アズールレーン~希望への航路~   作:ざぎねぅ

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14話 頑張れ!駆逐艦!! file2

暗く深い闇、その中でセイレーンたちは今回使ったファイターについて話をしていた。

 

―この子の性能、今の状況じゃ過剰だったかしら?

 

そう言ったのはオブザーバーだ。この言葉に返すテスター。

 

―あちらも新しい力を持ったようだし、そうでもないんじゃない?

 

2人の話をよそにピュリファイアーはファイターの頬をふにふにつついている。

 

―お前、結構やるじゃん

 

―…

 

表情一つ変えないファイターに不満だったようでピュリファイアーは”むっ”と唸る。

一方でオブザーバーはある決定をしたようだ。

 

―しばらくしてから、もう一度試しましょう

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

演習場―

 

 

ファイターに敗北した次の日、翔一たちは早速WARS ACHILLESを使いこなせるようになるため動いていた。

 

―こ、こうか…?

 

―そうそう、そのままです指揮官

 

WARSはジャベリンに両手を引かれてゆっくりと海面を歩いている。その姿は、水泳を習い始めた小学生のようだ。海岸から沖の方に随分進んだ2人を、横からニーミとラフィーが見守っている。

 

―少しずつ慣れましょうね

 

やさしく声をかけるニーミ。

 

―がんばれ指揮官~

 

ラフィーはいつも通り眠そうな顔で応援している。

しばらく進むと、折り返し地点で綾波が立っているのが見える。

 

―あと少し、です

 

彼女は手を振りWARSたちを迎えていた。

ジャベリンが言う。

 

―さあ、あと半分ですよ指揮官っ

 

―ふぅ、これでもまだ半分なのか…気が抜けないな

 

まだまだ早歩きするのにもかなり集中力を使わなければならないWARSに、ニーミが微笑み話す。

 

―ふふ、指揮官ならすぐに使いこなせますよ

 

―ああ、がんばるよ

 

翔一の修行が始まるのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

演習場―

 

 

数日たったある日のこと。演習場では、KANSENたちの砲弾を放つ音が響き渡っていた。そしてWARSからは遠く離れて、明石が乗る指揮艦もある。

 

―良いわよ指揮官、しっかり動けてるわ!

 

先ほどからWARSに変身した翔一に向かって砲撃しているビスマルクが言う。WARSはKANSENたちが放つ弾をよけ続けることで、アキレスの速力を制御できるように訓練していた。

 

―こちらからも行きますよー指揮官!

 

ニーミが言った。そしてラフィー、ジャベリン、綾波からも砲撃される。四方から迫りくる弾をWARSは、ひらりひらりと器用にかわしていく。

 

―…これくらいの移動なら簡単に出来るようになったな

 

―さすがです、指揮官!

 

―指揮官がんばった、えらい

 

ジャベリンとラフィーに褒められた。そして、いつの間にかWARSの後ろに綾波が回っていた。

 

―鬼神の力ならどうです…?

 

綾波は剣型の艤装を振るう。しかし、WARSはそれもかわしていった。振るう腕をいなし軽くつかむと、出来た隙に反撃をする。WARSの裏拳は、綾波の眼前で止まっていた。彼女は目を見開く。

 

―!?……ふぅ、格闘戦も問題ない、です

 

―よし…

 

WARSは突然の綾波の攻撃にも反応出来たことに思わずそうつぶやいた。そして、ビスマルクより後方からツェッペリンが言う。

 

―長い距離移動してみろ、範囲攻撃にも対応できるようにすることだな

 

―来い…!

 

砲弾が飛んでくるような点での攻撃とは違い、航空攻撃は面での攻撃だ。今までのように少しの移動では避けきることはできない。

ツェッペリンは航空攻撃を繰り出した。爆撃機が頭の上に来ると同時にWARSは走り出す。後ろから爆発の音が聞こえてきた。爆撃に巻き込まれず、問題なく航行出来ているという証拠だろう。

航空攻撃が止んだ。

 

―もうかなり動けるようだな

 

ツェッペリンが言った。翔一は彼女が言うように、自分でもこの力を制御できるようになっているという成長を感じていた。

指揮艦から皆を見守っていた明石は、WARSの動きを見て何やら安心したような顔をした。そして、

 

―指揮官!今なら使えるはずにゃ!

 

―オーバークロックのことだな?

