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14:00-鎮守府の地下通路
「へー、本当に案内無しで来れるとはね。ちょっとびっくりだ」
「そりゃ、どうも」
移動途中、出会った他の艦娘達の猫撫で攻撃を避けつつ、
猫様を肩に乗せたまま辿り着いたのは地下の通路。
鎮守府の見取り図的には他には何もない、コンクリート製の廊下。
周回可能な角の、「への字」の通路。
「君、ここがどういう所か知ってるの?」
「さぁ…どういう場所かは知らないけどね」
この1年間。鎮守府を回っていて、特に違和感を感じていた場所。
最初に違和感を感じたのは防火シャッターの位置。
この「への字」通路を両側から閉鎖するためだけに設置されていて、
単純に意味が無かったのだ。
最初は、単なる施行ミスかなとも思った。
次に気付いたのは防火シャッタ―の強度。防火の強度では無かった。
ここだけ何かが違うことに気付いた。
壁、床、天井の強度。何もかも水準が違う。しかも、ここの地下だけ
山につっこんで作られている。この位置に上階も下階も無い。
への字の内側には部屋があるように見える。が、なかった。全部壁だった。
壁に、扉だけが付いていた。だから絶対に開かない。つまり偽装だ。
…この鎮守府にだって関係者以外立ち入り禁止といった区域はそれなりにある。
ここもその一つではあるが、禁止レベルは低い。ここまでやっておいて、だ。
あえてそうしているのは…あまりよろしくない何らかの意図があるのは
肌で感じる。木は森に隠せ、とは言うが、これはどうかと言えば…。
…とか色々考えはしたものの、これ以上の詮索は嫌な予感がして止め、
以降ここに来ることは無くなった。
私が鎮守府を回っているのはそう言った物を炙り出すためではないし、
鎮守府自体を敵に回すつもりもなかったからだ。
「ふーん…、本当に?で、これからどうするの?」
「どうするつもりも何も、何か持ってんじゃないの?」
「話早いねー。ここ!後で返してねー?」
そう言いながら猫様は首を高く上げ、首輪を見せつける。
撫でたい…。
そんな感情を抑制しつつ、それとなくその首輪を触ると…
内側に金属の棒らしきものがあった。
「棒?…あぁ、鍵…ね。なるほど」
「うん。無くさないでね?」
見た所、単なる棒にしか見えないけど…。
これも物の怪の類なのかもしれない。
「で、これを…あの防雨型コンセントに突っ込む、とか?
例えば、接地極の穴とか」
「よくわかるね…。本当にここが何なのか知らないの?」
壁の下の方にあるコンセントを指さしながらそう言うと、
猫様は驚きの顔…、イヤ実際はよくわからないけど
多分驚いているであろう顔でこちらを見る。
大体、そんなこと言われても他に穴なんてないし…。
鍵と称される針を渡された上で、室内なのに怪しげな
防雨型コンセントがぽつんとあれば、あれかなーとか、
何となく思う気もするのだけど。
「ま、いっか。そういう事だから。後は任せたよ?」
「え?帰っちゃうの?ここまで来ておいて?」
突然帰ると言われてちょっと驚いた。
最後までついてくると思っていたので拍子抜けしていると、
肩に乗っていた猫様はピョンっと飛んで床に降り、こちらを振り向く。
「うん。あそこは、まぁ僕も入りたくないんだよね。基本人外用だし」
「え、えぇ!?ちょっ、ちょっと待って?入って大丈夫なの!?」
「うーん、多分君は大丈夫だよ?重要な装備もあるし」
「いや、多分って…。事前説明とかは無いの?」
「ちょっと言語化が難しいかなぁ…まぁ入ってみてよ?入ればわかるさ!」
とんでもない事をサラっという猫様。
え、なに?人外用?人は駄目ってこと?そこに事前説明なしで行かせる?
入ればわかるって芸人じゃないんだからさ…。
…それに重要な装備?艦娘は装備があるから大丈夫ってことなの?
「そうそう、あと、あんまり無理しない方が良いよ?」
「いや、無理なんてするわけないじゃん!ヤバかったら速攻逃げるから!」
「ん?あ、違う違う。そうじゃなくて、今ここにいる理由の方だよー?」
え?っと固まる。ここにいる理由?提督に頼まれたからでしょ?
もっと別の理由?
