「ドクター、終わっていない仕事が・・・」
「過去の知識を学んでみるのも・・・」
「ドクター。テキサスを見なかったかい?」
「インテリアの配置にこだわりを・・・」
「顔が潰れる~~。」
「バーベキューしようぜ!!」
「アップルパイ!!」
「まだ休んじゃだめですよ?」
非常に疲れた。通常業務に加えて大規模作戦の立案、さらにちょっかいをかけてくる奴らもいる中で仕事を終わらせなければならない。
執務室は遊び場所ではないのだぞ!
今すぐ叫びたい気分だが、そんなことをしたらファントムとグラベルが飛んでくるからやめておこう。
とにかく、脳に糖分を補給しなければ・・・。
【食堂】
「あっ!ドクター!グムの料理食べに来てくれたの?」
「あぁ。ちょっと甘いものが食べたくなってな。何か作ってくれないか?」
「オッケー!すぐ作るからそこに座って待っててね!」
昼時を過ぎ、閑散とした食堂でもグムはお腹を空かせた人のために待ち続けている。
それは料理が好きだからという理由だけではない。
自分が飢えという感情を知っているからである。
『なーにしんみりした顔してんだよ。』
虚空から話しかけられる。
初めの頃こそは河童や天狗の仕業かと考えたが、そこに「居るのに見えない」という芸当ができるのは1人しかいない。
「・・・イーサン。またつまみ食いしに来たのか?」
『おいおい、後から来たのはドクターの方だぜ?正しくはつまみ食いしているのか?って聞くのが正解だな。』
「なんでもいいが、人を泣かせるようなことはしないでくれよ。」
『限度は弁えてるつもりだぜ?特にカランド貿易の兄ちゃんから教えて頂いたからな?』
カランド貿易・・・。マッターホルンのことか。
グムは食堂でイーサンがつまみ食いを働いていることを知らないみたいだが、なるほど。
恐らく、運悪くプラマニクスの料理をつまみ食いしてしまったついでに、シルバーアッシュ家の地雷を踏んでしまったってところか・・・。
『ん?誰か来たみたいだから俺は隠れてるぜー。』
結局一度も姿を見せることなく行ってしまった・・・。
あいつ友達いるのか?
「あ゛ー・・・つ゛がれ゛だーー。」
「ラヴァちゃん!女の子がそんな声出したらだめですよ!」
「ビーグルちゃんは元気だねぇ~・・・。尊敬するよぉ~・・・」
「疲れたみなさんのために!このハイビスカスが元気が出るものを作ってあげましょう!」
「「「また今度で」」」
誰かと思えば行動予備隊A1の子たちじゃないか。
様子を見る限り訓練終わりのようだが、フェンの姿が見当たらないな。
「あっ!ドクター!いたんですね!?聞いてくださいよ!皆がわたしの栄養食を食べたくないっていうんですよ~!」
「食べたくないとは言ってないよぉ~・・・。」
その発言はマズイというような顔をラヴァとビーグルがしている。
事実、クルースのその発言は墓穴をマントルまで到達させるものだった。
「じゃあクルースちゃんは食べてくれますよね?食べてくれますよね?」
「う゛・・・。ドクター助けて~・・・?」
私に矛先を向けないでくれ。
ビーグルとラヴァが苦笑いをしている。
体に良いもの全てぶち込んだものは健康食ではないということを誰か彼女に教えてやってくれ。
「・・・フェンが食べたいって言っていたぞ。」
「ホントですか!フェンちゃんったら素直じゃないんだから~!」
「ドクター・・・。後でどうなっても知らないからな・・・。」
ここにいないフェンを生贄に捧げることで危機を脱した私だが、フェンには後で菓子折りに行こう。
ラヴァよ。心配してくれるなら君も健康食〈即死〉を食べてみるか?
