第一王子は廃嫡を望む   作:アマシロ

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前話は投稿日21時40分くらいに2割ほど加筆しております。
そんなに変わってないですが、早めに読んで下さった方には一応お知らせさせて下さい。


毎日投稿……マモレナカッタ



廃嫡されたい第一王子、学友と語る

 

 午後の男子の授業は剣術だった。

 高位の貴族はおおよそ魔法が強いので、この上位貴族クラスにいるような男子は魔法も使える剣術の授業は好む奴が多い。

 

 のだが、授業が始まるまで運動場で待っている男たちが黙って突っ立っているわけもなく。

 

 

「―――――おい、どういうことだよルーク! いつの間にあんな可愛い子とお近づきになってんだ!?」

 

 

 その中でも剣術バカ筆頭である、現・騎士団長の息子でついでにユーウェン侯爵家の次男であるカイル・ユーウェンが無駄に暑苦しく寄ってくるのにルークは若干面倒くさそうに応じた。

 

 

 

「カイルか。いつの間にって言われたらつい最近だが」

 

 

 

 

 この男、剣術の腕もあるし魔法も強いと無難に有能なのだが、暑苦しい。

 

 

 

 

 

「最近? 最近だな! なら俺にもまだチャンスがあるか…?」

 

 

 

 

 というか見た目は完全にお子様なフィリアにチャンスも何もないだろうと思うのだが。まあ貴族としては婚約くらいはあれくらいの見た目でも普通にするが。

 

 

 

「お前、前はイルミリス公爵令嬢が良いとか言ってなかったか?」

「バッカお前、アレは見た目だけの話だ! フィリアちゃんは妖精だぞあれ。あの手を振ってくれた時の無垢な笑顔……なんだろう、自分の汚れを思い知らされるような」

 

 

 

 まあ、可愛いのは認めるが。

 何故か感動しているカイルは置いておいて、ちょうど近くにいた伯爵家の跡取りであるディーノ・ステインに目を向ける。

 

 

 

「ディーノはセシリア派だっけか」

「派って……なんか誤解を招きそうなんだけど!? 素敵な女性だと思うってだけの話だからね!」

 

 

 

 ディーノはカイルと違って名家なわけでもないが、実家が貿易に携わっているので伯爵家の中ではけっこうな権力がある。前に協力して密輸犯を叩きのめして以来色々と絡むようになったが、逃げ腰に見えて引いてはいけない場面を心得ているのでここぞという時には頼りになる。

 

 

 

「まあセッさんはな。癒やし力あるしな」

 

 

 

 気配り上手いし、今回も予めフィリアの面倒を見てくれるように頼んでおいた。

 イルミリス公爵令嬢がどう出るかがなかなか謎なのだが、あの何考えてるのかさっぱり分からない令嬢でも交友関係の広さにおいてクラス最強女子のセシリアならなんとかしてくれそうな気がする。フィリアは寝起きが悪い以外は基本平和だし。

 と、ディーノはどこか呆れたような目をこちらに向けて言った。

 

 

 

 

「ルークさんの、その謎のコミュニケーション能力の方が凄いですけど。前にも聞きましたが本当にセシリアさんと何にもないんですか?」

 

「何もって言われてもなぁ」

 

 

 

 少なくとも社交では普通だった……はず。

 ラウド侯爵家は王国一の穀倉地帯なので、ティナとアリオスを連れて例の移動法で何度か視察には行っているが。基本的に身分は隠しているので、そんなにバレないはずだし。

 

 

 

「多分」

「ルークさんの『何もなかった』は範囲が広そうですからね……」

 

 

 

 そうだろうか。

 まあこれでも一応王太子なので、密輸とか誘拐とかのデカイ事件じゃないとなかなか覚えていない。…………ん? いや、そういえば若干セシリアっぽい女の子が誘拐されてたことがあったような? でも平民の服着てたし人違いか。

 

 と、話は聞いていたのか無駄に元気よくカイルがふんぞり返って言った。

 

 

 

「俺、さっきフィリアちゃんに手を振ってもらったぞ」

「それ絶対ルークさんにですよね。カイルはなんでも何かあったことになる……」

 

 

 

