暗い闇の中、一筋の光が差し込んだ。
―じ…さま……ご主人様…
ベルの声が聞こえる。昨日、俺の腕の中で消えたはずだ。
―ベル…なのか…
―はい、ベルファストです
夢なのだろうか。それだとしてもはっきりとしている。
―お前は…まだ生きているのか…?
―私の意識が存在していることを”生きている”と定義するならば、多分、そうです
―どこにいるんだ、ベル…
―あなたの…奥深く…
”かん……し………ん”
―この声は、エンタープライズ様…?
ベルの存在が遠のく感覚がした。
―ベル、待ってくれ…
―また話せます…その時まで、私は眠ります……
翔一はゆっくりと目を覚ました。
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母港、倉庫奥の部屋―
ベルファストが消滅し翔一がWARSに変身を遂げる直前、海に落ちた明石はその傍で小さく、青く輝く欠片を見つけていた。おそらく、敵のWARSが破壊し損ねたベルファストのキューブの欠片だろうと考え、その日のうちに報告しようとした明石だったが、KANSENたちや何より翔一の無の表情を見て言い出せなかった。そんな中、朝からこの薄暗い倉庫に籠り何とか欠片からベルファストを復元できないか頭を抱えて作業していた。そして…
―これで…行けるはずにゃ…
やっとのことで復元方法を考え付いた明石は、理論上はこの方法でできると恐る恐る復元するためのスイッチに右手を伸ばす。欠片である事から完全な状態で復元できるかどうかは分からないが、何かしらの反応はあるはずだ。明石は、なるようになると震える手を勢いよくスイッチに近づけ、押す。するとたちまち部屋は光で満たされ、数秒後その光が収まると、そこにはベルファストに似たメイド服姿の少女が立っていた。
―にゃ…
予想外の展開に明石は口をあんぐりとし、言葉を失った。そしてその少女が小さく声を出す。
―ここは…
―なにか覚えてることはないかにゃ!?
とにかく状況を好転させようと質問する明石に少女は答える。
―わ、わたしは…エディンバラ級の、ベルファスト…です…
どうやらベルファストであることは確認が出来た。そのことに興奮し、急かせるように次の言葉を紡ぐ。
―…!?他には!?
―えぇっと…とっても、大事な人がいます…
おそらく翔一だがそれはベルファストに答えさせないといけないと思い、明石が言う。
―誰にゃ!?
ベルファストは目線を上にして一瞬考えた末に答えた。
―……思い出せないです…
―そ、そうかにゃ…他に最近のことで覚えてることはにゃいかにゃ?
―…全然、覚えてないです
残念なことに記憶は失っているようだ。それにしても一応、小さいがベルファストの形をしたKANSENが復元できた事に安心する。
―ふぅ…でもまあ、よかったにゃ…
さて、皆にはこのことをどのように報告しようかと考える明石だった。
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執務室―
昨日翔一は、執務室の作業机でいつの間にか眠っていた。眠っている間に聞こえたベルファストの声が消えた後、目を覚ます。目の前には心配そうな顔をしたエンタープライズがいた。
―お、おはよう…指揮官…
彼女は出来るだけ暗い声にならないように気を付けながら優しく話した。
―おはよう、エンタープライズ
翔一は夢の中とはいえ、先ほどまでベルファストを近くに感じていたことから昨日のような喪失感に満ちた気持ちではなかった。だから翔一のいつもとあまり変わらない声に、エンタープライズは少し驚いた。
―気分は、どうだ…?大丈夫か…?
愛する者を失ったヒトに対しこのようなことを言うのはどうかと、口を開いてから思ったエンタープライズだが、他に言えるようなことを思い付かなかった。
―ああ、一応はね
―そうか…
翔一はベルファストが言っていたことを思い出していた。
”あなたの奥深く”
”また会える、その時まで眠る”
どういう事だろうかと考えようとしたが、エンタープライズの顔を見て今はそれどころではないと彼女と話す。
―昨日のことは…
―すまない指揮官…私が早く着いていれば…
―いや、そうじゃないんだ…俺はあの時、敵と同じ姿に……分からないんだ、俺がどういう存在なのか…
―それは…
昨日ベルファストが消滅した直後、翔一はあの黒い敵と同じ姿となりセイレーンの艦隊を蹂躙していった。翔一には自分がそのような力を持っていることを知らなかった。
何か知っていることはないかとエンタープライズに聞こうとすると、執務室のドアがノックされた。ドアを開けるとそこには明石がいた。
―指揮官…
意外な来訪者に翔一が聞く。
―どうしたんだ?
