鈴谷(漢)の艦娘物語/艦これSS   作:マルカジリ軍曹

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2-7.鈴谷(漢)の日常/休暇編⑦

 多分私は今、死んだ魚の目とやらをしているに違いない。

 

 なぜ、こんな事になったのだろうか。

 

 

 

 -もみもみ

 

 

 

 何か、前世の俺が悪い事をしたのか。後世の私が悪い事をしたのか。

 

 今となっては知る由もないのかもしれない。

 

 いや、ちょっとは悪い事はしたかもしれないけど…。

 

 

 -むにむに

 

 

 

 だからと言ってこのような仕打ちを受け

 

 

 

 -ギュ、ギュムッ!

 

 

 

「ちょ、ちょっと何!?もうちょっと優しく!」

 

 

 

 涙目になりながら非難する私に、目の前の黒い影は悪びれもせず

 黙々と作業に集中している。

 

 …そんな奴の姿を見ながらつい、目頭を押さえてしまう。

 

 酷い…本気で涙が出てきた。

 こんな誰もいない地下室で…よりにもよって、こんな化物に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おっぱいを好き放題揉まれるなんて想像すらできなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

―― 40分程前

 

 

 鉄の扉を開け、隠されていた部屋の中に入った私を迎え入れてくれたのは、

 薄暗い室内で赤い光に照らされたよくわからない器具や装置群だった。

 

 扉のロックを解除した時点で部屋の明かり、部屋の壁に一定間隔で

 取り付けられている赤いランプが点灯し、薄暗いながらもある程度は見渡せた。

 

 広さは…どれ位だろうか。結構広い空間、100畳程といったところか。

 

 横長の部屋。並んでいるのは埃の被った古めかしく、

 使い道が分からない装置、何のために作られたのか想像もつかない器具、

 加えて見るからに呪術用の道具と思しき類のようなモノまである。

 

 変な物ばかり…。そういった類の保管場所?

 

 その一つ、金属製の書庫の中に並んでいた道具の一つを、

 ガラス製の引戸を開けて何となく手に取ってみる。

 

 …独鈷杵(どっこしょ)。実物を見たのは観光で行った寺の観音像に

 握られていたヤツだろうか。後は…写真とか、漫画位なものだ。

 両端を削った鉛筆の様な形状の、四角い金属の棒でできた代物。

 何に使われるのかはよく知らない。

 

 ただ、これはなんというか、何か、こう、力みたいなものを感じる。

 ハンドパワー?…それは違うか。ただ、悪い印象は感じられない。

 

 そして、その独鈷杵が置いてあった隣には…額に札の張られている、

 

 …日本人形が…。

 

 あまり見ないようにしてたけど…札に隠れて見えなハズの人形の目が、

 目が動いた気が…。この独鈷杵と違ってなんか凄い禍々しい感じが…。

 

 …何なのここ。日本ふしぎ発見?

 

 なら、あの人形はスーパー…呪いの日本人形さん、とかだね。

 賭けてクイズに正解すると呪いが二倍増し!…どんな闇のゲームだ。

 まぁそもそも触った時点でミステリーハントされそうだから絶対触らない。

 

 そんなどうでも良い事を考えながら、手に持った独鈷杵をまじまじと見る。

 これはこれで特殊な力でもあるのだろうか。漫画で見た感じだと…。

 

 

 

 

「…唵阿毘羅吽欠娑婆呵(オンアビラウンケンソワカ)!」

 

 

 

 

 -シーン。

 

 

 

 

 …それらしいポーズも決めたのだが何も起こらない。

 

 

 ちょっと顔が熱くなる効果はあったようだ。

 

 

 誰もいないからって、何やってんの私…。

 

 

 とりあえず正気に戻って状況観察を続けることにする。

 

 握っていた独鈷杵を置き直すために手を開いてみると、

 べったりと手に埃が付いて真っ黒になっていた。

 

 何か、嫌な違和感を感じて周りを見渡す。

 薄暗い上に照明が赤いせいで最初は気付かなかったが、

 かなりの量の埃が積もっていた。

 

 おかしい。いくら地下室と言っても締め切ったコンクリートの空間だ。

 この鎮守府が出来て、確か2年位だったか。

 数年やそこらの期間でここまで埃が溜まる物だろうか?

