方舟の主と◯◯たち   作:山田澆季溷濁

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補助オペレーターは使いどころが難しいですよね。


欲に頂無し(メイヤー)

最初は見るだけで満足だった。

その想いが自分の心の中で次第に強くなっていくのが理解できた。

だからといってその感情の増大が理解できたところで、日常生活というのは何一つ変わらず過ぎていく。

 

そして、やがてこう考えるようになっていった。

「ホンモノが欲しい」

 

 

 

【ロドス 研究棟 ライン生命】

 

『オレはオマエのことを忘れない!だからオマエもオレのことを忘れるな!』

 

少年が叫ぶ。

ひゅんっ、と音を立てて少年が剣を振るう。巻き上げられた砂埃が少年たちを覆い隠す。

薄茶色の煙幕の中で、少年たちの武器から発せられる火花だけが目視できた。

 

『小僧!殺し合いの最中にモノを語るなよ!』

『うおおおお!!』

 

オレンジ色の空が荒野で果たしあう二人を照らす。

瞬間、風が吹きあがり、二人の間のその向こうに一人の影が見えた。

 

『お、おまえは・・・!!』

『ふん、見てられないから助けに

 

 

ガー・・・・・・キュイイイイン・・・・・・

 

「あれ?処理落ちかな」

「はあああああ!?今いいとこだっただろうがよぉ!!」

 

映像を出力していた機械が不審な音を立てて停止する。どうやら、激しい戦闘シーンなどは負荷がかかってしまい、そのまま処理落ちしてしまうようだ。

長いソファーに座ってアニメを見ていた4人の中で、最も熱中していたイフリータが手足をジタバタさせて文句を言う。

 

「まぁ、いつかこうなるかもっていうのは予想できてたけどね」

「続きが気になります。ラボに居るメイヤーを呼びましょうか?」

「・・・それはそれで面倒だからやめて」

 

気だるげにソファーから立ち上がるサイレンス。

フィリオプシスがそれに付属して後をついていく。

ソファーの正面にある小机の上の映写機。小人の通り道でも覗くように映写機の不具合を考えるサイレンス。

生体医学の権威の彼女らでも、流石に機械の修理は難しいようだ。

 

結局、彼女らが行った処置は、息を吹きかけてから手のひらで横から叩くという雑なものだった。

 

 

 

【ロドス エンジニアルーム】

 

研究棟の丁度真下に位置する技術者の工房。

よほどの徘徊癖が無ければここに立ち入る者なんていないだろう。それほどこの場所には異質な空気が充満していた。

好きなことにはとことん熱中する。そんなメカニックバカたちの楽園でもあった。

 

ごちゃごちゃした謎の部品が部屋から溢れ出ている。どこの工房もそんな感じだ。

綺麗に整頓されている場所なんてここには存在しない。食事だって、完成間際の作品の上に座って食べるのだ。

もちろん、それは彼女にも言えたことだった。

 

「ん~。やっぱ変に改造しない方がよかったかな?」

「メイヤー、もう夕方だぞ。そろそろ休んだ方がいいんじゃないか?」

「そうだね、じゃあ今日はここまで!ありがとねドクター」

「いいや、構わんよ。私も座っていただけだからな」

 

ライン生命の制服と艶光る腕章を煌めかせ、メイヤーと呼ばれた女性は元気よく振り向く。

ドクターは目の前に鎮座する二足歩行が可能となった冷蔵庫にそっと触れる。

 

「あっ、壊れるかもだからあまり激しくしないでね!」

「赤いボタンだけは絶対に押しちゃダメなんだろ?」

「そうそう、丁重に扱ってよね!」

 

大げさにアピールされた赤いボタンには、これでもかと言わんばかりに『自爆スイッチ』と書かれていた。

二人は少し遅めの昼食を取る。メイヤーはサンドイッチを、ドクターは暖かな液体を飲む。

メイヤーはサンドイッチを齧る片手間でメカをいじくる。

 

「流石に補給しているときくらい手を休めたらどうなんだ?」

「いやいや、時間は有限、機械は無限だよ。今苦労した分わたしたちは楽になれるんだから!」

「まぁ、肉体は有限だから壊さんようにな・・・」

「あはは!人体のメンテナンスはサイレンスにお願いするから!」

 

