冷たい風が吹きすさぶ。
遠くには銀雪を冠した山脈が見えた。
人の姿が見えない道に、それぞれの理想の為に戦う者が二人。
テキサスとエクシアだった。
「……そこッ!!」
ダダダダダダダツ!!!!
エクシアが一切の躊躇なく引き金を引く。
熱を帯びた薬莢が排出され、固い地面に落ちていく。
「遅い!」
キキキキキキキキキン!!!
テキサスはエクシアの銃から放たれた弾丸を剣で撃ち落とす。
目にも止まらぬその剣筋は、振るうごとに砂煙を巻き上げた。
「銃は剣よりも強いんだよッ!!」
エクシアが背負っていた銃剣と入れ替える。
煙幕のような砂塵から、テキサスがパッと姿を現す。
「絶対に来ると思った!!」
ガアン!!
エクシアが銃剣を発砲する。
「…………ッ!!」
テキサスは前傾姿勢で走り込み、寸での所で弾丸はテキサスの髪を撃ち抜いた。
「……フッ!!」
「あっぶなぁ!?」
テキサスが縦に一撃、エクシアに剣を振り上げる。
エクシアは銃剣の先端で受け止める。
辺り一帯に金属音が響く。
本職は狙撃手のエクシアであったが、それなりには近接武器も扱えるようだった。
銃火器の強みは、遠距離から一方的に攻撃することが出来るという点だ。
しかし、その距離も相手に詰められてしまえば、本領を発揮することなく淘汰されてしまう。
音速を超える弾丸を斬ることができるテキサスは、エクシアにとってはかなり戦いづらい相手だった。
「まさか刃物が使えるとはな……」
「あたしだって、いっぱい勉強しているのさ!」
エクシアがテキサスの足を踏む。
次の攻撃に繋がる一歩が封じられたことにより、テキサスは後方によろめく。
「甘いよッ!」
エクシアがテキサスの腹部を狙って銃剣を突きあげる。
「……甘いな」
バキイイ!!
「ぐええぇぇッ!?」
テキサスがエクシアを殴り飛ばす。
そのはずみで、テキサスの腹部に刺さった銃剣が引っこ抜ける。
エクシアが理解できないというような表情で頬を押さえる。
「えっ!? 確かに刺さって、どういうこと!?」
テキサスが服の下から添え木を取り出す。
「まさか応急処置がこれほど役に立つとはな……。クーリエに感謝しなければ」
それは、スカジから受けた攻撃の治療に使用した添え木と包帯だった。
添え木には一本の亀裂が入っており、地面に落下すると同時に真っ二つに割れた。
「いったぁ……。痕になったらどうするつもり?」
「もう一発殴れば元に戻るかも知れない」
テキサスが剣を構えて走り寄る。
「……隙だらけだね!」
パアン!!
エクシアはテキサスの両足が地面から離れたのを確認すると、腰のホルダーのピストルを発砲した。
「小癪な……!」
パキイン!!
テキサスはそれすら予測済みと言わんばかりに、切っ先で弾丸を斬る。
しかし、エクシアは不敵に笑うのであった。
「リーダー! 危ない!!」
テキサスがドクターの方を向く。
「……!? どうかしたのか!?」
問題のドクターはバイクの影に隠れていた。
特に目立った危険は迫っていなかった。
「とりゃあああ!!」
「ぐぅッ!!」
視界外からの攻撃に、テキサスは受け身を取ることが精一杯であった。
エクシアが武器を捨て、テキサスの腰にタックルを仕掛けたのだ。
銃の弱みは、敵に懐に入られたら何も出来なくなるという事なのだが、それは剣にも言える事だった。
二人は武器を手から放し、ゴロゴロと転がりながら握り拳を交わし合った。
「ドクターを囮に使ったな……!」
「ごめんね! 絶対に引っかかるって思ったからさ!」
テキサスがエクシアの上に乗り、鼻をパンチしようとする。
しかし、直撃する瞬間にエクシアが首を曲げ、テキサスは地面を殴ることとなった。
「避けるなぁ!!」
「避けなきゃ痛いでしょ!?」
今度はエクシアがテキサスの上に乗る。
その様子は、ペンギン急便のアジトにてよく見られた光景であった。
二人がソファーでじゃれ合い、ソラが乱入し、クロワッサンが夕食を作る。
違う点があるとするならば、お互いが明確な敵対意識を持っていたという点だろうか。
「形勢逆転だね!」
「……殴ってみろ!」
エクシアがテキサスの鼻をめがけて拳を振るう。
ゴシャアア!!