 

―そうにゃ!

 

オーバークロックと言うのは、アキレスの「10秒間だけ音速で航行できる」という特殊能力のことだ。

 

―指揮艦の近くまで一気に来てみてにゃ

 

―分かった…行くぞ!

 

WARSから指揮艦までの距離は4.5km程だ。全力で10秒間走れば、その目の前まで到達できる。

WARSは覚悟を決め、オーバークロックを発動させた。指揮艦へ向かって走る。

 

―わわっ、とっても速いね

 

凄まじい速さにそう言ったジャベリンにニーミが言う。

 

―すごい…

 

そしてラフィーと綾波。

 

―これでもう安心…

 

―速い、です

 

10秒と言うのは長いもので、意外にも周りにいるKANSENたちの様子を見て走ることができる程だった。十分な訓練の成果で、心に余裕が出来たからかもしれないが。

目の前には指揮艦が見える。見上げると、ブリッジから明石がこちらを覗いていた。ゆるんだ頬が見える。

 

―おつかれさまにゃ指揮官。いったん休憩するにゃ

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

海岸―

 

 

休憩しに海岸に戻ってきた翔一は爽やかに吹く海風を感じながら腰を下ろしていた。

不意に、後ろから声が聞こえる。

 

―指揮官…

 

―…どうしたんだ、ツェッペリン

 

ツェッペリンから話をしてくることはあまりなかったが、少し暗い声音で話しかけてきた。どうしたのだろうか。彼女は翔一の隣に座り、話を始めた。

 

―卿は指揮官として、どんな気持ちで戦っているんだ…?

 

いつも難しいことを言う彼女にしては珍しく、シンプルなことを言う。それも、戦場でのこと。

 

―皆と生きて帰る。という気持ちかな…

 

―生きて帰る?

 

―うん、そうすれば。また皆と何でもないことで笑いあえる

 

―そんな小さなことのためにか?

 

ツェッペリンの言葉に翔一は優しく言う。

 

―小さいからこそ、良いんじゃないか

 

ツェッペリンは顔を背け、うつむいた。

 

―そんなものは、すぐに滅びる…

 

穿った言い方に翔一は苦笑いした。しかし、戦場においてその可能性は十分にあると考えると心が凍り付く。1度ベルファストを失ったとき、どれだけ自分が何も出来ないか知らされた。今思えばそれでも自分は幸運だ。失ったものが、戻ってきたのだから。

 

―私は…何のために戦っているのか分からない

 

―何のためか

 

KANSENと言えど、ある程度先の大戦の記憶を持っている。空母グラーフ・ツェッペリンは非情な現実を前にして未完成の状態で自沈したという。そんな、あがいてもどうしようもないという記憶が、彼女を縛っているのだろうか。ツェッペリンの悲し気な横顔が見える。

 

―俺は笑いあうことが出来る仲間達を守りたい…だから戦う

 

―そうか…

 

―もちろんお前もその1人だぞ

 

なんて、翔一はくさいセリフを言った。思わず彼女を見る目を背けてしまった。

 

―そうか…

 

―そうだ

 

2人の話を区切るように風が吹く。

 

―さ、そろそろ休憩も終わりの時間だ。行こうか

 

翔一が立ち上がり歩き出すと、ツェッペリンも彼をゆっくりと追いかける。彼女は先を行く翔一を見た。

 

―守る…か…

 

それは、翔一には聞こえない小さなつぶやきだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

執務室―

 

 

WARS ACHILLESを使いこなせるようになってきて、訓練もほどほどになったある日。いつものように翔一、ベルファスト、エンタープライズは執務室で業務に励んでいた。ちなみに副秘書艦はニーミだ。

翔一は一旦業務をきりの良いところまで進め、それからは手も動かさず目の前をじっと見つめていた。

 

―そんなにモニターを見つめて、どういたしましたかご主人様

 

―ん?いや、この前の戦闘でファイターを確実に倒せる方法はないか模索していてね

 

2人のやり取りを聞いて、エンタープライズは翔一の見つめるモニターを彼の後ろから覗いた。

 

―どれどれ…お、私の視点だな

 

人類によるセイレーンの撃滅を確実なものとするため、基本的に戦闘中はKANSENたちが見ている景色は記録される。翔一はその映像を見ていたのだ。そこにはファイターの後ろ姿が映し出されている。あの時、爆撃を行った直後の映像だ。ファイターの背中に破損個所が多く見られる。

