意外かもしれないんだけどね、ボクは多趣味なんだ。
まぁ、スポーツみたいな体を動かすのは一回見たら出来るようになっちゃうから、そんな長くは続かなかったんだけどね。
あっ、でも野球とホッケーは楽しかったかな。長物の扱いは得意だからね。
ドクターも今度野球やろうよ。二人だけでさ。
アハハ! 冗談だよ、冗談。
なんだってできたから、次第にできないことを探すようになったんだ。
ホラ、経験は大事って言うでしょ?
だからアルバイトもたくさんしたんだ。誇りを汚されるようなもの以外は全部やったね!
世渡りが上手い人って呼ばれたくてさ! 今思うと恥ずかしい限りだよ!
でも、知識が欲しかっただけであって、年上の人に愛でられたかったわけじゃない。
賢く生きる方法を知りたかっただけで、授業を受けたかったわけじゃない。
ボクが学校に少ししか通っていなかったのはそのためだよ。
どう? 美味しい?
ドクターは変わった食べ物が好きって聞いたからね、いっぱい工夫したんだ。
そう? ホントかい!?
あ~、安心したよ……。実は人に料理を食べてもらうのは初めてだったんだ。
そう、ボクの初めてはドクターなんだよ?
アッハッハ! そんな咳き込まないでよ! ホラ、水飲んで落ち着いて?
ナニか変なこと想像しちゃったのかな?
それとも……、
隠してることと何か関係があるのかな?
まぁ、ドクターとモスティマとの間に何があったかなんて、ボクには関係ないしね。
フフ……。そんな顔しないでおくれよ。ちょっと傷つくからさ……。
どこまで知ってるかだって?
ボクはドクターのことなら何でも知ってるよ。比喩じゃない。何でもね。
そもそも知られたらマズいようなことは考えないことだよ?
ほら、いま企んでることを教えてごらんよ。ボクはどんな時でもドクターの味方だからね……?
チェッ! 流石に教えてくれないか。もう少し押せばいけると思ったんだけどね。
何でも知っているっていうのは嘘だよ。でも、ドクターの味方っていうのは本当。
ドクターがボクの味方でいる限り、ボクはドクターの味方だよ。
昔から思ってたんだけど、そういうことに関してはガードが固いよね。
薬漬けにしないと言うこと聞いてくれないんじゃないかな?
アハハ! ご飯食べてる時に喋る内容じゃないよね!
それで、どこまで話したっけ……? あぁ、はい。おかわりだよ。たくさんあるからいっぱい食べてね。
そうだ。思い出した。趣味の話だったね。
長く続いてるって感じなら、テキサスをいじるのは趣味になるのかな?
慣れたのかどうか分かんないけど挑発に乗ってくれなくなったし、退屈してるんだよね。
そうだ、最近はゲームに熱を入れてるんだ。あぁ、テキサスじゃないよ? ボクのことさ。
3人1組で一番を決めるゲーム。
どうだい? ドクターもやってみない? テキサスも誘ってさ!
アハハ! 確かに! 仲間割れしてゲームどころじゃなくなるかもね!
意外とテキサスってハマると周りが見えなくなるタイプだから向いてないかもね。
その分ドクターは適性があると思うよ? 戦場で指示を出すことでお金もらってるんだから。
どう? ボクと世界を狙ってみないかい?
アッハッハ! あ~あ、フラれちゃったか。残念だよ。
お手洗い? そうか、じゃあ行こうか。
…………。
え!? 付いていっちゃダメなの!? なんで!?
あぁ、うん。じゃあ、ご飯が冷める前に戻ってきてよ? 逃げたら地の果てまで追いかけるからね。
…………。
…………。
…………。
……遅いな。
…………。
…………。
あっ、おかえり。いいや? 全然待ってないよ。
男の人のお手洗いは早くて羨ましいね。
スープが冷めちゃったじゃないか。え? いやいや、怒ってないよ。
むしろ拗ねてるのさ。
説明させるなんてキミも鬼畜なんだね。それとももしかしてそういうのが好きな感じかな?
まぁ、いいや。こんな話をしたところでどうにかなるわけじゃないしね。
さ、ご飯の続きといこうか。まだまだあるんだから、遠慮せずに食べてね。
ん? ……ありがとう! 丁度喉が渇いていたんだ!
え? もう食べられない?
う~ん、流石に多く作りすぎちゃったかな。まぁいいや。冷蔵庫に入れておくからまた今度温めてたべようか。
そうだ! 今度はエクシアとモスティマを誘って鍋でもしようか!
アッハッハ! ドクターの胃が死んじゃうか!
……? どうしたんだい? エクシアのことが心配?
大丈夫だよ。もし何かあってもボクが守ってあげるから。何があってもね。
だって、ボクはキミを愛してるから。
冗談じゃないよ。そんなつまらない冗談は吐かないさ。
アッハッハ! 困ったみたいな顔をしているね!
