続きといっても過去編なんですけどね。
【ロドス ドクター記憶喪失後】
【要人警護任務作戦中】
ダダダダダ!!! ジャキイイン・・・!! ガギイン!
ドゴオオオン!!!
バキイ!!ミシミシミシ!! アップルパイ!!!
「うおおおお!!どうしてこうなるんだ!!」
「ひええええ!!作戦は完璧だって言ってたじゃないですか!」
獣道を突き進む4台の軍用車。それを追う違法改造車の軍勢。
今にもなぎ倒されんとする車の中には、華麗なる()復活を遂げたロドスのドクターが同乗していた。
「都市郊外の山間部にゲリラが居るなんて思わないだろ!」
「と、とにかく、リスカムさんたちに救難要請を・・・!!」
バギイイイ!! ビイイイイイン・・・・・・。
ジェシカが死にかけになりながら発信機に手を伸ばした瞬間、改造車の荷台から射出された槍が防弾ガラスを貫き、ジェシカの股間下に突き刺さった。
もう少し動くのが速かったら、腰で2つに分離する所だった。
「は、は、はうわぁぁぁぁ・・・!!」
「なんだアイツら!私たちを殺すつもりだぞ!!」
ぬかるんだ地面にタイヤを持っていかれないように一列になって走行する。
当然速度も落ちるため、殿を務めていたBSWの装甲車両はズタボロにされていた。
「うわあああ!!このままじゃジリ貧ですよ!どうすればいいですか!」
「くそっ!最悪巻き込んで自爆するしかねぇ!遺書でも書くんだ!!」
最後尾で踏ん張っているドクターとジェシカとは裏腹に、先頭車両の内部は比較的穏やかであった。
「う~ん。これどうすんの?かなりヤバい状況だと思うんだけど・・・。」
「見れば分かる。相手の運転席だけ撃ち抜くことは出来ないのか?」
「足場が安定してないからムリ!なんとかして
スコープ越しに後方を警戒するサンクタのペンギン急便職員。
ハンドルを力強く握り、隣から聞こえるボヤキに受け流すループス。
彼女は申し訳程度に整備された山道から外れないように運転することが精一杯だった。
「厳しいな。ドクターの車両と連絡が繋がらない。エクシア、お前だけでも行ってやれ。」
「よ~し!いっちょ暴れてやりますか!」
そう言うとエクシアは仰々しい銃火器を担ぎ、腕を捲りながらドアを開ける。
瞬間、敵の放ったアーツが頬を掠める。
「・・・うわっ。ちょっと怖いかも・・・。テキサス?運転席代わるから行ってきてよ。」
「はぁ・・・。速く行かないと手遅れになるぞ。」
一方、車列後方ではドクターとジェシカ達が必死に耐えていた。
「もう弾丸が尽きそうです!次追突されたら車ごと終わりますよ!」
「お困りかい?悩める少年少女たち!」
ボンネットから聞こえる声。この状況ならどんな人にでも助力を乞うところだが、これ以上にない助っ人だった。
「エクシアさん!中に入ってください!あぁ、助かりました・・・。」
「ん~。とりあえず、アイツらぶっ飛ばしてから話そっか!リーダー!作戦は?」
「車両が限界だ!山道を抜け次第車列から離脱し白兵戦を仕掛ける!我々の命より要人の命を優先しろ!!」
車内のオペレーターたちが覚悟を決めたように息を整える。
ジェシカが座席下に落下した弾丸を拾おうとした時、敵車両から不穏な声が聞こえた。
『おい!めっちゃしぶといじゃねぇか!話と違うぞ!』
『もういい!ランチャー持って来い!道ごと消し飛ばしてやる!!』
みるみるうちに蒼白になっていくジェシカの顔。
車内に危機を伝える時には既に遅かった。
ドオオオオオオン!!!
