方舟の主と◯◯たち   作:山田澆季溷濁

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編成枠が余ったらテキサスを入れることをお勧めします。
もっとも、地上戦は真銀斬が全て解決してくれるんですけどね。



愛と戦争と知恵比べ(ケルシー)

『信じるもの。信条とでもいうのだろうか。

 我々はその信条の下で、今日を生きている。

 この×××には、それを見つけた者も居れば、失った者も、壊したものも、捨てた者もいる。

 

 わたしは取り戻したのだ。彼らとは違う。必ず自分の物にしてみせる』

 

 

「……なんだこのメモは?」

 

 かつての自分の手がかりを探すべく、資料室に足を踏み入れた私だが、目的の物は見当たらず途方に暮れていた。

 その代わり、資料の間に目を引く1枚の紙切れを発見した。

 

「日記か? ならばなぜこんな場所に……」

 

 多少の成果はあっただろうか。

 私はメモをポケットにしまい、資料室を後にする。

 大規模作戦が無事終了し、忙しい日々も気付けば懐かしいものとなっていた。

 

 

【連絡通路】

 

「…………君は、彼をどうするつもりだ」

「言えば貴様も答えるのか」

「…………」

「ならば聞こう。あなたは彼女をどうする」

「…………」

「……人を待たせている。先に失礼する」

 

 果てしなく長い通路で喋っていたのは、ケルシー医師とへラグ将軍だった。

 風景に似合わないその体躯と面持ちは、そこにいるだけでプレッシャーを与えている。

 しかし、現在の将軍のその眼差しは悲哀に満ちていた。

 

「……将軍」

 

 返事はない。

 

「……へラグ将軍」

 

 返事はない.

 

「へラグ将軍!」

「あぁ。……ドクターか。考え事をしていてな」

 

 子供でも分かる嘘だ。将軍と呼ばれる彼の背中が驚くほど小さく見えた。

 

「ケルシーと何があったか、聞いてもよろしいでしょうか?」

「フッ……見られてしまったか。なんてことはない。老骨として、ケルシー医師に説教してやろうと思ったが、逆に言い負かされてしまっただけのことだ」

 

 彼の惨状を見る限り、かなり手酷くやられたようだが、ケルシーがそこまでするとは。

 将軍は問答の中で彼女を彼女たらしめているもの。つまり核心に近づいたのだろう。

 

「私は少しばかり留守にする。なに、別にロドスから退艦する訳ではない。安心してくれたまえ」

 

 待ってください。とは言えなかった。いいや、声が出なかったのだ。

 彼は、私が考える以上の過去がある。安易に踏み込むべきではないと感じたのだ。

 

 

 

【アーミヤの自室】

 

「それは、正しい選択をしたと思います」

 

 うさ耳の少女。もしかしたらロバかも知れない耳をへたり込ませながら少女は答える。

 

「わたしは、かつてへラグさんの過去を聞いたことがあります……」

「それは、凄いな……」

「いえ、深い意味はありませんでした。ただの興味本位だったと言いますか……」

 

 ……何を私は焦っているんだ。

 別に将軍が裏切った訳でもないのに、ただ知りたいという気持ちが先行している。

 知った先に何があるかを考えずに、彼が闘う理由に、生きる理由に踏み込もうとしてしまっている。

 

「わたしの口から話すことは出来ませんが、もしドクターが気になるというなら、ケルシー先生に聞くといいかも知れません。最近2人が一緒にいるところをよく見ますし、それに、ケルシー先生は何でも知っていますから……」

 

 何でもか。私の過去のことも当然知っているだろうな。

 教えてくれないということは知られたくない何かがあるんだろう。

 ……彼女に聞いたところで教えてくれるわけないに決まっている。

 結局のところ、手がかりは自分の手で見つける以外ない

 

 しかし、世界には知らなくてもいいことの方が遥かに多いのだ。

 

 

 

【資料室】

 

「……ん? レッドじゃないか。何を探している」

「……ダメ。喋ってはいけないって言われている」

「誰に言われたんだ?」

「ケルシーに言われた。……あっ」

 

 まぁ、S.W.E.E.P.のレッドが調べ物というだけで若干の予想はついていたが。

 もう少し踏み込んでみるか。

 

「ケルシーから何を探すように言われたんだ?」

「ダメ。それこそ、ホントに喋ってはいけない」

「……まぁ、君たちの探し物は私が既に回収したんだがな」

「……ッ!! 日記、どこにあった……!!」

「そうか。ケルシーは日記をご所望なのか。感謝するよ。君のおかげで私は初めて彼女を出し抜くことができる」

 

