アズールレーン~希望への航路~   作:ざぎねぅ

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10話 思い出の天城姉ちゃん

ロイヤルエリア、城―

 

 

昨日キューブの欠片から小さい姿となってベルファストは復元された。まだ完全に記憶が戻っていない彼女は、今日からメイドたちの仕事を再開することとなっていた。翔一はそのベルファストをロイヤルの城に送り、メイド隊に預ける。

城の入り口で待っているとシェフィールドが来た。

 

―わざわざありがとうごさいます。ご主人様

 

翔一とベルファストが答える。

 

―ああ、よろしく頼むよ

 

―今日からよろしくお願いします

 

ベルファストとシェフィールドは手をつないで城に入っていく。

 

―それでは行きましょう

 

―はいっ

 

城を後にした翔一は、昨日エンタープライズ達と約束した話をするためいつも明石がいる倉庫に足を運んだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

倉庫―

 

 

倉庫にやってきた翔一は明石がいるか確認する。最初に目に入ったのは長い金髪の少女、エリザベスだ。

 

―おはよう下僕っ。私を待たせるとはいい度胸ね

 

―お、おはようエリザベス

 

すると奥の方から声が聞こえてきた。

 

―指揮官~

 

声がした方向に行くと、明石が棚の上に腕を伸ばしているのが見えた。

 

―指揮官~早速だけどあの箱を取ってほしいにゃ~

 

翔一は明石が指を刺した箱を取るとそれを明石に渡す。

 

―…これか?…はい

 

―ありがとにゃ

 

明石は箱を持ち机の方に歩いていく。そしてそれをコンピュータに繋げた。

 

―ふぅ、これでいいかにゃ

 

明石の作業を見守っていると、倉庫の入り口が開いた。そこからオイゲンが入ってくる。

 

―おはよう指揮官、明石、そしてちっちゃい女王様

 

―おはよう

 

―おはようにゃ、オイゲン

 

―ち、ちっちゃいとは何よ!

 

―いろいろとよ

 

―もおおお!

 

―ま、まあまあ…

 

変に煽りを入れ、それに反応するオイゲンとエリザベスに翔一は割って入った。

オイゲンが来たことを皮切りに、他のKANSENも倉庫にやってきた。赤城と加賀、伊13がこちらに来る。

 

―おはようございます~指揮官様~

 

―おはよう指揮官

 

―おはよ

 

―おはよう、みんな

 

翔一が集まったKANSENたちを見渡すと、オイゲンに尋ねる。

 

―ビスマルクはどうしたんだ?

 

これにオイゲンは妖しく微笑み答えた。

 

―今日はまだ見てないわね。それとも、私だけでは不満かしら…?

 

そう言いながら翔一の胸に手のひらをすぅっと当てた。

オイゲンは度々このように、からかっているのか純粋にスキンシップをしているのか判断つかない行動をしてくる。翔一は、なかなかこれに慣れなかった。

 

―いや、そういう問題ではなくてだな

 

そういうと、横からギリッと歯ぎしりの音が聞こえる。赤城だ。見てはいないがとても恐ろしい顔をしているだろう。オイゲンは赤城を一瞬見ると面白そうに話す。

 

―ふふっ。あなた本当に毎日大変でしょうね、指揮官

 

オイゲンが翔一から離れる。

 

―あら、楽しそうね

 

やっとビスマルクが来た。そしてまたオイゲンが言う。

 

―指揮官がどうしてもあんたに会いたかったらしいわよ

 

唐突な言葉にビスマルクは頬を染めて言う。

 

―し、指揮官っ、あまりからかわないで…

 

そして、また横からギリリッという音が聞こえてくると、加賀が”はぁ”と参った顔をしてため息をついていた。明石もビクビクした様子だ。

これ以上持たないというような状況だったが、それを打ち破るように倉庫に入ってきたのはエンタープライズだ。

 

―やあ、遅くなったね

 

―ふにゃぁ、やっと来たにゃぁ

 

緊張を解くKANSENたち。それに気づいたエンタープライズが言う。

 

―…みんな、どうしたんだ?