「うおおおおお!?なんだぁ!?」
突如としてひっくり返る車両。
天地が逆になった衝撃で思わず外に吹き飛ばされる。
「かなりマズいな・・・。さて、どうするか・・・。」
テキサスはエクシアが乗り込んだ車両が爆破されたのを見て、任務を優先するか、仲間を優先するかで対応に困っていた。
奥歯を軋ませ、ハンドルを放せない状況を恨めしく思うと、後部座席の補助オペレーターから声をかけられる。
『テキサスさん。敵性対象はドクターの車両を追跡していきました。このまま脱出しましょう。』
「・・・本気で言っているのか?」
味方の指揮官を見捨てるとも言える提案に耳を疑う。
『はい。今回の任務は護衛対象の安否が最重要とされています。イレギュラーな事態が発生したとは言え、プラン通りに行動して頂ければロドスとしても助かります。』
「・・・なら貴様が運転しろ。規則に従って仲間を失い続けるがいい。」
そう言い放つとテキサスはドアを開け、ヒラリと身を投げ、地面を切りつけて衝撃を殺し、華麗に着地する。
「さて、わたしも向かうか・・・。」
坂道を転がり落ちながらドクターたちは車内でミキサーになり、落ち着いた時には既にグロッキーになっていた。
「・・・おい、全員無事か・・・。」
「うぷっ・・・。大丈夫です・・・。」
「ちょっと・・・。これはヤバいかもね・・・。」
周囲を見渡すと、敵の集団に囲まれていた。
こちらの戦力は数名の戦闘オペレーターと1人の足手まとい。
対する相手は3台の改造車に約10数名の武装集団。
控えめに言ってかなり危機である。
「・・・見逃してくれたら助かるんだが。いくら欲しい?」
『てめえらの命で十分だ。女以外は殺してやるから安心しとけよ?』
敵が武器を抜く。
しゃがんでいたエクシアとジェシカが前に飛び出し、ドクターが負傷した運転手を抱え、遮蔽物に身を隠す。
「アップルパイッ!!」
「射撃開始します!!」
静まり返った木々の中で銃声が鳴り響く。
『クソッ!こいつら強えぞ!』
「ジェシカ!敵の装備を撃ち抜け!殺害しても構わん!全滅だけは避けるんだ!」
ドクターが手榴弾を投げる。
エクシアがその意図を察してか、弾丸で一発。そのグレネードを狙撃した。
バアアアン!!
目の前で人間が破裂する。固まっていた敵集団を巻き込み、甚大なダメージを与えた。
他の一般オペレーターたちが体勢を崩した敵に覆いかぶさり制圧していく。
「ナイスリーダー!今の良かったよ!」
「エクシアさんッ!前!!」
「・・・へ?」
脇見をしたエクシアの頭上に大きな影が出現する。
煙の中からハンマーが出現し、鼻先を掠めた。
ドガアアアアン!!!
「うわあっ!・・・びっくりした~。」
『仲間が殺されたんじゃあ手加減できねえなぁ!?オイ!!』
一際大柄な男が現れる。手に持ったハンマーはレユニオンのボンバークラッシャーを彷彿させた。
「退けエクシア!撤退する!」
「ちょ、ちょ、あたしヤバいかも!!」
武芸の欠片も感じられないハンマーの大振りがエクシアを横から突き上げる。
「ぐッッ・・・!!ゲホッ!あたし死ぬかも!!」
「援護します!!」
「行くな!戻れジェシカ!!」
ドクターが発煙弾を投げた後、エクシアを救出し、森に撤退する。
「ううう・・・。ウッ! げえええ・・・・・・。」
エクシアが耐え切れず吐血する。骨のみならず内臓までダメージが入っているのだろう。
医療オペレーターが対応に追われているが、それでも完全回復は難しいはずだ。
「ドクター。このままじゃあ皆アイツに潰されてしまいます・・・。」
「ドクター。どうすれば・・・。」
「ドクター!」 「ドクター・・・。」 「ドクター?」
最大戦力のエクシアを失ったことで、かなり戦況が悪くなった。
状況の悪化は皆を更に不安がらせ、神の采配に縋る声が大きくなる。
(エクシアが戦闘不能になった今、無傷で逃走は難しいな・・・。)
(戦えるオペレーターは、狙撃と術師1人。前衛が2人か。いざとなれば私も肉壁くらいにはなれるか?)
「・・・あのハンマー野郎を打倒する。死にたくない奴はエクシアの傍にいろ。」
死にたい人間なんていない。誰だってそんなものだ。
しかし、ここに居る全員は仲間を生存させるために死なんとすることを選んだ。
『はぁ・・・。コソコソ隠れやがって。森ごと焼いちまえばいいんだよ!!』
『そんなことしたらウォルモンドの憲兵が飛んでくんだろが・・・。』
殺した者達から奪ったであろう装備をギラつかせ、木々をかき分けながら進むゲリラ兵。
完全に油断しきっているタイミングで、草木の間から男が飛び出した。
「うおおおおおおッッ!!!」
『なんだコイツ!!』
ガギイイイン!!
