ペンギン急便の皆様からチョコをもらいたいだけの人生でした。
年始の騒ぎも時間とともに過ぎ去り、普段の日常が戻って来る。
いつだって、どんな時だって、基本的には時間が解決してくれるのだ。
日々の落ち着きが戻ってきたといっても、2月14日という数字にはソワソワする人もいるのではないだろうか。
そう、バレンタインデーである。
一年に一度しかない行事のため、人一倍気合いを入れるオペレーターも居るとか居ないとか・・・。
【ロドス 連絡通路】
「大将、今月のアレどうするんすか?結構気張らないとヤバいっすよ。」
「?アレってなんだ?殲滅作戦のことか?」
「は~・・・。アレっすよ。バレンタインすよ。お返しとか考えとかないと間に合いやせんよ?」
謎の機材たちが鎮座する通路を2人の男が歩く。
1人は厚着で仮面をした不審者。もう一人はほのかに魚臭いギャング的風貌の男。
「あー、もうそんな時期か。つっても全部義理だろ?適当に買えばいいだろ。」
「女の子ってそういうの気にしますよ?マジで。」
「・・・マジ?」
ドクターは財布の薄い財布の中身を確認すると、隠した通帳の場所を思い出す。
隣を歩くジェイは、厨房が乙女たちに占領されることを憂いている様子だった。
「まぁ、買い出しとかなら付き合いやすよ?っても、龍門市街くらいしか案内出来ないんすけど。」
「何も起きないことを祈っていてくれ。」
2人の男はワクワクを極める世間とは違い、深いため息を放つのであった。
【CASEⅠアンジェリーナ】
「ん~、どんなの作ろっかな~。早めに決めないと間に合わなくなりそう・・・。」
少女は流行りの雑誌をめくりながら考える。
友達がたくさんいる彼女は、いわゆる友チョコを作るだけで大仕事だった。
「あ!これ可愛い!でもこっちもいいな~。」
あれよこれよと考えているうちに時間ばかりが過ぎていく。
何事も、計画を立てている時が一番楽しいのだ。
「まぁ、去年と同じが一番安定するかな~?」
大切なのは、質ではなく気持ちである。と結論付けたアンジェリーナは、保存していたレシピを見ておさらいするのであった。
【CASEⅡペンギン急便】
薄暗く、お世辞にもいい環境とは言えない場所。
龍門スラムと市街の狭間に居を構えるペンギン急便も、今月ばかりは世間の色に染まっていた。
「ねぇ、あたしへのバレンタインはクッキーがいいなぁ~?」
「・・・ねだるものじゃないだろ。バレンタインって。」
「とにかく、テキサスがくれるのって毎年同じで変わり映えしないの!」
「うっ・・・。善処しよう。」
新調したソファーにひっくり返り、テキサスを逆さまで見上げるエクシア。
「エクシアこそ、今年もアップルパイじゃないの?」
すぐ側でケータイをいじっていたソラが問う。
痛いところを突かれたエクシアは苦笑いをした。
「あはは~・・・。あたしはホラ、その道のプロだからさ?」
「プロって言ってもいつも同じ味じゃんか。」
「うっ・・・。仕事が丁寧って言ってよ!」
「特別な日は量を増やせば問題ないとか考えてるだろ。」
「うぅっ・・・。今日は厳しいね・・・。」
テキサスとソラのダメ出しがエクシアを襲う。
「「正直飽きた。」」
「あー!もう聞きたくない!」
エクシアがソファーから飛び起き、テキサスに襲い掛かった瞬間、扉が大きな音を立てて開かれる。
3人の視線が扉に集中する。
「あ˝あ˝あ˝!!どいつもこいつも甘い空気だして!なんやねん!ホンマ腹立つわ!!」
クロワッサンが怒号を上げて入室する。
どうやら、世間の浮ついた雰囲気に嫌気が差しているようだ。
「どこ見てもチョコだの彼氏だのあーだのこーだの!龍門は硬派な都市ちゃうんか!!」
「まぁ、商戦なんだから仕方ないでしょ~」
「エクシアの言う通り。わたしたちも儲かるからいいじゃないか。」
