トラブルメーカーという存在をご存じだろうか。
本人に悪気はなくても、無意識の内に問題を起こしてしまうような人のことである。
特に、オーキッド率いる行動予備隊A6は、そのような一癖も二癖もある人達を集めた部隊だろう。
「わお。ドクターじゃないか。ちょっとだけミッドナイトさんと遊ばないかい?」
今日も馬鹿みたいに長い通路を歩いていると、仲の良いオペレーターに話しかけられる。
彼の名はミッドナイト。行動予備隊A6に最後に配属されたハイパー色男だ。
「久しぶりだな、ミッドナイト。シエスタに男を磨きに行って以来か?」
「ああ!覚えてくれてて嬉しいよ。・・・どうだ。次の祝祭日に龍門にでも繰り出してみないか?」
私とミッドナイトが街に遊びに行く。それすなわち、女の子を口説きに行くということである。
普段であればエリジウムもメンバーに加わるのだが、今回は私だけのご指名らしい。
もちろん断る理由が無い。シャマレやアズリウスに見つかったらマズイが、虎穴に入らずんば何とやらだ。
「ぜひとも同行しよう。明日は休みだから、午前から出発しようか。」
「流石はドクターだ!ノリが良くて助かるよ!じゃっ、また連絡するから、くれぐれもオーキッド達にバレないようにしてくれよな?」
・・・彼のフットワークの軽さには私も見習わなければならないな。
ご機嫌な足取りで食堂に向かう彼の足音を聞きながら、私はオーキッドが管理するガチャガチャを回すために宿舎に向かった。
とにかく、アーミヤやアンジェリーナと言った勘の鋭い女性に出会わないようにしなければ・・・。
【宿舎】
アホみたいに長い通路を渡り終え、やっとの思いで宿舎に到着するが、ガチャガチャの中身は空だった。
残念な気持ちを抑えながら周囲を見渡すと、見慣れた人物がいたため、話しかけてみる。
「すまない。ガチャガチャの中身を補充してほしいのだが・・・。」
「・・・あぁ。ドクターか。今さっきうるさいのが2人来てな、全部中身を持って行ってしまったよ。」
宿舎の隅でマンガを読んでいたスポットは気だるげにそう答えた。
おそらく、ポプカルとカタパルトのことだろう。
不満は無い。元々ガチャガチャを運営しているのは行動予備隊A6の皆なのだ。
オーキッドが管理し、スポットが補充。ポプカルとカタパルトがガチャガチャを回し、ミッドナイトが資金を出す。
娯楽設備が充実しているロドスでも、特に人気が高いため、たまにしかガチャることができないが・・・。
「この漫画を読み終わったら中身を作るから、そうだな。明日には補充できてるだろうな。」
「そうか。私はこのガチャガチャのファンだからな。非常に助かるよ。」
「・・・・・・どうも。」
初対面の人は彼を冷たい男のように感じるかも知れないが、実際の彼は誰よりも情熱に熱い男なのである。
近くに彼がいる状態で困っていたら、まず助けてと言ってみよう。
そうすれば彼が盾を持って飛んでくるから。
「そうだ。ポプカルがドクターと話がしたいって言っていたぞ。」
「ポプカルが?そうか。久しく会っていないからな・・・。」
「特にデートがしたいらしい。モテモテで羨ましいな。」
メランサに彼のユーモアや皮肉を参考にするよう言ってみるか・・・。(2話参照)
ガチャガチャが引けなかった私は微妙な気持ちのまま、自室に向かった。
次回の殲滅作戦の計画を練るためなのだが、頭の中は明日の龍門のことで一杯だった。
・・・何か自室から音がする。恐らく2、3人の話し声。
またシラユキとグラベルがベッド下を巡って争っているのか。
それならファントムが仲裁してくれているはずなのだが・・・。
「・・・誰かいるのか?」
おそるおそる扉を開くと、そこにはうるさいのが2人。
「あら~ドクターおかえりなさいませ~。お部屋借りてるね!」
「カタパルトお姉さん・・・!やっぱり帰ろうよ・・・。ドクターに怒られちゃうよ?」
「だいじょぶだいじょぶ!わたしたちが居ても天下のドクター様ならぜ~んぜん問題ないよね!」