 

 仮にこの部屋が何十年も前に作られたとしても、

 今現在も使われているなら最低でも鎮守府建設時に誰か入ったはずだ。

 その時、掃除くらいはするものではないだろうか。

 

 まさか、と気になって床を見ると、自分が歩いた床には埃の潰れた跡が

 くっきりと残っていた。そして、それ以外の足跡は無い。

 

 …つまり、ここ最近、いや、最低でも何年間は人が入った形跡は無いという事か。

 

 本当に…何なの…ここ。

 

 脳裏に生贄の線が浮かび上がってくる。

 思わず開けた扉の方を見る。扉は開いている。外の明かりを入るに任せたままだ。

 閉じ込める意思は…無い?…冷や汗が出る。そんな事はまだ分からない。

 

 いや、閉じ込められた所で主砲を撃てば何とかなるのだ。

 非力な人間ならともかく、私は艦娘だ。壁を破壊すれば良いだけだ。

 その程度の事を怖がる必要はない、ハズ。筈だけど…。

 

 チラッと日本人形を見る。やはりこちらを見ている気がする。

 …こういった類のモノを閉じ込めている部屋に対し、

 物理事象で攻撃して壊せるものなのだろうか?

 

 冷や汗が止まらない。埃で汚れた手の平が手汗で更にドロドロになる。

 

 一旦外に出るべきだろうか。…いや、もし何かあるなら入った時点で手遅れだ。

 今更慌てた所でしょうがない。気を取り直して目的を思い出す。

 

 ここがあの場所というなら、必ず繋がっているケーブルがあるはずだ。

 

 

――

 

 

 …鎮守府の設備、建造施設や入居施設にある重要な艦娘用の装置には大体、

 何と言えば良いか、変なケーブルが接続されていた。

 

 電力線ではなく、通信用と思えるようなケーブルなのだが、その元を

 辿ってみると、なんとそれはコンクリートの壁から直接生えていた。

 要は、コンクリートへ直に埋まっているのだ。

 

 これだけでもかなりおかしい(通常は埋めるにしても配管を通す)のだが、

 そのケーブルは妙に古めかしいモノで、その他のケーブルとは違い、

 明らかに外皮が長期間使用したように変色していた。

 

 使用歴2年程度の設備にも拘らず、である。

 

 元技術者だったからあまりにも不思議で、気になった。

 一度明石さんに聞いたことがあったが、話をはぐらかされた。

 

 結局、他の誰も知らないのか、知っていても教えてくれそうになく、

 だからと言って騒ぎ立てるような事でもない。

 

 なので鎮守府を歩き回る際に自分で適当に調べる事にしたのだが、

 それとなく探してみても接続先、つまり出口は見つからない。

 

 ただ、その後、同じようなケーブルを何度か見ていてわかったのだが、

 壁から生えている位置を見ていると、方向性の様な物がある事が分かった。

 

 その結果、単純に推測できる位置に近い所が…ここだったのだ。

 

 壁中に埋まっているのだから別の場所に引き回されている可能性も

 当然あるわけだし、別にここに絶対あるという確信があったわけでは

 無かった。ただ、そうじゃないかと思っていただけだ。

 

 

――

 

 

 コツ、コツ、コツ、コツ…。

 

 コンクリート製の床に自分の歩く音が響く。

 部屋は真ん中に何も置かれていない空間、通路の様な所があり、

 とりあえずはそこを歩いて奥まで行くことにした。

 

 とにかく余計なものには手を触れず、目的のモノ、ケーブルを探す。

 

 そして、部屋の中程に差し掛かったところで、

 床から生えたケーブルに囲まれた異様な装置を見つけた。

 

 見覚えのある形のケーブル…。多分、これだ…。

 それが四角い、長方形の塊にケーブルが集まっている。

 

 更に近づいてよく見ると、それは…装置ではなく石棺?のようなものだった。

 

 …なによ…コレ…。

 

 床に置かれた長方形の石の塊。高さは床から腰のあたりまで。

 その丁度真ん中のあたりから、それこそ棺桶の如く蓋と本体の

 ような部位に分かれていて、その分かれている間の隙間から

 ケーブルが両側面からハミ出して床に繋がっている。

 まるで中に安置されている物から生えているように…。

 

 その事を認識した瞬間、ゾッとする。

 

 何が入っているのか、想像もできない。これが…艦娘用の設備に繋がってる?