足をバタつかせながら笑うメイヤー。

その足元ではカワウソ型のメカがせわしなく走り回っていた。

 

もちろん、そのカワウソ型のメカにも赤いボタンがついていた。

メイヤーとドクターは食事をしながら談笑する。

 

「毎回言ってることなんだけどね、人間にも燃料が必要なんだよね」

「・・・それは、空腹とかそういう感じの話か?」

メイヤーが首を横に振る。

「生きるための目標みたいな感じかな。何をするにしても到達点を立てなきゃやってられないでしょ?」

「ならメイヤーにとっての到達点は何なんだ?」

「わたしは、プログラミングしなくてもいいメカを発明することかな。例えば、考えただけで全部やってくれる機械なんて素晴らしいと思わない?」

ドクターがうつむいて

「私は・・・・・・」

 

しばらくの間沈黙が続く。

雑多に積まれた機械部品の山を踏みながら、メイヤーが静止したドクターに近づいてその腕を小突く。

 

「・・・・・・」

「あれ?ドクター?ありゃりゃ、眠っちゃったのか」

 

研究棟の真下に位置する技術者の工房。

そこをアジトにする者たちは他の者のことなど眼中にない。皆自分の理想のことしか考えていないのだ。

隣の工房の住人がどのようなことをしているのかなど、気にする者などここにはいない。

 

つまるところ、このロドスには珍しくやりたい放題が可能な場所であったのだ。

 

 

「おーい、メイヤー?今大丈夫か~?」

 

薄汚れたドアの向こうから声が聞こえる。

工房にお客さんが来るのは実に数週間ぶりであった。彼女自身ロドスではなく自身が管理するラボに身を置いていることが多いため、そうなることは必然でもあった。

メイヤーはある程度室内を片付けると、ドアに向かい、訪問者を招き入れる。

 

「ほいほい、イフリータ?どうかしたの?」

「いやな?コレ(映写機)の調子が悪くてよ。『修理できるから』って言ってサイレンスがトドメ刺したんだよ!」

 

イフリータが息をしていない映写機を抱えて地団駄を踏む。

メイヤーは彼女から映写機を受け取ると、山積みになった謎のパーツをどかし、工具箱を手にする。

 

「ん~、特にこれといった問題はないと思うけど・・・もしかして強い衝撃加えたりした?」

イフリータが頷く。

「フィリオプシスが振ってサイレンスが叩いたんだ!ほら、バスケットボールみたいによ!こうやって!」

 

メイヤーの作品兼兵器であるミーボが激しく揺らされる。

感情というものがプログラムされていない(ミーボ)は、イフリータになすがままにされる。

メイヤーもミーボに苦痛という感情が無いことを充分理解しているため、その様子を見て微笑んでいた。

 

「まぁ、完全に壊れてるわけじゃないから、5分くらいで起こせるかな」

「マジか!?へへっ、ありがとなメイヤー!」

 

隣の工房から二ェンとヴァルカンの口論が聞こえる。

明らかに何かが破壊される音が響く中で、イフリータは何事かと火炎放射器に指をかける。

 

「そんな気にすることじゃないよ。いつものことだからさ」

「でもよ・・・。アレ怪我すんじゃねぇか?」

「大丈夫大丈夫!方向性の違いとかいうやつだからさ」

「ほーん・・・。モノ作るやつは大変なんだな・・・」

 

廊下まで響き渡る隣室の叫び声を無視して、メイヤーは映写機の修理を行う。

イフリータは最初こそはその様子をじっと見ていたが、もともと我慢できる体質ではないので、次第に自身の髪先を弄ぶようになった。

そして、メイヤーの宣言通りの数分後。

 

「よし、これで多分起こせたかな。もし一生眠ったままだったら新しいの買って!」

「サンキューメイヤー!やっぱサイレンスとは一味違うな!」

 

イフリータが座っていた状態から飛び起きる。

修復されたついでに赤いボタンが追加された映写機を抱える。ただでさえ、仕事の邪魔をして修理してもらったのだ。これ以上メイヤーの業務を阻害してはいけないと思ったイフリータは、お礼をするとそそくさと研究棟に戻っていく。

 