 カマをかけてみるものだな。へラグ将軍が留守にしてから3日でここまで情報が集まるとは自分でも驚きだ。

 

「ドクター、日記を渡して……!」

 

 少々面倒なことになってきたが、私の過去につながるかも知れないのでな、今回ばかりは本気で抵抗しよう。

 

「……ファントム!!」

 

 一瞬黒い影が横切る。

 

「ドクター。日記はどこ……!」

「君の相手は私だ……」

 

 瞬間的に空気が凍りついた。

 レッドは謎の声が自分の背後から聞こえたことに酷く動揺し、珍しく汗をかいている。

 ループスとしての本能が、謎の声の持ち主を『ヤバい存在』だと訴えているのだろうか。

 

「ファントム。任せたぞ」

「……任された。片付き次第すぐに向かう……」

「レッド。今日は、手加減できない……!」

 

 

 物が壊れる音が資料室から聞こえてくる。

 ファントムとレッド。どちらに軍配が上がるかは分からないが、敗北した方が後片付けをすればいいだろう。

 もう少しで、ケルシーの鼻を明かすことができる。

 私はその事実に興奮を隠しきれるほど大人ではなかった。つまり油断していたのである。

 

 

「……問題は日記が誰の物だということだ。ケルシーが求めるもの。これは間違いなく私の過去に関連するものだ」

 

 足早に執務室に向かう。密かに隠しておいた日記を回収するためだ。

 

 

もう少しで自分が何者なのかが判明する。

 

 

 

【執務室】

 

 ……扉のロックが解錠されている。

 その気になれば無理やり突破することも可能なのだが、鍵を開けるということは、ソレ(解錠)が普通にできる者。

 管理者権限を持っている者だ。

 ……まさか、ファントムが居ない状況を作り出すために、わざとレッドを私にぶつけてきたのか! 

 

 扉を開ける。嫌な予感ほど当たるのはなぜなのだろうか。

 

「……ひどい顔だな。ドクター」

「スカベンジャー……!」

 

 よりにもよってS.W.E.E.P.の構成員の一人であるスカベンジャーとは、日記を発見したことで運を使い果たしたか? 

 

「ドクター、伝言を預かっている」

「……なんだ」

『この件は忘れろ』

 

 間違いなくケルシーだ。伝言を聞いた瞬間に確信した。

 そして、彼女に敗北したのだ。日記は肌に離さず持っているべきだったのだ。

 

「……これは独り言なのだが、ケルシーは日記の内容にはこだわっていなかった……。まるで、日記の所在にだけ注視しているようだった……」

「……スカベンジャー?」

「…………独り言だ」

 

 

【連絡通路】

 

 内容ではなく、所在が問題か……。

 木を隠すなら森の中。紙を隠すなら本の中。ケルシーが隠したい事実。

 私のこと以外の……。へラグ将軍と2人……。彼をどうする……。

 なんだか嫌な気分になってきたぞ……。

 

 

「ドクター!!!」

「なんだ!! 急いでいるんだ!!」

 

 そこには私とケルシーの過去を知る数少ない人物が立っていた。

 

「……ケルシーから聞いたんだ。日記が欲しいってホントなの……?」

「サベージ。私は本気だ。隠すというなら暴くまでだ」

「そっか……。ドクター、すごく残念だよ……」

「妾は素直にならんケルシーにも問題があると思うのだが……」

 

 どこからともなく声がした。特徴的な血液のにおい。ロドスの最古参。治療系アーツのエキスパート。

 

「ワルファリン……。お前もなのか?」

「おぉ、古参のよしみじゃ。悪く思うなよ」

 

 ……どうする。何を隠そう私はアーツ回路がボロボロなのだ。常識的に考えて突破は不可能。

 ファントムの帰還までの時間も稼げない。万事休すか……! 

 

「困難を受け入れる事も立派な成長だ。どのような状況においても味方は多い方が有利に物事は進む。あの時、君は私に同情してくれたが、さて、今回は敵の私の為に同情してくれるか。ドクター」

 

 ……最悪だ。まさかへラグ将軍までケルシー陣営に就いているとは思わなかった。

 2人の関係は険悪そうに見えたが、嘘だったのか? というか帰還していたことを忘れていた……! 

 

 そんなことはどうでもいい。今はこの詰み寸前の状況をどう打開するかだ……。

 ……考えろ。……考えろ。

 

 

 無理そうだ。

 源石を心臓に埋め込まない限り、完全武装のサベージ、ワルファリン、へラグを相手することは不可能だ。

 ケルシーも本気らしい。ここまで来たのに、終わってしまうのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「困っているようだな。……力になろう」

 

 その声は、

 

「ドクター! 困ったらいつでも呼んでって言ってるでしょ!!」

 

 絶体絶命の危機に、

 

「……執務室では遅れを取ったが、ここで挽回する」

 

 差し込む光……!! 