 何なのこれ。どうしたら良い?艦娘とは一体…?

 

 見てはならないモノを見てしまったのではないか。

 しかも今、それの側に私はいる。

 後で気付けば、ならどんなに良かったことか。

 その意識が緊張と恐怖を呼び、体が硬直して動けなくなる。

 

 心臓の音がドクン、ドクンと聞こえてくる。

 今直ぐにでも逃げたいが、体が動かない。

 かろうじて動く目を動かすと、石に金属製の鉄板?の様な物が

 張られていることに気付いた。

 

 銘板…?やはり装置なのか。そこには入り口にもあった星形、いや、

 六葉の紅葉?あるいは、麻の葉文様というものだろうか。

 そんな家紋とも思えるような印と共に、こんな事が書いてあった。

 

 |不沈艦響ノ缺片、此處ニ封印ス。昭和十九年三月十五日|

 

 不沈艦響…。第六の響ちゃん、の事だろう。

 

 …

 

 第六というのは…第六天魔王の略だったとか。んなわけないか…。

 不沈艦、響72年とか、でもないよねぇ…。

 あったら飲んでみたいけど。

 

 …ん?あれ、不沈艦?響の異名は確か…不死鳥だった気が…。

 不死鳥…蘇る…。不沈艦、沈まない…、蘇る…沈まない。死なない?

 

 頭がぐるぐるするが、結論なんて出る筈もない。ただ、余計な事を

 考えたら少し緊張が緩み、ある程度は動けるようになってきた。

 

 腕ごと手をプラプラ、ユラユラさせてみる。

 でも、完全に緊張は取れていないのか、握った手は開かない。

 

 それにしても…これからどうすれば良いのか。

 これが何なのかはともかく、設備エラーの問題がこれだとして、

 これをうまく動かすという事?ちょっと考えられない。

 

 傍目からは動いてるのか動ていないのか判断ができない。

 動いていないとしても、どうやって動かせばいいというのか。

 あの猫様、行けば分かるとか言ってたが、全然分からないんだけど…。

 

 ふと顔を上げて再度入り口を見るが、扉は閉じてはいない。

 

 …

 

 駄目だ…このままじゃ駄目だ。

 

 …

 

「スー…、ハー…。ふぅ…」

 

 深呼吸をする。

 

 扉は開いている。閉じ込める意図はないと判断しよう。

 落ち着け。思考を切り替えろ。元の男に戻れ。

 仮に閉じ込められても俺は艦娘だ。なんとかなる。

 

 こんなものはただの設備だ。意味もなく恐れる必要はない。

 猫はここに来れば分かると言ったのだ。何かあるはずだ。

 冷静になれ。周りはどうだ。何かないか?

 

 石棺の周りを歩き、状態を四方から見る。

 

 操作端末のようなものはない。説明書といったような

 文書らしきものも見当たらない。

 どこまで行っても、ケーブルが生えている石の固まりだ。

 

 恐る恐るそのケーブルも手に取ってみるが、異常はない。

 

 ならと石棺を、まだ手に持っていた独鈷杵で叩いてみる。

 コン、という無機質な音はしたものの、特に何も起こらない。

 

 …

 

 なら…開けてみるか?

 少し迷うが、どの道このままだと埒が開かない。

 

 そう思い、意を決して石棺に手を伸ばす。

 

――

 

 …後で思えば、その時の自分は開き直って冷静に、

 と心では思いながらも実際には全く冷静では無かった。

 本当に冷静であれば、一旦引いていたはずだ。

 急がば回れ、である。

 

 なのに、置かれた環境とその場の空気に追い詰められ、

 無駄に虚勢を張った。焦りと緊張、恐怖から逃れるために。

 

 それにとにかく早く終わらせて帰りたい、二度と来たくない、

 との意識が強かった。今の作業を終わらせること以外、

 とても他の事を考える余裕などなかったのだ。

 

 そして、普段なら絶対手を出さない筈の恐ろしいモノに

 気付けば手を伸ばしてしまっていた。

 

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