でも、シルバーアッシュさんの事はもっと好きです。
「・・・スキップだ。」
「むぅ・・・?またですか。これで3回目ですよ。」
とある宿舎の一室にて、2人の男女が玩具で遊ぶ。
積み上げられた木製のブロックを、少女は細やかな指で難なく抜き取る。
「はい、ドクターの番ですよ。降参するなら今のうちに。」
「まだだ・・・。活路を見出すのだけは得意なんだ・・・。」
手袋越しにでも分かるゴツゴツした指。
それは積まれたブロックの一つを取るには余りにも太すぎた。
ガシャン!ガラガラガラ・・・。
音を立てて崩れる積み木の塔。
それに伴いドクターの膝も崩れるが、反面、少女の顔は勝利の喜びに満ち溢れていた。
「またわたしの勝ちですね。これで何回目でしたっけ?」
「4連敗だ・・・。」
「フフ。ドクターが敵わない程の強さを手に入れてしまいました。このままだとわたしが指揮官になってしまうかも知れませんね。」
「・・・じゃあ誰がカランドの巫女をやるって言うんだ?」
とてもご機嫌な様子な少女。
可愛らしく吊り上がった口角と同時に、まだら模様の尻尾が左右に揺れる。
「むぅ・・・。ドクターがすればいいでしょう?」
「プラマニクスの服でも着ろと?」
「えぇ。祝福を~と言えばいいのですから。ほら、一緒に。せ~の」
感情の起伏が少ない顔で軽快に手を叩く。
カランドの巫女として堅苦しい印象を周囲に与える彼女は、実際には元気活発な少女なのである。
「 祝福を~ 」
「・・・ドクターって意外とノリ悪いんですね。非常に残念です。」
頬を膨らまし、コテンッと床に転がるプラマニクス。
そっぽを向いてはいるものの、依然として尻尾をバタつかせている。
今のプラマニクスには威厳も圧力も感じられず、ドクターはその部分に彼女と兄の違いを発見した。
「プラマニクス?大丈夫か?」
「『大丈夫か?』と聞かれたら『大丈夫です。』としか答えられませんよ。」
「乙女が傷心の時は、『無理そう?』と心配してあげることが大事なんです。」
「・・・それは勉強になったよ。」
「フフッ。授業料は後日請求します・・・。」
プラマニクスは身を起こし、乱れた髪をある程度整えた後に、テーブルの下に隠しているのであろう別の玩具を取り出した。
あれやこれやと物を選り好みしているのを伏し目に、ドクターはコソコソと退室の準備をしていた。
「プラマニクス。申し訳ないが、そろそろお暇させてもらうよ。」
「むぅ・・・?少し早すぎませんか?」
「もう4時間もいるんだ。これから会議があるんでね。丁度いい頃合いじゃないか?」
実際の所はもっと長い時間を共に過ごしている。
プラマニクスは休みなのに対して、指揮官は本日も多忙を極めていた。
しかし、同時にプラマニクスも暇を極めていたのであった。
「・・・もう少しだけどうでしょうか?」
「プラマニクス・・・。時間には余裕を持つべきだと思わないか?」
「思いません。次はこれで遊びましょう。」
そう言って取り出されたのは謎のカード群。開封されていない点を見る限り、プラマニクス自身もよく把握していないのだろう。
速攻でカタをつければ会議にも間に合うだろうと考えたドクターは、その勝負の提案に乗るのであった。
「・・・負けても泣くなよ。」
「どんなときにも全力を尽くします。わたしは最強ですので。」
【20分後】
「うおお!もう一回だ!」
「フフン。何度やっても結果は変わりませんよ?」
【40分後】
「なぜ勝てない!!細工しているのか!?」
「神の祝福・・・ですかね。まぁ、日頃の行いが関係していると思いますが。」
【1時間後】
「ドクター?これで4連敗ですよ。泣いても抱きしめてあげませんからね。」
「・・・イカサマを疑うぞ。こんなのゲームではない・・・。もはや蹂躙ではないか・・・。」
「わたしの完勝ですね。そう、完全なる勝利。今の気分はいかがでしょうか?」
完膚なきまで叩きのめされたロドスの指揮官は、頭を抱えてうずくまる。
プラマニクスはその隙を見逃さんと言わんばかりに煽り散らかす。