道中、二ェンに敗れたのだろうか。ヴァルカンがひっくり返った姿で倒れていた。

油汚れに塗れていても、一応は婦女なのだ。イフリータは彼女を安全な場所(二ェンがいない場所)まで引きずろうとしたが、筋力が足らず途中で断念した。

代わりにドクターが着ているようなコートが落ちていたため、毛布の代わりにそれを被せておいたのであった。

 

 

場面は再び研究棟のライン生命のグループに戻る。

 

【ロドス 研究棟 ライン生命】

エンジニアルームから戻ってきたイフリータは、ドタドタと足音を立てて廊下を進む。

メイヤーたちが居た場所は、どちらかといえば騒がしい雰囲気であったが、研究棟は静かであったため、イフリータがドアをノックせずに開けた音もよく反響した。

 

「おい!直してもらったぜ!サイレンス、やっぱ初めからメイヤーに頼むべきだったんだよ」

「イフリータの言う通りです。それでは早速続きを見ましょうか」

 

イフリータとフィリオプシスがピカピカの映写機を囲み、小躍りしながら喜んでいる。

その姿はまるで、小動物を見つけた子供たちのようだった。

 

「へぇ、メイヤーが直してくれたんだ」

寝転がったマゼランが本を読みながら答える。

「・・・そんな珍しいことなの?」

体の向きだけをサイレンスの方に向ける。

「うん。また変な物作ってるみたい。ほら、最近顔だしてないでしょ?」

「あぁ~、確かにそうかも~。わたしも久しぶりにメイヤーちゃんのところに行こっかな~」

 

フィリオプシスたちは自力で映写機から映像を出力させようとしていたが、勝手が分からず混乱していた。

折角修理してもらったというのに、再び壊されてはたまったものではないので、サイレンスとマゼランは渋々映写機を作動させるのであった。

 

「あっ!映った、映ったぞ!おい、サイレンス!映ったぞ!」

「はいはい、見れば分かるって・・・」

 

ジャンプして歓喜するイフリータ。その姿は年相応のかわいらしさで溢れていた。

 

「映りました。映りましたよ、マゼランさん。見てください、映りましたよ」

「はいはい、見たら分かりますよ~っと」

 

ジャンプしないかわりに、リーベリ特有の頭部の羽をパタパタと動かす。

喜んでいるのだろうか、しかし鉱石病の症状がなければ彼女もきっとジャンプしていたであろう。

 

4人は再び長いソファーに腰をかける。

中央にサイレンスとイフリータ。その脇にマゼランとフィリオプシス。

組織に属する同業者というよりは、家族といった方が適切なのではないだろうか。それほど、彼女らの仲は睦まじいものだった。

 

この空間に彼女がいれば、サイレンスもきっと歯を見せて笑っていただろう。

 

 

 

 

 

「・・・えいっきし!」

「サリア?風邪か?」

「いいや、何でもない。ドクターの方こそ・・・・・・ぇえいっくし!」

「はっはっは。誰かに噂でもされてるんじゃないか?」

「まさか・・・。とりあえず服を着ないと・・・」

 

 

【ロドス エンジニアルーム】

 

時刻は丑三つ時に差し掛かっていた。多くのオペレーターや職員たちは、今頃熟睡していることであろう。

しかし、それは()()()オペレーターや職員の話であった。

エンジニアルームを根城とする者たちからすれば、虫も静まる深夜というのはインスピレーションが爆発する魔法の時間なのだ。

 

当然、メイヤーも例外ではない。

 

「はぁ、もうこんな時間か。ここがロドスだってこと忘れてたよ」

ここで活躍する者たちの為に、クロージャはエンジニアルームに消灯時刻というものを設けていなかった。

「こんな時間までよく頑張れるな・・・」

「だって寝たら忘れちゃうでしょ?待ち合わせに遅刻したくない時はどうする??」

メイヤーは意地悪そうに質問する。

「・・・ずっと起きてればいい」

ドクターの回答に満足そうな表情を浮かべる。

「120点!すばらしい!やっぱりドクターだね!朝起きれないなら寝なきゃいいだけだもんね!」

 