今日はA6のメンバーに縁があるようだ。
困ったぞ。これでは明日の準備ができない。
申し訳ないが、お二人には早急にお引き取り願わなければならない。
「別に構わないが・・・。何をしているんだ?」
「うーんと・・・カタパルトお姉さんとガチャガチャしてきてね。それでね、いっぱいしたからオーキッドお姉さんに怒られるかもって、それでドクターのお部屋に来たの・・・。」
「ちなみに提案はわたしがしました!」
まぁ、普通に遊びに来た感じなら問題ないか。
中に居たのがWとエンカクとかだったら人生の終わりを覚悟していたところだったからな。
「せっかくだし、ドクターもガチャガチャ開ける?」
「カタパルトお姉さん!ドクターはいそがしんだよ・・・?」
前言撤回。私も楽しませてもらおう。
ミッドナイトには悪いが、明日の準備は明日する。これは決定事項だ。
「・・・どうした?早く開けないのか?」
「やっぱドクターは話が分かるねぇ~!」
「・・・ほんとにいいの?ドクターはやさしいね・・・。」
大量にあるガチャガチャの景品を予定を無視して3人で開封していく。
今の状態をアーミヤがみたら怒髪天を衝くだろうが、その心配はポプカルとカタパルトの笑い声が消し飛ばす。
「あはは!見てコレ!スポットの2頭身フィギュアだ!」
「スペシャルレアだって!よかったねカタパルトお姉さん!」
「こっちはテンニンカのリンゴが出てきたぞ。」
貴重な時間を無駄にする背徳感。
「・・・このゴミの山はどうするんだ?」
「え?もちろんドクターが片付けるんでしょ?」
「カタパルトお姉さん・・・。」
「じょ、冗談だって!ポプカルちゃん!あは、あはは~・・・。」
不治の病に肉体が蝕まれても、笑いあうことができる。
・・・アーミヤも立場が違えば、ポプカルのように笑うことができたのだろうか。
これ以上考えるのはやめておこう。
「あのね・・・ドクター。おはなしがあるんだけどね・・・?」
「ん?どうかしたのか?」
ポプカルが珍しく真剣な面持ちになった。
カタパルトが妙にニヤニヤしているのを見る限り、特に緊急なことではないと理解できた。
「その・・・ポプカル・・・今度ドクターと遊びに行きたいな~って思ってて、それでね・・・うぅ・・・。」
「それで?ドクター。女の子からのデートのお誘いなんだよ?どうするの!」
非常に驚いた。かつてこれほどまでポプカルが積極的になったことがあっただろうか。
嬉しさと同時に、デートを予定をどう組み込もうかと迷った。
「あぁ。全然大丈夫だよ。どこに行くかはまた決めようか。」
「ほんとに・・・!ドクター、ありがとう・・・・・・ありがとね!」
「・・・いやぁ~よかったねポプカルちゃん!これでめでたしめでたしだね!じゃあわたし達は目的達成したので撤退します!」
「えぇ~・・・、待ってよカタパルトお姉さん~。あっ!楽しみにしてるからねドクター!」
嵐のように去っていった2人だったが、私の心には楽しさという温かみが残っていた。
そして、部屋にはガチャガチャのゴミとハズレの景品だけが残っていた。
「・・・ファントム。」
「・・・ここに居る。」
呼べば背後に現れる暗殺者にももう慣れてしまった。
「申し訳ないが、片づけを手伝ってくれないか?」
「構わない。だが、景品を少し頂いていこう。」
結局の所、私が眠ることができたのは、日付を越えてからだった。
私のベッドにミス・クリスティーンが入り込んできたために、ファントムが少し微妙な顔をしていたことは誰にも言わず、心に留めておくことにした。
【翌日】
「すまない。少し遅れてしまった。」
「いいや?時間ピッタリだドクター。」
一応15分前に到着するように出発したが、既にミッドナイトは着いていたようだ。
これがモテる男なのか。
「見た感じ、普段より気合いが入っているようだが?」
「何言っているんだい?俺はいつだって本気だぜ?」
そういった彼の声は微かに震えていた。緊張しているのだろうか。
彼ほどの色男が?
