高校2年の冬のこと。
父が死んだ。
死因は、心筋梗塞。
私が父の死を知ったのは、モデルの撮影の仕事の最中だった。
急遽、仕事をあがらせてもらい、急いで病院へ向かった。
タクシーの中から病室までずっと両手両足に鉛をつけられたみたいに重たかったことを覚えている。
…そこまで遠い距離じゃ無かったはずなのに、どこを通ってどうやって病院へ行ったかは後から思い返そうとしても何一つ思い出せなかった。
ベッドの上に横たわる父は、本当に安らかな顔をしていた。
後からお医者様から伺った話だが会社の事務所内で倒れ、救急車で搬送されたものの、そのまま…ということだったらしい。
即死に近い状況だったらしく、苦しむことなく安らかに逝けたと思いますとお医者様は仰っていた。…それが少しだけ救いになった。
悲しかった。なんの予兆も、なんのお別れもなく父が逝ってしまったことが。この世界から父が居なくなってしまったことが。当たり前に続いていくものなんだとずっと思っていたから。こんな形で終わってしまうなんて思っていなかったから。
…だけど、なぜか不思議と涙は溢れてこなかった。悲しかったはずなのに。
泣きたかったはずなのに。
…あの頃みたいに泣けたらどれだけ良かっただろうか。
でも「私」はそれを許してくれなかった。
お医者さま曰くどうやら、父は過労で昔倒れた時からずっと、心臓が良くなかったらしい。
…知らなかった。
働く場所を変えて、働き方を変えて、父の身体はあれからすっかり良くなったものだと、…信じていた。
父自身も自分の体調の事は誰にも伝えていなかったようで、会社の方も、葬儀に来てくださった父の友人も誰ひとりその事実を知らなかった。
いろんな方がお悔やみの言葉をくださったけれど、みな口々に父の体調に関する驚きを語っていた。早すぎる。とか、どうして、あいつは何も教えてくれなかったんだって。とか。
まったくだ。
……どうして、どうして父は私にすら何も、何ひとつ伝えてくれなかったのだろう。
伝えてくれていたら私が父の分まで、働いて父を守れたのに。
わたしがお父さんを守ってあげられたのに。
お父さんは、ずっとずっとわたしを守ってくれたのに。
何が、人をときめかす存在でありたい。だ。
真に身近な人の事も知らなかった癖に。
「強くなって、お父さんを助けてあげる!」
無邪気で無責任な言葉が頭の中で乱反射する。
「私」は強くなれたよ。
…だから抱きしめて。褒めてよ。
…お父さん。