でも初特化3はテンニンカちゃんです。ごめんねエクシアさん。
当たり前だが、自分で生き方を選ぶことは限りなく難しい。
永遠に孤独を貫くのであれば話は別だが、如何せん我々は社会で生きる生物なのである。
よって、他人の生き方を知り、影響を受けていくことで人格が形成されていく。
その経験が乏しい者は、生まれたてのヒヨコとなんら変わらない。
それを大前提として、そのヒヨコたちの物語など、結末が良いものであるはずがない。
【ペンギン急便 アジト】
「はぁ~なんか面白い事ないんかなー。」
「・・・外の騒ぎにでも巻き込まれて来ると良い。」
オンボロのソファーに寝転がるクロワッサン。
そのソファーの後ろに立ち、ソフトドリンクを飲むテキサス。
通常業務を終え、次の指令が来るまでの待ち時間を気ままに過ごす。
良く言えば時間に余裕がある。
悪く言えば暇を持て余している。
「なぁテキサスはん?ちょいと早いけど・・・飲まへん?」
「本気で言っているのか?」
クロワッサンは片手でグラスを口に運ぶジェスチャーを取り、テキサスを少しばかり早い酒席に誘う。
「ええやんええやん!ウチらも頑張っとるんやし、ボスもワインの一本二本許してくれるやろ!」
「はぁ・・・。ソラが到着してからだ。」
そんなことを話していると、ある一人の招かれざる客が姿を現す。
「あれぇ?テキサスにクロワッサン。エクシアが居ないのは珍しいね。」
「ラップランド・・・!!」
ペンギン急便のアジトは不測の事態を備えて厳重に施錠されているのだが、ラップランドには難なく突破されてしまっているのが現実である。
テキサスは今すぐにでも彼女を追い出したい気分だったが、それは直ちに実行するにはかなり難しいことだった。
「おおお!?ラップランド氏やんけ!暇ならウチらと遊ばへん?」
「え?いいのかい?嬉しいね!お言葉に甘えさせてもらうよ。」
ラップランドはこう見えても人付き合いが上手いタイプの人間なのだ。
だからクロワッサンともエクシアともバイソンとも仲が良い。
テキサスはラップランドのそういう所も含めて苦手なのだ。
「・・・ラップランド。何をしに来た。」
「何って、特に何もないけど?強いて言うなら面白そうだったからかな。」
テキサスは白銀色のループスを睨みつける。
対するラップランドは不敵な笑みを浮かべているのであった。
「コラ!テキサス!お客さんにそんな態度取ったらアカンやろ!?」
「ぐっ・・・!」
クロワッサンは、テキサスがラップランドに対して良い印象を持っていないことを理解していないようだ。
「ちょいと待っとってな!今アメちゃん持ってくるわ!」
「待て。クロワッサン!」
苦手な相手と同じ空間に2人きりという状況を回避するために、クロワッサンを呼び止めるが、その願い虚しく叶うことはなかった。
結果として、テキサスが考える最悪のシチュエーションが成立してしまった。
「ふ〜ん。テキサスはそんなにボクのことがキライなんだね。」
「・・・いきなり剣先を向けてくる奴は誰であろうと嫌いだ。」
「アハハ!キミだって昔はボクより派手だったじゃないか。」
ラップランドが挑発を続ける。テキサスが鞘を抜くのを誘導しているようだ。
対するテキサスは、ただ目の前のループスを睨みつけるだけで、特にこれといったアクションは起こさなかった。
「前々から思っていたことだが。」
しかし、やられっぱなしというのは彼女の自尊心が許さなかった。
「ん?なんだい。なんでも言っておくれよ。」
「お前は異常者の素質があるな。尊敬するよ。」
つい先程までニコニコしていたラップランドの顔から笑いが消える。
彼女も言葉を用いた反撃をしてくるとは考えていなかったようだ。
「・・・それは一体、どういうことだい?説明してくれるかな。」
「言っての通りだ。外面が良く、本心を隠し、嘘が上手い。興味のないものには無関心。しかし、自分を看破する者には敵対する。
お前は破綻者なんかじゃない。ただ自分が大好きなヒトリオオカミだ。」
冷たい視線で鋭い言葉を発するテキサス。
罵詈雑言を絶えず吐かれてきたラップランドには、対した威力にもならない言葉の暴力であったが、それでも動揺を与えるには十分だった。
「・・・へぇ。言ってくれるじゃんテキサス。ならばキミはどうなんだい?