「は?それってどういう…」
「変わっていく自分を認めたほうが楽だよってこと。後は、まぁ自分で考えて?」
「…」
そこまで言われてようやくこの猫が言いたい事が分かった。顔が自然と歪む。
この猫様………。痛い所をついてくるなぁ…。
艦娘として目が覚めた当初、俺は俺だった。それは間違いがない…筈。
色々と事情があって、その後元男という事を秘密にするために鈴谷という
女性を演じていたのだけど…。
ここ数ヶ月は演じているのか、素なのかの区別がつかなくなってきた。
自分が作った宗教なのに何故か作った本人が信じてしまうような感じだろうか。
朝は…まだ良いのだけど。その後ずーーーと、女性を演じているから
段々と思考が鈴谷モードになって、昼を過ぎれば頭の中ですら一人称が
私になっている。
更に最近は思考も別の意思と交じり気味な気がして、自分の性格が
本当にこうだったのかも分からなくなってきた。
だから、どうしても自分を保ちたいという、欲求というか、焦りというか、
焦燥感というか…。そういうものがあるのも事実で…。
昔と同じような仕事をすると、安心できるというかなんというか、
あぁ、俺は俺なんだなーって…。
…いやいや、おかしいおかしい。何で猫に指摘されてんの。大体、だ。
「…補佐官はさ、なんで私と提督…以外には会話しないの?」
「明石とは話すよ?それ以外は無いかな。まぁ僕にもいろいろ事情があるってこと。
そんな事はともかく、確認よろしくねー?」
そう言って話をはぐらかすと踵を返して猫様は歩いて去っていった。
何時かその事情とやらを教えてくれたりするのだろうか?
ポツンと取り残され、渡された針を見ながら
先ほどまでの話の内容を思い出す。
しっかし、危ないのか危なくないのか、さっぱり分からないのですが…。
人は駄目、人外である必要があって艦娘は大丈夫?うーん…。
思わず天を仰ぐがコンクリートの天井が見えるだけ。
んーーーー…。装備だけは確認しとくかぁ…。
前方の通路に正対し、少し息を吐いて呼吸を整え、腰を据える。
「…艤装、展開」
ズ、ズ、ズ、ズ、ズ、………ズンッ!
言葉を放つと徐々に、そして多少時間を置いて一気に強烈な重量感を感じると
共に自分の艤装が展開された。
艤装というのは船で言う所の船体以外の設備一般、または取り付ける工程の事。
艦娘で言えば装備品の事を指す。通常は展開されておらず、
必要に応じて展開、出したり、解除、収納したりする。
何処に入っているかは…謎空間があるらしいけど、よくわからない。
本来艤装を展開するには意識するだけでよく、声に出して言わなくてもいい。
ただ、事故や間違いを無くすため、自分はあえて言葉に出すことにしている。
声に出すことによって曖昧さを無くし、意識と記憶をはっきりさせるためだ。
…ちょっと中二病臭いけど、声出し確認は基本だと思うの…。
なお、陸上でそのまま艤装を展開すると砲は撃てるが基本的に動けなくなる。
だから通常、海に出撃する場合、艤装を展開するのは海に入る直前。
ま、展開されるまで多少ラグはあるので慣れると歩きながらでも海には入れる。
見た目上の見せかけ展開も出来なくは無いけど、その場合は砲撃ができないし、
防御力もない。海にも浮かばない。
そういう事もあって陸上で艤装を展開するのは一般業務だと装備チェック位
なのだけど、陸上での艤装展開で面白いのは、立っている陸地そのものには
本来あるべき重量の影響が全く無いという事だ。
これなら車で運んで艤装を展開すれば、超小型、超火力、超防御力の陣地が
数分で完成してしまう。電車に入れてなんちゃって列車砲を作るなんてのも
簡単だ。牽引砲はもちろん、自走砲だってこんなに簡便じゃない。
戦艦型などを少数でも人間密集地の都市部に入れて艤装を展開すれば、
簡単にその街をがれきの山とする事が出来る。
それならと、C-130(でかい輸送機)に乗せて艤装を展開したことも
あったようだけど、その場合は力や重量が逃がせなかったのか、
飛行機本体が砕け散ってしまったらしい。
どういう仕組みかは分からないが、艤装を使う場合は間接的にでも地面には
接している必要はあるようだ。
ただ、それらを加味したとしても、多分陸上でも対抗できるのは核兵器か、
人外の存在くらいじゃないだろうか。
陸にあげられた戦艦大和を無力化するのはそれ程じゃないかもしれないが、
人型程度の大きさで移動も容易い大和型の艦娘となれば話は別だ。
46cm砲の一斉射なんてどれほどの破壊をもたらすのか想像もつかない。
多分、砲撃時の衝撃波を解放するだけで周りを綺麗に吹き飛ばせる。
弾が無くなるまで近づく事すら困難なのではないか。
ある意味、人間の兵器を過去の遺物へと追いやった恐るべきモノ。
それが、艦娘という存在。
…とは言っても、別に周りを破壊したいわけでもないこの状況下で、
自分の主砲である20.3cm砲は超火力過ぎてぶっ放せない。
ということで、鎮守府内にいるときは鈴谷専用、カスタム12.7mm単装機銃
をこっそりと補強増設(艤装内ポケット)に入れているのだ!