決死の攻撃も軽く受け止められる。
『コイツ足震えてやがる!素人以下の一般人だぜ!!』
「俺なんかが勝負決められるわけねぇだろ・・・!後ろ見てみろダボハゼが!!」
ハンマーの男が後ろ振り向く。
そこには自分に付いて来ていたはずの子分たちが倒れていた。
『あ˝あ˝!?てめぇ何しやがった!!』
「後ろ見ろって言っただろが!!」
倒れていた1人の子分(?)が立ち上がり、練り上げたアーツをハンマー男に向けて射出する。
その者が身に着けていた装備はグレネードによって四散した男の装備だった。
『いってぇ!!片目が潰れたぞ!!』
「油断してんじゃねえよ!上見てみるんだな!!」
ハンマー男は新人オペレーターの言う通りに上空を見上げる。
しかし・・・
『あ?なんもねぇじゃねぇか・・・。』
「敵の言うことを素直に聞く奴がいるかよバーカ。」
新人オペレーターの後ろの茂みから別の声が聞こえる。
そう気づいた瞬間に、草木の間から拳銃を持った厚着の男が飛び出す。
『なッ・・・!!』
「ゼロ距離射撃だ!ありがたく頂戴しやがれ!!」
ドクターは新人オペレーターの肩を踏み台にし、ハンマー男の片目に銃口を突き付けた。
パアアン・・・!
再び辺りが静寂に包まれる。
ハンマー男は脳幹を撃ち抜かれて仰向けに倒れ、そのまま2度と立ち上がることはなかった。
「は、ハハ。生き残ったのか・・・。」
「あぁ。私たちの作戦勝ちだ。相手がバカで良かったよ・・・。」
新人オペレーターたちが安堵し、地面に崩れ落ちる。
「いやぁ~。正面から突っ込めって言われた時はドクターを殺して自分も死のうって思いました~。」
「わたしだって!敵の装備つけて渾身の一撃を打ち込むまでじっとしてろって言われたんですよ!?なんか装備の内側に肉が付いてるし・・・。」
すぐ側の樹木からヨジヨジとジェシカが降りてくる。
「まぁ、失敗しても上から脳天撃ち抜ける場所にいましたから・・・。その時はハンマーに一番近かった人が死んじゃいますけど・・・。」
「だから私が飛び出したんだ。まさか
結局、増援のテキサスが到着したのは決着がついてから数十分経過した時であった。
【ロドス 医療棟】
「ドクター!?戦闘に参加したと聞きましたよ!あなたはもっと指揮官ということを自覚して下さい!」
可愛らしくも力強い声がロドスに響き渡る。
「すまないなアーミヤ。でもホントに死ぬかと思ったんだぞ?」
「でももだってもありません! 本当に心配したんですからね!!」
先の戦闘での負傷者は運転を担当していたオペレーターとエクシアの2名だけであった。
少ない負傷者で賊を壊滅させたという功績は、ドクターの指揮能力の高さをアピールするには十分だった。
特に、新人オペレーターの中ではドクターに対する信頼度は大きく上昇したことだろう。
しかし、過去のドクターを知る人物からすれば、ようやく救出したドクターを再び失いかけたという事実は大きな衝撃を与えた。
「作戦の内容は評価しかねるものだが、その身を犠牲にしてまでも部下を救おうとする姿勢は高く評価しよう。」
「あっ、ケルシー先生・・・。」
アーミヤが耳を垂らし、困ったような顔になる。
如何せんドクターとケルシーの仲は決して良いものとは言えなかったからである。この時は。
「・・・素直に褒められないのか?」
「フン。目立った外傷も無し。不測の事態に臨機応変に対応できる。本当に記憶を失っているのか?」
ドクターの診断報告書に目を通しながら話を進める。
どうやら彼女は記憶が戻ったかどうかの確認をしに来ただけのようだ。
「・・・本当に怪我は無いんだな?」
「え?あ、あぁ。」
そう答えるとケルシーは踵を返して退室していく。
「あの、ケルシー先生は素直じゃないので・・・。心の中では心配してるんだと思いますよ・・・?」
アーミヤに励まされ、多少の元気がでる。
年端もいかぬ少女に慰められるなど、あっていいのだろうか。
【ロドス カフェテリア】
要人の警護任務は無事完遂されたと聞き、安心したドクターはコーヒーをチビチビと飲むのであった。
「よっす!元気にしてた~?」
ガタンと隣の椅子が雑に動かされる。
カウンター席だから結構距離が近い。女性特有の良い匂いを感じながらも、ドクターはそれをコーヒーでかき消す。
「エクシアか・・・。体はどうなんだ?」
「え?もしかしてセクハラ?」
「違う。その様子なら大丈夫そうだな・・・。」