 

ビスマルクが答える。

 

―い、いえ。何でもないわ

 

その言葉にエンタープライズは”そうか…?”と返し、早速本題であるUSBの情報について話しだした。

 

―今日集まってもらった理由は、この中の情報を見るためだ

 

そう言いながら、ポケットから出したUSBメモリーを皆に見せる。

赤城が言う。

 

―指揮官様のことについて、よね

 

これを受けて、エンタープライズは翔一をちらと見ると言う。

 

―ああ、そうらしい

 

当然この事を知らなかった翔一は驚いた。

 

―俺のこと…?どういうことだ…

 

エンタープライズは翔一に、ベルファストが消滅した日について事を話しはじめた。

 

―指揮官、おとといのことを覚えているか。あの姿になった時のこと

 

―…ああ、少し

 

翔一が今までKANSENたちを苦しめてきた敵と同じ存在であることはなんとなく言い辛かったが、コードGから聞いたことを彼に話す。

 

―あの黒い奴はWARSというらしい。そしてそれは、別の世界の指揮官…あなたと同一の存在だ…

 

―そう…か…

 

そんな予感はしていた。そもそも、どこから来るのかも分からないセイレーンだっているのだ。あの時あの姿となってみて、違う世界の自分がいてもおかしくないと感じていた。

 

―そしてこのメモリーは、違う世界の私から貰ったものだ

 

翔一ははっきりと覚えているわけではないが、数日前に見たエンタープライズに似た者を目にした記憶があった。

エンタープライズは続ける。

 

―それじゃあ、見よう…明石

 

そういうと、明石にUSBメモリを渡す。明石はそれを、先ほど翔一に取ってもらった箱に差し、器用にボタンを操作すると近くのコンピュータのモニタの電源を入れた。そこには、メモリに入っているフォルダがずらりと表示されている。明石が適当にフォルダを選択すると、その大半は動画ファイルで埋まっていた。20年近く前の動画が並んでいる。

伊13と加賀がつぶやく。

 

―こんなに前のデータなんだね…

 

―私たちが作られる前か…

 

明石が違うフォルダを選択すると、一番上に表示された動画のサムネイルに赤城と加賀が驚愕する。

 

―天城姉さま…!

 

―天城さん、どういうことだ…!

 

2人が驚く陰で、翔一もひそかに驚きを覚えていた。

 

”なぜこのことを忘れていたのだろうか。こんなに大事なことを”

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

20数年前、重桜本土、セイレーン技術研究施設―

 

 

突如セイレーンの出現により、9割の制海権を喪失して数年が経った頃の話。圧倒的な力で人類の91%が殲滅されたが、かろうじてセイレーンを人類の生存域から退けることに成功した。そして様々な装置で満たされたこの施設では、セイレーンが用いる技術の「メンタルキューブ」について研究されていた。最終的にこのメンタルキューブは、人類がセイレーンを殲滅するため兵器の要素として用いられるという。

ある研究員達が話している。

 

―はあ、やっぱり今まで人が使ってきた武器にメンタルキューブの応用はできないようだね。動力にするにはエネルギーの変換効率が悪すぎる

 

研究を続けていく中で、今までに人類が用いてきた物理兵器にキューブの力は使い辛いという事が解明された。その代わり、キューブは生体的な反応には感度がよかったようで、それによって生み出すエネルギーは原子力よりも優れていたというデータもある。

そんな中でこのような話が出る。

 

―そうね…あまりやりたくないけど、あの人に頼るしかないかしら…

 

―本当にいいんですか?いくらキューブ適性が高かったといっても、これ以上続けるのは……この研究所の要でもあるのに…

 

