鈴谷(漢)の艦娘物語/艦これSS   作:マルカジリ軍曹

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1.序章
プロローグ


「やめろ…やめてくれ…」

 

 真っ暗な海に投げ出され、訳も分からず化物達に襲われる。

 俺は眼前に展開される絶望的な状況に思わず独り言ちていた。

 

 

――

 

 

 ほんの1時間前まで、俺は何の変哲も無い人生を送っていた。

 問題があるとすれば、全く女を知らなかったことだろうか。

 

 大学から中堅のセットメーカーに就職。

 そのままそこで40歳くらいまで働いていた。

 

 仕事は何でも屋に近かったかもしれない。

 マイコンからパソコンまでのソフト全般の設計や製作を担当しつつ、

 電気関係も取り扱った。

 趣味でDIYもやっていたから、簡易的な製図位も出来た。

 

 とはいえ器用貧乏だったとは思う。結果的に突き抜けた専門分野が

 あったわけじゃなかったけど、何でも屋としては重宝がられていた。

 

 仕事以外は…なんというか、あまりよくなかったとは思う。

 会社の連中とはそこそこの付き合い。友達関係も深くなく、

 気付いたら…周りには誰もいなかった。

 

 まぁ本音を言える友達なんていなかったし。仕方ない。

 

 女性も…興味がないと言ったらウソじゃないけど…、

 性欲は一人で発散できるしなぁ…とかやってたら今の歳だよ!

 

 …だって彼女居なくても困らないんだよね。昔と違ってさ…。

 

 …

 

 あれ?これ、どこぞの物語とかに出てくる仕事しかない男だな。

 しかも大した事してない…。

 

 …

 

 えっと、ま、と、といった感じの「普通の人生」を送っていた。

 

 それが何で今恐ろしい目にあっているかと言えば、

 数日前、ある仕事の内容を部長から聞いたのが始まりだった。

 

「小早川君、ちょっといいかな」

「はい、なんでしょうか?部長」

「実は客から頼まれてね…」

 

 そこから、かくかくしかじかと部長は仕事の説明をしてくれた。

 掻い摘んで話すと、うちの会社が納品した装置のメンテナンスを

 頼まれたらしい。どうもシステム全体が動かなくなってしまったそうだ。

 

 とはいっても、うちの装置は部分的な物なので、

 全体のシステムを受け持ってるわけではない。

 

 部分的な故障ならともかく、全体的なものなら全体を担当している

 会社が先に行ってどこが悪いかの目星程度は突き止めないと、

 こちらが行っても意味がない筈なのだが…。

 

 ただ、客の強い要望とあって無下に断れないらしい。しかも、

 

「え?護衛艦に乗船?飛行機や民間船ではなく?」

「おう、そうなんだよ。ちょっと事情がよく分からないんだが、

 どうも飛行機や民間船で移動できない状況が出来ているらしくてね。

 まぁ君はこういうのは結構好きそうだから、どうかなと思って」

 

 ん?と、その場で眉を顰める程度には疑問符はあった。

 一応部長に回答を待ってもらい、色々調べたのだが、

 その時点では現場への飛行機や船が事故の影響で運航停止になっている、

 という事くらいしかわからず、断れる理由は特に無かった。

 

 それで結局仕事自体は受けざるを得ず、護衛艦に乗せられて

 他社の技術者連中も合流し、一緒に現地に向かう事になったのだ。

 

 結果その途中、夜間の海上で化物達に強襲されることになる。

 

 海の化物「深海棲艦」

 

 ある時を境にして海の妖怪伝説さながらに、

 奴等は人間と、人間の作った船を襲い始めていた。

 

 俺が襲われたのはまだその情報が全体に行きわたる前だった。

 もし、知っていれば仕事を断っていただろう。

 

 そんな情報弱者達を乗せた護衛艦は自衛官達の奮戦空しく、

 丁度いま奴等の攻撃で轟沈するところだった。

 炎を噴出して辺りを赤く照らしながら沈んでいく船。

 

 なんとか沈み始める前には救命ボートに乗れはしたが、

 化物共は逃がしてはくれなかった。

 

 

――

 

 

 救命ボートは逃げる途中で奴等に体当たりされ転覆。

 

 衝撃で海に投げ出された俺らは、たった今彼らの

 栄養になるべく生餌にされている真っ最中。

 

 いっその事、ライフジャケットなんて着なかった方が

 良かったかもしれない。

 

 辺りは夜にしては無駄に明るかったが、それでも奴等の姿形は

 よくわからなかった。黒っぽい色なので輪郭がぼやけるのだ。

 ただそれでも、真っ黒な固まりに口が付いていて、それが大きく

 開けられ、こちらに迫ってきているというのは、遠目にもわかった。

 

 しかし、逃げようにも速度差は絶望的。

 

「うあぁぁぁぁぁぁ!」

「ヒィィィィィィィ!」

 

 周りで踊り食いされている他の人達の悲鳴が辺りに響く。

 ある者は丸のみ、ある者はかみ砕かれ、死んで行く。

 