血反吐を吐き散らかしていたのに、ものの数時間で回復したらしい。
種族としての強さもあるだろうが、きっと当たり所が悪くならないように調整したのだろう。
「いやぁ~。実はあたし全部見ちゃったんだよね~。」
「・・・何が。」
グイっと身を寄せてくるエクシア。
からかうような顔つきはどこぞの健康優良不良少年を連想させた。
「『ゼロ距離射撃だ!ありがたく頂戴しやがれ!!』」
「く~!痺れたね!!」
「やめてくれないか・・・。アドレナリン放出しまくってたんだよ。」
勢いに乗っていた時のテンションをコスられるほど屈辱なことはない。
当のエクシアに悪気が無いというのだから余計に恥ずかしい。
「ねぇ。リーダーって銃撃ったことあるの?」
「いや、人を撃ったのは初めてだ。一応訓練とかには参加してたんだがな、的に当たらんものだからすぐに飽きてしまったよ。」
「あははは!じゃあさ、今度あたしの銃使ってみる?」
サンクタにとって銃というのは自身をサンクタたらしめる象徴のようなものである。
意外と信心深いエクシアが他人に銃を触らせるということは、それだけ信頼しているということなのだ。
「いや、遠慮しておくよ。間違えて破壊してしまったら敵わないからな。」
「え~!しょぼいピストルかなんかだと思ってない?一発当たれば死ぬ弾が一秒で13発出るんだよ!」
かなり積極的に押してくるものだからドクターも断るのも申し訳ないと思い、誘いに乗ってしまう。
断る理由も普通に射撃が下手くそというだけだったのだが。
「じゃっ!また連絡するから!あたしの電話はワンコールで出てね!」
「・・・はいはい。」
エクシアが退店したのを確認すると、静かにため息をつく。
「『なんか面倒なのに気に入られちゃったな~』って思ってない?」
「モスティマ。何で隠れてたんだ?」
隅の方でケーキを食べていたモスティマが近寄ってくる。
エクシアとは違う落ち着いた立ち振る舞いは自然と大人な雰囲気を出していた。
「ふふ、一生懸命な子は応援しちゃうものでしょ?」
「エクシアはいつも君を探しているんだぞ。可哀そうとは思わないのか?」
「嘘。わたしに気づかずに君の隣に座ったんだ。初めから君を探してたんじゃないかな?」
「ふふ、それが何を意味してどう捉えるかはドクター次第だけどね。」
ニヤリと笑うモスティマ。
彼女はいつも全てを知ったような口振りで物を語る。
「・・・何のことやら。」
「言っておくけど、人生は一回きりだよ。選ぶってことは、それ以外の物は捨てるってことだからね。」
彼女はドクターよりも世界を知っている。
年齢的な意味ではない。人生経験的な意味でだ。
きっと彼女にしか理解できない境地があるのだろう。
「知っているさ・・・。」
「知ってるだけでしょ?卑怯者。わたしのことは何も選ばず捨てたくせに。」
彼女はそう言うと姿を消す。時間でも止めたのだろうか。
そしてドクターは自分の胸ポケットにケーキの領収書が突っ込まれていることに気がついた。
【ロドス 訓練場】
「ん~・・・。もうちょい上かも。ほら脇締めて!足は肩幅!スコープじゃなくて的を見る!」
訓練場に珍しい2人が来たものだから、その分ギャラリーも多くなる。
指揮官が銃の撃ち方に苦戦している姿のソレは、周りから見ると実に滑稽に写っていることだろう。
「エクシアはどうやって撃ってるんだ?」
「あたしたちは体の一部みたいなものだからね。なんなら片手でも撃てるよ!」
センスとかそれ以前の問題だった。
ドクターは銃の扱いについてスパルタ指導を受けたが、結局的を貫いたのは1マガジンで2発であった。
「あはは・・・。ここまで下手だとむしろ才能だね・・・。」
「・・・カリスマは然るべくして射撃が下手なんだよ。少佐もそうだったからな。」
【ペンギン急便 応接室(笑)】
「それでケルシーが言ったんだよ。『殺されるまで黙っている生物なんて存在しない。』ってよ。」
「ほぉ・・・?それで何てアンサーしたんだ?」
汚すぎる応接室で皇帝とドクターが世間話をする。
いざという時になると本領を発揮する者同士、リスペクトできる部分があるのだろうか。
「それで言ってやったんだよ。『殺されてから喋る生物はいるのか?』ってな。」
「ハハハハハ!!クリティカルじゃねぇか!最高だなオイ!」
廊下まで響く声に聴き耳を立て、アップルパイを作るエクシア。
どこに笑う要素があるのかと思いながらも、男はそんなもんなんだと勝手に結論付け、焼いたパイを応接室まで運ぶ。