 呆れるディーノだがまぁ、フィリアと仲良くしてくれる分にはいい。

 ……やっぱり下心がありそうなカイルは却下してもいいだろうか。なんとなくディーノなら安全そうな気がするけれども。

 

 

 

「俺、さっきフィリアちゃんと目があったぞ」

「また微妙なところを……ルークさん、何か言ってやって下さい」

 

 

 

 何かって言われても。

 ドレス作ったとか、事情があるとはいえ知らなければ完全に婚約者とかにやることなので言えないし。一緒に布団で仕事したとか、買い物に行ったとか、宝物庫漁ったとか、ロクなことをしていない………あ。

 

 

 

「二人でアップルパイなら作ったぞ」

「下さい」

 

 

 

 即座に頭を下げるカイルだが、俺が誰かに渡すアップルパイを残すとでも?

 もちろん即座に完食した。

 

 

 

「鮮度が落ちる前に全部食べるに決まってるだろうが」

「…………い゛い゛なぁ……くっ、なんで俺は美少女の手料理がもらえないんだ!」

 

 

 

 血涙でも流しそうな勢いで悔しがるカイルを、穏やかな目で見るディーノ。

 

 

 

「君、この間フェリウス伯爵令嬢から何か貰ってたよね」

 

 

 

 

 フェリウス伯爵令嬢は、大人しめの見た目だがけっこう可愛い。美少女と言っても問題ないじゃないかむしろそうじゃないと酷くないかという表情のディーノだが、カイルは能面のような顔で首を横に振った。

 

 

 

「あれか? あれな……惚れ薬が入ってた」

 

 

 

 惚れ薬もジャンルによって禁制品だったりそうじゃなかったりするが、いわゆる夜のお供に使われるレベルのものなら黙認されている。が、自制心の弱い学生では耐えられないことも懸念されており――――それはそれとして、人から受け取ったものを迂闊に口にするなというそもそもの問題から禁止はされていない。転んでも怪我で済むうちに転んでおけということである。

 

 

 なお行く所まで行ったら当然ながら責任は取らされる。が、家の力関係によってその責任の取り方は違うので、場合によっては妾にして終了なんてことも起こり得る。そんな無茶な惚れ薬をやる阿呆だったらそれで仕方ないとかなんとか。妙なところでブラックな学院である。

 

 

 

「あ、うん。ごめん。よく無事だったね」

「なんか頭の中が変だったから魔法で燃やした」

 

 

「君も大概無茶だよね!?」

 

 

 

 せっかくの魔法なんだしカイルの言うことも別に間違っていないと思うが。

 なんとなくカイルと意見が一致して頷きあっていると、カイルはどこか遠くを見る目をして言った。

 

 

 

「だがリュミエール公爵令嬢みたいな相手だったら乗ってた」

「いや逆に絶対嫌だろ」

 

 

 

 あの性格の相手を結婚相手にはしたくない。

 というか、実質敵対しているから結婚も何もないのだが。あるのは勝つか負けるか、ただそれだけのことだ。

 

 が、カイルはどうも意見が異なるようで。やれやれ仕方ないな、とでも言いたげな妙に腹の立つ表情を浮かべて言った。

 

 

「はぁ、ルークお前……あの、おっぱいだぞ」

「一応侯爵家の人間がおっぱい言うな」

 

 

 

 カイルは何を思ったのか真面目な表情でおっぱいと言い放つと、何を思ったのか手でこれくらいと大きさを示して見せ。

 

 

「セシリア侯爵令嬢は確かに可愛い。だがランクで言うのなら……子爵ランク!」

「ものすっごい失礼だからなお前」

 

 

 

 なんでそんな身分制度と女性を敵に回すような発言をするのか。

 とか思っていたら何故か近くで聞き耳を立てていた男子生徒がわらわらと寄ってきた。

 

 

 

「リュミエール公爵令嬢は!?」

「公爵……否、王者のおっぱい!」

 

 

 

 バーン、と無駄に自らの張り裂けそうな胸筋をアピールしつつ言い放つカイルに、ディーノと共に冷たい視線を送りつつ言った。

 

 

 

「お前不敬罪でしょっぴくぞ」

「ルークよ、お前はおっぱいに興味がないのか!? 嘆かわしい……」

 