無愛想を拗らせて自分にすら正直になれず、変化を望まないでいるのは誰?
同業者の失敗を見て見ぬフリをして、自分はそうはなるまいと考えている卑怯者は誰?」
「それで反撃のつもりか?滑稽だぞ。」
「フーン。・・・少しは賢くなったんだね。昔ならすぐに斬りかかってたのに。一体誰に影響されたのかな?」
冷ややかな目線で言い放つラップランド。
クロワッサンが居た頃の笑顔はすでに剥がれ、臨戦状態の面持ちをしていた。
対するテキサスは、一矢報いてやったと言わんばかりの表情で対面している。
しかし、ラップランド自身もテキサス同様に、やられたらやり返さないと気が済まないタイプなのであった。
「さっきも言ったけど、かなり丸くなったよね。ボクは昔のテキサスに方が好きなんだけど?」
「・・・お前に嫌われるというのならいくらでも
「アハハ!でも大胆さも消えて無くなったよね?」
ラップランドは眉間のシワをなくしたと思うと、今度はニヤリと口角を歪ませた。
何か反撃してくるだろうと予想していたテキサスは、特に驚きもせず質問の意図を聞く。
「回りくどいぞ。何が言いたい。」
「ん?いつまで静観してるつもりだってこと。そんなにエクシアみたいになるのがイヤ?」
ラップランドはテキサスと対峙する際によくエクシアの名を出す。
それはかつての自身の想いに苦しんだエクシアの状況と、現在のテキサスの状況が酷似していることに起因する。
そして、同業者にして相棒である彼女をダシにした罵倒は、テキサスに信じられない程よく効いた。
「お前がエクシアを語るな・・・!」
「キミもさ~?いい歳なんだからいい加減大人になりなよ?思春期の乙女じゃあないんだし。それとも・・・」
奥の方からクロワッサンが暴れる音が聞こえる。
酒やらワインやらお菓子やら、多くの物をいっぺんに運ぶという運送屋として致命的な悪癖を持っている彼女は、物を運ぶ時は必ずと言っていいほど大きな物音を立てるのだ。
「・・・言ってみろ。その細い首をねじ切ってやろう。」
「アハハ!もしかしてエクシアに例の話してなかったりする?」
プツン
室内にじんわりと感じられるアーツの奔流。
先の問答とは打って変わって沈黙が続く。
しかし、テキサスの脳内では決定的なナニカが切れる音がした。
かなりの間ストレスが溜まるやり取りを繰り返した2人だったが、最終的には龍門スタイルの解決法に落ちつくことになる。
「*龍門スラング*」
「アハハ!?やっぱりそう来なくちゃね!」
獲物を狩る凶器を振り回す2人は障害物など気にする素振りも見せず、ただ相手の喉元をめがけて武器をかちあわせていた。
途中、ソラがアジトに帰還するも、2人はそれに気づくことは無かった。
ソファーをひっくり返し、テーブルをアーツの剣でズタズタに引き裂く。
床に生々しい傷跡を残しながら、それでも2人は闘うのを止めなかった。単純、これはただの勝ち負けではなく、プライドを賭けた闘争なのであった。
「ちょーッ!!なにやってんねん2人とも!ついにイカレてもーたんか!?」
「ひぃぃーー!誰か助けてー!!」
余りにも凄まじい物音を聞き、持ち物を捨てて飛んできたクロワッサン。
テキサスとラップランドによって深くえぐれた床を見て生命の危機を感じ、食器棚の引き出しに身を隠したソラは必死に助けを求めていた。
しかし、ソラのその願い叶わず2人は剣を収めることはなかった。
結局、2人が動きを止めたのは服に染みた汗が気持ち悪いという理由だった。
「はぁ。どうすんねん、この惨状・・・。絶対怒られるやろ・・・。」
「ひぃぃ・・・。腰が、腰が動かない・・・。」
廃墟となんら大差ない一室を見たクロワッサンは自分のデコを叩く。