「相当入れ込んでいるようだな。」
「ん?・・・テキサス。」
廊下に続く扉の横に相棒が立つ。
その様子は普段のものではなく、警告を促すようなものであった。
「あの男は信用するな。奴はわたしたちを駒としか認識していない。」
「それは・・・過去のドクターの話じゃないの?」
「人の本質は簡単には変わらない。」
テキサスはドクターの事を快く思っていないようだ。
それは本能的な意味ではない、対象を理解していない故に発生する自己防衛の感情。
そして、初対面での警戒心が強い人ほど依存しやすいということをエクシアは知っていた。
「あの人は違う。何でかは分からないけど。この人のために強くなりたい!って思う時がテキサスにもいつか来るよ。」
「アイツがエクシアたちが言う『義人』って奴なのか?」
「どうだろ。もしかしたらそうかも知れない。あれもこれも
テキサスはエクシアを睨みつける。
育った環境が違うからか、テキサスは他人を簡単に信じることが出来ない。
「・・・また宗教か。救われないことなど一番理解しているだろ。」
「さぁ?テキサスこそ、足元掬われないように気をつけてね!」
【ロドス 執務室】
「最近エクシアさんと仲良しみたいですね・・・。」
アーミヤがポツリと言葉を放つ。
悪態とまではいかないが、特に上手でもない皮肉を言うあたり、かなりご立腹なのだろう。
「そうか?あまり感じなかったが・・・。」
「いけない事ではないんですが、その、ベタベタしてるなって思っただけです。」
ドクターとエクシアはよく行動を共にすることが多かった。
しかし、それはアーミヤが想像しているような甘い付き合いではなく、気の合う友達としてだった。
少なくとも、ドクターはそう認識していた。
「エクシアだけじゃないぞ?皆と仲良くしてるからな。」
「むっ・・・。わたしとは付き合いが悪いように感じられますが・・・。」
アーミヤの苦言に乾いた笑いを発する。
確かに特定の人物ばかりとの接触を続けるのもよろしくない気がした。
「身近な存在の大切さは失わないと気が付かないものなんだよ。」
「本当にドクターは口が達者ですね・・・。」
わざと聞こえる大きさのため息を出すアーミヤ。
身の振る舞い方には気をつけなければならないと、ドクターは改めて実感した。
【龍門市街 大型デパート】
「いよっ!今日は遅かったね。もしかして忙しかった?」
普段のペンギン急便の制服ではない完全プライベートの服装。
といっても華美なものではなく、いつでも走り出せるような軽装であった。
エクシアの人間性を表しているのだろうか、綺麗さや可愛らしさを重視せず、活発さをアピールしたようなものだった。
「いや、少し渋滞に引っかかってしまっただけだ。待たせてしまってすまない。」
「いいよいいよ!あたしもさっき着いたばっかだから!」
ロドスやペンギン急便アジトで会話することは多々あったが、こうして市街に繰り出すというのは初めてであった。
ドクターは相変わらず普段の厚着だったが。
・・・・・
「見てコレ!あたしに似合うと思わない?」
洋服屋にてエクシアが気に入った服を持って見せびらかす。
女性用の服装しか売っていないような小洒落た店なので、慣れないドクターは居心地の悪さを感じていた。
「あー。その服はアグタリス向けの服だからオススメできないな。」
ガヴィルたちが着る服は巨大な尻尾を通すための穴が開けられていることが多い。
エクシアは何もなかったといわんばかりに手に持ったソレを元の場所に戻す。
「・・・そういうのはもっと早く言ってくれると助かるんだけどな~?」
頬を微かに赤らめながら答えた彼女は、元々キープしていた服を持ってレジに向かう。
そんな時、ドクターは柄にもなく男を見せるのだった。
「全部よこせ。まとめて会計してくるから。」
「えぇっ!?そんなの悪いよ!これはあたしの買い物なんだから!」
気を遣って譲らないエクシア。カッコつけようと断固として譲らないドクター。
最後に折れたのはエクシアの方だった。
「もう、しょうがないなぁ。ご飯はあたしに払わせてよね!」
2、3着の服が詰め込まれた袋をプレゼントする。
受け取ったエクシアはホクホク顔で足を進める。
「ありがとね。リーダー!」
やはり彼女の顔は血に濡れているよりも、爽やかな笑いが似合っている。
・・・・・
「ホントにこんな所に入っていいのか・・・?」
眼前にそびえ立つ豪奢なビル。