「いっだああああああ!!!」
しかし、テキサスがエクシアの拳に頭突きを返した。
明らかに人体から発してはいけない音が響く。
エクシアが手を押さえてのたうち回る。
その隙にテキサスは地面に落ちている自身の剣を拾いに走った。
「(武器さえあれば……!)」
「くっ……! させないよ!」
パアン!!
剣に手を伸ばしたその時、エクシアが発砲し、テキサスの右腕を掠めた。
「ぐぅッ……! 本気か……!!」
エクシアがあらぬ方向に曲がった指でテキサスを指す。
「私は本気だよ……! 自分だって殺してみせるさ……!」
「まさか痛めつければ引いてくれるだなんて思ってないだろうね……!!」
「私は覚悟を決めた上でここに立っているんだ!」
「片手の一つや二つ、いくらでもくれてやるさ!!」
エクシアの光輪と羽が光り輝く。
遠くに四散していた銃たちが宙に浮き、エクシアの後方に集合する。
テキサスは察した。彼女はここで勝負を決するつもりだと。
「……テキサス、今までありがとね」
キイイイイイン…………。
ガガガガガガガガガ!!!!!!
模擬戦で使用するゴム弾ではない。一発当たれば致命傷の弾丸が数千発。
どれもテキサスの正中線を狙って発射された。
「おおおおおおお!!!」
キイイイイイン!!!
ズドドドドドドド!!!
テキサスはこの日、初めてアーツを使用した。
数多の輝く剣が天から降り注ぐ。
その剣は雨のように流れ、エクシアが放つ弾丸の雨と交差した。
『剣雨』と『オーバーロード』。
どちらも二人の切り札であった。
それ即ち、この攻防をしのいだ方が勝者ということだった。
大地は削れ、草木は塵となり、蒸発した大気が周囲を包む。
二人の体力は枯渇していた。
一生分の覇気を出したような気分だった。テキサスとエクシアは前のめりに倒れる。
結果は、両名の相打ちに思えた。
しかし、
「ぐッ……! ぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!」
「ぅらああああああああああああああああああ!!!」
地面に膝がつく瞬間、二人は同時に足を前に出した。
そして、殺気に満ちた表情で二人は走り寄るのであった。
「おおおおおおお!!」
バキイイ!
「ぐぁああ!」
「うらぁあああ!!」
ゴキイ!!
「ぐぅッ……!」
素手で殴り合うテキサスとエクシア。
その様子は戦闘と呼べるものではなかった。
全身に砂埃を纏い、血を吐きながらお互いを掴みあう二人の姿に、ドクターがたまらず仲裁に入る。
「もうやめろ! 後遺症が残るぞ!」
その言葉を聞いたエクシアとテキサスは、
「黙ってて!」
「黙っていろ!」
バキイイイイ!!!
「ぐおおおおおおお!?」
過去一の強さでドクターを殴り飛ばしたのであった。
意地と意地のぶつけ合い。
友情の確かめ合いなどそこにはなく、ただ目の前の者を倒すことしか考えていなかった。
「エクシアあああ!!」
テキサスがエクシアの襟を掴み、そのまま巴投げを仕掛ける。
「うわぁあああ!!」
ドシャアア!!
腹を足で押し蹴られ、空中で回転しながら落下する。
「痛っつ……!」
エクシアがへし折られた指を押さえる。
その一秒にも満たない瞬間が、テキサスに大きな隙を与えた。
手の痛みを堪えるあまり、接近するテキサスに気がつかなかったのだ。
「マズい……!」
「遅いッ!!」
ドガアア!