楽観的な彼女といえど、流石に後始末に困っているらしい。
食器棚からモゾモゾと這い出てきたソラは、およそアイドルとは言い難い顔色をしていた。
「とにかくボスが戻ってくるまでに誤魔化さんとアカンか・・・。はぁ、なんでこないな事なったんや・・・。」
まともに座れないどころか、原型すら留めていないソファーに無理やり腰掛けていると、廊下から静かな足音が聞こえてくる。
「あぁ~。よく寝たよく寝たっと。ってナニコレ・・・。」
「なんやエクシアか・・・。ナニコレってそんなんあたしが聞きたいわ!」
あれほどの騒ぎがあってなお惰眠にふけっていたというエクシアの胆力に、ソラは驚きを超えて呆れていた。
「まぁ~、どうせテキサスとラップランドでしょ?あの2人もよくやるよね~。飽きないのかしらってね!」
「何が『ってね!』じゃ!なんもおもろないわ!もうええわ!今日は吞ませてもらうで!」
ケラケラと笑うエクシアと対照的に、クロワッサンはドスドスと足音を立てて破壊し尽された床を歩いていく。
ソラは天井に突き刺さったテーブルの死骸を見てドン引きした。
「ギャアッ!!」
隠そうとしない怒りに震えていたクロワッサンだが、裂かれた床板につまずき転び、はずみで鼻を強打した。
「なんでウチばっか損な役回りせなアカンねん!」
その様子を見ていたエクシアとソラは流石に苦笑いすることしか出来なかった。
【ペンギン急便 待合室】
アジトの中で一番広い部屋が破壊されてしまったので、ソラは渋々待合室で休憩することにした。
「うう~。なんか寒い~。暖房つけよっと。」
「・・・気が利かなくてすまないな。」
背後から聞こえたテキサスの声に飛び跳ねた。
「ふええ!?なんでこんな所にいるんですか!?」
「なんでと言われてもな、ここはわたし達の拠点じゃないか。」
当たり前の返答をされてソラはしまったと考え込む。
願ってもない憧れの人と同じ空間に二人っきりの状況。
これはチャンスだと認識したソラは自分の商品価値をアピールするために積極的に話しかけた。
「いやぁ~。そうですよね~。アハハわたしったらうっかりしてました~。・・・アハハ。」
アイドルとは思えないトークスキル。
熟練のコミュ障のようなその喋りは、対面しているテキサスを不安がらせる結果に終わった。
「・・・その、騒いですまない。損害は全て弁償する。そして、なによりソラに怖い思いをさせてしまった。・・・本当にすまない。」
「・・・え?」
普段のテキサスの威風堂々としたオーラからは予想できない弱々しい声。
義理深いループス族は責任や絆を重んじる。そしてループス族の中でも並外れた力を持つテキサスは人一倍それを気にする傾向にあった。
ソラはまさか謝罪されるとは思っていなかったため、口から意図せず情けない声が出る。
「い、いえいえ!全然大丈夫です!むしろテキサスさんの戦い方が近くで見れて嬉しかったです!ハイ!」
「そ、そうか。・・・迷惑をかけた。」
テキサスはそう言うと胸ポケットからチョコレートを取り出すと、おもむろにソラの前に突き出した。
「食べるか。甘いぞ。」
唐突な誘いに混乱した様子を見せるソラ。
長い沈黙は無礼だということを理解している彼女は迅速な返答を試みた。
「食べますうううう!!」
人生という長い物差しで測ると、この待合室での談笑はほんの短いものなのかも知れないが、ソラにとっては何よりも幸福な時間であった。
テキサスは、先の大戦争においてラップランドにしてやられたらしく、痛めた手首を押さえていた。
「テキサスさん。それ、大丈夫ですか?」
「ん?あぁ。唾でもつけていれば治る。」
2人はこの時間の間でかなり親密な関係を築くことが出来たようだ。
