転生したので、たった一人で地球と貿易してみる ~ゲーム好き魔術少女の冒険譚~   作:あかい@ハーメルン

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第9話 魔石の力

 

 翌朝。

 私は自分の貯金を使って魔石を百個と、収縮ボックスなどの交易品を購入した。

 それを魔術バッグに入れると、部屋を埋め尽くすほどの量が全部すっぽりと中に収まる。

 

 仕入れを済ませた私は、早速魔術研究所へ向かった。

 ワープルームの前で待っていたのは、やはりこの間の研究者だ。

 

「やあ、君か。また地球へ向かうようだな。懲りない事だ」

 

 白衣の女性は、すでに準備をしてくれていたらしい。

 前回と同様、帰還ワープ用のリスト型デバイスを手渡してくれる。

 

「今回は少し長くかかると思いますので、帰るのは来月になるかもしれません」

「そうか。冒険好きなのはいいが、命を大切にするんだぞ。気が付いたら野蛮な地球人のディナーになっていた、なんて事もあるかもしれん」

「あはは、お気遣いありがとうございます」

 

 まさか、そんなことはないと思う。よっぽど変な場所に落ちない限りは……。うん。

 私は研究者と少し話した後、ワープルームに入った。

 そして、再び地球へと向かって飛んだ。

 

 ついたのは、前回と全く同じ場所だった。

 銃を持ってやってきた人の庭だ。

 

 今回は詳細な地図を用意してホワイトハウス直行を目指したはずなのに、どうしてこうなるのだろう。

 星間ワープに多少問題があるとはいえ。

 あの研究者、ちょっとポンコツなんじゃないだろうか。

 ただ、この私にマルデア本部があれ以上の設備を貸してくれる事はないと思う。

 この欠陥品で交流しろという事なのだろう。

 

「まあいいや。同じ場所なら、同じように行けばいいんだから」

 

 私はバッグを背負って歩き出す。まずは、学校が目印だ。

 

 

 道路沿いに歩いていくと、大きな建物とグラウンドが見えた。

 前と同じように、生徒たちがアメフトにいそしんでいる姿が見える。

 違うのは、車椅子がない事くらいか。

 

 私は少しその光景を眺めていると、一人の少年がこちらに駆け寄ってきた。

 

「きみ、きみっ!」

 

 顔がメットで覆われていたが、よく見ると見覚えのある風貌だった。

 

「あ、こんにちは」

 

 私が手を振ると、彼はヘルメットを取った。やはり、あの時の子だ。

 

「きみ、宇宙人だったんだね! テレビで見たよ。大統領の記者会見に君が出てきてさ。

魔法を使ったよね。それでわかったんだ。君が魔法で俺の足を治してくれたんだって!」

 

 感激したように声を上げたのは、こないだの車椅子の生徒だった。

 もう元気に地に足をつけて歩いているようだ。

 

「そっか。治ったんだ。よかったね」

「ああ。クラブにも復帰できたよ。もう何の問題もない。本当にありがとう!」

「うん、どういたしまして」

 

 話していると、他のクラブ生たちが何だ何だとやってくる。

 

「きみにお礼がしたいんだ。何か俺にできる事はあるかな?」

 

 少年は笑顔で私に問いかける。だが、このままだと注目される。

 

「ごめんね。人が集まってきたし、もう行かなきゃ」

 

 私は手を振って、駆け足で道路を逃げていくのだった。

 

 それから、私は前と同じ警察のオフィスへと向かった。

 中に顔を出して、「こんにちは」と挨拶する。

 

「あ、リナちゃん。またここに来たの?」

 

 女警官のケイシーさんが私を見つけて驚いたようだ。

 

「すみません。またちょっと場所を間違えまして。あの、ワシントンD.Cまでお願いしたいんですけど」

「ちょ、ちょっと待っててね。巡査長! リナちゃんです! マルデアの親善大使が来ました!」

「なにぃっ!」

 

 巡査長さんは私を見つけると、また同じようにどこかに連絡を取り始めた。

 

「ネットで記者会見の動画、見たわよ。すごかったわ。

大統領と対等に挨拶して、魔法で空に浮かんじゃうんだもの!」

「あはは、照れますね」

 

 ケイシーさんは興奮しながら、魔術を見た時の感動を語っていた。

 彼女と話しながら待っていると、前回よりだいぶ早く、あのごつい車がやってきた。

 

「Let's GO!!」

「イエッサー!」

 

 ものすごく周囲を警戒しながら、私を車に案内してくれる軍人さんたち。

 この人たちも大変だね。

 私は軍人さんたちに守られながら、国の中枢に送られていくのだった。

 

 ホワイトハウスにつくと、早速大統領とご挨拶をする。

 

「やあ、また来てくれたようだね」

 