そのような微笑ましい2人のじゃれあいも、すぐに引き裂かれることになる。
〚緊急連絡です。ドクターは今すぐ第二会議室に来てください。今すぐですからね!〛
「ん?今のはアーミヤの声か?よく聞き取れなかったのだが・・・。」
「・・・・・・時間が関係していると思われますが?」
ふと時計に目を向けると、切り上げる予定だった時刻を大幅にオーバーしていた。
プラマニクスは微妙な顔をしながらドクターの顔を覗き込む。やはり、発端は彼女であるため、申し訳なさを感じているのだろうか。
しかし、そんな彼女の気持ちとは裏腹に、この遅刻男は謎の余裕を浮かべていた。
「・・・コーヒーでも飲みに行かないか?」
「・・・むぅ?正気ですか?気をしっかり持ってください。」
あまりにも唐突な提案にプラマニクスは驚きを隠せないでいた。それも狂ったと思う程に。
対するドクターはどこか悟りを開いた様な、諦めた様な顔で言葉を紡ぐ。
「今更行ったところで、アーミヤの怒髪天を抑えることなんて出来んだろうよ。こういう時は自分の気持ちを落ち着かせる事が大事なんだ。そう思わないか?」
今にも途切れそうな細い声でプラマニクスに問いかける。
少女は『?』を頭の上に浮かべ、数秒固まった後に口を開けた。
「いえ、思いませんけど。」
「えぇ・・・。急に真面目にならないでくれよ・・・。」
「ですが、ティータイムには興味がありますね。」
プラマニクスはそう言うと、部屋の片隅に設置されているポッドに手を伸ばす。
どうやら食堂に行くつもりはないらしい。
「・・・特別にわたしが淹れてさしあげましょう。ドクターは白湯でいいですか?」
「・・・・・・コーヒー。ブラックで頼む。」
「カッコつけなくても大丈夫ですよ?甘党の男性というのも魅力的だと思ってますから。」
ミルクココアに熱湯を注ぎ、更に砂糖を投入する。
作っているのを見るだけで胃がムカムカする様な飲み物を手慣れた手つきでカップに淹れる。
反面、ドクターが要求したコーヒーを煎れる作業には手間を取っているみたいだ。
普段は1人で飲んでいるからだろうか。
「・・・手伝おうか?」
「結構、です。ちゃんと出来ますから。・・・多分。あっ・・・。」
慣れない行動をした為に、服にコーヒーをぶちまけた所でドクターと選手交代した。
プラマニクスはしかめっ面をしながら替えの服を用意しに行った。
「・・・絶対に覗かないでくださいね。絶対ですよ。」
「分かってるよ。」
「絶対にダメですよ。絶対ですからね?」
ドクターはプラマニクスのこの発言がフリなのかどうかに悩みに悩んだが、結局覗かなかった。
覗いた後が怖かったからである。
「ちなみに覗いたらどうなるんだ?」
「・・・そうですね。・・・鶴になって羽ばたいていきましょうか。」
「まず恩返しすらされていないんだがね。」
数分経過した後にプラマニクスが姿を現す。
洗いたてなのか、女性特有の良い匂いがする服を着て戻ってくる。
「どうでしょうか。最高に可愛らしいと思いませんか?」
自慢げにそう言い放った彼女はその場でクルッと一回転して見せた。
中世ヨーロッパを彷彿させる黒の装束は、プラマニクスの髪と瞳の麗しさを際立てさせていた。
決して狭くはない部屋の真ん中を、スーパーモデルのように歩く。
「あぁ。毎日コーヒーをこぼした方がいいかも知れんな。」
「むぅ。ならば毎日わたしの部屋に来てもらわないといけませんね。」
少女はそう言うと、服装を見せるのも飽きたのか再び横に寝転んだ。
せっかく宗教画から出てきたような雰囲気を出していたというのに全く残念である。
「「・・・・・・。」」
室内が静寂に包まれる。
会話は交わさないが、2人の目線は合ったままだ。
プラマニクスの瞳は、見れば見るほど吸い込まれそうな、何か人間離れした妖艶さと魅力を持っていた。
「・・・また髪が乱れるぞ。」
「・・・もう乱れています。ナニがとは言いませんが。」
さきほどクルクル回転していたためか、プラマニクスの頬は僅かに紅潮しているように見えた。
「はぁ。なんだか熱くなってきました・・・。」