今までも会話することは多々あったが、ここまで話すことは無かった。
まったく、ラップランドに感謝である。
「そういえばなんですけど、ラップランドとエクシアが何とかって言ってませんでした?」
「エクシアも常に明るいという訳ではない。最近の様子を見れば分かることかも知れないが。」
憂うような眼で喋るテキサス。
その眼は目の前にいるソラを見ているのではなく、どことも知れない遥か彼方を見ているように思えた。
「やっぱり、最近のエクシアのこと・・・ですか?」
「なぜそう思う? あっ、いや、別に尋問しようとしている訳じゃない。単純な質問だ。」
テキサスがチョコレートの包み紙で作った玉をこねくり回す作業を止める。
それと同時に待合室の空気が澱む。強者特有のアーツの奔流。
「は、はい。え~と、何というか、その、最近皆元気ないな~って思ったりしちゃったりして~・・・。アハハ・・・。」
「・・・元気がない、か。」
ソラの額に冷や汗が染みわたる。
眼前のループスの表情には一切の変化も見られないが、代わりにプレッシャーを感じられるような雰囲気になっていった。
「だって、その、ホントに変なんです!テキサスさんもエクシアもラップランドも!今まで目立つとこで戦うなんてことも無かったじゃないですか!」
「・・・やはり分かってしまうものなのか。」
ソラが泣きそうになりながらテキサスに理由を話す。
詰まることろ、ソラはエクシアの急変により皆の動きが変わっている。
ペンギン急便というチームの輪が乱れているということを言っているのだ。
テキサスは額を抑え、数秒沈黙する。
「確かに皆おかしくなっているかも知れない。そして発端はエクシアだ。わたしも関係しているんだがな・・・。」
「・・・その理由とか、聞いても良い感じですか?」
目を薄め、どこか悲しげな表情をするテキサス。
弱々しい雰囲気も、彼女がすればミステリアスなものに変わる。
「・・・それはできない。それを語れるほど、わたしは強い人間ではない。」
「テキサスさんにも、あるんですね?誰にも言えないヒミツが・・・。」
「一度きりの人生なんだ。 ・・・後悔や秘密の一つ二つなんて、誰にだってあるさ。」
申し訳なさそうな顔をする2人。
以前からエクシアが上の空でいる事をよく見たソラは、元凶が発覚した時点であまり驚きはしなかった。
エクシアが本調子に戻らない理由も気になるが、直接聞くという無作法なことは出来ない。
ならば、エクシアをよく知る人物に探りを入れれば良いとソラは考えた。
ソラはこのような事態に『わたしが解決しないと!』という責任感に駆り出されていたのである。
そもそも、テキサスですら解決の糸口を見つけられず、それでいてモスティマが沈黙を続けているエクシアの悩みなど、一筋縄ではいかないことなど予想できただろうに。
ソラはこの若さ故の過ちによって、人の心の底に潜む暗黒を垣間見ることとなる。
「それでも知りたいのなら、ロドスを訪ねろ。あそこなら、いや、あるいは・・・。」
そこまで言ってテキサスは口をつぐんだ。
ソラは多少不審がったが、次の行き先を提示されたことの方を優先した。
それは、もはや問題究明の正義心よりも、好奇心という感情の方が上回っていた。
【ロドス本艦 搭乗ゲート】
「むむむ・・・。よし、誰もいない。」
コソコソと動く小さな物体。
大きさの合っていないサングラスに、ちんちくりんのトレンチコート。
加えてマスクに帽子と来たものだから、その姿は変装したアイドルというよりも最早不審者のソレであった。
「ん?おい、あれソラちゃんじゃね?」
「あ?スーパーアイドルのソラちゃんがあんなダセェ恰好してるわけねぇだろが。」
