第一王子は廃嫡を望む 作:逆しま茶
魔法を扱えるのは人間だけではない。
野にいる獣たちも例外ではなく、ただし彼らは種族ごとに画一の魔法のみを扱う。その理由について聖竜教会は『多様な魔法は本来竜のみの特徴であり、人に与えられた力である』としている。
が、ともかく問題なのは殺傷能力の高い魔法を使える獣であり、それらは魔獣と呼ばれて騎士団やギルドでの討伐対象になる。
そして、倒しても誰にも文句を言われないのがそれら魔獣たちである。
「それでは総合実習のメンバー決めを開始します。人数は1人から5人まで。従者はその人数には数えませんが1人につき2人までです。では始め」
そう言って教師が手を叩くのと同時に、教室のあちこちで上辺は上品に、中身は熾烈なメンバー争いが勃発する。
貴族生徒たちにとって、就職先というのは既に決まっていたりコネでなんとかなるもの。そのコネを入手する機会であり、かつ最も重要な似たような爵位の異性とお近づきになる機会である。
男子生徒は露骨に女子生徒とお近づきになろうとするし、女子生徒はそれらを捌きつつ相手を見極めようとする。
「フィリアちゃん――――はっ、いない!?」
時間操作で無駄に超高速移動したフィリアがルークの斜め後ろに出現し、さり気なく袖を引くとリュミエールを真似た淑女の微笑みで言った。
「ルーク様、ご一緒させていただいてもいいですか?」
「お、おう。いいけど……」
開始1秒で仲間が増えたルークの元に、駆け寄ってくるのは茶色い髪を揺らした元気な少女。
「ルーさん! 私も! 仲間に入れて!」
犬耳でも見えそうなくらいに元気よくずずいっと近づいてくるセシリアに、つい苦笑したルークは軽く肩を竦めた。ちょっと気恥ずかしくなったともいう。
「えー、どうしよっかな……」
「みすてないで!?」
ちょっと半泣きなセシリアに、申し訳ない気持ちとちょっと楽しい気持ちが湧いてきたルークは己を戒めつつ頷いた。
「いや冗談だって」
「ルーさんたまに意地悪だよね……」
むぅ、と拗ねた様子のセシリアに同意するように、フィリアがうんうんと頷く。
「ルーク様はわりとひどいです。……ぁぅ」
ルークはとりあえずフィリアにデコピンしたが、ちょっとうれしそうに額に触れるフィリアに無性に悲しくなって頭を撫でてやった。
「流石にそれで喜ばれると困るんだが」
「………ぇへぅ。今の、はじめてだったので……」
そりゃあフィリアにデコピンできる人間は立場的にも魔法的にもそうはいないだろう。フィリア的には小突く感じが仲良しっぽくて嬉しかったのだが、ルークはこの調子だと何でも喜びそうだなとちょっと微妙な気持ちになった。もっと甘やかすべきなのかもしれない。
「さて、いきなり三人集まったわけだが―――――」
女子だらけだと肩身が狭い(アリオスは付いて来させるが)ので、マグマ馬鹿のカイルはともかく、ディーノは呼びたいと思ったルーク。と、そこでフィリアが控えめに手を上げた。
「………あの、ルーク様。お誘いしたい人がいるんです」
「ん。ああ……ん!?」
いつの間にかフィリアに友達が出来ている!?
いやちょっと待てどこの誰だ、というか男じゃないだろうな、とどっかの親ばか公爵に似た反応をしかけたルークだが、そのフィリアの目線の先には。
「………(そわそわ)」
堂々とした仁王立ちで腕を組み、(ミリア以外)誰も寄せ付けない高嶺の花どころか孤高の花と化していた公爵令嬢がいた!
(なんか眼光鋭くこっちのメンバー集めを観察してるリュミエールじゃねーか!? 止めるんだフィリア、それ多分仲間になりたいわけじゃなくて採点中の試験官みたいなもんだからな! 声かけると『戯け者め!』とか言われるぞきっと!)