あの人と言うのは、この研究所のチーフ「港 優子」だ。世界的なキューブ研究の第一人者であり、今までキューブについて様々な特性を発見してきた。そのなかでも彼女は人とキューブを融合させることでその力を最大限発揮できる理論を発表し、さらにその適正を測定する装置も開発した。しかし十分な適性がある人間は一人も現れず試しに自分自身の測定をしたところ、適性があるという結果が出された。その結果を知ると早速自分を実験台にして様々な研究をしていった。その代償として、日に日に体を壊していた。研究所を管理している軍部や、倫理委員会が研究員自身の人体実験に加え、その身の消耗を容認してしまうほど人類は衰退し、余裕のない状況だった。

そんな研究を続けていたある日、優子が倒れ、軍の基地近くの病院に運ばれた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

病院の一室―

 

 

優子が倒れたという情報を聞き、駆け付けた優子の旦那「港 海斗」が病室に入ってくる。

 

―あら、いつもは全然家に帰ってこないのに、こういう時は来るのね

 

優子がそう言うと海斗が息を荒げて答える。

 

―当たり前だろ…!お前は大事な存在なんだ…!

 

優子は目をそらし、そっけなく言う。

 

―人類にとって…?

 

―そういう意味じゃない、もうお前一人の体じゃないんだ…

 

優子の布団で覆われている腹のあたりが膨らんでいるのを海斗は見た。2人は子を授かっていた。しかし、優子と海斗は二人で会う状況が少なかった。また、お互いに軍に属する身であり、セイレーンの対処で激務であることは分かっていても、優子は愛する海斗と共に過ごす時間がないことに不満を感じていた。優子が自身を使ってキューブの人体実験をすることにしたのは、元から研究バカという理由もあるが、海斗を心配させて自分と会う時間を作らせたかったという理由もあった。

そんな優子が言う。

 

―キューブを使った兵器……作れそうよ

 

―………

 

海斗は優子の言葉に僅かな人類の希望を感じた。そして、体がボロボロな状況なのにも関わらず、自分の仕事について話すことに不安の念を抱き黙ってしまった。

優子は話を続ける。

 

―私が倒れた原因の実験ね、適性の有る人間のコピーをキューブで構成するっていうものなの

 

そして一言付けたす。

 

―メンタルキューブで生体信号を再現すれば、どんな状況でもキューブの凄まじいエネルギーを使えるでしょ?

 

海斗は優子の話を素直に聞いていたが、彼は戦地でセイレーンを迎撃する水兵のためあまりキューブのことは詳しくなく、少し呆けた顔をしていた。

 

―私がここにいる理由、知りたい?

 

優子は彼女の性格である悪戯娘のような仕草で言った。

海斗がそれに肯定すると優子が続ける。

 

―まずキューブに私の情報を入れたのよ…あ、情報って言うのは私の遺伝子、もっというと設計図のことね

 

海斗は”うん”というと優子はさらに続ける。自分のやってきたことを自慢する子供のように。

 

―それでね…う~ん、疲れてたのかなぁ。そのキューブを入れてたガラスの箱を落として割っちゃったの。急いで取ろうとしたらさ、指切っちゃって…ふふっ

 

―…それだけで倒れたわけじゃないよな

 

―そんなに人間はやわじゃありませんっ

 

そして優子は、海斗には衝撃の強い出来事を話す。

 

―で、事もあろうか傷口でキューブを触っちゃって…そしたら大変、キューブが私の遺伝子を得ようとして、傷口から私の体を侵食しちゃってねぇ。おかげで私は全身の痛みのショックで倒れたってわけ。幸いスタッフたちがキューブをすぐどけてくれて、脳まで侵食はされなかったから一命はとどめたけどね

 

下手をしたら死んでいたという優子の話と、あまりに楽観的な話し方に海斗が言う。

 

―お前なぁ、死んでいたかもしれないんだぞ…!