「フェンの姿が見当たらないが、どこに行っているんだ?」
「フェンちゃんならドーベルマン教官のところで居残り勉強していますよ?」
なんとか話題を変えることに成功したが、掘り返されると面倒だ。
少々大人げないが、財力でご機嫌になってもらおう。
「訓練終わりなら甘味が欲しいだろう。代金は私が持つから、好きなものを食べていいぞ。」
「やったぁ~・・・。わたし何にしよっかなぁ~。」
「まぁ、おごってくれるなら食べるけどな・・・。」
「ラヴァちゃん!まずお礼言わないとだめですよ!」
「わたし!フェンちゃんのためのドリンク作ってきます!」
なんとも賑やかな子たちだ。
このロドスにやってきた頃が嘘みたいだ。
「えへへぇ~。パフェにしちゃおっかな~・・・?」
クルースはフェンとビーグルを連れてロドスにやってきた。
普段こそのんびりしているが、彼女がいなければ2人がここを訪れることはなかっただろう。
もしかしたら、彼女がいなければ2人はレユニオンと合流していたかもしれない。
「うーん・・・。どうしましょう・・・。もうちょっと選んでもいいですか?」
ビーグルはまだまだ新米だが、目指すべき目標が定まっている。
それはフェンも同じことだが、ビーグルは自身のポテンシャルを充分発揮できていない。
そこまで深刻な問題ではないため、きっと時間が解決してくれるだろう。
「わたしは軽いものにしとくよ。ドーベルマン教官に見つかったら怖いからな。」
ラヴァは態度こそぶっきらぼうだが、誰よりも人のことを思える心を持っている。
本当に素直ではないだけなのだ。クルースと訓練をサボるのはいけないことだがな。
鉱石病さえなければ、彼女たちは年相応の振る舞いができたはずだ。
しかし、鉱石病があったからこそ、彼女たちはこうして出会い、共に笑いあっている。
「・・・因果だな。」
「ドクターもいるんですね。みんながご迷惑をおかけしませんでしたか?」
フェンが到着したようだ。
仲良しサークルのような行動予備隊A1がまとまっているのは彼女のおかげだ。
戦闘経験は短いが、それでも一人前になろうと努力を惜しまない。
私の足のサイズピッタリの靴をプレゼントしてくれたことから、気遣いもできる優秀な子なのだ。
「・・・眼鏡は外していた方が可愛いぞ。」
「え、ええぇ!!いきなりどうしたんですか!?」
ビーグルが口を開けて驚いている。
クルースとラヴァはこれからの出来事を予想できたのか、ニヤニヤしながらこの場から離れていく。
「フェン。君がロドスに来て約1年だが、その期間で君は驚くべきスピードで成長している・・・。」
「ドクター!?熱でもあるんですか!?」
「君には本当に感謝しているよ・・・。」
「うぅ・・・。わたしなんてまだまだですので・・・。」
「いいや、ここにいる皆。君に感謝しているよ。」
さて、そろそろここを離れないとな。
グムの様子を見に行くとするか。
「なんだか、ちょっと恥ずかしいですね・・・。」///
「フェンちゃん!来てたんですね~!今完成したので丁度よかったです!」
「え?ハイビス?今完成したって?・・・え?」
「またまた~!もちろん、ハイビス特性!健康栄養ドリンクですよ?」
「た べ て く れ ま す よ ね ?」
「・・・ドクター?わたしのこと可愛いって言ってくれましたよね・・・。」
「本当に感謝しているよ・・・許してくれ。」
本当にすまない。憎むならハイビスの料理センスを憎んでくれ。
フェンの回収はLancet-2に任せるか。
「はい!あーん!」
「・・・誰か・・・助けて・・・。」
行動予備隊A4は不安定な部分が多く見られたが、フェン率いる行動予備隊A1は大丈夫なようだ。
具体的にどう大丈夫なのかは説明に困るが、きっと彼女たちは失う覚悟ができているのだろう。
かつて全てを失ったからこそ、次は失うまいと努力している。
ドーベルマンはその部分を最も理解しているからこそ、彼女らに対して厳しいのだろう。
ケルシーなら、ハイビスの料理を顔色ひとつ変えずに完食できるだろうか。
「フェンちゃん!好き嫌いはダメですよ!」
「もうちょっと待って!その・・・心の準備が。」
「今回は全部綺麗に溶けましたから!飲むだけで疲れが飛びますよ!」
「(疲れじゃなくて意識が飛ぶのですが・・・!)」
「あれ?特性ドリンクが無くなってる・・・。フェンちゃん飲んでくれたんですね!?」
「え・・・?あぁ・・・はい。・・・さっき飲みました・・・。」
「やったー!元気でましたか!?」
『うえぇ・・・。ひでぇ味だぜ・・・。』
「・・・・・。」
『げぇ・・・。マッターホルン・・・。』
「・・・今回のつまみ食いは不問にしておきましょう。」
『・・・俺もたまには良い事するだろ・・・?』
「そうですね。とにかく、胃薬をここに置いておきますので。」
『・・・助かるぜ。』
登場人物が多くて誰が誰だか分からなくなってしまったら申し訳ありません。
グムちゃんの料理が出てこなかったのは、ハイビスカスの料理のにおいでやられたということにしておいて下さい。