鈴谷(漢)の艦娘物語/艦これSS   作:マルカジリ軍曹

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2-5.鈴谷(漢)の日常/休暇編⑤

「おっとっと…じゃあ見させてもらうよー?」

 

 昔あったお菓子の名前のようなワードを出しつつ、

 横から奪い去ろうとする不知火を避けて提督から

 差し出された資料を受け取る。

 

 結構厳重な封…。明らかに対象者以外は読むなよ的な

 アピールがある資料を見ると、内容は一部の設備が

 うまく連動しなくなっているという作業員からの報告を、

 別途誰かがまとめたものだった。

 

 つまり、私に状況を確認させて、できればついでに

 修理してほしい、そういう事だろう。

 

 ただ…。

 

 

「これ、私がやっちゃって良いの?明石さんには?

 それに出来るかどうかは分からないけど」

「明石さんには話はしています。鈴谷さんならOKだと。

 …まぁ、とりあえず見て頂けると助かるのですが」

 

 其処まで聞いた不知火が顔色を変える。

 

 

「司令ぇ?どういう事でしょうか?何か私に落ち度でもぉ?」

「い、いや、違う、違うんだ不知火さん!これには訳が…」

 

 漫画であれば後ろに「ゴゴゴ」何て擬音が付きそうな、

 それはもうニコヤカナ笑顔の不知火。

 な、何て良い笑顔なんだ…。目は全く笑ってないけど。

 

 その彼女に驚…いや、ドン引きの提督はまるで言い訳のしようがない

 浮気がバレた夫の様な、的を得ない釈明を続けている。

 

 

(あらあら荒潮な気配…。んー、まぁそれはともかく)

 

 目の前で対応に追われる提督は放置しつつ、再度資料に目を向ける。

 こちらがそう言ってくれるだろうと期待して用意した感のある資料。

 

 まぁ大方、作業員の突き上げがあって何とかしたいけど

 お金ないし、自分ではできないし、どうしようかと思って

 この資料になった、と言った所なんだろうけど…。

 

 鎮守府の設備、というより艦娘系の設備や装備類と言えば良いか。

 これらの関係で最も頭の痛い所は一般人の作業員に任せられられない

 物が多いという事だろう。

 

 その理由は、妖精さん。

 

 一見、その言葉通りのかわいい姿形をしているが、

 そもそも何なのかよくわからない存在。

 多分物の怪の類。人の事は言えないけど。

 

 艦娘用の設備や装備に取り付いていて、

 艦娘のサポートをしてくれる非常に重要な子達。

 

 だから艦娘用の設備や装備の保守はこの妖精さんとやらを

 相手にしなければいけない。でも、ほとんどの人間は

 視認する事すらできず、極限られた才能を持つ人達にしか

 認識できないので、作業ができる人員が大きく限定されてしまう。

 

 簡単に言えば「見える子」という、一般社会から見れば

 不思議ちゃんと呼ばれていた極少数派の人達を、まず見つけ出して、

 作業員として雇って、更に教育を施し、やっと使えるようになる。

 

 おかげで鎮守府同士で艦娘用の設備作業員の奪い合いが起こっている。

 また、専属だけではなく民間の作業員もいると言えばいるのだけど、

 希少性という理由で破格のコスト待遇となる。

 

 だから簡単に外部からは応援を呼べない。

 

 何より先に述べた事情もあって、作業員の人達には無理が言えない。

 実質的な上下関係が今は逆転していて管理する側も結構大変なのだ。

 

 おかげでモンスター作業員と呼ばれる人が結構出たらしい。

 といっても、そういう人達は最終的に妖精さんから嫌われてしまう

 ようなので、遠からず首になるそうなのだが…。

 でも、首にしたって変わりがすぐ入るわけでもなく、

 大変なのは変わりない。

 

 だから、まぁ、ここに限らず提督は色々と抱える事が多いのだとか。

 そもそも部下が人間じゃなくて艦娘という名の女の子だし。

 正直厳しそうだ。まだ純正軍隊の方がマシじゃないのだろうか。

 