 

―ふむ…あの時は気付きませんでしたが、グローグ以外の場所については極端にもろいようですね

 

ベルファストもモニターを覗くと言った。そしてエンタープライズもつぶやく。

 

―うん、でもKANSENたちの砲撃をあのグローブで完璧に防いでいたんだから恐ろしいよ。艦載機の機関砲を全て弾いたのはさすがに驚いた

 

ニーミは少し考えた様子を見せ言う。

 

―とにかく、あの手のあたり以外を狙うことが出来れば言い訳ですね

 

―そのためにも、アキレスの機動力で攻め込むのは有効だな

 

翔一はそう答える。ファイター攻略の道筋が見えてきた。

 

そして決戦の時は、刻一刻と迫っていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

―ぉお!かなり動けてるねえ!

 

暗い闇の中、青白い光に照らされたピュリファイアーが言った。彼女が見るモニターには、WARS ACHILLESが機敏に動きながらKANSENたちの砲撃を避ける映像が映っている。オブザーバーは彼女のはしゃぐ姿を横目にとらえた。

 

―そうね…そろそろ、もう一度試してもいいかしら

 

テスターはそう言うオブザーバーに続く。

 

―装甲も少し強化したし、次は面白くなりそうね

 

―次は私も行けるよね!?

 

ピュリファイアーはそう言うが”お前は留守番だ”とテスターに一蹴される。

 

―えー

 

ジト目を向けるが、それをよそ目にテスターは赤黒いキューブを手に持ち消えていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

海上―

 

 

―見えたぞ、指揮官!

 

―分かった…!

 

久方ぶりに出現したセイレーンとの戦闘のため出撃した翔一たちは、今まさにその艦隊を発見した。エンタープライズから報告を受けると、翔一は早速WARSにエンゲージし、皆が走る海に降り立つ。前回の出撃時と同じメンバーが周りにいる。

 

 ”WARS ENGAGED”

 

肉眼でもセイレーン艦隊を確認できる距離まで航行すると、テスターが浮遊しているのが見えた。その手にはもちろん例のキューブもある。開戦の合図と言わんばかりにその立方体の方にレールガンをかましてやった。

 

―おっと…ふふっ、危ないじゃない。焦らなさんな

 

テスターは身をひねりながらそう言うとキューブを前にかざし、ファイターを出現させた。その姿を目にし、駆逐艦のKANSENたちが言う。

 

―む…出ましたね、でも大丈夫です!

 

―ええ、今までこのためにたくさん訓練してきましたから。ね、指揮官

 

―ああ、みんなのおかげで負ける気がしない…!

 

ジャベリンとニーミの励ましを受けてそう答えるWARSは、WARSブレスを構え、舵を回す。WARS ACHILLESにフォームチェンジだ。

 

 ”ACHILLES DEFORMATION”

 

WARSの体が変わっていく。それと同時に左手を握り、右手を平にして指先を相手に向けた。これは翔一が皆と演習をしていた時に編み出したおまじないのような構えだ。指の先に相手を据えることで、足をすくわれずに相手に向かって行けるような気がしていた。

 

 訓練の成果、ここで見せる。今日で確実に奴を倒す。

 

右腕の先に見えるファイターに、構えた腕のように一直線に向かうその意思は、鋼のように強かった。

 

―指揮官がんばって、ラフィーもがんばる

 

―鬼神の力と合わされば、最強なのです!

 

ラフィー、綾波からも力を授けられた感じがした。

 

―がんばるにゃ指揮官~!

 

明石の声援を受けWARSは強く頷くと、戦闘の合図を出す。

 

―行くぞ、みんな!!

 

―”はい!!”

 

 

【挿絵表示】

 

 

今回は絶対に負けない、完璧に使いこなせるようになったこの姿で奴に打ち勝つ。皆は弾けるように波を蹴った。

ビスマルク、ツェッペリン、エンタープライズ、ベルファストは、テスターより後方の量産型に攻撃を仕掛けた。早速砲撃の轟音が鳴り響く中、エンタープライズは艦載機を巨大化させ、敵艦隊上空から攻撃を始める。

 

―行け!

 

そしてベルファストは降りかかる無誘導爆弾を避けながら縦横無尽に駆け回り、敵艦隊にダメージを負わせていく。

 

―少々痛くなりますよ…!