龍門の繁栄を象徴するその建設物は、闇夜においても光り輝いていた。
「びっくりしたでしょ?あたしもそうだったもん。ごめんね!お城みたいな休憩所じゃなくて!」
「はぇ~。高すぎて頂点が見えないぞ・・・。」
エクシアのジョークも聞く余裕がないドクターは、田舎者丸出しと言わんばかりの行動を取っていた。
「ほらリーダー!早く行くよ!ただでさえリーダーの恰好は目立つんだから!」
上を見上げたまま動かないドクターは、強引に腕を組まれてビルの中に誘導される。
「よ~し、ここのレストランってもう開いてるっけ?」
『は、はい。開店しておりますが、お客様。ご予約の方は・・・?』
「あっ。ごめんね。
『・・・!!これは申し訳ございませんでした。ⅤⅠPルームをご用意いたします。』
ドクターは、目の前のやり取りを見てコネの重要さの理由を垣間見たような気がした。
・・・なんてことを考えながら、エクシアに連れられエレベーターの乗る。
「ここ何階まであるんだ?大裂溝でも起きたらただじゃ済まんだろ・・・。」
「・・・もしかして高所恐怖症だったりする?」
先程の破天荒さとは打って変わって急に心配な面持ちになる。
この面倒見の良さと、フットワークの軽さが彼女の最大の魅力なのだろう。
「・・・いいや、いつもカップラーメンだからこういう所は慣れてないんだよ。」
「あはは!リーダー絶対早死にするよ!」
目的地に到着し、エレベーターの扉が開く。
「うぉ・・・。何だココ・・・。」
微かに聞こえる細かな皿の音。誰一人として喋らない空間。
薄暗い照明と鮮やかな夜景が店内をロマンチックに彩っていた。
「・・・リーダー。ついて来て・・・。」
エクシアが小さく耳打ちする。
ドクターは、この空間の息苦しさに耐えかねて、足早にエクシアの隣を歩く。
辿り着いたVIPルームとやらは完全個室のようだった。
「あ˝あ˝~・・・。私には少し早すぎる場所だったみたいだ・・・。」
「ホント・・・。あたしもここの雰囲気には慣れないよ。」
向かい合わせに着席した瞬間、2人は瓦礫のように崩れ落ちる。
そして、テーブルクロスがコットンで作られた高級品だということに気がつくと、2人は飛び起きて姿勢を正すのであった。
「とりあえず、食べよっか!あたしの奢りなんだから目一杯召し上がれ!」
「・・・破産しても知らんからな。」
しばらくすると前菜が運ばれてくる。
エクシアは慣れた手つきで口に運んでいく。
普段の立ち振る舞いからは考えられないような上品な食べ方。それは美しさすらも感じるものだった。
「・・・ん?マナーとか気にしなくていいんだよ?」
「育ちの悪さがバレてしまうな・・・。」
「だいじょーぶだいじょーぶ。ここにはあたしとリーダーしかいないから・・・。」
一瞬ニヤリと不敵に笑う顔が見えた気がした。
なにか企んでいるな。と考えたが、心配するほどの事では無いと自己完結した。
それほどエクシアのことを信頼していたのだ。無論、逆もまた然り。
「これ、美味しいな・・・。」
「そう?よかった!バカ舌になってんじゃないかって思ってたから安心した!」
そうして運ばれてくる魚料理やローストを食す。
エクシアの食事作法を見よう見まねでするものだから、お世辞にもドクターの食べ方は行儀の良いものとは言えなかった。
「・・・うん?あっ、そういうことか。難しいな・・・。」
「・・・・・・ふふっ。」
スムーズに事が進まず、苦戦しているドクターの様子を見て、エクシアは微笑んでいるのであった。
「エクシア。今モスティマと同じ顔をしているぞ。」
「ゑ?嬉しいような悔しいような・・・。あっ、バカにした笑いじゃないからね。」
運ばれてくるフルコースも終わりに差し掛かり、デザートの甘味が提供される。
「ふぅ。結構お腹いっぱいになるね・・・。」
ショートケーキを半分口にして、エクシアは夜景を見る。
「デザートはアップルパイが良かったんだけどな・・・。」
「・・・なーに言ってんの!」
彼女の横顔は夜景の光に照らされ、静謐な雰囲気を放っていた。
龍門の光がライトだとしたら、彼女は舞台女優だろうか。
「・・・綺麗だな。」
「そう?もっと褒めてもいいんだよ。」
エクシアではなく夜景のことを言ったつもりだったのだが、今更言うことも出来なくなった。
食器が片付けられ、室内が静寂に包まれる。
ドクターは慣れない空間に終始キョドリまくっていたが、不思議と居心地の悪さは感じなかった。