 

 

 が、気にした風もないカイルは謎の上から目線で天を仰ぐ。

 

 

 

「一応王族として俺の方が嘆かわしいわ!」

「あ、フィリアちゃんは無限の可能性を秘めた妖精ランクだから」

 

 

 

 こいつもう胸ならなんでもいいんじゃなかろうか。

 鳥のムネ肉でも投げつけてやろうか。

 だがカイルはますます絶好調になり、演説でもするかのようにぶちあげた。

 

 

 

「くっくっく、これが跡取りという呪縛のない次男の力! 遊べる! モテる! 夜の店!」

 

 

 と、その言葉に応えるように周囲の男どもが歓声を上げる。

 

 

「おおー!」

「いいぞ、カイル!」

「いい店紹介しろー!」

 

 

 

「むしろ婿入りする分後で困るよね」

 

 

 と、ディーノが放った一言に静まり返る。

 遊んでいる男を婿入りで受け入れてくれる家があるのか? それ後々自分の首締めるよね、と。

 ついでなので俺も何か言っておこうか。

 

 

 

「とりあえずフィリアの教育に悪い奴は処すから。――――公爵が、割とガチで」

 

 

 

 スッ、と無言で俺の横に立ったアリオスが開いた紙には大きく押されたアグリア公爵家の家紋と、意味深な血判が。

 なんだかこれだけだと意味はさっぱり分からないが、とりあえずガチで殺しに来るくらいの気迫は伝わってくる。

 

 

 

 

 

「え、何。なんで。俺死ぬの?」

「場合によっては?」

 

 

 

 流石の公爵も今ぐらいなら殺しはしないだろう。

 たぶん。

 

 

 この後、テンションが下がったカイルを授業でボコボコに――――できなかった。

 相変わらずカイルの奴のマグマを操る魔法が意味不明すぎた。

 

 

 なんであいつマグマを噴射して加速したりするんだろうか。『俺が大噴火!』じゃねぇよ。もうちょっとマグマっぽい技使え。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 セシリア・ラウドは侯爵令嬢である。

 白馬には乗っていなかったけど、王子様に助けてもらったことがある。

 

 ……のだけれど、王子様は覚えていなかったのである。

 そこは、覚えていてびっくり再会じゃないのかなぁ!? 

 

 まあこっそり家を抜け出した時だったし、泣いてたし、色々恥ずかしい事になっていたので決して悪いことだけじゃないのだけれど。そう思わないとやってられないけど。

 

 

 

 

 セシリアは、自分のことを臆病だと評価している。

 優しいとよく言われるけれど、嫌われるのが怖くて必死なだけだ。もちろん喜んでもらえるのは嬉しい。誰かのために動くのも嫌いじゃない。

 

 でも、違う。

 誰かのために、自分が傷つくことを厭わない勇気なんて無い。

 

 

 

 

『――――…一発殴らせろ』

 

 

 

 無傷で制圧するとか、そういうかっこよさに憧れたわけじゃない。

 倒した数なら、その後すぐに来たティナさんとアリオスさんの方が多かった。

 

 でも、助けが欲しかった私のために本気で、立ち向かってくれたのは――――。

 

 

 

 

 

(なんて、現実逃避しても仕方ないよね……た、たたた立ち向かわないと! ルークさんのため! ルークさんに頼まれたんだから!)

 

 

 

 

 午後。女子生徒たちはサロンに集められていた。

 主題は転入生や編入生の歓迎会であり。中でも高位の貴族令嬢が集められたこのテーブルに座る面々は―――――。

 

 

 

 

 

 

――――北方守護の要。幾度となく異民族の侵攻を防いだ『不洛の盾』ジュリウス・アグリア公爵。莫大な鉱山を所有し、貿易においても手堅い実績を持ち、その精兵たちは雪山を楽々踏破してみせるという猛者たち。王国きっての武闘派にして最大の家アグリア公爵家。

 その公爵が唯一愛した女性、その忘れ形見にして長期の病気療養から奇跡的な復活を果たしたフィリア・アグリア公爵令嬢。

 

 

 

