鈴谷(漢)の艦娘物語/艦これSS   作:マルカジリ軍曹

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2-8.鈴谷(漢)の日常/休暇編⑧

 まさしく石棺に手を掛けようとした瞬間だった。

 

 誰もいない筈の背中側から何の前触れもなく突然何かの気配がする。

 

 瞬時に顔から血の気が引いて真顔に戻ると、

 体が猫の様に勝手に動いた。

 

 気配がした方向、左に向き直りながら跳ねる様に横に飛ぶ。

 同時に相手を視認しようとするが、薄暗いせいかよく見えない。

 

「っち!」

 

 舌打ちをしつつ、やむを得ず着地と同時に艤装を展開する。

 

 -ズンッ!

 

 重さを感じながらもすぐに20.3cm連装砲を両手に、

 機銃を腹部の横にある増設部位で構え、周囲に向ける。

 

 だが、

 

 …誰も…いない…?

 

 周囲を見渡すが対象を認識できない。

 

 気のせいか?いや、そんなはずはない。

 確かに誰かいた。いや、何か、か。

 

 化物に食われた挙句、2年程度はそれと戦争をしているのだ。

 ああいった、異質な感じの気配の読み間違え等は…

 この期に及んでありえない。

 

 多分視覚できないような存在、と判断すべきか。

 

 しかし、それならば対応を間違えた事になる。

 艤装を展開すると動けないのだ。単純に逃げられない。

 

 マズったなぁ…。艤装の解除には時間がかかる。

 この状態で無防備に武装を解く選択肢は流石に無い。

 

 どうする?

 

 脂汗が滲み出る。視認できないとして、対処方法はあるか?

 レーダーなんて持ってきてない。まぁ持っていても、

 こんな所で高出力の電波など出したらどうなるか想像もつかないが。

 

 …

 

 注意深く幾度も周りを見るが相手側からのアクションはない。

 艦娘を倒すだけの攻撃力が無いのか、他に何か理由があるのか。

 

 何にせよ考えるだけ、というのは無駄か。今のままだと詰みだ。

 …なら選択肢を広げる努力はある程度は必要、か。

 

 ふぅ、と嘆息しつつ、諦め顔でやむを得ず両手を上げた。

 

 

「わかった。私の負け。いるんでしょ?出て来てよ?」

 

 艤装は解かないが、負けを認めて降伏するそぶりを見せる。

 

 もちろん今のところ本気ではない。相手の出方を見るためだ。

 言葉が通じれば話し合い。そうでなければ…どうするかねぇ…。

 

 …

 

 しばらく待ってみるが反応が無い。

 

 あれ?本当に気のせい?

 

 そうだとするとバカみたいな行動だが…。

 …いや、そんな甘い考えは…駄目だ。最悪を考えるべき。

 なら…方法を変えて今度は脅してみるか…。

 

 

「そう、出てこないの。なら、撃つよ?」

 

 今度は上げていた手を下ろし、前を睨むような顔つきになる。

 そして、石棺に向けて砲と機銃を向ける。

 

 …

 

 それでも反応が無い。なら、と一発機銃を撃った。

 

 -ターン!……バツッ!

 

 音が響き、埃が舞い散る。弾は石棺をかすめて壁に突き刺さった。

 壁にほぼ直角の上に12.7㎜。余程の硬度でもなければ跳弾はない。

 それにこの位置なら壁を越えても土の中。

 

 …まぁ、どれもこれも普通の壁であれば、だが。

 

 音が静まると同時に周囲がざわついた感じがする。

 

 ただそれでも何も起きない。ならもう一発行くか、とか考えていると、

 慌てたように変な黒い影の様な物が私の目の前に飛び出してきた。

 

 出て来た影は…私の前で踊っている。何なの?MPでも奪うつもり?

 

 

「…何よ。馬鹿にしてるの?」

 

 訝しげに機銃を動かすと、影はブンブン頭?の様な部位を横に振った。

 どうもこちらの姿が見えているようだし、言葉も通じているようだ。

 

 ふーん…。つまりは、

 

 

「姿形や言葉は分かるけど、話すことは出来ない。そんなところ?」

 

 今度は縦に振る仕草を見せる。なるほど。前のは踊っていたわけではなく、

 ジェスチャーをしていたようだ。

 

 とりあえず今は敵ではなさそうだ。後は何者かを聞きたいけど…。

 

 んー…ペンはあるか。筆談はできるのだろうか?

 

 

「ペンは持てる?」

 

 胸ポケットに入れていたペンを差し出してみると、

 今度は腕の様な陰で×ポーズを見せる。

 

 駄目か…。それにしても意外に表現豊かだな。

 

 …さて、そんなことはさておき、どうする?

 何かを聞かない事には話が始まりそうにない。

 

 

「…で、あんた何者なの?敵ではなさそうだけど」

 

 応えられるかどうかは分からないが、

 先に聞かざるを得ない疑問を口に出してみる。

 

 それを聞いて何かを考えるポーズをする影。

 その後、影は体を明確に人の形のような姿に変え、

 次のような動きをし始めた。

 

 私を指?で指して、次は石棺を指し、腕?をぐるぐる回して、

 床を指し、最後に部屋の扉を指す。

 そして最後に、まるでさぁどうぞと言わんばかりに私に向けて

 腕を突き出し手の平?を上にする。

 

 …なるほど。翻訳しろってか。

 

 

「えーと…お前は、これを(石棺)を、回し…動かしに、ここに、来たのだろ、

 ってこと?まぁそうだけど」

 

 少し考えて回答をすると、また頭を縦に振る。

 