まぁ、エクシアみたいにその場で答えを出せとは言わないよ。
正直なところ、一番目とかそんなのには興味ないからね。最終的にドクターの大切な人の一員になれればいいなって思ってるだけだけど。
(でも、ドクターが精神異常の温床だって気づくのに時間がかかり過ぎたみたいだね……。気持ちが悪い……。頭が痛い……。脳が、どす黒いものに浸食されていくような……)
でも、どんな結末であれ、もはやキミが穏やかに死ぬことは不可能さ。
フフ……? いつか分かるよ。少なくとも今じゃない、もう少し後。
そうだね。うん。これ以上は不安を煽るだけだからやめておこうか。
でもね、ここだけの話だよ。
もしキミが信頼している人に裏切られて、世界を憎むようになったとき、ボクはキミに付いていくよ。どこまでもね。
何言ってるのか分からないみたいな顔してるけど、それもいつか分かるさ。
え? もう食べられない?
ダメだよ。そんなの許すわけないでしょ?
ほら、食べて。
食べて!!!
うん、それでいいんだよ。
一日三食食べないと元気が出ないからね。
(うぅ……。意識がある……? 精神異常に耐性がついてきたのか?)
ここから出たい?
ダメだよ。キミは危険な存在なんだから。
ボクの言葉と行動は意地悪なんかじゃないよ。全てキミのことを思った上での行動なんだ。
キミは自分の理解者は自分しかいないと思っているみたいだけど、そんなことはない。
ボクだから理解できるんだ。他の奴には理解できないさ。
ケルシーがぼやいていたよ。
『ドクターが目覚めてからおかしくなってしまった』
周囲の子たちの異常に、まさか気づいていないわけないよね?
……まぁ、無理もないか。ボクも自身の変化に気づいたのは最近なんだしね。
全て、責任を取るべきなんだ。
……さっき言ったはずだよね。
仕事はボクがやっておいたって。ボクを信用してないのかい? それとも、ボクのことをアズリウスと同じだと思ってるのかい?
……それなら心外だね! ボクはキミのことを信頼しているのに!
キミはボクの言う通りに行動すればいいんだ!!
他でもない! キミを幸せにできるのはもうボクしかいないんだよ!?
だからキミはボクのことだけを考えていればいいんだ!!
それなのにいつもいつもいつもいつも!!!
ボクのシナリオ通りに皆が生きれば全員幸せになれるのに!!
(そんなシナリオなんてまともなはずがない! 主人格を取り戻してドクターを開放しないと!)
……はい、デザート。
コーヒーゼリーなんだけど食べれるかな。ドクターはコーヒーが好きなんだよね。
その、食べてくれたら嬉しいな……。美味しい? そう。よかった……。
(ぐッ……!! 少ししか奪取できない! その短時間でドクターの状況を説明したところで、失敗したら終わりになってしまう……!)
……無駄だよ。
その椅子は破壊できない。
ただでさえキミは源石を使用してもアーツが使えない特異体質なんだ。
腕力だけで脱出を試みようなんて、そんなのバカがやることだよ。
……ねぇ、いつまでやってるの?
いつまでやってるのって聞いてるんだよ!!
キミはそんな意味がないことはしない! キミは強くて、冷静で豪胆で瀟洒で冷酷であるべきなんだ!!
ボクがそこに座ってって言ったらそこに座るの!! それ以外は何もしないで!!
料理だって! 洗濯だって! 風呂だって!! 全部ボクがやるんだ!!
キミは黙ってボクだけを見ていればいいんだよ!!!
ハァ、ハァ、ハァ……。分かった?
これ以上ボクをがっかりさせないで……。
キミはここに居れば安全なんだ。
多少の自由は制限されてしまうけど、それもこれも仕方がないことだよね。
キミが望んだ通りの生活を送ることができるんだ。面倒な執務も、大変な早起きも、神経を使う作戦指揮もやらなくていいんだ。
ボクが毎日おいしいご飯を作ってあげる。毎日ふわふわのベッドで寝させてあげる。
まぁ、その、うん。夜の相手は、ね? 毎日は難しいけど、頑張るから。
だから、キミも、ボクを…………
ドサツ……。
ラップランドが足をふらつかせて倒れる。
椅子に縛られていたドクターは、袖の隙間からナイフを取り出して拘束具を強引に破壊する。
「…………まったく、何か嫌な予感がしてたんだよ」
テーブルに置かれたコップを見る。
「飲み物に睡眠薬を混入させておいて正解だったな……」
「なぜ私を誘拐したことはコーヒーゼリーに免じて不問にしよう」
ラップランドに毛布を被せると、いそいそと出口の方に向かった。
「それにしても食わせ過ぎだ。一生分の野菜を食ったみたいだ。……うっ吐きそう」
ラップランドちゃんが豹変したポイントを見つけてみてください。