「実はな、ドクター。今回エリジウムを誘わなかったワケなんだが・・・。」
私も少し気になっていた。
ミッドナイトとは何度も遊びに行っているが、今回は不自然な点が多い。
「ちょいと前から気になってる人がいるんだよ。ほら、あるじゃないか、見た瞬間ビビッて来た!みたいな感じ?」
「あー、あれか。つまり一目惚れの人と知り合いになりたいが、ツレには知られたくないみたいな感じか。」
「そうだよ!大正解だ!」
「一目惚れしたことは知られたくないが、1人で行くのは恥ずかしいと・・・。」
「う゛っ・・・。」
貸し1つだと言いたいところだが、『魔王』と呼ばれた男が惚れた相手というのをを見てみたくなったため、無償で付き合ってやることにした。
【龍門市街】
「・・・ほら、あそこにいる女性だよ。なんか空気が違うだろ?」
2人で訪れたのは洒落た喫茶店。
確かにミッドナイトの言う通り、例の女性の周りだけ雰囲気が違っていた。
「あぁ~緊張してきたぜ。やっぱエリジウムも連れてきた方が良かったか?」
「まぁ、無理に急ぐ必要もない。気持ちが落ち着いたら行けばいいさ。」
マスクに重ね着の私が言えたことではないが、昼間の喫茶店でホスト風貌の男が隠れながら女性を見ている。
明らかに事案である。誰かに通報されなければいいのだが・・・。
「・・・よし。行くぜ。」
オーキッドも言っていたが、黙っていると本当にイケメンなんだがな・・・。
遠くの方でミッドナイトが女性に話しかけている。
緊張からか、挙動が不審者そのものだが、逆に女性慣れしていなくて新鮮に見える。
今回の私はあくまで付き添いのため、別のテーブルでショートケーキを注文する。
「・・・すみませんレディ。この席、よろしいですか?」
『・・・ん?別に構わな・・・構いませんが・・・。』
「ふぅ。いやぁ良かった。好きなんですよ。窓の景色を見ながら、コーヒーを飲むのが。」
『はぁ・・・。そうですか・・・。』
「・・・・・・。」
『・・・・・・。』
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くそっ!席の関係から何の話をしているのか聞き取ることができない!
何か私がミッドナイトの力になることは出来ないのか!
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『・・・・・・あの』
「・・・?どうかされましたか?」
『わたし、仕事が立て込んでいて、少しうるさくなるかもしれませんが、よろしいでしょうか?』
「えぇ。全然大丈夫ですよ。お気遣いなく。」
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どうしたんだミッドナイト!連絡先の1つや2つ早く聞かないか!凄くもどかしい!
あまり使いたくなかったが、これも友のため。誰も卑怯とは言うまいな!
「・・・シラユキ。」
「・・・ここに。」シュン!!
「あの席の女性にこのケーキを渡してきてくれないか?」
「しかし、あの女性はミッドナイト様が・・・」
「頼むシラユキ。君しかいないんだ。」
「・・・ッ!!・・・御心のままに。」
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「失礼します。ご注文の品です。」
『・・・?私は注文していませんが・・・。』
「(あの店員、どこかで?・・・ドクターの護衛のシラユキか!俺の惨状を見て助け舟を出してくれたんだな!つまりこれはチャンスだ!)」
「私からのプレゼントです。あなたの仕事を手伝うことは出来ませんが、せめてこれだけでもと思いましてね? 店員さん、彼女にケーキをお願いします。」
『そんな、嬉しいです・・・。本当によろしいのですか?』
「・・・では、ご注文の品はこちらに置いておきますので、傷まない内にィッ!?」
『店員さん?どうかされましたか?』
「い、いえ。どうぞ、ごゆっくり・・・。」
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「助かったよシラユキ。これでアイツもやりやすくなっただろう。」
「・・・・・・。」
「シラユキ?」
「・・・これも全てドクターの計算の内ですか?」
「ん?あぁ。まぁ、そんなところだ。」
「・・・・・・わたしはドクターの味方ですから・・・。」シュン!!
