方舟の主と◯◯たち   作:山田澆季溷濁

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新章突入です。
だからといって何かが変わるわけではないんですけどね。


破章 負う者
まだまだ休んじゃダメですよ?


 記憶を失ってから数カ月、振り返ると様々なことがあった。

 

 行動予備隊の子たちとの接触。

 ケルシーとの一騎打ちの果て。

 テキサスの名誉ある負傷。

 ライン生命組への勧誘。

 プラマニクスに犯されかけた件。

 エクシアとの気まずい関係。

 アズリウスとの密約。

 バレンタインに貰ったチョコをジェイと共に食べきったこと。

 ロサが自身の居場所を見つけた話。

 

 そして、モスティマが再び姿を現すようになったこと。

 

 上記したことはほんの一部でしかなく、本来はもっと色んなことがあったはずだ。

 それも激動の日々を前にするとどうしても霞んでしまい、そして忘れていってしまう。

 私はデスクチェアーを軋ませ、思い出に耽る。

 

 本当に色んなことがあったな……。

 

「なにオジサンみたいなこと考えてるんですか?」

 アーミヤよ、男は25を超えたらオッサンなんだぞ。賞味期限が早いんだぞ。

「ドクターは添加物を沢山取っているので大丈夫ですよ」

 褒めているのか貶しているのか、アーミヤはそんなことを呟きながらドクターの分の仕事を淡々と整理していくのであった。

「そんなことするわけないじゃないですか……。下らないこと考えてないで早く仕事を終わらせてくださいね」

 …………。

 

 数時間かけてアーミヤと共に仕事を片付ける。

 途中、アーミヤが思い出したかのように私に問いかけた。

 

「そういえば、ドクターは秘書や補佐官は配属しないんですか?」

 ん? 秘書ってなんだ? 

「えぇ……。今まで本当に一人で執務に勤しんでいたんですか……?」

 

 懐疑的というよりも若干引いてる感じのアーミヤ。

 本当に知らなかったんだよ! 

 

「まぁ、無理にとは言いませんが、より効率的に仕事を行うなら配属させることをオススメしますよ?」

 

 ちなみにアーミヤはサベージを、ケルシーはレッドに役を与えているようだ。

 何にせよ早く仕事を切り上げられる手段があるのなら使うしかない。

 

 もっとも、募集をかけたところで私の執務を手伝いたいなんて言う物好きはいないと思うのだが。

 

「……倍率凄くなりそうですね」

 気長に待てばいいだろ……。

 

 そうして私は連絡室にいるエイヤフィヤトラに求人票を申し込むのであった。

 

 

【ロドス 執務室 数日後】

 

「ドクター、例の求人の期限が来ましたよ。きっと驚きますよ?」

 あー、そんなのあったな。すっかり忘れていたよ。

「もう! 自分で企画したことくらい覚えておいてください!」

 

 そう言うとアーミヤは奥の方から巨大なダンボールを抱えてくる。

 まさかアレ全部そうなの? なんて考えている最中に、確かに送り主が情報室になっていることが確認できた。

 

「わたしは大体予想できたましたが、まさかここまで集まるとは思ってませんでした……」

 この中から1人選ぶっていうのは少々残酷なんじゃないか? 

「まぁ、確かにそうですけど……。だからと言って誰も雇用しないというのは失礼だと思いませんか?」

 

 アーミヤの言う通りで、求人を出した癖に『やっぱ選べませんでしたw』というのは虫が良すぎる話であった。

 私は微妙な顔をしながら、ロサからもらったナイフでダンボールに切り込みを入れる。

 

 しかし、まさかここまで集まるとは思わなかったな……。

「まったく、ドクターは自分の立場が強大なものだということを自覚してくださいね」

 その割には扱いが雑な気がしなくもないんだが? 