 

「ドクターったらぁわたしがずっとそばにいるのにファントムさんとシラユキちゃんばっかり頼って~」

 

 しかも4筋の光……!! 

 

「アンジェリーナ! シラユキ! グラベル! それにテキサスまで!!」

 

「……ここは我々に任せて先へ……」

「分かっていると思うが、それほど長くは持たない」

「わたしのアーツでケルシー先生のところまで飛ばすから、口閉じててね!」

「時間稼ぎはわたし慣れてるからぁ~」

 

 

 連絡通路でオペレーター同士が一触即発。それもお互いロドスの最高幹部の名の下に戦おうとしている。

 さらにテキサスがこちらにいるおかげで、ペンギン急便との契約もヤバいことになるだろう。

 減給処分では済まないだろうが、全ては記憶のためだ。

 

「アンジェリーナ! 飛ばしてくれ!!」

「オッケー! 舌嚙まないでね!!」

 

 物凄い風圧で息ができない。全身に反重力のアーツを纏っているため、内臓の圧迫から吐き気がする。

 

「ッ!! ケルシーの所に行かせるな! サベージ!!」

「あぁっ! キャッチできない!! へラグさん!!」

「……峰打ちにしておこう……」

 

「……剣雨」

 

 凄まじい爆風と共にテキサスのアーツがへラグ達を拘束する。

 

「……無視しないで頂きたい」

「相手が相手だから本気で行こうかしらぁ~」

 

 

 突破した! あの立ちふさがった堅牢なる高壁を突破したぞ! 

 突破したはいいが、どうやって静止するんだ? 

 

 ケルシーの私室が見えた。構造上は私の部屋と同じなはず。

 ならば、ぶち破るまでよ! 

 

 

 

【ケルシーの私室】

 

 

「うおおおお!!」

 

 ドガアアアアン!!! 

 

「……随分と派手な登場だな。意外とそういうのが好きなのか?」

 

 余裕綽綽というような態度のケルシーとは裏腹に、私の状態は満身創痍である。

 しかし、後は日記を取り返すだけなのだ。

 

「…………わたしは忘れろと伝えたはずだが」

「あからさまに怪しいのでね、さて、日記を返して頂こう」

「…………断る。といったら?」

 

 ケルシーの様子がおかしい。放つ言葉に普段の漲るような自信が見られない。

 間違いない。私は今、彼女を追い詰めている。

 

「断る理由を教えろ」

「…………嫌だ」

 

 連絡通路で、ケルシー陣営とドクター陣営に分かれてマジバトルしていることが艦内に広まり、ロドス中の人が集まっている。

 それに伴い、私たちが居るこの部屋にも大勢の人だかりができ始めていた。

 

「ならば無理やり奪って見せる! 悪く思うな!」

「…………馬鹿なのか」ヴオン!! 

 

 日記を掴もうとした瞬間、ケルシーの手が発光した。

 アーツ特有の光。そういえばケルシーはアーツの操作も1流だった……。

 

 ドゴオオオオン!!! 

 

「Mon3trを出すまでも無かったか……」

 

 壁に叩きつけられる。臓器が揺れているのか、酸素が上手く取り込めない。

 最高幹部であるケルシーが、指揮官の私にアーツを放った。その事実が一般職員にはどう映っただろうか。

 興奮する者。泣き叫ぶ者。状況を推理する者。賭けを行う者も居たが、その時の私は笑いを堪えるので必死だった。

 

「……ケルシー。連絡通路に、サベージ達を配置してくれて助かったよ」

「…………どういうことだ?」

「戦いを見ようとギャラリーが集まってくれたおかげで、ようやく君に牙が届いたのだから!」

「……? …………ッ!?」

 

「君の相手は私だ……」

 

 瞬間的に空気が凍りついた。

 ケルシーは背後から聞こえた謎の声に動揺したが、すぐに平静を取り戻し、謎の声の持ち主の方に体を向けた。

 

「なるほど。クロージャから聞いたことがある。影のような男がいるとな……」

「ミス・クリスティーンは君の事が嫌いだそうだ。ギャラリーのおかげでへラグ達を無視することが出来たよ」

 

 ギャラリーが歓声を上げた。しかし、すぐにかき消されてしまった。

 影のような男よりもヤバい存在が近づいて来たからである。

 

「ドクター。ケルシー先生。これはどういうことですか?」ド ド ド ド ド ド ド

「「ア、アーミヤ……」」

 

 

 

【連絡通路】

 

 アーミヤによって通路に引きずり出された私たちは、多くの観衆が見守る中、今まさに説教されんとしていた。

 ケルシーが冷や汗をかいている。私も初めて見るアーミヤのマジギレに委縮し、顔を直視できずにいた。

 

「……まずこれはどういうことかを説明してください」

 

 私とケルシーのどちらに聞いているんだ? 