 あまりに絶望的な状況で、ガチガチと口を鳴らしつつ、

 涙目で青ざめながら、思わずやめてくれと呟いてしまっていた。

 

 しかし、当然そんなこと自体には意味がない。

 残された選択肢は、どう死ぬかだけだ。生き残れる可能性はゼロ。

 

 丸のみ or +咀嚼付き or その前に外傷で or 沈んで自殺。

 

 どれが正解なんだろうか。わからない。わからないが、

 こちらに突っ込んでくる化物は確実に近づいて来ている。

 

「クソガァァァァァ!!!」

 

 気が変になっていたのかもしれない。

 

 俺は唐突に叫びながら何をとち狂ったのか、

 一発殴ってやろうと拳を上げつつ、

 化物の方に自ら突っ込んでいったのだ。

 

 そして、結果は…語るまでも無い。呆気なく丸のみ。

 殴る事すらできなかった。

 

 あぁ畜生…。こんなのありか。何でこんな事に…。

 

 頭の中で悪態をつきながら、ゆっくりと飲み込まれる。

 そしてまるで走馬灯のように、

 今までの記憶がよみがえっては流れて行く。

 

 ように、じゃないな…思いっきり走馬灯だ。

 

 しかし…今見ても碌な思いでが無い。結局俺は、

 こいつの糞になるために生まれて来たのだろうか…。

 

 …

 

 嫌だなぁこんなの…。何処で間違ったんだろ…。

 誰かに看取られるとか、そんなものも無くて、

 この化物のお腹に入るだけという…最後。

 

 自然界ではよくある話かもしれないが、

 人間の自分がこうなるとは考えもしなかった。

 

 丸飲みだから痛みはない。苦しさ等も無かった。

 変な生暖かさをその身に感じながら…

 そのまま意識が無くなった。

 

 

 

――

 

 

 

 …ずや、すずや…、鈴谷さん!

 

「え?」

 

 揺り起こされて目が覚める。

 

 ハッとなり声がしていた方向を見ると

 其処には、心配そうにこちらを覗き込んでいる、

 同僚の艦娘、駆逐艦の朝潮ちゃんがいた。

 

 端正な顔立ちをした黒髪でロングヘア―の女の子。

 身長的には中学生とかそんな感じ。

 ぱっと見しっかり者、のようだが、何処か抜けているので

 私の中ではちゃん付けだ。

 

「こんな所で寝たら駄目ですよ」

「あ…あぁごめん」

 

 何となく謝罪をしながらも、寝起きの頭はすぐに記憶が

 はっきりしなかった。

 ボーとした頭を抱えながら辺りを見回し、

 ゆっくりと脳を働かせる。

 

 …食堂。そうだ。夜勤が終わって夜食を取った後、

 その日の疲れもあったのか強い眠気に襲われた。

 

 少し抗ったのだが、結局は両腕を枕にしつつ

 机に突っ伏して寝てしまったのだった。

 

「えっと今…何時?」

「0215ですね。明日…じゃなかった。今日はお休みでしょう?

 お部屋に戻られた方が良いと思いますよ?」

 

 サッと食堂の壁にある掛け時計を見て時間と共に

 今日の私の予定まで教えてくれる。いつも通り気の利く娘だ。

 

「…そうだね、そうする。ありがとう」

「いえいえ。では、私はこれで」

 

 彼女はそう言うと、ビシッと敬礼をして食堂を去っていった。

 

 その姿を見届けた後、1人になった食堂で今見た夢の内容と

 現状を思い出して陰鬱な気分になる。

 

 艦娘。深海棲艦という名の海の化物達と同様、

 俺が生きている間は一般的に知られていなかった存在。

 

 化物共を人間の代わりに退治してくれる、海を自走して戦う人。

 女性の姿をした軍艦の化身。

 

 俺は…化物に一度食われて…目が覚めたら、

 その、艦娘とやらになっていた。これが1年前の話。

 

 その時、記憶と体に色々と混乱しつつも情報を整えると、

 俺を食った化物を撃沈したら、艦娘の鈴谷になった俺が出て来た。

 簡潔に述べればそんな話だった。

 

 最初は戸惑いしかなかったが…結局、受けた説明と状況を考えれば、

 その現実を受け入れるしか方策がなかった。

 

 俺が元人間であることは物理的に証明できなかったし、

 証明できてもこの体では、今まで通りの生活は望めない。

 

 それでも解体という手段を用いれば、もしかしたら前の体に戻れる

 可能性はあるとは言われた。あくまで可能性。

 逆に解体=俺の死である可能性の方も捨てきれないとも言われた。

 

 解体されても依り代になっていた人に戻るだけ。通常はそうらしい。

 ただ、元男というのは事例がない。仮に意識だけが残っている場合は…。

 という事だ。

 

 色々悩んだが、前の人生自体に大きな未練があったわけでもない。

 それならば、と自身も納得し、1隻の艦娘として化物共と戦いながら

 生きていくことに決めた。

 

 

 そう、俺は艦娘、航空巡洋艦、鈴谷。

 化物共を倒すためだけに存在する1隻の艦船-女型の軍艦-である。

 

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