 

それに気にした風もなく優子が話す。

 

―わぁってるわよ………でも本当にもうすぐなの、まだキューブは真っ黒な色でエネルギーの維持も安定してないけど、セイレーンの力を制御出来るようになるまではもう時間の問題

 

翔一は、優子が研究バカの頭になっていることを察すると、これ以上の心配の言葉をかけるのをやめ、その代わりに純粋な疑問を投げかける。

 

―制御できるようになった時は、どんな色になるんだ?

 

優子は病室の窓から見える、太陽に照らされた美しい海を見ながら言う。

 

―理論的には青よ…あの海みたいに、とっても綺麗な青…

 

病室に、静かに潮風が吹いた。

 

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記録映像 研究記録06-13

 

 

綺麗な真っ白い部屋の中央にある治具に、黒いメンタルキューブが配置されているところが録画されている。

 

―優子さん、起動させていいですか?

 

カメラの後ろにいるのだろう、研究員の声が聞こえてくる。すると女性の声で返事が聞こえる。

 

―ええ、始めましょう

 

そう答えると、カチッというボタンの音がする。その後、キューブがゆっくりと発光していく。だんだんとではあるがその色は青くなっていった。

 

―い、いけるわ。もう少し…

 

やがて発光が収まると、そこには美しく青い立方体があった。研究員たちはようやくキューブを完全なものに出来たと、感歎を漏らす。

優子が話す。

 

―よし、でもまだよ…これからヒトの形に…

 

そう言った瞬間、メンタルキューブはたちまち激しく動き出しその形を変えていく。やがてそれは優子と瓜二つの顔の、しかし優子のボブヘアーとは真逆に足まで付きそうな茶色の髪と、狐のような耳と複数の尾を持つヒトとなった。

後にこの人型は、優子の旧姓を取り「天城」と名付けられ、重桜で、世界で初のKAN-SENとして記録されることになる。

 

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病院の一室―

 

 

キューブがヒトの形を成して安心した直後、優子は陣痛に襲われた。しかも短い周期で陣痛が起きていたため、いつ生まれてもおかしくない状況だった。実験が終わりこのことを研究員に告げると、当然と言わんばかりにすぐ病院に運ばれた。

無事に出産が終わった次の日、個室で目を覚ましてしばらくすると、ノックが聞こえてきた。海斗だ。

 

―どうぞ…

 

優子がそう言うと、海斗が部屋に入るなり話す。

 

―優子…生まれたぞっ

 

―私が一番知ってるわよ

 

子が生まれた嬉しさで若干はしゃいでいる海斗に優子は苦笑する。

 

―赤ちゃん、見てきた?

 

優子の言葉に海斗が答える。

 

―ああ、しっかり見たぞ。名前はどうしようかなぁ

 

―ふふ、嬉しそうね…

 

出産の次の日という事もあり疲れていた優子は静かに笑った。そのことに気づいた海斗が言う。

 

―うん、もちろん嬉しいよ…あ、疲れてる…よな。すまない、うるさくして

 

―いいわよ、謝らないで…

 

世界がセイレーンの危機に脅かされている状況で、優子は生まれた子供をしっかり育てられるか多少不安に思っていたが、今は無事に出産できたことを幸福に思っていた。

そして後にその子は、「翔一」と名付けられた。

 

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記録映像 研究記録08-17

 

 

研究施設の中庭が録画されている。

 

―天城姉ちゃーん!

 

元気な男の子が天城に向かって走っていた。

 

―ん…翔ちゃん、今日も元気ですね

 

翔ちゃんと呼ばれた男の子にガシッと抱き着かれる天城はそう言うと、自らも優しくその子を抱きしめた。翔ちゃんと言うのは翔一らしい。

 

―翔ちゃん…私はとても幸せです

 

そう言われた翔一は答える。

 

―ん~、なんで~?

 

突然の言葉に翔一は疑問を投げる。

 

―…いえ、なんでもありません

 

天城がそう言うと翔一何も気にしないと言った様子で話す。

 

―そう?…でも、おれも幸せだよ~

 

翔一に言われたことに少し驚いた天城は彼に聞く。

 

―そうなのですか?