「……いいですか?」
なんだろう、このキラキラと希望に満ちた目は。
なんとなくセシリアに目を向けると半笑いでゴーサインを出している。いやまあリュミエールなら手酷い断り方はしない……と思うけど。このまま行かせるのも寝覚めが悪くなりそうなので、ルークは頷くとリュミエールの方に向かった。
「いいだろう。だが、此処は俺が
「……え、マジか。殿下がイルミリス公爵令嬢の所へ……!?」
「遂に始まるのか。頂上決戦が……」
ざわざわと好き勝手に盛り上がる男子たち。
そしてそれに若干呆れ顔でありながら、最新の恋バナの行く末を見極めんとワクワクしている女子たち。
「(どう見ても恋する乙女よねー)」
「(気づいてる男子ってディーノ君くらいなんじゃ?)」
なおルークが向かうのを見て一番パニックになったのは当のイルミリス公爵令嬢ことリュミエールである。
「(………えっ? ま、まって。ちょっと心の準備をさせて!? まだどう声をかけるか考えていただけで――――な、なんて答えればいいの!?)」
「(まだ何も言われてないから。とりあえずフィリアさんと話してた時みたいにしてみれば?)」
小声でミリアに助けを求めるリュミエールだが、小声でなにか相談することで割とルークに近寄りがたく感じさせていることには気づいていない。
『へぇ、どうやら向かってくるようね』『身の程知らずですね』とかそんな会話だと思われているのである。
(これ、行かないと駄目か?)
背後を振り返ったルークはフィリアの期待の籠もった視線に負けてリュミエールの前に立つ。リュミエールは腕組みを止め、淑女らしく? 鳥の羽でできた扇で口元を隠しつつ微笑んだ(扇のせいで見えてないが)。
(いっそ何か言ってくれれば楽なんだけどな……)
(な、何を言われてしまうのかしら)
気まずい沈黙の中、ヤケクソ気味のルークがリュミエールに言った。
「あと二人空きがあるんだが、良かったらこっちの班に来ないか?」
割と普通だった。
ミリアにも問いかけているあたり、特に無難である。
リュミエールはそれに対して、公爵令嬢らしく受けて立つ。
「――――よ、よろしくてよ?」
口元にやけてるし目線も逸れてるしで受けて立てていなかった。
どちらにせよ扇で隠れているのであんまり意味ないのだが、ミリアはそんなリュミエールに残念な子に向ける目を向けつつ一礼した。
「そういうわけですので、よろしくおねがいします。ルーク殿下」
「ああ、よろしく。というか良かったのか、今リュミエールが勝手に決めてたけど」
なにか目を瞑って考えているリュミエールに窺うような視線を向けつつ、ミリアに問いかけるルーク。だがミリアは小さく首を横に振って言った。
「いいのです。……あれでも彼女、喜んでるので」
「へ――――?」
と、驚くルークを尻目にガシッとミリアの頭を掴んだリュミエールが顔だけ笑みを浮かべつつ手を魔力で輝かせる。
「――――ミ・リ・ア?」
「い、いたたたた!? 待って頭凍ってる! キーンってなってる!」
パキパキ言いながら凍らされるミリアに、魔法使ってガードしてるっぽいしじゃれ合いなのは察しつつも流石に気の毒になったルークはそっとリュミエールの腕を掴んで制止した。
「ここは俺に免じて……駄目か?」
これでキレられたらそれはそれで廃嫡的にアリかな、などと思ったルークだったが、リュミエールは耳だけ器用に赤くするとミリア(の表面だけ)を凍らせる照れ隠しを止めてそっぽを向いた。
「………ま、まあ一理ありますね」
あっさりと手を離したリュミエールに、まあ根は優しいし、やっぱりじゃれあいかと納得するルーク。そして先に残りのメンバーのところに戻るルークの後ろで、リュミエールは腕を掴まれたあたりをちょっと抱き寄せてみたりしていた。
「(―――う、腕。つ、掴まれちゃった)」
「(ポンコツしてないで行きましょう、リュミちゃん)」
ふにゃふにゃになったリュミエールの手をミリアが引いて移動。見た目は完全にリュミエールの方が姉っぽいのだが、ポンコツな時はその限りではなかった。