大事を取って身分証明書を持ってきて為、なんの障害もなくゲートを突破することが出来た。
そもそもソラはロドスのオペレーターなのだから隠れる必要などないのだが。
「うぅ~・・・。なんかバカにされた気がするんだけど!」
先の見えない廊下の端っこを前かがみで前進していく。
気分はさながら探偵だろうか。
堂々と歩いていれば好奇な視線も向けられることもないのだが、ソラにとっては自身の風体よりも、ペンギン急便内の問題を解決する鍵を探す方が大切なものとなっていた。
「はぁ。モスティマがいればもっと楽になるんだろうけどなぁ~。」
「・・・何やってんだよお前。」
廊下の中間地点に設置されたベンチに腰掛け、テキサスがロドスに向かえと言った意味について考えていると、気づかぬ間に立っていた男に話しかけられる。
「うわっ・・・。ドクターですか。お疲れ様でええす・・・。」
「うわってなんだ。これでも私は上司なんだぞ?減給するぞ?」
どうやらドクターは見るからに不審者なソラを怪しく思い、職務質問を試みたらしい。
もっとも、見た目の不審者具合ならドクターも負けず劣らずといった感じだった。
「ん~。じゃあ、執務室の引き出し2段目の奥底の薄い本。ケルシー先生に言いましょっかな~?」
「ソラ。欲しい物はないか?甘いのは好きか?ライブチケットの余りなら全て買い取るぞ。」
ソラはこいつアホだと内心思いながらも、なぜ皆がこのアホに執着しているのかが理解できた気がした。
作戦指揮はバリバリに出来ても、日常がポンコツというギャップに惹かれていったんだろう。
ソラはそんなアホを密かに軽蔑するのであった。
【ロドス 事務スペース】
手っ取り早く事を終わらせるのならケルシー医師に尋ねるのが一番なのだが、ソラは躊躇していた。
単純な話、ソラはケルシーのことを恐怖の対象として見ていたからである。
記憶を失う前のドクターはケルシーよりも冷徹だったと聞くが、その噂の真偽がどうであれ、ソラは何を考えているのか分からない人のことが苦手なのであった。
「あれ?ソラじゃん!ってかナニその恰好!」
「えええ!?エクシア!?なんでいるの!!」
思わぬ邂逅に声を上げるソラ。
その声に驚いた様子のエクシアは、ただ理由もなくフラフラと彷徨っていたという。
「いやぁ~、アジトがああもぶっ壊されてちゃね?怒られるのもイヤだしってこと!」
事の発端であるエクシアを前にして、ソラは思わず動きを止める。
内心は彼女を客観的に見た時の異常さの理由を知りたくて仕方がなかった。
それがプライベートの領域を越えるものであるということは、聞く側も十分理解していた。
しかし、その好奇心と使命感を理性で抑えるには、ソラは幼過ぎた。
何よりも、経験が足りなかったのだ。
「・・・・・・。」
「ん?どうかした?もしかして気分悪い?」
言いたい言葉が喉まで出てきてつっかえる。
知りたいという気持ちが先行して、肉体の準備が追い付いていないのである。
陸に打ち上げられた魚のような息遣いで発言する。
「あ、あぇ、え、えっと!あの!」
「!?どうしたの!なんか眼がヤバいよ!」
目を真っ赤に充血させてエクシアに問う。
「エクシア最近変じゃない!?」
「・・・・・・はい?」
【ロドス 甲板】
風に吹かれ、艶めいた赤髪がたなびく。
一見乱雑にカットされたと思うような髪も、目を凝らすと細部までよく手入れがされている。
・・・伸ばせばそれこそ天使のような輝きを放つだろうに。
「あ~・・・。なるほどね~。あたしの事心配してくれてたんだ~。」
「うぅ・・・。言葉足らずで申し訳ありませんでした・・・。」
ここ最近の違和感について。テキサスとラップランドの会話について。そしてテキサスと話したことについて。