 

―うん!だって天城姉ちゃん優しいもん!

 

そう言いながらさらに抱き着く力を強くされると、天城は頬を緩め、翔一の頭をなでた。

 

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記録映像 研究記録08-14

 

 

和室が映し出されている。そこにはちゃぶ台があり、その上に料理が置かれている。そこに天城と翔一が対面している。

 

―おいしいですか?翔ちゃん

 

―おいしいよ!

 

―ふふっ。よかったです

 

―おれ天城姉ちゃんのごはん毎日食べたいっ

 

―え…?

 

―おいしいから!

 

―そう…ですか?

 

―うん!

 

天城は頬を染めた。

しばらくのやり取りの後、2人とも料理を食べ終わると優子の声が聞こえてきた。

 

―天城、そろそろ時間よ

 

―はい、今参ります…翔ちゃん、また今度

 

翔一は少し寂しそうな顔をすると、手を振りながら言う。

 

―うん、じゃあね

 

ここで映像が途切れた。

 

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現代、母港倉庫―

 

 

保存してあった記録映像をさらりと見た一同は、翔一の生い立ちに今はいない重桜KANSENの天城が関わっていたことに驚いていた。

明石とエリザベスが言う。

 

―こんなことになってるとは思わなかったにゃ…

 

―下僕の意外な一面も見れたわね

 

赤城、加賀が言う。

 

―まさか指揮官様が小さなときに天城姉さまと過ごしていたなんて…

 

―とても仲が良かったように見えたな

 

赤城が”あっ”と気づいた声を出すと翔一に聞く。

 

―指揮官様、赤城の料理をあんなに美味しそうに食べていただいたのは天城姉さまの料理も食べていたからなのですのね?赤城は天城姉さまから料理を教わりましたの

 

翔一が答える。

 

―うん、確かに天城ね…の料理と同じ味だった…

 

翔一は”天城姉ちゃん”と言いそうになり、恥ずかしさを誤魔化すように軍帽のつばを少し下げる。そんな翔一を見て、赤城がにまっと笑う。

 

―うふっ、恥ずかしがる指揮官様も素敵ですわ~♡

 

続けてオイゲンも口を開く。

 

―可愛いわね、指揮官

 

翔一は耐えきれなくなり言う。

 

―か、からかわないでくれ、みんな…

 

画面を見ながらビスマルクが言う。

 

―WARSみたいなものが映っている映像もあるわね

 

伊13とエンタープライズが続く。

 

―少し時間が経った後の映像だね

 

―…見てみよう

 

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記録映像

 

 

研究施設内、病室の個室のような場所が録画されている。翔一がドアを開け入ってくると、焦ったような様子で部屋中央のベッドにいるヒトに話す。

 

―姉ちゃん…!

 

そう言われると天城は身を少し震わせた。

 

―…!翔ちゃん…なぜここに…

 

―だって天城姉ちゃんが倒れたって!

 

―そ、それは、どこで聞いたのですか…?

 

―白い服の人たちだよっ

 

―そう……ですか…

 

翔一が天城の顔を見ると言う。

 

―天城姉ちゃん…すごく疲れた顔してるよ…

 

―いえ、そんなことはありませんよ…

 

翔一は心配そうな顔をする。

 

―でもぉ

 

翔一の顔を見た天城は彼を安心させるように抱きしめた。

 

―大丈夫ですよ

 

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記録映像 研究記録07-82

 

 

研究施設の一室、やや狭く白い部屋の中に、手首や足首にケーブルをつけられている天城をガラス越しに録画していた。

 

―今日もお願いね、天城

 

静かで冷静な優子の声が聞こえると天城が答える。

 

―はい…

 

その声は少し震えていた。彼女の不安を感じ取れる。

次に研究員が優子に言う。それは男性であり、なにか申し訳なさそうな声音だ。

 

―テスト…はじめていいですか

 

優子が作業めいた言い方で答える。

 