わざとらしくドクターに横目を流し、手のひらで顔を扇ぐプラマニクス。
その振る舞いはいささか官能的なものだった。
「プラマニクス氏。様子がおかしいように見えますが?」
「誰のおかげでしょうか? ・・・責任を取ってもらわないと。」
ジリジリと距離を詰めるプラマニクス。
床に高貴な衣装を擦りつけ、尻もちをつきながら後退するドクターを追い詰める様子は、さながら獲物を狙うヒョウのようだった。
「プラマニクス?それ以上は駄目だぞ。何が駄目なのかは分からないが、とにかく駄目だ!」
「フフ・・・。大丈夫ですよ。天井のシミを数えてる内に終わりますから。」
「それは男が言うセリフだ!あっ、本当にヤバい!」
壁際に追いやられ、逃げ場が無くなった据え膳すらまともに食えないヘタレは、とにかく時間を稼ぐことに脳の容量を割いた。
「待てプラマニクス。話し合おう。」
「むぅ・・・。なんでしょうか?」
間違いなく正気ではないプラマニクスを冷静に戻す方法。
それは外道といえる手段。
「こんな一時の気の迷いで関係を持った所で、君の周りの人は喜ぶのか?」
「周りの人とは・・・
ほんの少しだけプラマニクスが動きを止めた。
ドクターは彼女が次の言葉を発するよりも先に発言した。
「シルバーアッシュ。君のお兄様は喜ぶか?」
みぐるみを剝がされている最中で、ドクターはプラマニクスの最も痛い部分を突いた。
「・・・・・・。」
流石にプラマニクスの動きが止まる。
無理もない。状況はアレだが、ドクターがシルバーアッシュ家の事情に踏み込んできたのはコレが初めてだったからだ。
ドクターは十数秒考え込んでいるプラマニクスを確認すると、危機は去ったと安堵した。
そしてプラマニクスが重い口を開く。
「・・・お兄様ですか。」
先程とは打って変わって、室内はシリアスな雰囲気に包まれる。
「お兄様はドクターを盟友と評価していましたね・・・。」
「・・・あぁ。おかげ様でカランド貿易とは良い関係でいさせてもらっているよ。」
事実としてロドスとカラ貿はズブズブの関係なのである。
「そんな盟友は、かつて袂を分かった妹になすすべなく襲われんとしている・・・。」
「蟲毒を生き抜いたお兄様が身を捧げるという親友が、不倶戴天が如き視線を送る妹に奪われんとしている・・・。」
ニタリと口を歪ませボソボソと喋る彼女の姿には、もはや静謐さの欠片も見えず、ただ天使の似姿をした悪魔のように見えた。
「プラマニクス? ・・・プラマニクス?」
「・・・・・・ドクター。」
「・・・何でしょうか。」
「・・・『えぬてぃあぁる』って、どう思われます?」
「・・・・・・タスケテ。」
「ドクター!?ここにいるのは分かっているんですよ!大人しく観念してください!」
突如としてノックされる扉。
緊迫した声の持ち主はアーミヤだろうか。
バタン!!
「ドクター! ・・・ドクター!?」
「むぅ。時間切れですか。もう少しでしたのに。」
アーミヤは、ドクターに馬乗りになった状態のプラマニクスと目が合うと、見る見るうちに顔色が青くなっていった。
「なにを・・・してるんですか・・・。」
「いえ?遊んでいただけですが?それとも、してはいけないことでもあるのですか?」
例えるなら風神と雷神。2人は視線を外さないまま硬直状態に陥った。
謎の空気が室内を満たし、息苦しさを与えている。つまるところ修羅場。
もっとも、現在の流れにおいて一番被害を被っているのはドクターなのだが。
「アーミヤ。とりあえず、外に出させてくれ。この部屋は私には苦しすぎる。」
「ドクターは黙ってて下さい。今助けてあげますからね。」
「アーミヤさん?一体何の話をしているのですか??」
どこで間違えてしまったのかと聞かれれば、最初から間違えてしまっていたのかもしれない。
バチバチのバトルを繰り広げられんとしている中で、ドクターはただ宿舎の被害が最小限になることを祈るしかなかった。
「・・・・・・祝福を。」
プラマニクスちゃんは意外とでかいので好きです。
どこがでかいのかは内緒です。