「あっ、ちなみに求人を出しておいて誰も雇用しないというのは社会人以前に人間として最低ですからね?」

 

 大量に積み重なる書類に一通り目を通す。

 どれも見知った顔ぶれが続く中、お世辞にも暇を持て余しているような感じではないオペレーターの名前もあった。

 それほど秘書という役職に価値があるとは思えないのだが。

 

「『何をするか』よりも『誰とするか』で皆さん応募したんだと思いますよ?」

 しかし、自分のことを疎かにするほどのものでは無いがなぁ。

「まぁ、わたしも経営責任者じゃなかったらドクターの傍で働きたかったものですけど……」

 おいおい、そんなこと言ったらケルシーがすっ飛んでくるぞ。

「あはは……。確かに失言でしたね。どこで誰が聞き耳を立てているかも分かりませんし」

 

 書類のある程度の仕分けを終えた後、わたしとアーミヤは本格的な選考に取り掛かる。

 とは言っても、『最低条件が日常生活において支障がない程度の読み書きができること』というかなりルーズなものなので、そのフィルターを通しても書類の枚数に変化は訪れなかった。

 

「う~ん、ドクターは具体的にどういう人材が必要なんですか?」

 私の代わりに執務を全部やってくれる人……。

「………………」

 いや、冗談だ。何せ秘書というものについて理解が無いのでな。アーミヤはどんなことをさせてるんだ? 

「わたしはサベージさんにスケジュール調整をしてもらってますよ? 直接頼んだわけではありませんが、半ば強制的にっていう感じですけど……」

 食事管理とかされたらたまらんな。

 

「そこまで言うなら全員採用でいいんじゃないですか??」

 確かに、それでいいか。

「えっ?」

 えっ? 

 

 

【ロドス 食堂】

 

「なんてことがあったんですけど……」

 

 食堂の一区画にて、ケルシーとアーミヤが食事をする。

 向かい合わせに座っている2人の周囲には何とも言えない空気が充満しており、辺りのオペレーターや職員たちもにわかに近寄り難い雰囲気を出していた。

 

「……数週間たたん内に一人に戻るだろう。ドクターは誰かを特別扱いするということが苦手だからな」

「まぁ、方法はどうであれスピードが速くなるのならとやかく言うつもりはありませんが……」

 

 2人の心配は案の定的中し、ドクターは再び騒動の中に身を投げるのであった。

 

 

 

 

【本日の秘書 カランド貿易】

 

 執務室といったらデスクワークを行う場所である。

 もちろんそれ以上でもそれ以下でもない。よって、大したスペースもなく、人が6人入れば十分といったものであった。

 そんな部屋にカランド貿易のオペレーターたちが4名。当然何も起きないわけもなく……。

 

「盟友よ。こちらの守備は上々だ。このスペースで進めるなら午前中には全て片が付く」

「あぁ、助かるよ。次は作戦記録のデータを情報室に送って……」

「あっ、それなら僕がやっておきましたよ?」

 

 山積していた仕事がシルバーアッシュ、クーリエの手によって目にも止まらぬ速さで処理されていく。

 マッターホルンは食堂での仕事があるため、執務室には居なかったが、もし彼が居れば既に本日の業務は終わっていたことだろう。

 

「むっ……。記述に不備があるぞ」

「むぅ……。所々にミスがありますね」

 

 執務室の真ん中に座るドクターの両端から、ヒラリと2枚のプリントが差し出される。

 業務上のミスなど修正すれば何の問題もないのだが、問題は渡してきた人物だった。

 

「……盟友、腕が疲れる。早く取ってくれ」

「……ドクター? 腕が重たいので早く取ってくれます?」

 

 クーリエが微妙な表情をしながらこちらを見る。

 

「あ、ありがとう。シルバーアッシュ……」

「むぅ……?」

「ありがとう。プラマニクス……」

 

 バリバリとペンを動かすシルバーアッシュに対して、プラマニクスは執務室の片隅でクリフハートと共にオセロをしていた。

 それでも覗き見ただけで書類の不備を指摘できるというポイントは、彼女の有能さを表現させるには十分だった。

 

「プラマニクスとクリフハートは何でここに居るんだ?」

「ん~? わたしはプラマニクスに誘われたからなんだけどね!」

「……逆に来てはいけない理由があるのですか?」

 

 かなり返答に困る質問をされる。

 どうやらプラマニクスは質問に質問を返しても良いという教育を受けてきたらしい。

 

 やがてシルバーアッシュが苦言を呈する。

 