―うん、はじめてちょうだい

 

すると同じ研究員が言う。

 

―耐久テスト、開始

 

言い終わると重低音が部屋に響き渡る。天城の声が聞こえてくる。

 

―くっ……うぅ…

 

優子が感情のない声で言う。

 

―前回のテスト結果から改修して耐久は上がったはずだから、まだいけるわ。…負荷を上げて

 

研究員が”はい…”と答えるのが聞こえると重低音が大きくなる。同時に天城が声を漏らす。

 

―ああぁ……ぐぁあああ

 

この声を聴きながら優子がさらに告げる。

 

―…前回の値は超えたわね、計算ではこの2割はギリギリ耐えられる。そこまで上げてちょうだい

 

女性研究員が言う。

 

―で、でもそれはキューブの構造崩壊が始まる危険性が…!

 

この言葉に優子は非情に告げる。

 

―記憶のデータはリアルタイムにバックアップが取られているわ。最悪体を失っても問題ないでしょ

 

女性研究員が言う。

 

―記憶があっても今の天城は死ぬことになります…!

 

優子はそれを無視し、男性研究員に言う。

 

―…早くやりなさい

 

諦めたように男性研究員が返事をすると間もなく、さらに負荷をかける音が大きくなる。

 

―ぅああああああああああああああ!!!

 

天城は悲痛な叫びをあげた。すると、

 

 

 ”姉ちゃぁああん!わああああああああああ!!”

 

 

幼い翔一の叫び声が聞こえた。優子や研究員は翔一が部屋の外にいることを確認し、それに驚く。

 

―翔一…!

 

―”翔一君!”

 

突如、凄まじい音と共に後ろからガラスの破片が飛んだ。黒い靄が映る。また、カメラが倒れたらしく視点が荒ぶると、一瞬だけおおよそ人間とは思えないような小柄な人型が映った。その色は、エネルギーの安定状態にないメンタルキューブの、深く黒い色だった。

そこで映像は途切れた。

 

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研究施設、一室―

 

 

天城が生まれたことでメンタルキューブの安定化の方法が確立され、KANSENは世界中でその製造方法が確立されつつあった。とはいえKANSENが生まれてから日が浅いこともあり、その武器開発などで少なくとも重桜軍、そして研究員たちは手を止める暇があまりなかった。

KANSENを実践投入させるためにとりわけ重要視されたのが、その耐久力だ。現状、世界の軍の戦力ではセイレーンをやっとのことで撤退させるまでしか戦果を出せていない。それどころか、艦艇を出してもそれらが全艦帰投出来たことの方が珍しいくらいであった。この事実を受け、KANSENはまず確実に帰投出来ることを最低条件とし、そのためKANSENのカスタマイズ時は耐久力を最優先で上げることとなっていた。耐久力を上げるためのデータを収集するために行われていたのが、この「耐久テスト」だ。

 

天城は、ガラス越しにせっせと実験準備をする研究員達を見つめていた。今日もテストだ。かれこれ31回この実験を行っていた。これで32回目だ。

天城が生まれてから最初のうちは自分の武器である艤装の攻撃テストを行っていたが、途中から体の耐久を確認、また強化するための耐久テストを行うようになった。言葉に言い表すのは難しいが、これはとても苦しい実験だった。しかし、その苦しみは日々翔一と接することで吹き飛んでいた。天城は翔一と共に過ごすのが幸せだった。理由は分からなかった。しかし、天城は1つだけ心配することがあった。それは、今から行われようとする実験を翔一に見られることだった。自分が苦しみ悲鳴を上げる姿を見て翔一はどう思うだろうか。怖いと思うだろうか、怒りが沸くのだろうか、それとも、驚きのあまりもう話してくれなくなるだろうか。その時が来るかもしれないという事を想像するだけで、天城は不安に駆られ恐怖した。それほどまでに翔一を愛していたのだ。

 

