もちろん昇進Ⅱです。
ちなみに特化はしてません。
編成にも組み込んでません。
でも信頼度は200です。
生まれながらの体質のせいで、損ばかりしてきました。
【ロドス 研究棟】
「・・・では、また明日。同じ時間にここで集合だ。」
「はい。了解しましたケルシー先生。では、さようなら。」
わたしはケルシー先生の私室兼研究室から退室し、彼女の耳に入らない程度の大きさでため息をつきました。
このロドスに自身の居場所を見つけてからも、その境遇に変化は無く、人の温もりすら知らない日々を送ってきました。
「・・・相変わらず、本当に長い廊下ね。」
ただ一つ変わったことがあるとするのならば、ケルシー先生に検診と称した人体実験を行われているということでしょうか。
最初の頃こそ抵抗がありましたが、やはり慣れというのは怖いですわね。あっという間に何も感じなくなってしまいました。
そうして、お礼として毎回渡される食券を握り、わたしは今日も食堂に向かうのでありました・・・。
今日も、ひとりで。
【ロドス 食堂】
「あの、ここ、空いてますでしょうか?」
『あ、いや、もうちょっとで人が来るから・・・。ハハ・・・。』
「・・・・・・。」
「もし?こちらの席はどなたか座られますの?」
『あー・・・。座る感じ・・・?』
「・・・いえ、確認しただけです。」
まぁ、別に慣れてますし・・・。
そんなに傷つきませんけど、むしろ変に気を遣われる方が傷つくといいますか・・・。
言葉に表そうとすると難しいですわね。
「結局、いつもの席ですか・・・。」
わたしは独り言をポツリポツリとつぶやきました。
元々独りでいることが殆どでしたが、このような人が集まる場所ですと、孤独感が増長されて意図せず独り言が出てしまうのです。
誰にも聞かれていないといいのですが・・・。
「アズリウスさん!いつも窓際にいるけど、何か見えたりするの?」
「えっ、あっ、いえ、特に意味はありませんが・・・。」
いきなり声をかけられたので、どもってしまいました。
気持ち悪いと思われたりしないでしょうか。
「ふ~ん?そうなんだ~。今日のご飯担当はマッターホルンおじさんだから、シチューがオススメだよ!」
「シチューですか。いいかもしれませんね。」
厨房担当のグムさんがオススメするのなら間違いないでしょう。
決して、久しぶりに人と会話ができて舞い上がっていた訳ではありませんので。
そうしてわたしは、運ばれてきたシチューを静かに食べるのでありました。
「アズリウスさんは静かに食べる方が好きなの?」
「いえ、そのようなことはありませんが・・・普段から一人で食べているものですので。」
わたしは自虐交じりに答えました。
「ええ~!?そんなのもったいないよ!ご飯はみんなで食べた方が美味しいんだよ!?」
「そ、そうなのですか?知りませんでした・・・。」
わたしはスプーンを口に運ぶ途中で手を止め、情けの無い恰好でグムさんの話を聞いていました。
「そうだよ!次からアズリウスさんもグム達と一緒に食べようね!!」
うっ・・・。笑顔が眩しい・・・。
「その、『達』というのは、一体どちら様なのでしょうか・・・?」
「ん?いろんな人がいるよ?だってロドスのみんなは仲間だもん!」
あぁ、涙が出てきそうですわ・・・。
ですが、『今度皆で遊びに行こうね!』等の企画は実現しないことの方が多いということをわたしは知っているのです。
まぁ、雑誌の情報ですけども。
「あっ。イースチナちゃんに呼ばれてたんだった・・・。今から間に合うかな・・・。」
途端に彼女の表情がしおれていってしまいました。
身近な人物の表情が曇っていくのを見るというのは、気分が良いものではありませんね。
ですので、わたしは彼女のためにひと肌脱ぐことにしました。
「これを使いますか?注射するだけで走力が4倍になりますわよ。」
「ひぇっ・・・。それって大丈夫なやつなの・・・?」
「治験は済ませておりますわ。肉体が耐え切れるかどうかは使用者次第ですが。」
「あ、あはは・・・。じゃあ、グムはそろそろ行かなくちゃいけないから・・・。」
そう言い残すと彼女は足早に出て行ってしまいました。
なぜわたしの薬品は不人気なのでしょうか・・・。
やはり色彩でしょうか?