使った事ないけど…。何で持ってるかって?…まぁ、何でだろうね…。
廃棄されているところを見て、なんとなくこう、もったいないなーって…
つい、懐に…入れてしまったぜ!(一応専用武器としての許可は取った)
深海棲艦にはほとんど通じないから使い道なんてない筈だったけど、
まさか日の目を見る時がこようとは。
とりあえず武器が展開できるの確認できたから、あとは…
何かに襲われたらこれで何とかすればいいかな…。
「艤装、解除」
艤装の確認が済んだのでいったん解除する。
徐々に重さが無くなって、通常通り動けるようになる。
解除には展開よりも多少時間もかかるが、それでも数十秒位。
んー、展開レベルを弄る事が出来ればもっと面白い事になるかもしれない。
例えば40mmボフォース程度なら歩きながら撃てるとか。
…まぁ何に使えるかは分からないけど。
さて、じゃあ、準備完了ってことで、開けゴマしてみますか。
確認を取った通り、目の前の壁にある防雨型コンセントの接地極に
もらった針を入れてみる。
…あれ、反応無い?
何も反応がないことにおかしいなと思っていると、
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ!
いきなり大きな音と振動が回りから響く。驚いて音の方を向くと
防火シャッター…ではやはりなかったのだろう。ここに来た方向の
通路に壁が出来ていた。
逆側の先は曲がり角になっているからここからだと分からないけど…。
と、先の通路の方にも行ってみるが、そっちも当然の如く完全に
封鎖されている。
「うわー…完全に閉じ込められたってこと?」
思わず頭を掻きながら声を上げる。何これ?封印か何か?
音がした量を考えると、落とされた壁は通路両側の2つだけじゃない。
周辺の施設はここから逃げられれなくするためのモノ、だったようだ。
なるほど。あえて無防備なのはこういう仕掛けがあるからか…。
といっても、艦娘だから主砲を撃てば壊せるはず。
…でも…そんなことしたら多分、生きたまま土葬だ。
大体、ここまでやっているのだから周辺に爆発物やガス関係が無いとも
限らない。地下で爆死、圧死、中毒死の類なんてゾッとする。
生き埋めで酸欠死よりはマシかもしれないが、どれもご遠慮したい。
…あれ?艦娘って酸欠死するのかな…。とりあえずどうでも良いけど。
――
…その後、結構待ったが何も起こらない。
え?これからどうなるの?まさかこのままじゃないよね?
流石に焦りが出始めたころ、ようやく事態が進展し始めた。
…ピーピーピーピーピー
ゴォン…ヴァァァァァァァァァァァ…。
一旦ビープ音の様な物が響くと、自分のいる位置から少し離れた
施設外周側の壁が、ゆっくりと、扉程度の大きさ分後ろに沈み始める。
どんだけ準備に時間かかるのよ…勘弁してよ…。
ドキドキしながら悪態をつきつつもそのまま見ていると、
一旦後ろに沈んだ壁は今度は横にスライドして…完全に開いた。
後にはポッカリ壁に開いた四角い穴が残されている。ちょっと怖い。
位置的には完全に山の中側だ。何処に行かせるつもりなのかね…。
「フー…」
しばらく間をおいて心を落ち着かせ、壁にできた穴を恐る恐る覗くと、
中にはもう一つ分厚そうな金属製の扉があった。
しかもドアノブはハンドル式のようだ。潜水艦の扉かよ…。
そして…その扉には怪しげな標識の様な文字が書かれている。
(大日本帝国陸軍特別医療部隊・舟屋出張所…?)
陸、軍?何で?しかも医療部隊?どういうこと?
舟屋は…海軍の事?
文字は旧漢字の上、右読み。
時間経過を感じさせるようにちょっと消えかかってる。
その文字の下部には見慣れない星形マークもついていた。
嫌な予感しかしない。けど、ここまで来て去るのは…。
猫様も死ぬとは言ってないし…。
けど、まさか、自分を処分するためとか…。
いやでも、そのためにこんな手の込んだことをする?
だったら、普通に解体送りにすればいいわけで…。まさか生贄?
辺りを見回して周りの状況を再確認するが、十中八九、このロックは
内側から解除できるものじゃない。何処かで猫様が見ているのか。
何にしても先に行かないと閉じ込められたままになるのは
ほぼ間違いないだろう。
「入れば、わかる、か…」
しばらく考えた後、猫様が言っていた言葉をボソッと口に出す。
…どうせ一度は死んで、もう戻らぬ人生。なら、やって死ぬのも一考か。
ここまでされたのだ。入ってみようじゃないの。
でも、本当に生贄だったら逃げるだけ逃げまくって鎮守府諸共全部ぶっ壊す
位には暴れるだけ暴れてやるぅ…。
そうして多少自棄になりながらも覚悟を決め、ハンドルに手を置いて回し、
その重い鉄の固まりでてきた扉を押す。
ゆっくりと、そして確実に、きしむような音をたてながら扉は開き始めた。
多分次も一週間後くらい…。