最初の負荷がかかる。こんな痛みは慣れたものだ。

負荷が強くなる。痛い、前回の負荷を超えたようだ。

更に強くなる。全身の凄まじい痛みで気絶しそうだ。しかし、人類の、いや翔一の為と思えば耐えられた。

 

そして、一番来てはいけない時が来た。

2枚のガラス越しに見えたのは、こともあろうか翔一だった。気づいたときにはその姿は黒く悪魔のような見た目に変貌し、研究員たちを押しのけ天城がいる部屋のガラスを割り天城につけられたケーブを引きちぎっていく。天城は翔一がこんなに乱暴なことをしているのは見ていられなかった。どうすればいいか分からず、思わず抱きしめた。すると翔一はその動きを止め天城に寄りかかるように倒れ気を失った。

 

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現代、母港倉庫

 

 

「耐久テスト」と呼ばれた実験映像を見た一同は皆複雑な表情をする。そして翔一は母港に来る前のことを少しずつ思い出してきた。

ビスマルクが言う。

 

―確かに私たちは兵器で、セイレーンを倒すために戦っているわ。でも、そのためとはいえこんな風に実験されているのを見るのは、少し嫌ね…

 

赤城が悲しそうな声で言う。

 

―天城姉さまのおかげで私たちが問題なくセイレーンと戦えると考えれば、まだ救われるわ

 

明石が言う。

 

―それじゃあ、次、いくにゃ

 

翔一は次の映像である違和感に気づいた。

 

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記録映像

 

 

監視カメラの映像なのか、研究施設の廊下が写されている。そこにあるベンチには、優子と翔一が座っていた。

 

―軍の仕事の方はどう?慣れた?

 

―ああ、幼いころからあっちの方にも顔を出すことがあったし、あまり困ってることはないよ。仕事もだいぶ慣れた

 

―そう……ねえ、天城のこと…覚えてる?

 

―覚えてるも何も、最前線で頑張ってるんだろ?今は何してるんだろうなぁ

 

優子は目を伏せ小さくつぶやく。

 

―それは…

 

―ん?

 

―いえ…なんでもないわ

 

そう言った直後、翔一に異変が起こる。

 

―ぐっ…うぁ…

 

翔一は胸のあたりを抑え苦しみ始めた。やがて彼から黒い靄が出てくる。優子が驚き焦る。

 

―翔一、どうしたの!……なっ…アイツら、暴走はしないって言ってたじゃない…!

 

翔一は苦しみながらその姿を変えていく、やがてそれは黒いWARSの姿となる。それを見た優子がつぶやいた。

 

―黒…設計段階はこんな色じゃなかったはずだけど…

 

翔一、WARSが呻き声のような音を出す。かすかに言葉が聞こえる。

 

―姉ちゃん……あまぎ…ねえちゃ…

 

ここで映像は途切れた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

現代、母港倉庫―

 

 

―結局、どういうことなのかしら、黒いWARSは本来の姿ではないという事だけ、確認が取れましたけど…

 

赤城が言うと翔一が続く。

 

―…分からないな……実を言うと、俺はこの母港に来る以前の記憶がない。その事に今、気づいたんだ…

 

加賀が尋ねる。

 

―ん、それはどういうことだ?

 

―記憶を消されているのかもしれない。軍で働いていたことは確かなようだが、細かいことまで思い出せない

 

唐突な翔一の言葉にKANSENたちは一瞬黙り込む。

オイゲンが話す。

 

―指揮官は、その記憶は取り戻したいの?

 

一瞬考えこむと翔一が言う。

 

―…いや、どうだろうな。実際にここで暮らす分には、記憶がなくて不便な思いをしたことはなかったし

 

―そ…

 

オイゲンが短く言った。再び皆は黙り込んでしまうが、それを明石が壊す。

 

―と、とりあえず、続き見るにゃ?