「……働かないのなら外に出ていろ。集中できん」

「むぅ……? 仕方ありませんね」

 

 プラマニクスが埃一つ付着していない豪奢な服を翻し、クーリエの代わりに椅子に座る。

 容赦なく袖を捲った彼女は、青白く細やかな指でペンを握る。

 

 そして、ようやく作業を開始したかと思うと、みるみるうちにデスクの上の物が無くなっていった。

 普段からそれくらいやる気を出してくれたらカランド貿易の連中も動きやすくなるというのに。

 

「ふぅ、ざっとこんな感じですかね。何か文句でも?」

 

 プラマニクスは冷徹な視線を兄であるシルバーアッシュに向ける。

 極度のサボり魔という本性を知らなければ、その姿はさながら冬の女王といった雰囲気であった。

 

「…………」

 

 饒舌な妹君に対し、兄君は何も語らない。

 自分よりも仕事が出来る妹という存在は、それだけでプライドを傷つけるには十分だった。

 そして、それに追い打ちをかけるというように、プラマニクスは発言する。

 

「むぅ?? むむむ??? お兄様の机にはまだお仕事が残っているように見えますが???」

「…………」

 

 シルバーアッシュはプラマニクスの煽りにうんともすんとも言わず、対抗するようにペンを握ったかと思うと、やはり目にも止まらぬ速さで最後の仕上げに取り掛かるのであった。

 

「全て終わったぞ。確認してみろ」

「もう終わったのか……」

 

 普段であれば数時間かかるものが、わずか数十分で片付いてしまう。

 単純に人数の違いもあるが、それ以上に助っ人の能力が強大すぎた。

 

「あれ、プラマニクス? ちょいと間違えている部分があるのだが……」

「むぅ……。やはり慣れないことはするものではありませんね」

 

 決まりが悪そうな表情をしながらプラマニクスは答える。

 クリフハートはクーリエとオセロをする。軍配はクーリエにあるようで、クリフハートは頭を抱えていた。

 

 珍しいプラマニクスの失態にシルバーアッシュはすかさず小言を入れる。

 

「やはり、仕事が早ければ良いというわけないな。精密性が欠けていたら話も始まらないからな」

「…………」

 

 ギロリと睨みあう2人。間に挟まれたドクターの心境はいかなものだったか。

 そもそもこの2人が同じ部屋に居るという状況自体が異常事態なのだ。クーリエは始終ニコニコしていたが、やはり心境は複雑なのだろうか。

 とにかくドクターは、これ機に2人の関係が改善されることを祈るばかりであった。

 

 

「いやぁ~、お二人のギスり具合はドクターが関係してると思うんですけどね~」

「ん? クーリエ、何か言ったか?」

「いいえ? 何も言ってませんよ?」

 

 

 

 

 

【本日の秘書 セイロン】

 

「意地悪な商人がわたし達に『この機械は市場の未来が見える力を持っている。金を預けておくだけで勝手に倍になるんだ』と言いましたの」

「ほう? それはなんとも怪しい提案だな」

「それでケルシー先生が言いましたの。『わたしは市場を破壊できる資産を持っている。その機械の総資産は何兆円だ?』ってね」

「ハハハ! ケルシーは負けず嫌いなんだなぁ!」

 

 執務室にてドクターとセイロンが談笑する。

 長いソファーに座る彼女たち。ならば誰だ執務作業をしているかというと…………。

 

「お嬢様、こちらの書類は片付きました。3時間後に視察の要件でロドスを発ちますので、それまでごゆっくりと」

「えぇ、ありがとうシュヴァルツ。あなたは何でもできるのね」

「視察に行くのは私なのだが……」

 

 なぜか付属してきたシュヴァルツが全てやってくれた。

 どんな状況においても、仕事を行う人物は多い方が何かと便利なのだが、シュヴァルツはセイロンにペンを握らせないといった様子で執務に励んでいた。

 そのため、ドクターは次々と置かれていく書類にハンコを押すだけの作業をこなしていた。

 

「それにしても、一人で全てやるなんてやっぱり大変じゃない?」

「いえ、単純作業なら得意分野ですので。()()()()()()()()など1時間もかかりません」

 