 質問を質問で返すんじゃないとは思いつつ、

 どうも彼が何なのかを確認するためには

 この作業を何度か繰り返す必要があるようだ。

 

 

――

 

 

「えーと、話をまとめると…。貴方はここの管理人のような立場って

 ことで良いよね?それで、私を待っていたと。」

 

 影は頭を縦に振り、肯定する。

 

 ジェスチャーを交えて話したことで彼の概要は理解できた。

 

 さっきは私がヤバイモノに触れようとしたので

 慌てて止めてくれた、という事だったらしい。

 

 触ったらどうなるかも聞いたが…解読できない表現だったので

 それは置いておこう。後で明石さんにでも聞くか。

 

 でもさぁ…、私を待っていた割には応対のタイミングが…

 何か遅すぎじゃないかなぁ…。言葉が分かる癖に応えてくれてないし。

 入った時点で現れてくれてもいい気がするのだけど。

 

 こいつ…私で遊んでない?でも色々聞くの面倒くさい…。

 

 

「わかった。で、貴方の仰る…えーと、ジェスチャーの通り、

 多分その石棺を動かさないといけないんだけど、どうすればいいの?」 

 

 ここに私が来てからの経緯やら、石棺が止まった?理由を含めて

 全く疑問が無いわけではない。

 ないが、とにかく任務を済ませて帰りたいので話を進めようとする。

 

 影は私のその言葉を待っていたかのように、

 少し変な動きをし…笑ってる?何か醜悪な感じがする…。

 

 顔しかめた私を気にも止めず、奴はジェスチャーを始めた。

 私を指し示し、そして掴むような仕草を見せ、石棺を指し、

 腕をぐるぐるさせる。

 

 

 …ん?

 

 

「もう一回」

 

 嫌な予感しかしないが、とりあえず再度確認する。

 

 影は両腕を左右に中途半端な位置まであげて、外国人のオーノー的な、

 呆れた様なムカつく仕草を取りつつ、再度ジェスチャーをする。

 

 今度はまず私の頭を指し、次に胸を大げさに指し、両腕を前に突き出して

 手の平を上下させ、今度はその手を一回転させて掴むような仕草をする。

 

 …何か…頭が痛いんですけど…。

 

 そして、石棺を指し、腕をぐるぐるし、床を指して、部屋の扉を指さした。

 

 …素直に言葉にする事自体が憚れるが、やむを得ず翻訳する。

 

 

「…君の、おっぱいを、揉ませてくれれば、あの石棺を、動かしてやろう…

 そうすれば、ここから帰れるぞ。…とでも言いたいわけ?」

 

 頭を抱えながらそう言うと、ドグサレ外道は手の親指?を上げた。

 正解だったようだ。心なしかテヘペロまでしてる気がする。

 

 ふと、私を送り出した奴輩共のセリフが脳裏に浮かぶ。

 

 

 -鈴谷さんだったら大丈夫- by 明石

 

 -君には重要な装備がある- by 補佐官(猫)

 

 -鈴谷さん、頑張ってきてくださいね- by 提督

 

 

 瞬間、アハ体験と言うべきか、私の中で全てが繋がった。

 あぁ…そういう、そういう事…。そういう事なのね…。

 そりゃ、不知火に知られたら困りますよねぇ?提督。

 

 設備を動かすために、揉まれて来いと。

 

 あの魑魅魍魎みたいな化け物に揉まれて来いと。

 

 元男だし、減るもんじゃないと?

 にしてもさぁ、あんまりじゃありません?この扱い。

 

 そして…何だろう、この感じ。

 

 男であった時では感じなかったであろう、

 よくわからない感情が自分の中に渦巻く。

 

 ショックはショックだ。でも個人的には

 「あのクソ野郎どもぉ!」という程度なのだが、

 想像以上にショックを受けているように感じる。

 

 何かが砕け散った時のような…自分の中にある何かが、

 ブチ切れた感じがした。

 

 

「ハハ…。アハハ」

 

 頭を抱えつつ、無意味な笑みと乾いた笑いが勝手に出る。

 余程酷い顔でもしていたのか。若干影が後退りして怯んだ気がした。

 

 ただ、その時の私はそんな影の様子を気にすることもなく、

 昔見たことのある映画の登場人物を思い出していた。

 

 自分はその人物の事を好きではなかったし、共感もした事はない。

 まぁ主人公の敵だった上に勧善懲悪の世界で描かれているのだから、

 性格的にも嫌われ者なので当たり前。

 でも、それは当然仕方のない事だ。そういう役回りなのだから。

 

 しかし今回の任務のおかげで、一つだけ彼に共感できた気がした。

 

 あぁ…彼は多分、こういう気持ちだったのだろう。

 

 そして素直に、私の頭に浮かんだその言葉を口に出すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぃやろぉぉぉぉぉぅぅぅぅぁぁぁぁぁ!!!!!!

 ぶっ殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

 

 天を仰ぎ、カッと目を見開いてその言葉を放った瞬間、

 私の怒りのボルテージが怒髪天を衝くかの如くフルMAX、

 これまで生きていた人生の中で最高潮に達する。

 

 そしてそのまま右拳を振り上げ、艦娘として生まれて初めて

 全てのフルパワーをその拳に集中し、設備を壊す事を全く厭わず、

 怒りの感情に任せ、理性をかなぐり捨てた唸り声と共に、

 その力を目の前の床に思いっきり叩きつけたのだ。

 

 

「ウラァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 聞いた事の無いような凄まじい轟音と衝撃が、空間を支配した。

 

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