意味深な言葉を残して去ってしまったシラユキは、何かを恐れていたようだった。
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『このショートケーキ。凄くおいしいです・・・。』
「人のお金で食べるからじゃあないですか?」
『・・・フフッ。その通りですね。』
「もちろん、タダではありませんよ。」
『・・・えっ?』
「連絡先、交換してくれませんか?」
『フフッ・・・・・・ズルい人。』
その後、ミッドナイトは女性と連絡先を無事交換することができ、2人はショッピングに行くことになったようだ。
もちろん私は2人を尾行する形で見守り続けるのであった。
『・・・すみません。こんなにも多くの服を買って頂いて・・・。』
「いえいえ、こちらこそ楽しませて頂きましたし、お相子ですよ。」
『あの、またお会いすることって・・・』
「・・・えぇ。また今度、あの喫茶店の席でお会いしましょうか。」
『は、はい!』
「では、私はこの辺りで失礼いたします。お仕事、無理してはいけませんよ?」
『は、はいぃ・・・』
・・・凄いな。初対面の女性にも一切の躊躇なく金を使う。これがモテる男の違いなのか。
2人も解散したようだし、私も準備をするとしよう。
ポプカルとのデート先も決めたしな。
「あ゛ぁ~!緊張したぁ~!!」
「やったじゃないかミッドナイト!これほど上手くいくとは思っていなかったぞ!」
「何言ってるんだ!あの時ドクターがケーキ持って来させてなかったら、あの時点で終わってたよ!」
「「ハッハッハッハッハ!!」」
『・・・おい、待て。今、ドクターと言ったか・・・?』
「「へ??」」
『聞き覚えのある声がして、嫌な予感がしたから戻ってみたら・・・!!!』
「なんの話だ?ドクター。まさかお前の元カノだったか!?」
「いや!ありえない!彼女のような女性は知らない!!」
『祝祭日だからと珍しく本気で化粧をしてみたが・・・!!』
「・・・あ!ああ!!あああ゛あ゛!!!」
「どうしたドクター!!気をしっかり持て!!」
「なぜシラユキがケーキを渡すとき狼狽えていたのか!!なぜ意味深な言葉を残して去ったのかが理解できたああああ!!」
『ほう・・・?シラユキも貴様らに加担しているのか・・・。』
『わたしの純情を弄びおって!!どうせ騙されるわたしを見て笑っていたんだろう!!!』
「ドクター!!彼女は一体何者なんだ!!」
『黙れ!滅びろ悪党どもめ!!二度と恋などするものか!!!』
「こいつは龍門近衛局特別督察隊隊長のチェンだあああああ!!!」
「なにィィィィィィィ!!!???」
『 赤 霄 ・ 絶 影 ! ! 』
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!!!!」」
ドオオオオオオン・・・・・!!!!
後日、この話はロドス中に広められ、ミッドナイトは龍門近衛局の重鎮をオトしたとして男たちから称賛を浴びた。
一方で、ドクターはミッドナイトやエリジウムらと女漁りをしていたことが明るみになり、しばらくの間女性陣から冷ややかな視線を送られることになる。
なお、この話を聞いた行動予備隊A6は全員大笑いし、特にオーキッドは笑いすぎて過呼吸を起こし、医務室に搬送された。
『はぁ・・・。』
「・・・?どうかされましたか?」
『いいや、なんでもない・・・。』
「チェン隊長、息抜きにコーヒーでも飲みに行きませんか?雰囲気のある良い喫茶店を見つけたんですよ。」
『・・・ホシグマ。その喫茶店の窓際席には座らない方がいいぞ。』
「・・・?どうしてでしょうか。」
『・・・・・・その席は私の席だからだ。』
「なるほど、そういうことでしたか。」
『・・・・・・待ってるわたしが馬鹿みたいじゃないか・・・。』
「・・・??」
本当はチェンソーじゃなくてチェーンソーっていうみたいですね。
・・・
でも話の内容的にチェンソーの方が合ってますね。