エクシアに背中を預けても良いと思えるようになっていたからだろうか。
「・・・ねぇリーダー?」
「おん?何だ?」
ドクターが満腹感から情けない声を発する。
一方、エクシアは普段とは違うシリアスな表情をしていた。
「あたしたちさ、結構一緒にいるじゃん。それでさ・・・。」
彼はこの空気の感じを知っていた。
彼とて伊達に大人になっていないのだ。経験に基づく予測が脳内を駆け巡る。
「まぁ、なんというかさ。ちょっと待って。緊張してきた・・・。」
途絶え途絶えの呼吸を整え、顔を手のひらで扇ぐエクシア。
ドクターは途端に申し訳なく感じ、今すぐにでも土下座したい後悔に陥った。
「あのさ、あたしと・・・・・・」
上の立場に立つ者として気を付けなければならないことは、人に対応の区別をつけないことだ。
故に1人の仲間を恋愛対象として見るなど、
「付き合ってみない?」
【ペンギン急便アジト 未明】
月も沈み、陽も出ていない深夜。
草木も寝静まり、日々の喧騒の元凶であるギャング達も肝臓を休めている頃だろう。
だが、ペンギン急便のアジトでは微かな灯りが廊下に漏れていた。
「・・・おや、これまた珍しい。」
久方ぶりにアジトに帰還したモスティマ。
といっても、陽が昇る頃にはまたここを出発するのだろうが。
「・・・モスティマ。帰ってきてたんだ。」
「ふふ、酷い顔。もしや寝てないんじゃない?」
真新しいテーブルに突っ伏していたエクシア。その目元は赤く染まっていた。
「キミが泣くなんてわたしが故郷を離れた時以来かな?ほら、鼻水拭いて。」
「うっ・・・。あたしはもうダメだ。全部なくしちゃった・・・。」
かなり参っている様子のエクシアを慰めながら、モスティマは話を聞く。
話を聞くといっても、ある程度の予想はついているようだった。
エクシアはモスティマに最近の出来事を全て話す。
護衛任務の時に男らしさを見たことを、以来なんとかしてコミュニケーションを取ってきたこと。
そしてついに2人で出かけるまで漕ぎついたこと。
「完璧な計画だと思ってたのに・・・。連絡先だって交換してたのに!!」
「はぁ・・・。そんなに飲んじゃって、どうなっても知らないよ?」
ウジウジ言いながら秘密の隠し酒を一気に流し込む。
呆れ顔のモスティマは、エクシアの放った言葉の一欠片に一抹の違和感を感じた。
「・・・ねぇ。ケータイ見せてくれない?」
「え?別にいいけど・・・。面白い物なんかないよ?」
何かを疑う目でエクシアのケータイを開く。
スムーズに連絡先一覧を開くと、そこにはペンギン急便のメンバーとドクターのアドレスしか記載されていなかった。
「ねぇ、これって仕事用のケータイ?」
「いや?個人的に使ってるやつ・・・。」
酔いが回ってきたのか、泣き疲れたのか、どちらにせよ眠そうな声を響かせながら答える。
「エクシアのことだからもっと遊んでるかと思った・・・。」
「今回は頑張ったみたいだけど、キミ彼氏作ったことないでしょ。」
「うぐぅ・・・。言わない約束でしょソレは・・・。」
再びエクシアがテーブルに伏す。
彼女は急ぎ過ぎたのだ。焦らなくても良い競争だったのに、先を越されたくないが為に必死になってしまった。
「初めての恋だったんだろう?でも相手が悪かったね。ドクターは女の敵だから、どちらにせよだったかもね。」
モスティマはエクシアに一件を諦めるように促す。
かつて彼女がそうしたように。また、そうされたように。
「・・・わたしのリーダーを悪く言わないで。」
「・・・ん?エクシア?」
酔い潰れ寸前の人間とは思えないほどの覇気。
あまりにも強大な威圧感にモスティマが一歩退く。
「試されてるんだ・・・。義人を導くのがわたしたちの使命なんだから・・・。」
「エクシア!気をしっかり持て!落ち着くんだ!」
彼女は信心深かった。他の誰よりも神の御心に従い、生活を律し続けた。
反面、その超次元的思考は、やがて彼女の精神すらも蝕んでいった。
「くっ!エクシア、今ドクターに連絡をするから待っていて・・・!」
対処するには最早アーツを使わなければならないといった局面で、モスティマは元凶であるドクターに回線を繋ぐのであった。
「・・・ねぇ。なんでモスティマが彼の電話番号知ってるの?」
「あっ、いや、これは・・・。」
エクシアが席を立つ。
千鳥足もいいとこだが、それ以上に焦点の定まっていない眼球が異常さを増加させていた。
「早く答えろ!背徳者が!!」
ジャキイイイン・・・!!