 シュヴァルツが放つ言葉には随所に鋭いトゲが見られた。

 戦闘能力が高いオペレーターは事務作業が得意という決まりでもあったりするのだろうか。

 ドクターがそんな下らないことを考えている内に、セイロンは全員分の飲み物を用意しに行った。

 

 部屋にはシュヴァルツとドクターの二人だけが残された。

 

「…………」

「…………」

「(気まずっ……!!)」

 

 シュヴァルツはいついかなる時でもセイロンの傍に居た。

 したがって、ドクターと二人きりになるというのはお互いにとっても初めての経験であった。

 もちろん会話など弾まない。それどころか喋りかける話題すら思いつかなかった。

 

「その、悪いな。全部やってくれて……」

「……気にする必要はありません。わたしはセイロンお嬢様の手伝いですので」

「そうなのか。あー、申し訳ないが、朱肉だけ取らせてもらえるか?」

 

 掠れ気味になったハンコを元に戻すため、ドクターは朱肉が保管してある引き出しに近づく。

 ドクターが一歩踏み出した瞬間、シュヴァルツが物凄い形相で席を立つ。

 

「……ッ!!」

「? どうかしたか?」

「それ以上近づかないで下さい……!!」

 

 唐突なご意見にドクターは足を止める。

 お堅い信条を持つシュヴァルツからすれば、ドクターの楽観的な思考回路はいささか理解し難いものだということは、ドクター自身も理解していた。

 しかし、まさかここまで拒否されるとは彼も思っていなかったようだ。

 

「そ、そうか。それはすまなかったな……」

 

 シュヴァルツが鋭い眼光で睨みを効かせながら言葉を放つ。

 

「汚らわしい……! どうせセイロン様が居ない状況を狙ってわたしを襲うつもりなんでしょう……!!」

「……はい?」

「そもそもセイロンお嬢様を秘書にしたのも、弱みを握ってあわよくば3人であんなことやこんなことをするつもりだったからでしょう……!」

「いや、考えすぎだぞ」

「『ヒッヒッヒ! お嬢さんの前でこんな姿になるとは屈辱でゲスなぁ~w』みたいなことするつもりに決まっている……!」

 

 まるで地べたに這いつくばる砂虫を見たかのような眼でドクターを見る。

 軽蔑の意味合いの視線を向けられると同時に、好奇な眼差しを向けられていることに気づいた。

 

「ヒッヒッヒ!セイロンが飲み物を取りに行ってくれてかなり楽になったでゲスよww」

「くっ……! 殺せ!!」

「んなわけねぇだろ! バカか!!」

 

 両手を広げたシュヴァルツの脳天に拳骨を打ち込む。

 非戦闘員のドクターの拳など、大したダメージにはならないのだが、その場の空気を破壊をするには十分だった。

 

「さぁ、来い!むしろ来て!さぁ、さぁ!」

「行かねぇよ!!」

 

 そんなこんなやってる内に、セイロンが執務室に戻って来る。

 飲み物が並々注がれたコップを手にしていたため、シュヴァルツがコップをもらいに足を進める。

 先程の乱心がなかったかのように。

 

「あら? 二人とも変な恰好してどうされましたの?」

「いえ、何でもございません。お帰りが遅かったので心配していました」

「(なんだこいつヤベぇ!!)」

 

 シュヴァルツの変わり身の速さに驚きながら、ドクターはコップの水をチビチビと飲む。

 やがて、セイロンが再びソファーに腰をかけると話を再開させた。

 

「シュヴァルツも座りましょ?」

「いえ、わたしはここで十分ですので、どうぞお構いなく」

 

 セイロンは話が終わる前に飲み物を取りに行ってしまったため、途中までの内容を思い出すために手のひらを頬に当てた。

 かわいい。

 シュヴァルツに睨まれたドクターは、すかさずセイロンから視線を外すのであった。

 

「どこまで喋りましたっけ……?」

「あー、あれだ。ジェシカが金銭に縛られて生きてるって話か?」

 

「……縛られる?」

 

 

 