「ッ……!」
テキサスをエクシアを蹴り飛ばす。
顔面を蹴らなかったのは情けだろうか、手加減だろうか。
砂煙を立ち上げながら転がるエクシア。
すぐ側には追撃の予備動作を取るテキサスの姿が見えた。
「(ヤバい、意識が……!)」
お互い傷だらけの姿。
二人の足は既に震えており、どちらが先に倒れるかの競い合いであった。
近接戦が得意なテキサスが優勢かと思われた。
しかし、エクシアは自身の指先にキラリと光を反射する物が落ちていることに気が付いた。
「うらああああ!!」
「なんだッ!?」
ビュンっと音を立て、エクシアが剣を振るう。
その剣はテキサスの源石剣であった。
「それは私の物だぞッ!」
テキサスは、エクシアが振り回す剣に近づくことが出来なかった。
誇り高きサンクタのエクシアは、自身の銃の腕前にただならぬ自信を持っていた。
商売道具だということもあるのだが、それを抜きにしても彼女は銃を肌身離さず持っていた。
それが今、あろうことか彼女は銃ではなく剣を握っている。
その姿は、子供も笑うような見るに堪えないお粗末な剣術であった。
それでも彼女は剣を振るった。
目の前の相棒を、打ち倒すために。
「戦場でもっ! 同じことがっ! 言えるの!?」
むしろ剣に振られているといったような感じだった。
それでも足元がおぼつかないテキサスには十分有効な攻撃になった。
「おりやあああ!!」
ドゴオ!
「がッ……!!」
剣を振るうことにより発生した推進力を利用し、エクシアが強烈な蹴りを繰り出す。
テキサスの体が宙に浮き、エクシアとは反対方向に飛ばされていく。
追撃をしようとエクシアが駆け寄る。
「(ぐッ……! スカジからの攻撃が……!)」
テキサスが腹部の傷を押さえる。
この戦闘で治療したはずの痛みが再び活性化してきたのだ。
「テキサスうううう!!」
エクシアがトドメを差そうと剣を地面に擦りつけて走る。
テキサスは、自分の手の付近にエクシアの銃が落ちているのを発見した。
彼女は迷わずそれを手に取った。
そして、ズキズキと痛む腹部を押さえながら立ち上がる。
ガンガンと距離を詰めてくるエクシア。
テキサスは銃口を進撃してくるエクシアの方角に向けた。
ガガガガガガガガガッッ!!!
乾いた空気を破裂させ、赤熱した薬莢が排出される。
しかし、弾丸は標的に当たることはなく、どれも虚空を撃ち抜くのであった。
サンクタの守護銃は、所有者にしか扱うことが出来ないからだ。
「おりゃあああああ!!!」
エクシアが剣を振るう。
それは斬るというよりも叩きつけるというような感じであった。
「……ッ!」
テキサスが難なく回避する。
そして至近距離で引き金を引いた。
カシンッ……。
「……!? 何だッ!?」
「あはは……! 弾切れだね!」
エクシアがテキサスの脳天に剣を振り下ろす。
「勝った! 私の勝ちだ!!」
「エクシアああああ!!」
トンッ……。
テキサスが一歩後ろにジャンプする。
僅かに狙いが逸れた剣は、テキサスの上半身を切り裂いた。
「……ッ! 悪く思わないでね!」
テキサスの返り血が、エクシアの頬に飛び散る。
彼女は微かに後悔をしたような表情を見せた。
それは、テキサスにしか発見できないことであった。
「……悪く思わないさ。だから、エクシアも私を恨むな」
テキサスがエクシアの脇腹に銃口を突き付ける。
それは、エクシアが腰のホルダーに差していたピストルだった。
「……あっ
パアン……!