「んんんん~~!そういう話ちゃうんよな~~!うおりゃあああ!!」
クロワッサンは2月と12月が近づくと世界を憎みだすのである。
そして、ペンギン急便の面々に八つ当たりをするのだ。
「ひゃあああ!!ちょっと!いきなり触らないでよ!」
「なにを~?エクシアも触らせる相手おらんのやろ~?よいではないかよいではないか~!」
クロワッサンがエクシアにのしかかり、くんずほぐれつしている。
「あれが男に縁がない者の末路だ。ソラはあんな感じになるなよ。」
「なんか・・・、百合ですね・・・。」
モゾモゾと蠢く2人を尻目に、テキサスは1人で菓子作りの本を読むのであった。
【CASEⅢ ライン生命】
「はい、手を消毒したらまずはバターを冷蔵庫から出します。」
「サイレンスー?マーガリンじゃ駄目なのか?」
「マーガリンは脂肪酸が大量に含まれているから危険なの。だから使っちゃダメ。」
「ねね、この冷蔵庫火力不足じゃない?ラボに持ってって改造するべきじゃない?」
「同意。涼しいのはマゼランが喜びます。」
ライン生命の連中がキッチンにて騒いでいる。
きたる2月14日のためのお菓子を試作しているようだが、如何せんスムーズに進行していないようだ。
なにせ一癖も二癖もある人物たちである。
一筋縄には行くわけがない。
「はい、バターが室温に戻る間に薄力粉を振るっておきましょう。」
「サイレンスー?小麦粉じゃ駄目なのか?」
「使う粉でお菓子の食感が変わるの。クッキーを作るのに安定するのは薄力粉ってだけで、最終的に美味しく出来ればなんでもいいよ。」
「ねね。凄いインスピレーション!薄力粉の代わりに抗生物質入れたら万能薬が完成するんじゃない?」
「エンジニアのメイヤーが医療科学に口出しですか??」
「・・・いや冗談じゃーん。そんな怒らないでよフィリオプシス?」
なんやかんや言って、真面目に話を聞いているのはイフリータだけであった。
「はい、バターを混ぜたら卵を溶いて砂糖を投入します。」
「サイレンスー?砂糖はどんくらい入れたらいいんだ?」
「好きなだけ入れたらいいんじゃない?直接甘さに繋がるわけじゃないしね。」
「サイレンスさん。砂糖を入れなくとも甘くなる方法を知っていますよ。」
メイヤーとじゃれていたフィリオプシスが口を開く。
サイレンスとイフリータは実に興味深いといったような表情で彼女を見る。
「ある手段を行うんです。それでは行きますよ。」
「・・・萌え萌えキュン。」
「「「・・・・・・。」」」
「・・・・・・失言でした。」
「はい、混ぜたら手で形を整えて1時間くらい冷蔵庫に寝かします。」
「サイレンスー?サイズはどれくらいなんだ?」
「食べる時の大きさは後で決めるから、大体でいいよ。大事なのは空気を抜くことかな。」
「フィリオプシス?世間一般は評価しないだろうけど、わたしはそういう所好きだよ?」
「体温の上昇を確認。排熱ができません。」
そうして騒ぎながらも楽しく、友情を深めるのであった。
【CASEⅣ ウルサス学生自治団】
悲惨なる道を辿り、今なおその残滓に囚われている彼女たちでも、内側は女子高生なのである。
もちろん、イベントなどに興味を示さないはずがなく・・・。
「いやぁー、アタシは遠慮しとくわ。」
「えぇ~??ズィマーお姉ちゃんも作ろうよ~。」
「アタシはバレンタインとか、そういうキャラじゃねぇだろ・・・。」
あまり乗り気ではないズィマーに説得を試みるグム。
いつまで経っても終わりが見えないやり取りに、イースチナが口を挟む。
「キャラとかではなくて、日頃お世話になっている人に贈るのですよ。それほど軽薄な人だとは思っていませんでした。」
「ぐッ・・・。まぁ、そこまで言うなら作ってやらん事もないけどよ・・・。」