【ロドス 宿舎】
自慢ではありませんが、わたしが歩くと皆が通路を空けてくれますのよ。
ですので、歩く場所は常に真ん中。
ここに来たばかりの時はわたしの体臭の問題なのかと思いましたが、全然そんなことではなくて安心しました。
「ただいま戻りました・・・。」
わたしの部屋。
もちろん未だ誰も入れたことのない部屋。
今後も入れる予定はございませんので、雑多な物が積みあがっています。
「なーんて、返事もないのにバカみたいですわ。」
わたしは前々から取り掛かっていた研究の論文の製作に力を入れることにしました。
これといった任務もない日は、友人などと遊びにでも行きたいところですが、その願いも叶うのはしばらく後になりそうです。
山のように積まれた書類を少し動かすと、下の方から封筒が出てきました。
「これは・・・?」
記憶に無い封筒。
そもそもわたしに届く郵便物事態多い訳ではないので、存在を忘れてしまう等の事はまず無いと思っていましたが、丁度疲労していた時に届いたのでしょうか。
そのような不可解な現象も、特に深く考えず封をピリピリと破りました。
『アズリウスへ。
残念ながらドクターです。
医学薬学の分野について、あなたの知見をご教授いただければ幸いです。
お時間に余裕が出来ましたら、返信または私の執務室までよろしくお願いいたします。
追記、わたしが連絡を寄越したことはケルシーには内密に。
読んだら溶かせ。』
わたしは非常に驚きました。
思い返してみると、封筒に送り主の氏名が記入されていない時点で考えるべきでした。
わたしはドクターの指示通りに紙面を毒で溶き焦がし、執務室があるエリアへ駆けました。
普段から活発に運動する性分ではないので、その時のわたしはきっと凄い表情をしていたのだと思います。
厚かましい身分ではございますが、焦りと同時に、ドクターがわたしの力を必要としているということに喜びを感じていました。
「はぁ、もっと持久力が必要のようですね・・・。」
歩幅を遅らせて胸で呼吸し、なんとかして体力を回復させようとしました。
今日という日が良い事ばかり起きる日なのは確かだったのですが、その反面、悪い事も起きる日だったようだったみたいです。
「アズリウス。通路を走るのは感心しないな。」
「これはケルシー先生。もしかして検診のお時間ですの?」
ケルシー先生はこの艦内において一、二を争うほどの切れ者ですので、正直なことを言うとあまり会いたくありませんでした。
「何かあったみたいだな。よければ聞かせてもらえないだろうか?」
「あら?質問の答えは聞かせてもらえませんの?それとも、わたしの冗談は返す価値も無いと?」
わたしは先を急がなければなりませんでした。
かと言って、ドクターのようにケルシー先生のような人物と敵対するような度胸ある行動は取れませんでした。
ですので、穏便に、それでいて素早くこの状況を切り抜ける方法を模索する以外ありませんでした。
「君は放つ言葉にも毒があるようだな。執務室に用があるのなら同行しよう。」
どうも都合の悪いですこと。
ですがわたしは賢い女ですので、冷静かつ沈着に対応しました。
ドクターがわたしを呼んだ理由が判明していない以上、争っても仕方ありません故。
「そうですの。奇遇ですわね。では、共に参りましょうか。」
「・・・・・・あぁ。」
ケルシー先生はわたしがここで牙を向くと思っていたのでしょうか。
予想外のことでさぞ驚いたでしょうね。
「アズリウスは何の要件で執務室に向かう?」
「特にこれと言って理由はないのですが、強いて言うのならばドクターに会いにでしょうか。」
わたしの前を歩いていたケルシー先生の足が少し止まりました。
本人に自覚はないのでしょうか、彼女はドクターが関係する問題になるとピリつくのです。
「ケルシー先生は何の要件ですの?」
「単純に仕事だ。誰かが記憶を落としたせいで激務に追われている。」
彼女は顔色一つ変えず、再び足を進めて行きました。
トラブルは無い方が過ごしやすいということを知っていますので、そのまま執務室に向かうことにしました。
わたしは彼女の背中を見つめながら後についていきます。
その気になれば、背後から一撃。わたしの毒でそのまま深い眠りに誘うことだって出来ました。
「・・・変な気は起こさない方がいいぞ。今後のお互いの為にもな。」