乾いた銃声が響いた。
エクシアが後方によろめく。
そして、淡い熱を持った脇腹を押さえた。
「あ、あはは……。いつ盗んだのかな……?」
テキサスがピストルを捨てる。
「初めて当たった」
「……テキサスは、銃が下手くそだもんね」
エクシアが膝をつく。
服の裾から、紅い色が滲んで垂れて来た。
「でも、さっきのはわざと外したでしょ……」
「……なんのことだ」
エクシアが倒れ込む。
うつ伏せになった状態で、静かに何かを呟いた。
その言葉はテキサスにも聞こえず、ただ自分自身に言い聞かせるような声であった。
「……分かってたんだ。この先は地獄だって」
「いつもそうなんだ……。私が追いかけたものは、いつも遠くに行ってしまう……」
「お姉ちゃんも、モスティマも、ドクターも……」
「みんなどこかに消えちゃうんだ……」
「だから、私は賭けてみたんだ……」
「今度は、掴んだものを、二度と離さないように……!」
「ゲホッ! 私は、まだ負けていない……!!」
エクシアが立ち上がろうとする。
苦痛の表情を浮かべながら、何とか上半身を起こした。
テキサスはその行動を制止しようとした。
「大人しくしていろ……。もう、休め……」
エクシアが手を伸ばす。
遥か向こうで気絶していたドクターの方角へ。
テキサスの頭突きによって、無残に砕かれた手のひらで……。
「私の、義人……! 私たちの、希望……!!」
エクシアが体を引きずる。
「あぁ……。
「いつもそうだ……。私は、失敗ばっかり……」
「なんで、いつも上手く出来ないんだろう……」
「そうだ……。私は、一人じゃ何にも出来ないんだった……」
「もっと早く、気づけば良かった……」
エクシアは千切れた花びらのようにその場に倒れ、そして動くことはなかった。
血を失ったことにより、失神したのだ。
テキサスは彼女を抱くと、破壊され尽くした大地を歩いた。
「…………盗み見とは感心しないな」
テキサスの影が揺らめく。
「……私の存在を感知するとはな」
突如として背後に現れたのはファントムであった。
アーミヤが差し向けた刺客なのだが、その場で向き合っていた二人に戦う意志はなかった。
「今は失神している。……彼女を、エクシアをロドスに返してくれ」
テキサスが喋る。
「……承った。ラップランドたちは敗北した。用心したまえよ」
ファントムの幻影がエクシアを背負う。
もしかしたら、彼は悪いやつでは無いのかも知れない。
そのようなことを考えながら、テキサスは踵を返してエクシアが捨てたバイクの方向に向かった。
「……ん、顔面が痛ぇ……」
バイクの後部に縛り付けられたドクターが目を覚ます。
縛り付けられているといっても軟禁的な意味ではなく、地に落下しないようにしているだけだった。
「……起きたか。呑気というのは羨ましいな」
テキサスが操縦するバイクは荒れ果てた大地を進んで行く。
ラップランドやカランド貿易のオペレーターたちの助力もあり、無事ドクターを救出することが出来た。
エクシアとの決戦もあったが、過去を振り返る時間は残っていなかった。
次第に気温が寒くなって来る。
ここはもうロドスの威光が届く場所ではない。イェラグの領域なのだ。
夜が来る前に、何とか雨風を凌げる場所に辿り着かなければならなかった。
「……どこに向かうんだ?」
ドクターが身を起こして質問する。
「……クルビアに向かう」
「クルビア? イェラグから何キロ離れているか分かってるのか?」
テキサスは前を向いたまま答える。
「もうすぐウルサスの中枢都市が移動する。それに乗じて西に向かう」
「ウルサスを通り抜けるつもりか!? あの地獄を!?」
バイクのエンジンを吹かす。
「……炎国とレム・ビリトンはロドスが封鎖しているはずだ」
「私たちは西に向かうしかない……」
テキサスの表情は決して明るいとは言えなかった。
ガソリンの残量も怪しかった。
そもそも、イェラグを抜けるより先にバイクの寿命が先かもしれない。
実際の所は、向かうべき目的地など定めていなかったのだ。
そのような不安要素が心を蝕むが、それでも足を前に出さなければならなかった。
「この先に教会都市がある。プラマニクスが居ないから、市民の風当たりは冷たいものになるだろう。最低限の物資を補給するか、何とか宿を貸してもらうか」
ドクターがテキサスに二択を迫る。
テキサスはしばらく沈黙し、
「宿を借りよう。寒空の雪夜を疾走するのは賢い行動とは言えない」
「……とにかく眠れる場所を探そう」
この先の道のりは誰も助けてくれない。
ロドスを脱出する際は、仲間であるカランド貿易のオペレーターたちが力を貸してくれたが、今後は一切の助力を乞うことは出来ない。
見知らぬ場所で、安息の地を求めて歩き続ける。
多くの者たちが理想郷を求めて力尽きていった。
彼女らが歩く道には、夢破れた者たちの屍が転がっていることだろう。
しかし、恐れることはない。
隣には彼が、彼女がいるのだ。
それが厳しい道のりになろうとも、果てしない苦難の道になろうとも、共に同じ道を歩き続ける限りその旅路は暖かなものになるだろう。
例え、道半ばで朽ちようとも、その旅路は幸せなものになるはずだ。
国家の位置関係は全て妄想です。
公式設定と乖離していても、脳内補完してください。