臨戦態勢。我々はその状態のことを『オーバーロード』と呼称している。
いくらモスティマといえど、正面からかち合えば無事では済まないだろう。
「ちょ、普通に連絡先くらい知ってるでしょ?」
「・・・・・・・・・えっ?」
2人が硬直する。
「えっ、だって連絡先交換するのは心に決めた人だけって・・・。」
「・・・誰が言ったのそんなこと。」
エクシアが武装を解除する。
酔い、または狂気から醒めた姿は、まるで抜け殻のようだった。
「・・・お姉ちゃんだけど。」
「・・・・・・ハァ。」
【ロドス カフェテリア】
「・・・・・・。」
男は、いや、厚着仮面の不審者は、一人静かにブラックコーヒーを啜っていた。
「・・・苦すぎ。」
「隣、失礼するぞ?」
隣以外にも席は空いているはずなのに女性はドクターの隣に座る。
「ギターノか・・・。どうしたんだ?」
「何、浮かない顔をしていたのでな、いや、言わんでも分かる。人間関係じゃろ。それもかなり酷いことをした。違うか?」
横目でチラリと見られただけで殆ど当てられてしまった。
こうも的中させられては占いも馬鹿には出来ない。
「・・・それも占いってやつか?」
「
苦いコーヒーを一気に流し込む。
口から喉。喉から胸へと黒い濁流が流れていく。
ギターノに物申したいことも、まとめて流し込む。
「意中の者がおらんから、ハッキリとした答えが出せんのじゃろ。
今回の一件だって、『一人の女性ではなく、共に戦う親友として認識していた。』とさえ言えば赤髪のペンギンも泣かずに済んだものを。」
過去を覗いたかのように喋り続けるギターノに対して、ドクターは沈黙を続けていた。
「あの青髪のペンギン、なんといったか。モスティマじゃったか?おぬしがあの娘にしたことが赤髪のペンギンに知られた時、
ギターノは言うだけ言うとそそくさとカフェから出ていく。
本当に警告だけしに来たようだ。
そして、ドクターは自分の胸ポケットにギターノの伝票が入っていることに気がついた。
「おっと、すまんの。ケガはない・・・か?」
曲がり角で何者かとぶつかる。
瞬間、鋭い刃物を腹に当てられ、その場で静止する。
「今から言う質問に答えろ。これは脅迫だ。」
「これはこれは、ペンギン急便の・・・赤髪のパートナーか。」
ギターノは押し付けられたナイフがただの脅しであり、本気で刺すつもりは無いということを理解した。
「貴様、エクシアのことをどこで聞いた。そして何をどこまで知っている。」
「ふん、ただの占いじゃ。どれ、今ここでその精密性を試してみてもいいんじゃぞ・・・?」
ギターノが落としたカードが突如として意思を持ったように跳ね回り、テキサスが持つナイフを弾き飛ばす。
「ん?ほうほう。なるほどなぁ。しかし、これまた
「・・・何が言いたい。」
飛び回るカードで陣を組み、テキサスを牽制するギターノ。
ピリついた空気なのだが、ギターノは不敵な笑みを浮かべる。
「テキサスじゃったか。おぬしの行く末は寸分の狂いも無い
「・・・わたしには関係無い。」
「ちなみに位置は『未来』。まぁ、急がんでも大丈夫じゃ。『おぬしの場合』はな。」
痛いところを突かれたのか、ギターノが言い終わる前にテキサスは姿を消す。
「しかし、
「ドクター?今日はエクシアさんはいらっしゃらないんですか?」
「えっ?もう来ない?・・・ごめんなさい。そんなつもりはなかったんです・・・。」
「でも、ドクターこそ悲しい顔していますよ??」
「もしケンカしたんだったら、わたしも謝りに行きますから。元気出してくださいね?」
「でもお仕事は頑張ってくださいね?」
お目汚し失礼いたしました。
モスティマさんって170㎝もあるんですね。びっくりしました。