にいる男たちが叫び声を上げる。

 

「ば、バイエルン・ミュンヘン……」

 

 思わず、息を吞んだ。

 どうやらドイツが誇る世界最高峰のクラブチームの試合らしい。

 

 対戦相手のチームには、日本人っぽい人がいるような気がするね……。

 


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