ともかく、これで5人のメンバーが揃った。
ルーク以外全員女性だが。
ついでにルーク以外は全員、付き人制度を使用しないせいでアリオスしか男仲間がいなくなったが。
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「とりあえず、一応復習しとくが今回退治するのは王都に割と近いところの、人に害のある魔獣たちだ。風を操って素早い動きのウインドウルフとか、土魔法でアホみたいに硬いステインボアとか、水魔法で毒を撒き散らすポイズンスネークとか、肉体強化して殴ってくるタイラントベアーだな」
すらすら説明するルークに、フィリアは純粋に尊敬の眼差しを向け。
(やっぱりルーク様は今までにも倒したことがありそうですね)
リュミエールは勤勉な姿勢に嬉しそうに微笑み。
(やはりそうでなくては)
セシリアは真面目に話に頷き。
(あ、足を引っ張らないように頑張らないと……)
ティナはタイラントベアーの面倒臭さを思い出して顔を顰め。
(……雷切でも倒れないし……大変)
アリオスはこのメンバーの過剰戦力っぷりににっこり笑った。
(いえ、流石は殿下。このメンバーだけで魔獣を狩りつくせそうですね)
もっというとフィリアだけで焼き尽くせそうなのだが、環境も破壊されそうなので却下である。教師もちょっと戦力の偏りは感じていそうだったが、何分フィリアは事情があることと、ニッコニコのリュミエールに移籍を打診するだけの根性はなかったらしい。
当日は一応騎士団の護衛付きで、かつ馬車での移動となる。
普段と違って万が一が無いとは言い切れないこともあり、アリオスは改めて気合を入れ直すのだった。
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―――――学院の実習の時期というのは、騎士団でもかなり気を遣う行事である。
騎士団に勤めているのは主に貴族の次男・三男坊。主に高位の者たちを中心に学生の指導と護衛に当たるのだが、なにかあれば首が飛びかねない。
そんな中でも一際話題を集めるのは継承権を持つ王太子殿下であり。
ようやく新人を脱して中堅どころになってきた騎士たちは、宿舎の食堂で他愛もない噂話と共に今度の護衛について話していた。
「殿下の護衛とか任されたら首が飛ぶんじゃないか? 殿下も剣はともかく魔法は強くないんだろ?」
「俺ら程度に任されるわけないだろう……」
それもそうだ、と言いながら安酒を一杯。
徐々に酔っ払ってきた男たちの話しは少しずつ下世話な方にシフトしていく。
「あのめっちゃ美人な公爵令嬢とかとなにかの間違いでお近づきになれねぇかなぁ……」
「なにかの間違いで胸揉みたい」
「魔法だけなら、俺でもいいところいってると思うんだけどな」
「身分が付いてこないからな、仕方ない。それに俺ら程度で上に行っても辛いぞ」
「……魔法がなくても、身分があればなんとかなるだろ?」
「ま、それもそうか」
酔っ払ってかなり危うい発言も飛び出す彼らを陰から見守り、溜息を吐く壮年の男――――口元に特徴的なちょび髭を生やしたその男は、ツカツカと男たちに近づくと加減無くぶん殴り――――壁まで吹き飛ばした。
「おい貴様ら、どうやら心構えがなっとらんようだな」
「だ、だだだ団長!?」
騎士団長、ゲイル・ユーウェンはゴミを見る目を酔っ払いたちに向けると、訓練用の木剣を人数分取り出して投げつける。
「――――実力が、全てだ。貴様らが妄言を吐くだけの力を見せつければ見逃してやる」
この調子では、殿下の班は私が見る他にないか。
ゲイルはそう考え、ルークは不意に寒気を感じた。
翌日、徹底的に絞られた団員たちは以後酒を飲んでも余計なことは言わないようにしようと誓ったという。
今日は休みだったんですが、悩みすぎて全然書けないレベルでして。
今後の指針になればとアンケート置かせていただいています。お答えいただけるととても助かります。
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