「そうそう! それで弾の補充が出来なくて訓練で置いてかれてるそうですよ?」

「BSWは自分の装備品は自腹だからなぁ。ブラック企業もいい所だな」

「ふふ。ロドスがそんなこと言っていいのかしら?」

 

「……置いてかれる?」

「さっきから何考えてんだよ……」

「いえ、なにも?」

 

 言葉の随所で何やら教育に悪そうなことを想像するシュヴァルツを無視し、本日の業務を終了した。

 

「シュヴァルツ……。おまえアホの一族だろ……」

「言葉責めのセンスがありませんね。やり直しです」

「そういうところだぞ……」

 

 

 

 

【本日の秘書 ケルシー、アーミヤ】

 

「いや、何でだよ!」

「口より手を動かせ。文句なら後で聞こう」

「まぁまぁ、わたしたちも一回くらい秘書になってもいいと思いませんか? ドクター」

 

 色んなオペレーターたちを秘書として採用したりしなかったりしたが、どれも共通した点は、皆自分のデスクで作業をしていたという点だ。

 しかし、今回の状況は少し変わっていた。座っているのはドクターだけで、他の二人はその後ろで彼のことを見守っていた。

 

「おい、スケジュールが重なっているぞ。予定を立てる前に優先順位をつけろ」

「ケルシー先生。最近お酒ばっかり飲んでますよ。注意してあげてくださいね」

「手が止まってるぞ。そろそろ休むか?」

 

 かれこれ数時間ぶっ通しでペンを握っていたため、もとより長くないドクターの集中力も限界に近づいていた。

 これまでの経験で、大勢で執務を行うほど時間が短縮できるということが証明されている。無論、一人で作業をすることの大変さも証明されている。

 

「アーミヤ、そろそろ疲れたんだが……」

「そうですか、疲れてしまいましたか」

「あぁ、監視されると普段より神経使うんだよ……」

「それって甘えですよね? 馬車馬のように働いてください」

 

 アーミヤは時間内に業務が終わらなければ露骨に態度が悪くなるのだ。

 そこまで残業代を払いたくないのか。

 

 ドクターは二人に聞こえないように小さなため息を吐くと、再びペンを握るのであった。

 というよりもペンを握らせられたのであった。

 アーミヤから非情な言葉を浴びせられていると、思わぬ助け舟を出される。

 

「……あまり虐めてやるなよ」

 

「大丈夫ですよケルシー先生。ドクターもこのお仕事の重要性を理解していますもんね?」

「理解していますもんね?」

「そうですよね? ドクター。ドクター? 返事は?」

 

「…………はい」

「アーミヤ…………」

 

 我が娘子のように可愛がってきた少女が、これほどの経営マシンになってしまうとは誰が予想できたであろうか。

 企業としては誠にありがたいことなのだが、手塩にかけた子が想い人を責める姿というのは見ていて気持ちの良いものではなかったであろう。

 実際にケルシーは微妙な顔をしながらドクターとアーミヤの姿を見ていた。

 

「わたしも少しくらいなら手伝おう……」

 

「ダメですよ。ケルシー先生はドクターの私生活を改善させるためのスケジュールを組んでください」

「決してドクターのことを虐めているわけではありませんよ?」

「これはドクターのためなんですから。ドクターのためっていうことは、即ちケルシー先生のためでもあるんですよ?」

「食生活についてはわたしが何とかしますので、どうかよろしくお願いしますね。ケルシー先生?」

 

 急に畳みかけられたかのような発言に、一瞬ケルシーがたじろぐ。

 

「…………分かった。よく分からんが、とりあえず分かった」

「はい。わたしはアズリウスさんのところに行ってくるので、くれぐれもサボっちゃダメですからね?」

「…………分かった。よく分かったし、とりあえず理解できた」

 

 アーミヤに圧倒され、呆然とする二人。その姿には、やはり長い期間共に居た者同士だから発せられる雰囲気があった。

 そして、ケルシーはポツリと呟く。

 

 

「イヤイヤ期なのだろうか……」

「いや、反抗期でしょ……」

 

 そう返答したドクターは、ケルシーと共に残りの執務作業に取り掛かるのであった。

 

「(結局、変な事考えずに今まで通りでやるのが一番なんだな…)」

 




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