 彼は私の前では常にニコニコしている。そういう仕事なのだろう。

 だが、やはり大統領は忙しいらしい。十分ほど話すと、すぐにどこかに行ってしまった。

 

 私のメインの会話相手は、アメリカが誇る外交官だ。

 

 ランデル・スカールという丸い眼鏡をかけた壮年の男性だった。

 会議室に入ると、私は早速彼と話し合う事になった。

 傍には、私が持ち込んだ魔石を用意してもらっている。

 

「マルデリタ嬢。前回より多くの魔術品を持ってきてもらったようで、感謝している。

さて、具体的に貿易について話し合いたいと思うのだが……」

 

 早速、本題に入ろうとするスカール氏。

 

「はい、私もそのつもりです。ただその前に、魔石の使い方についてご説明しておく事があります」

「使い方? 念じるだけではないのかね」

 

 私の勿体ぶった言い回しに、スカール氏は眼鏡の奥を光らせる。

 

「ええ。以前は、一つの魔石を使って小さな奇跡を起こせるという事を説明しました。

ですが、それに大した効果はありません。

魔力を持たない方ならなおさらです。せいぜい、水を出す、火を起こす、少しだけ宙に浮かぶ。

それくらいのことしか実現できなかったと思います。

なので今回は、複数の魔石を合わせて使う方法をお伝えします」

「複数の魔石……?」

「はい。多分前回渡した分だけでは少なすぎて、そういった試行も出来なかったのではないかと思います」

「う、うむ。それは確かに。貴重すぎて消費すらしていない状況だ。

今現在、魔石を研究所に回しているところでね」

 

 スカール氏は苦い顔をしながら顔を落とす。

 まあ、そうだろうな。

 地球側もなんとか自前で作れないかと魔石や魔力そのものを解析するだろう。

 ただ魔石と同じものを別の素材で作る事は出来ないし、地球人が魔力を再現するのは無理だろうけどね。

 ともかく、私は説明を始める事にした。

 

「魔石というのは、魔力の結晶です。魔力とは、願いを叶えるための力です」

「願いを叶える力、か」

「ええ。資源のように考えて頂けるとわかりやすいです。

一つの魔石では大した事はできませんが、二個、三個と合わせると、その力は増していきます。

例えばですね。その、失礼ですがあなた。髪の毛はあった方がいいと思いますか?」

 

 私は、頭の頂点がツルツルな男性にそう問いかけた。

 すると男性は、顔を赤くしながらも頷いた。

 

「ええ、あった方がいいでしょう。坊主にするにしても、伸ばすにしても、髪があればこそ自由に選べるのですから」

 

 彼は何やら深刻そうな顔をしている。

 やはり、髪は欲しいのだろう。

 

「そうですか。ならば、少し失礼します」

 

 私は魔石を三つ合わせ、彼の頭に向けた。

 

「生やせ」

 

 言葉と共に、彼の頭がピカピカと光り始める。

 すると、涼しげだった頭皮から短い毛が大量に生えてくるではないか。

 

「お、おお?」

「きみ、毛が生えているぞ!」

「本当だ、私の頭に毛の感覚が……!」

 

 男性は感激したように呟き、窓ガラスに映る自分の顔に目をやっていた。 

 

「と、このようにですね。魔石を合わせると、少し特別な願いが叶うようになります。

それでも、そこまで大きなものではありませんが。五個、十個と合わせれば、もう少しずつ力は上がっていくでしょう」

「……素晴らしい。魔石の力は、我々が思った以上だな」

 

 スカール氏は目を見張っていた。

 だが、魔石が持つ可能性はこんなものではないのだ。

 

「ええ。魔法の力、願いの力は偉大です。我々マルデア人はその力を使って、正しく管理された世界を実現しました」

「管理された世界?」

「ええ。一つお尋ねしますが、地球には災害というものはございますか?」

「もちろんだとも。火事や台風、地震や噴火など様々だが……」

「そうですか。我々は既に、それらの災害をほぼ未然に防ぐ事に成功しています」

「ほ、本当かね!」

 

 スカール氏のみならず、会議室にいた人みなが驚き、体を乗り出す。

 まあ、これは当然の反応だろう。

 前世を思い出せば、地球はいつも災害に悩んでいたからな。

 私は頷いて続ける。

 

「ええ。マルデアでは二千年前から大規模な災害の被害はありません。

例えばマグマや台風も、災害対策省の魔術師たちが常に管理し、鎮静化させています」

「それは、例えば魔石で出来たりするものなのかね」

 

 体を乗り出してくるスカール氏は、額に汗を流している。

 

「ええ、マルデアでも魔石を使った災害排除を、千年ほど前までやっていました。

私一人でも魔石が大量にあれば、台風などを未然に防ぐ事が可能でしょう」

 

 私の言葉に、場内は静まり返っていた。

 


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