「あらあら。一体何の話をされてまして?」
まぁ、恐ろしい。
前言撤回。わたしは服の裏地に隠した麻酔銃から手を放し、大人しく歩くことにしました。
【ロドス 執務室】
思えば、わたしがここを訪れるのはいつぶりでしょうか。
彼が毎日忙しいというのは誰でも予想できることなので、当然遊びに行くなんてこともできませんでした。
「鍵がかかっているな。小癪なマネを・・・。」
ケルシー先生はボソッと言い放つと、白衣の中から名状しがたい機械の触手が生えてきました。
「Mon3tr。解錠しろ。」
『もんすたー』と呼ばれた機械は、素早い動作で扉のロックをハックしていきました。
あの時、背中に銃を向けていたら、わたしもあの機械生命体の錆になっていたのでしょうか。
「空いたぞ。先に入って要件を伝えるといい。」
ケルシー先生は意地悪に笑うと、扉を開けながらわたしの方を見ました。
「・・・えぇ。ありがとうございます。」
非常にマズイですわね。
ドクターからケルシー先生には内密にと釘を刺されているものですので、目の前で来た要件と封筒の件を話す訳にはいきません。
上手に話を作る必要がありました。
「どうした?行かないのか?」
「いえ、ただいま行きます・・・。」
わたしの心拍は異常なまでに脈動していました。
単純にドクターと顔を合わすというのもあるのですが、それ以上にわたしの失敗次第でドクターがケルシー先生にシバかれてしまうからです。
「えっ・・・。何、怖い。」
ドクターは乱暴な音を立てて開かれたドアに酷く驚いていたようでした。
怖いという気持ちはわたしも同じですので。
「ごきげんよう。ドクター。」
「・・・ごきげんよう。アズリウス。」
挨拶をしたのはいいのですが、その後の会話の内容が思いつきません。
変な奴と思われなければいいのですが・・・。
とにかく、2人で会話をするためにもケルシー先生の存在は少々厄介でした。
「まぁ、なんだ。何か飲むか?」
緊張しているわたしを察してか、ドクターは席に座るように言いました。
断る理由もありませんので、それに従いました。
「思えば、私はアズリウスが好きな食べ物すら把握していなかったな。教えてくれないか。」
「甘い物なら何でも好きですわ。でも、人と食べるご飯はもっと好きかも・・・。」
わたしはグムさんとシチューを食べた出来事を思い出しながら答えました。
もし、彼と二人きりで食事でも出来たらどんなに幸せでしょうか。
「たしかに、一人で食べる料理は寂しいからな。」
「あら。カップラーメンは料理に入りませんわよ?」
ケルシー先生は未だ部屋の外で待機しているようでした。
口頭で伝えることができないので、文面で伝えることも考えましたが、あの機械生命体の性能が分からない以上具体的な話に持っていくことが出来ずにいました。
「はは、間違いないな。」
ドクターはそう言いながら、一枚の紙片をわたしに見せました。
『ケルシーに聞かれているんだろ?話は2人でしよう。話を合わせてくれ。』
普通に考えれば、執務室のドアを解錠する権限を持っているのは、ドクターとアーミヤさんだけ。
強引にこじ開ける芸当が出来るのはケルシー先生かクロージャさんしかいません。
彼の推理に頷きながら、わたしは返答を紙片に書き込みました。
『もんすたーとやらは大丈夫なのでしょうか。あと、かなり秘密の事なのですか?』
『Mon3trの視覚はケルシーとリンクしている。できることは盗聴しかない。数週間以内に部屋に向かう。その時に話す。』
かなり焦っているご様子でしたので、これ以上の詮索は無粋だと感じ、紙片を静かに溶かしました。
「・・・では、そろそろ失礼しますわ。」
「あぁ。では、また今度。」
わたしはそそくさと退室しました。
ドアを静かに閉めると、そこで待っていたケルシー先生に呼び止められます。
「随分と早い用事だったな。」
「えぇ。話す内容を忘れてしまいましたが故に。」
「・・・何を話した。」
冷たい瞳でこちらを見つめるケルシー先生。
あぁ、こわい。体の芯まで凍てついてしまいそう。
・・・・
「さぁ?おはなしなんてしていませんもの。」
嘘はついていません。
わたしはいつかドクターが来られる日に備えて、私室の掃除に向かいました。
アズリウスちゃんはこれからも少しづつ登場させます。
かわいいからね。しょうがないね。