ふいっと顔を時計の方に視線を向ける。

少なくとも隣の工房ではない場所から、また別の叫び声が聞こえる。生命の危機を感じさせる声だったので、周辺の技術者たちが自慢のメカを引き連れて救助に行く。

どうやらマシンに服の袖を奪われてしまい、そのまま片腕を盗まれるところだったらしい。

 

 

その様子を見ていたメイヤーとドクター。

 

「・・・労災案件じゃないのか?」

「あはは!腕が無くなっても、わたしたちは()()ことが出来るからね。名高いエンジニアで五体満足の人の方が珍しいよ。特に源石加工の分野の人とかはね」

「・・・記憶しておこう」

 

二人に近づく人影。

 

「義手を独学で作るなんて、アンタみたいなやつにしかできねぇよ」

「あれ?まだ起きてたんだ・・・」

 

白を基調とした色の中に赤色がアクセントとして入っている。

健康的というか、艶やかというか、とにかく男性の目に優しい恰好をしている女性に話しかけられる。

 

「おぉ、夜通し麻雀するつもりだったんだけどよ。他の奴ら全員素っ裸にしちまったからお開きになったんだよ」

「二ェンは手加減を知らないからね~。ヴァルカンが発狂してたけど大丈夫なの?」

二ェンは腰に手を当ててケタケタと笑う。

「おん?安全な武器を作れって言うのがうるさくてな?気づいたら吹っ飛ばしちまってた」

 

それはもはや豪快というよりも暴君の方が近いのでは?とドクターは思ったが、それを口にすることはなかった。

機嫌を損ねてヴァルカンのように吹っ飛ばされては敵わないからだ。

 

「どうだドクター?ちょいと麻雀でもしないか?賭けでも脱衣でも何でもいいぞ?」

「も~、二ェンに勝てる人なんてドクターしかいないでしょ!」

 

二ェンが眉間にシワを寄せる。

「・・・・・・メイヤー、オマエ」

「・・・なぁに?」

メイヤーがニッコリと微笑みながら答える。

「いいや、また今度ドクターでも誘ってやってみるよ」

二ェンは踵を返したかと思うと、そのまま振り返ることはなかった。

メイヤーは、二ェンの派手な後ろ姿に話しかける。

「ねぇ、どこ行くの?」

 

「執務室。一人で行くから付いてくんなよな」

 

「メイヤー?そろそろ工房に戻らないか?」

メイヤーは静かに答える。

「・・・そうだね。課題点がたくさん見つかったからね」

 

「まずは・・・麻雀のルールをプログラムに組み込ませなきゃ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

【ロドス ドクターの私室】

 

「ドクター?いるんだろー?入るぞー?」

 

開けるというよりもぶち破るという感じで、二ェンが部屋に侵入する。

これでも厳重なロックが掛けられているのだが、最近はその仕事っぷりを発揮できずにいた。

 

「なんだぁ!?っていうか扉の使い方を知らんのかキミたちはぁ!?」

ドクターがベッドから飛び起きる。

「うえっ・・・。なんか生臭いぞこの部屋。ケルシーに見つかる前に換気しとけよな」

「まさかこんな時間に来るなんて考えないだろ・・・」

 

ドクターが居るということを確認できた二ェンはドアを拾い上げてそのまま帰っていく。

 

「それじゃ、このドアは弁償するよ。あー、誰だっけライン生命の・・・思い出した、サリアか。続けていいぞ?」

「・・・早く行け」

ドクターのベッドの中から声がした。

「ははは!今度みんなで麻雀でもしようか。とりあえず深夜の予定は空けとけよ~?」

ニタニタと笑みを浮かべて二ェンが退室する。

災害を具現化したような彼女に二人はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

二ェンは自身の工房に帰る途中、独り言をポツリと呟く。

 

「あぁ、わたしとドクターとケルシーだともう一人足んねぇなぁ・・・」

 

「赤いボタンのドクターも誘ってみるか?」

消灯時刻はとうに過ぎ、暗闇が支配する通路を二ェンは歩く。

「って、長生きすると独り言が多くなってダメだな。なーんか老婆みたいだ」

 

一人静かに歩く二ェンの後ろ姿を、カワウソ型のメカがそれを見ていた。




メイヤーちゃんは天才なんです。作れないものなんてないんです。
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