――――西方の雄、大海に面し王国にて最大の商業利益を叩き出す経済の要。『不尽の瓶』アーノルド・イルミリス公爵。その圧倒的な海軍力、海戦を尽く破壊する『氷結魔法』を受け継ぐその家の類を見ない分家の多さによる影響力の強さは、単独最強のアグリア公爵家に決して見劣りするものではない。

 その一大派閥、イルミリス公爵家の中でも直系の中の直系。徹底的に血統を厳選し、最強を超えるサラブレッドとして産み落とされたリュミエール・イルミリス公爵令嬢。

 

 

 

 

―――――王国南西に位置する一大穀倉地帯、ラウド侯爵家。『食料庫』とも呼ばれるその土地は、空輸を手掛ける南方の渡り鳥ことウィルムドラ公爵家とつながりが深く。2つの家を合わせて『王国の大動脈』とも言われる。

 セシリアはその家の三女であり。嫁に出されることが確定されている身分である。長女がウィルムドラ公爵家に嫁いでいる関係上、そこらの侯爵令嬢よりもよっぽど強い。

 

 

 

 のだが。

 

 

 

 

―――――東方の魔術師、かつての戦乱において隣国であるバルフェア王国、そして共和国の二国を手玉に取り策の妙を示すとともに、魔法を一般化した技術である魔術の研鑽に励む王国随一の研究機関を持つエンディミア公爵家、と非常に親しい関係にあるクルム侯爵家。その次女であるミリア・クルム。

 

 

 

 

 

 

(……ふぇぇえ、この中で最弱なの私だよぉ……お茶でも淹れにいきたいけどそれホスト役のリュミエールさんの役だし)

 

 

 

 

 家の格で言えばアグリア公爵家が一番で、そのすぐ後ろにイルミリス公爵家、軍事力ならアグリア公爵家の後ろにエンディミア公爵家、経済力ならイルミリス公爵家の後ろにウィルムドラ公爵家となる。なのでウィルムドラとエンディミアに明確な優劣はないのだが、そうなると問題は家そのものの力であり。

 

 クルム家よりラウド家はちょっと下である。

 

 

 そして病気療養していたこと、編入生であることから饗される側に回ったフィリアさんもこの場においては同じ公爵家のリュミエールさんより立場は下。厳密には違うけど、このお茶会の範囲内なら下だと思って間違いではない。

 

 

 

 一体何を言われるのか――――。

 

 お茶を配り(学院のお茶会においての毒とか諸々の不意打ちは、学院にいちいち毒見役を入れるのも面倒なため淑女の協定により禁止されており違反すると爪弾きにあう)、とりあえず一口。無難に感想を言うべきところで、リュミエールさんはそっと微笑んだ。

 

 

 夜の帳のような黒髪に、アイスブルーの瞳。

 同性のセシリアでも思わず目を向けてしまうほど豊満な胸部の前でゆるく腕を組み。どこまでも傲慢に言った。

 

 

 

 

 

「―――――貴女、ルーク様の何なのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 




補足

公爵(フィリア、リュミエール)>侯爵(セシリア、ミリア、カイル)>伯爵(ディーノ)>子爵>男爵(ティナ)




公爵4家
アグリア  :フィリアの実家。北にある。異民族対策つよい。
イルミリス :リュミエールの実家。西にある。分家いっぱい。貿易つよい。
ウィルムドラ:名前のみ。セシリアの実家と親密。空輸つよい。
エンディミア:名前のみ。もうひとりのお茶会参加者の家と親密。研究つよい。


カイル :騎士団長の次男。お調子者。リュミエール派かつフィリア派
ディーノ:常識人。ツッコミ役。セシリア派

セシリア:常識人。テンション上げないと緊張する子。一応侯爵令嬢。
ミリア :名前だけ出てきた。東のエンディミアと親密な家の侯爵令嬢。






アリオス
位 :??
魔法:『遮断』
身長:やや高い
瞳:グレー 髪:紺 (変装により変わることあり)

好きなもの:面白い上司、からかい甲斐のある同僚、紅茶
嫌いなもの:面白くない上司、酒、自分
趣味:情報収集、計画
特技:変装

好きなタイプ:常識にとらわれない人
苦手なタイプ:何考えてるか分からない薄ら笑いを浮かべた人物
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