「作るもなにも、誰に贈るかが大事なのですよ?」
「そうだよ!グムは全員にあげるけど、ズィマーお姉ちゃんは誰に贈るの?」
ズィマーがバツが悪そうな顔をして、小さな声で答える。
「・・・おまえらしかいねぇだろが。」
その言葉を聞いた2人はニンマリとするのであった。
「あなたはどうするんですか?」
「わたし?わたしも皆と変わらないわ。お世話になってる人に渡すだけよ。」
「かなり失礼なことを言いますが、本命に贈る物は普通な感じがよろしいかと・・・」
イースチナは、拭えぬ血が滲んだナイフを梱包するロサを見てそう言った。
【CASEⅤ ロドス】
「ケルシー先生は、チョコとか作らないんですか?」
うさ耳、もしくはロバの耳を動かしながら少女は質問する。
一方、ケルシー先生と呼ばれた女性の様子は不機嫌そのものであった。
「フン、実に下らない。そもそもキリスト教ではないわたしが何故作らねばならない。第一にチョコレートは脂質と砂糖の塊のような物だ。そんなものを送り付ける者なんて、相手の肉体のことを何も考えていないバカしかいないに決まっている。もしくは、企業の競争に利用されているということを自覚していない愚者そのものだ。」
眉間にシワを寄せ、早口でまくし立てる女性。
さながら拗らせてしまった人を見るような視線で、アーミヤは言葉を放つ。
「でも、ドクターはチョコが好きみたいですよ?」
「バレンタインという文化が根付いたのは商業的な理由なのだが、日頃から世話になっている人物に贈呈するというのは理に適っているな。確かに、チョコレートはお世辞にも体に良い食べ物ではないが、カカオにはオブロミンやカフェインが含まれているからな。コレステロール値や血圧を下げる効果も期待できる。
よし、アーミヤ。わたしは厨房に向かう。」
「あはは・・・。頑張り過ぎないようにしてくださいね・・・。」
【ロドス 14日 執務室】
暗がりの執務室にて、2人の男がテーブルを見つめる。
「まぁ、俺は毎年0個なんで別に羨ましいっていう感情は抱かないんすけど・・・。」
「義理でもちょっとコレは多いんじゃないっすかね~・・・。大将?」
「いや、仕分けしたから本来はもっと多い。」
「えっと・・・つまり全部本命?」
「・・・そういうことになる。」
「・・・流石っすね、大将。漢として尊敬するっす。」
ジェイだって男性なのだ。
一度くらい女の子に囲まれて寝てみたいと思ったことだってある。
しかし、いざそれが可能な男と出会うと、羨ましさよりも可哀そうという感情が優先したのであった。
「(・・・上手に生きてくださいね!大将!!)」
そう心の中で思ったジェイは、普段通りの魚に囲まれる日々に戻っていくのであった・・・。
明日の下準備をしようと厨房に向かう途中、曲がり角にて顔馴染みとすれ違う。
「あっ、すいやせん。・・・なんだ、アンタだったか。」
「ぶつかりそうになったのに、『なんだ、アンタだったか』は無いんじゃないですか?」
「へいへい、すんませんでしたっと。」
「・・・はい、コレあげます。」
「何でぇ、余りもんのチョコですかい?」
「いいから、今ここで食べてください。」
ジェイは言われた通りに小さなチョコレートを口に放り込む。
「・・・おん。甘ぇ。美味しいじゃないの、コレ。」
「・・・そう、それなら安心しました。」
「っていうか、アンタってこういう行事に参加するタイプだったか?」
少女は決まりが悪そうな顔で答える。
「そもそもチョコを作るのも初めてです。」
「へぇ?でも何で俺なんだい。」
「・・・バーーーーーカ。」
ワイフーは舌を出して罵倒した。
一番時間がかかっているのはサブタイトル考える時です。
2話くらいからカッコつけたタイトルにしなきゃ良かったと後悔する日々です。