 …ま、そんな提督達の事情はともかく、今は今回の件の事だ。

 不知火のあの態度は引っかかる。要は知らなかったのだろうけど…。

 

 

(不知火が知らぬ、ねぇ…。い、はどうしようか)

 

 どうでも良いダジャレを真面目に思い浮かべつつ少し不信感を覚える。

 不知火は提督の秘書艦として結構長い経歴を持っている。

 その彼女に内緒の話というのは、ちょっといただけない。

 さて、どうしたものか。

 

 面倒ごとになるのは求めてない。断るのも一つの手だけど…。

 

 

 ………まぁいいか。どうせ暇だし。

 

 

 簡易的な修理やDIYレベルの工事程度なら自分でもできる。

 まぁ手に負えるものかはよくわからないけど、

 手に負えないなら、そう報告して作業を終了すればいい。

 

 提督には恩も義理もある。それに、こんな事でもしないと

 戦闘以外何もできない子になってしまうし、

 人間の時と同じような事をするのは、やっぱり安心できる。

 

 

 特に、最近は。

 

 

 …ま、グダグダしたってしょうがないし。

 やれる事をやってしまうかな。

 

 

「じゃあ行ってくる前に、ちょっと準備させて?」

「ナ!?」

 

 まだ痴話げんかを続けていた2人を完全にスルーして上着を脱ぐ。

 

 突然上着を脱ぎだした私に、最深部海域の最終戦で後期型ナ級から

 先制雷撃を受けて吹っ飛んだ主力艦のような驚きの声を上げる二人を

 無視して、脱いだ上着とセーターを提督の机に置いてシャツの袖を

 まくり、前髪を上にあげて後ろ髪をポニーテール風に一つにまとめる。

 

 

「ジャーン、どうよ?即興の工作艦風鈴谷さんだよ?」

 

 そして、ニカッと笑いながら大工さんポーズを決めた。

 確か2人+1匹にこの姿をは見せたのは初めてのはず。

 

 さて、1匹はともかく、2人の反応は…どうかな?

 

 

「…鈴谷さん、司令の目の前で…。ちょっとは…。ハァ…」

 

 不知火は頭を抱えた。…彼女にはご不評だったようだ。

 結構気に入ってるんだけどなぁ…この風貌。

 

 で、私を元男と知ってる提督の反応は?

 

 

「…」

 

 彼は何も言わず呆けている。

 

 悪くない感じかな?まぁ、鈴谷さんかわいいし?

 中身がオッサンとはいえ俺の好みドストライクだし?

 この姿には結構自信があるのだよ。うんうん。

 

 元男とわかっていても、これはしょうがないね。

 むしろウゲッとかやられたら…傷つくわー。

 

 

「それじゃ、あ…ん?」

 

 2人の反応を見て満足した私が執務室を出ようとしていた所に、

 いつの間にか起きていた猫様がこちらをじっと真っ直ぐ見ていた。

 

 あれ、ついさっきまで提督の机の上で寝ていたと思っていたのだけど。

 ついて来るつもりなんだろうか。

 

 

「来るの?」

「ナァーオ」

 

 こちらが呼びかけると、一声鳴いた猫が肩に乗っかってきた。

 そのままクルっと一回転して向く方向も合わせてくる。

 

 まぁなんとも器用なことで。

 

 プニプニとした肉球の感触が肩に伝わってきて気持ちいい。

 爪もついでに突き刺さって痛いけど。

 

 しかし、久々の肩乗り猫である。大昔に猫を飼ってた時以来かぁ。

 ふわふわの猫毛が頬に触れて良い感触。大変満足である。

 

 本当は触りたいけど、手で触ろうとすると逃げてしまうので我慢する。

 

 

「んじゃ、ちょっくら見てくるよー」

「ちょ、ちょっと鈴谷さん待って!私にもそれ!」

「えー、何?さっき頭の上に乗せてたじゃん…。それで満足しなよ?」

 

 執務室を出ようとした所、肩乗り猫を自分にもさせてほしいのか、

 不知火が引き留めようとしてきたので少しうんざり風に対応する。

 猫好きなのにも程があるのではないだろうか。

 

 

「チッガーウ!違います!んな分けないでしょ!その資料の方ですよ!」

 

 変顔に加えて身振り手振りも使ってこちらの発言を訂正しながら

 こちらを引き留めようとする不知火。

 

 どうやら違っていたらしい。あっれー?うーん?