―ベルファストは、まだ死んでないにゃ…
この言葉を聞き、翔一はエンタープライズと顔を見合わせた。
明石の話を聞き終えた二人は、早速倉庫に行くことにした。
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倉庫―
倉庫の奥に来た3人の目に映ったのは、おろおろと落ち着きのない様子のメイド服姿の少女、ベルファストだ。その姿に翔一は声を漏らす。
―あれが…ベル……だな
この声に気づいたベルファストはこちらによって来る。そして一言、
―あ、あなたが、ご主人様でしょうか…
というと、翔一は優しい声でそれに返す。
―ああ、そうだよ
ベルファストに記憶がないことは、こちらに来る途中で明石から聞かされていた。
―よ、よろしくお願いします…
そんなベルファストは少し恥ずかしそうに言うと、少しバランスが崩れたカーテシーを見せる。これを見たエンタープライズが言う。
―ふふ、可愛いメイド長さんだ
この小さいベルファストは、元々ベルファストの一部だったメンタルキューブの欠片から復元されたことを翔一とエンタープライズは知らされていた。それもあって昨日のような絶望感はすっかり消え、前向きな気持ちでいた。
そんな中、倉庫の入り口から声が聞こえた。
―なるほどね…
―こんなことが出来るとはな…
赤城と加賀だ。2人はこちらに向かってくる。
―おはようございます。指揮官様
―昨日よりは、顔色は良いようだな
急に現れた2人に翔一は驚く。
―2人とも、よくここが分かったな
2人が答える。
―ええ、昨日は明石が寮に戻っていなかったようなので、ここに来た次第ですわ
―たまにこそこそと何かを作っていることは分かっていたのでな
明石を心配していたのだろう。赤城と加賀は、明石のなんともない様子みて少し安心した顔を見せた。
エンタープライズが翔一に聞く。
―指揮官、ベルファストのことはどうみんなに伝えるんだ…?
―そうだな…
考えた結果、ベルファストの報告については、一度広場に母港のKANSENを全員集めて行うことにした。
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執務室―
執務室に戻ってきた翔一、明石、エンタープライズ、赤城、加賀は、まずエリザベスにベルファストのことを伝えようという話になった。昨日、戦場からの帰還途中で見たことのないくらい気が動転をしていたからだ。そして、今その長い金髪の少女が扉の向こう側にいる。
―ベル!
―わわっ
扉を開き、ベルファストの顔を見るなり彼女に抱き着いたのはエリザベスだ。ベルファストはその行動に戸惑っている。
―よかった、ベル…!
抱きしめる力を強めるエリザベスだがベルファストは、
―く、くるしいです…
そう言われるとエリザベスはやってしまったというような顔をしてすぐ腕を離した。
―ご、ごめん。ベル
―そ、それで…あなたは…
ベルファストの記憶がなくなっていることを思い出したエリザベスは少し寂しくなった。しかし、それでも出来るだけその感情は出さないように、いつものように接する。
―私はロイヤルのトップ、クイーン・エリザベスよ!みんなには陛下と呼ばれているわ。これからもロイヤルのメイドとしてよろしく頼むわね!
―はい、よろしくお願いします。陛下
ベルファストはカーテシーをすると続けて言う。
―頑張りますっ
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母港、広場―
無事にKANSENたちにベルファストのことを伝え終えると、昨日出撃したメンバー、赤城、加賀、明石、伊13、エリザベス、エンタープライズ、ビスマルク、オイゲンが翔一の周りに集まってきた。
エンタープライズが話す。
―指揮官、話したいことがあるんだ。明日、少し時間を取ってもらってもいいかな?