 長い沈黙は不信感を与えてしまう。早く切り出さなければ。

 

「「……これは……」」

 

 ……最悪だ。なぜこういう時に限って息ピッタリなんだ! 

 

「ケルシー先生から説明してください」

「…………ドクターが日記を見ようとした」

 

 まさか、自分の都合のいいように説明するつもりじゃないのか? 

 そうなるとかなりマズいぞ。過程はアレだが、今回の私は日記を女性から強奪しようとしたのだから。

 

「ケルシー先生、念の為聞きますが、それは誰の日記ですか?」

「…………わたしの日記だ」

 

 無傷のへラグが微妙な顔をしている。あのメンツと対峙して埃すら付いていないとは。

 ……待て、『わたしの日記』と言ったか? 

 

「ドクターに聞きます。なぜケルシー先生の日記を欲しがっているんですか?」

「……資料室で発見した時、私の過去に繋がる手がかりだと感じたからだ」

 

 絶妙に話が食い違っている気がする。

 

「ケルシー先生。日記をドクターに渡して下さい」

「…………断る」

「見られてはいけないものがあるんですね?」

 

 見られて困るような文通はしないことだ。テキサスの言葉を思い出す。

 当の彼女はボロボロなのだが。

 

「ケルシー先生! 日記を渡して下さい!」

「…………いやだ」

「……グラベル!」

 

 一瞬の隙を見てグラベルに日記を盗らせる。

 ケルシーも、私がアーミヤの前で実力行使に出るとは思っていなかったようだ。

 ケルシーが絶望的な顔をしている。

 さて、日記の全文を読ませて頂こう。

 

 

『……ドクターの救出に成功した。この一歩のために多くの犠牲を払った。見知った顔が少なくなっていく。ドクターを失わなくて本当に良かった……』

 

「ドクター。日記の内容に不審な点がありましたら、言ってください」

 

 今のところただの日記のようだ。特に見られて困るような内容ではないような気がするが……。

 

 

『……ドクターが記憶を失ってしまっている。……好都合だ。生まれて間もない赤子のようなドクター。わたしだけのドクターが作れる……』

 

『……最後にわたしの隣にいてくれればいいのだ。焦る必要などない……』

 

 ……ん? 何かいけない流れになっていないか? 

 

『ドクターとアンジェリーナが急速に接近している。わたしのドクターが汚れてしまう。定期健診の際にドクターを消毒しなければならない。……昔も今も、彼に触れていいのはわたしだけなのだ』

 

『へラグ将軍に執務室の盗聴器が発見された。彼は話が分かるからサベージとワルファリンのように、うまくいけば引き込めるかもしれない』

 

『日記が破れていた。ドクターにアレが見つかったら失望されてしまう。彼は聡明で博識なわたしが好きなのだ。弱みを見せたら嫌われるに決まっている。……絶対に回収しなければならない』

 

 これは、私が勘違いしていただけなのか? 

 私はこの日記の持ち主が、過去の私、もしくは関連する誰かのもので、ケルシーは私の過去について隠したい物があるからここまで抵抗したのだと思っていたのだが。

 まさかリアルに見られたくない電波日記だったとは。

 

「……満足したか? ドクター」

「ケルシー先生……。何で正直に言わなかったのですか?」

 

 周囲の人がその理由を聞こうと固唾を飲む。

 あの完全無欠のケルシーがどうしても隠したかった理由。

 それはロドスが機能し始めてから、彼女が初めて見せる弱点。

 

「こんな日記を見られたら…………ドクターに嫌われるじゃないか……」

 

 

 

 

 

 

 ロドスの最高幹部2人による危機は、アーミヤによって対処され、ドクターとケルシー、またそれに協力した9名のオペレーターには、それ相応の処罰が下された。

 

 具体的には、ドクターには、3か月の減給処分。始末書の提出。危機契約委員会への説明などその他が挙げられた。

 ケルシーには、施設設備の復旧と回復。さらに日記の全文公開という最も重い処分が下された。

 

 現在もクロージャに頼めばケルシーの生き恥をいつでも閲覧することができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ケルシー。もしよかったらなんだが、今度どこかに出かけてみないか?」

 

 

「………………今から行こう」




ケルシー先生とアーミヤはヤンデレの才能があると思います。
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