 

翔一が答える。

 

―そう、だな

 

その後は時間だけが過ぎていくだけで、特に新しいことは発見できなかった。

 

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病院―

 

 

耐久テストの途中、翔一が謎の力を発揮しそれを振るった。天城に抱かれ、翔一が倒れるとその姿はやがて元に戻っていった。周りの研究者たちはとりあえず翔一を運び出し病院に運んだ。天城は運ばれていく翔一を見ているだけしかできなかった。

翔一は眠ったままの状態で検査された。そして今は病室のベッドで眠っている。その姿を優子は椅子に座りながら見ていた。

 

―…翔一

 

そうつぶやきながらまだ目覚めない翔一の頭を優しくなでる。

優子は先ほどのことを思い出していた。優子は翔一があのように感情を強く出しているところを見たことはなかった。実際今までもなかったと思う。

 

―私は…母親としては全然だめね…

 

自分の子ではあったが翔一の世話を天城にさせることが多かった。天城を普通の人間と触れ合わせることで、何か得ることがあるかもしれないと思った結果だ。まだ幼く、純粋な心を持つ子供と関わったおかげか、天城はとてもやさしい性格になったと思う。仲もとても良くなっていた。しかし、その2人を見るほど自分は親として翔一に何か出来ているのだろうかと日々悩むようになった。そんな中でこの事件が起こったのだ。施設内部の管理がなされていなかったといえばそれまでだが、実験中の天城の姿を翔一に見られ、彼をこんな風にさせてしまったと思うことで自分を責めていた。

ポケットから電話の着信音が鳴る。確認すると、掛けてきたのは軍の上層部の人間だった。電話を取ると耳を疑う言葉を聞いた。

 

 

 ”港翔一を戦力に出来ないか研究を行ってほしい”

 

 

という内容だった。

優子が実験中にキューブに侵食された影響により、生まれた翔一には安定状態にないキューブの力が宿っていたことは分かっていた。そして元々軍にはキューブの力を軍人に埋め込んで戦わせるという構想があったが、キューブ適性の問題で実現できていなかった。しかし、この前の事件により人間がキューブの力を発揮できることが発見されたため、軍からの連絡が来たのだ。

 

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現代、執務室

 

 

記録映像を見ていた翔一とKANSENたちは一旦倉庫から解散し、翔一は執務室で仕事をしていた。いつの間にか今日のベルファストのメイド仕事が終わったらしく、グラスゴーが彼女の手を引いて帰ってきた。

そんなグラスゴーがベルファストを引き渡しながら言う。

 

―はい、貴方様

 

―ありがとう、グラスゴー。ベルの調子はどうだった?

 

―意外と小さくても仕事できてたわよ、メイド長

 

そしてベルファストが言う。

 

―このベルファスト、メイドとしてしっかり仕事を覚えましたっ

 

自信あり気なベルファストの言葉に翔一は安心する。

 

―そうかそうか、困ってないようでよかったよ

 

グラスゴーが言う。

 

―じゃ、私は続きの仕事もあるから

 

―うん、それじゃあ

 

翔一が答えると、グラスゴーはすたすたと執務室を出ていく。

翔一は目の前にいるベルファストを見つめた。

 

―どうしたのですか?ご主人様

 

ベルファストは丸い顔をこてっと傾げるとそう言った。

 

―いや、なんでもない

 

翔一はそう言うと、執務室の窓から外を眺める。そこから、夕日に照らされて歩くKANSENたちが見える。

その姿を見ながら考えた。自分がどんな力を振るえるのかはまだはっきりと分からないと。ただ、セイレーンを倒すことが出来る力を持ったことは確かだった。しかし翔一はこの力を、自分が半分人間でなかったことを恐れることはなかった。この力で皆を見守るだけでなく、共に戦おうと胸に誓ったからだ。




明石にゃ!
次はベルファストが復活にゃあ!
そして指揮官が…?
次回もお楽しみにゃ!

ピクシブ版なら最新話が読めるにゃ!
細かい設定、設定画はここ(ピクシブ)にゃ
感想もよかったらよろしくにゃ

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