加賀が続く。
―少しでは済まないと思うがな
そんなに時間がかかる事なのかと、不思議な顔をした翔一が答える。
―今からでは駄目なのか?
これに伊13が言う。
―うん、今日はベルファストと過ごしてあげて
―そうか…
話したいことと言うのは、コードGからもらったUSBのことについてだ。これには、指揮官についての詳しい情報が入っているらしい。先ほど明石にメモリーの読み込みが出来る装置があるか聞いたところあるというので、昨日指揮官の変身を見た当事者たちでその情報を見ようという事になっていた。KANSENたちはそのことを話しに来たという事だ。
赤城とビスマルクが言う。
―とても大切なお話になると思います
―私たちにも関わることかもしれないわ
話の内容に一切触れないKANSENたちの言葉に翔一は一層疑問を覚える。
―そんなに重要な話なのか…?
オイゲンが答える。
―まあ、そこらへんは明日のお楽しみという事で
とりあえず明日に話をするということが決定し、ここで解散となった。
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海岸近く―
ベルファストは一旦翔一と共にロイヤルエリアに赴きメイド隊と話をした。いきなり仕事を、しかもメイド長として行うのはさすがに酷だという事で、仕事の概要を説明し、少しの間他のメイドの手伝いを行った後、今日のベルファストの仕事は終わりとなった。ベルファストが元に戻る間ニューカッスルにメイド長代理を頼んだが、一度その座を譲ったということと、良い経験になるからという事でエディンバラが代理を務めることとなった。”しっかりやって見せるわ!”と張り切っていたようだが大丈夫だろうか。
そんなことがあった後、翔一とベルファストは散歩がてら海岸近くのレンガタイルの道を歩いていた。
―ご主人様っ
―ん?
ベルファストが翔一と手をそっと繋ぎながら話しかけた。彼女は少し下を見ながら神妙な面持ちで言う。
―私、大事な人がいるんです。でも、思い出せなくて…
―大事な人?
”大事な人”というのが自分であってほしいと一瞬思ったが、今そんなことを考えてもしかたがない。
ベルファストが続ける。
―はい…その人、私に指輪もくれたんですよっ。とっても嬉しかったです
楽しそうに話すベルファストに翔一も嬉しくなった。それと同時に思ったことをつぶやいた。
―指輪、か…
翔一がWARSとなった時に指輪は海の底に沈んでしまったのだろう。今更後悔してもどうしようもないのだが。
ベルファストは翔一の目を見て言う。
―早く記憶を取り戻して大事な人と一緒に過ごしたいですっ
―ああ、そうだな
自分がその人だなんて言えるわけもなく時間が過ぎていった。
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執務室―
夕日が差し込む中、翔一とベルファストが執務室に帰ってくると、ベルファストが翔一の正面から軍服の裾をくいくいと引っ張りこう告げる。
―ご主人様っ、だっこしてくださいっ
―ん?…いいぞ
今のベルファストのように小さいKANSENから甘えられ、だっこをねだられることはよくあったので違和感なく抱き合げてしまったが、姿が微妙に違うといえベルファストをだっこしていると思うと少し恥ずかしい気持ちになった。
―すぅ
耳元で寝息が聞こえた。いろいろと歩き回ったせいで疲れたのだろうと考えると、翔一にも急に眠気が襲ってきた。思わず体が揺らいでしまい、近くのソファに腰掛けるとそのまま翔一は眠ってしまった。
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優しい声が聞こえてくる。
―ご主人様…
聞きなれた、落ち着いたベルの声だ。
―ベル…前よりも君を遠くに感じる…
―私もです…でも、意識がはっきりしてきました。もしかしたら…
―もしかしたら…?
―ご主人様が眠っている間に、小さい方の私に私のデータが移行されているのかもしれません…
―そういう事か…
ベルが元に戻る希望が増えたという事だろう。
ベルが遠くに行く。
―そろそろ、時間のようです…
―そうか…
目を覚ました時、あたりはすっかり暗くなっていて、窓からは月が見えた。
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