 …脳が猫モードに入って判断を誤ってしまったようだノ。

 

 

「あ、これ?えー、提督?」

「あ、あぁー、鈴谷さん?頑張ってきてくださいね!」

「チョっ、司令!?」

 

 適当な言葉で提督と意識を合わせると、彼は食い下がろうとする不知火の

 手をガシッと掴んで中途半端な笑顔で必死に止める。

 

 手を掴まれた不知火は少し顔を赤くして…。

 ん?なんか体プルプルして顔ニヤケてない?…おやおや初心ですか?

 

 …うん、まぁ、後はお2人に任せて邪魔者は退散いたしますか…。

 

 

「じゃ、じゃあ、またねー?」

 

 目と目が合う。そんな感じの音楽が流れそうな状態になった2人に

 一言かけて執務室を出た。後は2人の関係に任せればいいだろう…。

 

 しっかし、手を掴まれた不知火の態度。確実に提督好きだよね。

 最後まで粘ったのは…あれかな?自分には相談してくれないのに

 他の女に相談する男に対する嫉妬だったのかね。

 

 そういえば駆逐艦なのに艦隊司令部施設を搭載できるんだっけ。

 いっその事、このまま司令官本人を施設ごと内蔵してしまえばいいのに。

 

 でもそうなったら、あれだなー。落ち度所か、落とし子こさえて、

 落とし所をどうするかが問題になるかなぁ。ハッハッハッ…。

 

 ………仔細は後で提督から聞くとして、そんなことはともかく、だ。

 

 適当に歩きつつ資料を再読して考える。

 

 資料は建造設備の不具合の内容を書いているだけで、その問題の原因は

 不明としている。つまり原因が発生している場所や設備の情報、機器に

 関しては明確に示していない。

 

 示してはいないのだが…。

 

「君、場所分かるの?」

 

 そんな事を考えていると、唐突に肩に乗っかっている猫様が

 不思議そうに話しかけて来た。

 

「んー?んー…。まぁ何となくねー。で、この依頼は補佐官の差し金?」

「…何でそう思う?」

「不知火に隠してるんだから、まぁ誰かの助言があったのかなーってね」

 

 単なる設備故障なら隠す必要はない。

 あえて隠しているわけだから理由がある。

 

 問題なのはその理由だが、提督は妖精さんが見えないタイプの人だ。

 だから設備関係の管理は責任者たる明石さんが中心で、

 提督はそこら辺にはあまり関わってない感がある。

 少なくとも、いままでは。

 

 それなのに彼は、その明石さんに「話はした」という言い方をした。

 なら、ここまでの判断は誰が下したのか、という事になる。

 もちろん提督だけで決めた可能性もあるけど、素人だと考えれば…。

 

 裏に相談相手か、指示を出せる存在がいるよなぁと。

 

「ふーん、さて、どうだろうね。まぁ良いじゃないか、そんな事は」

「…まぁいいけどさ、で、そっちは何でついてきたの?」

「分かってんじゃないの?あの場所、普通に行けるとは思ってないよね?」

 

 全部わかってんじゃねーか…この猫様。提督に何て言ったのやら。

 

 …一応まっとうに調べて行くつもりだったのだけど、

 どうやらそれは杞憂におわり、その過程は全くいらないようだ。

 

 ヤレヤレと嘆息しつつ、多分そこであろう場所に直接向かう事にした。

 

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