全てをエクシアに吐露したが、当の本人は気にする素振りを一切見せなかった。
「えーと、ソラは何が知りたい感じ?」
ソラの心配は杞憂に終わった。
それは素晴らしいことなのだが、新たなる問題も同時に発生してしまった。
「何って、え、大丈夫なの?かなりプライベートな質問になるんだけど。」
「うん。知ってるよ?それで・・・どれが聞きたい?」
何とも言えない重圧感。
普段穏やかな人がキレるのが一番厄介というように、いつもニコニコしているエクシアのマジトーンには謎の威圧があった。
「ひぃっ・・・。単純に、最近元気ないなぁ~って思ったり・・・ね?」
「ん~?ホントに何にもないよ!ソラは優しいから考えすぎちゃうんだよ!」
エクシアの口は確かに笑っていた。眩しいぐらいの、見る者に元気を与える笑顔。
しかし、風にたなびく髪に覆い隠された眼はきっと笑っていなかった。
ソラは隣に座るエクシアの方を見ることがついに出来なかった。
「いやぁ~。最近暑くなってきたね~。ねぇ、今度みんなでイェラグの方寄ってみない?絶対楽しいと思うんだ!」
「・・・まだ話、終わってないよ。」
エクシアが口を閉じる。
戦闘中、どんな状況においても軽口を言い放つ彼女が黙るということは、それだけで異常事態であった。
「・・・う~ん。そんなに気になる?」
「だって!・・・わたしは、みんなが笑顔でいてほしいし・・・。」
お世辞にも穏やかとは言い難い風が吹く。
俯いたソラの顔が黄金の髪に隠れる。
「・・・もぉ~!しょうがないなぁ~。言うから!言ってあげるから!ホラ、顔上げて!」
「ふぇぇ・・・?」
ソラの眼から大粒の涙がこぼれる。対するエクシアは、先程とは打って変わって満面の笑みを浮かべていた。
「・・・フラれちゃったんだ。絶対イケる! って思ってたんだけどね。見事逝っちゃったワケ!」
「え?そ、それで最近元気なかったの?」
当たり前だ。エクシアとて女の子なのだ。
ただ少し銃の扱いが長けていて、ビルの柱を容易く崩す魔弾を放ち、殴り合いでも軽く無双できる腕っぷしを持っているだけの普通の女の子なのだ。
「うん。誰にも言わないでね?ソラも蜂の巣になりたくないでしょ?」
「誰にも言わないよ!信用してよ!」
「じゃっ!あたしは一足先にアジトに戻ります!クロワッサンも心配だしね!」
問題は解決し、ソラの心を蝕んでいた好奇心も消え去ろうとしていた。
しかし、新たな疑問が浮上する。
(あれ・・・?テキサスさんはエクシアの玉砕を知っていたの?)
『確かに皆おかしくなっているかも知れない。そして発端はエクシアだ。わたしも関係しているんだがな・・・。』
(でも、テキサスさんも関係してるって・・・。ん?どういうこと?)
「あたしはね。結構しつこい女なんだ。急ぎ過ぎた結果の失敗だなんて微塵も思ってないから。」
艦内に続くゲートの前で立ち止まる。
ソラは向かい合うことなく、背面した状態で話を聞く。
「つまり何が言いたいかっていうとね?まだ諦めてないってこと。義人はわたしだけのものなんだ。」
「テキサスにも伝えといて。」
これ以上は踏み込んでは行けない。そう少ない人生経験が警鐘を鳴らしている。
『・・・後悔や秘密の一つ二つ誰にでもあるだろう。』
テキサスの言葉を思い出す。
この問題は自分なんかが手を出してはいけない程深刻な物なんだ。
ソラはようやくその事実に気が付くことが出来た。
ソラはテキサスとエクシアの弱点を図らずとも握ってしまったと同時に、ペンギン急便を渦巻く不穏な澱みをひたひたと感じ取った。
そして、ある男に対して尋常ならざる怨嗟を募らせるのであった・・・。
長ェ!
そしてもう少し続きます。