 

一方でWARSと駆逐艦のKANSENたちはファイターの眼前に迫り攻撃を始める。やはり傍観するテスターはつぶやく。

 

―さあ、今回はどうなるかしら…?

 

WARSはKANSENたちに指示を出す。

 

―まずは相手の動きを封じるぞ。ジャベリン、ニーミ、ラフィーはファイターを囲んで砲撃だ

 

―”了解!”

 

―綾波はその間に魚雷を頼む

 

―了解です!

 

WARSは綾波と共に魚雷を打ち出した。

 

―…

 

ファイターは相変わらず無表情で迫りくる砲弾を弾くが、魚雷が近づくのを察知すると回避行動をとる。そして、

 

―そこだ!

 

WARSは回避の動きを捉え、隙が出来た背中に両腕のバルカン砲を放った。衝撃を受け体勢を崩したファイターは更にその隙をニーミと綾波に突かれていく。

 

―これで…!

 

―行ける、です!

 

しかしファイターも劣勢のままでは済まさない。携えた艤装からビームを放射する。

 

―ラフィーちゃん、そっち来るよ!

 

―ん、わかってる

 

敵の攻撃をかわすのは流石駆逐艦か、とてもすばやい行動だ。

ビームではいけないと考えたのか、ファイターは得意の格闘戦に持ち込んだ。ジャベリンに飛び込む。

 

―わ…!

 

迫る拳を間一髪でかわしたが、連続攻撃を繰り出されダメージを受けてしまう。ピンチの彼女を見て綾波がファイターに切りかかった。

 

―ジャベリン!

 

しかしその攻撃も弾かれ、綾波は体制を崩す。だがいつでも隙は現れるものだ、ファイターの真上に跳んだニーミはその頭めがけて砲弾を放つ。ファイターがその攻撃に目を奪われている最中にラフィーは雷撃を行った。爆発を受けて体制を崩したファイターにWARSが迫る。

 

―はあ!

 

”ガンッ”という音と共に数メートル吹き飛ぶファイター。いよいよこちらが優勢だ。

 

―これで決める!

 

WARSがとどめにオーバークロックを発動させる直前、ジャベリンと綾波が彼に艤装を投げた。

 

―指揮官!

 

―これを使うです!

 

―おう!

 

右手に剣、左手に槍を構え、音速でファイターに迫るWARS。やはりファイターはその速さを追えないのか、その目はWARSを捉えていない。

 

―ぅおおおおおおお!

 

凄まじい速さで繰り出される槍の連続攻撃にファイターの装甲はボロボロになっていく。そして、

 

―せぇええやああああああ!

 

最後の力を剣に込め、とどめの一撃を食らわせた。WARSとファイターの2つの影が交差した。

 

―終わりだ…

 

WARSはそう言うと、彼の後方でファイターは爆散した。

静かに見ていたテスターは面白そうにこちらに近寄りゆっくりと拍手をした。

 

―ふっふふ…よくできたじゃない…

 

正直、セイレーンについては分からないことが多い。いつも出現しては攻撃をされるが、本当にこちらがまずい状態になった時は撤退する時もある。そんな相手に向かってWARSは言う。

 

―お前たちの目的は何なんだ…

 

妖艶な笑みを浮かべたテスターは言う。

 

―さあ、なんでしょうねぇ?

 

そう言ったと同時に彼女は黒い霧を出現させ消えた。そして、量産型を全て撃破したエンタープライズたちが集まった。

 

―指揮官そちらは…もう、大丈夫なようだな

 

―おつかれさま、指揮官

 

ビスマルクが労いの言葉をかける。

 

―ありがとう、みんなのおかげだ

 

WARSがそう答えるとベルファストが言う。

 

―ご主人様を支えるため、最大限尽くしたまででごさいます

 

彼女は微笑んだ。そして、続々と駆逐艦たちがWARSに駆け寄る。皆の笑顔が見えた。

 

―やりましたね、指揮官っ

 

―最後の一撃、よかったです

 

―ラフィーがんばった、もう寝る…zzz

 

ラフィーはそう言って海面に大の字に寝転んだ。

 

―こ、こんなところで寝ないで!

 

いつも通りなラフィーをニーミは担ぐ。みんなの様子を見てWARSは気を抜いた。

 

―ははっ……それじゃ、帰るか

 

彼に続いてKANSENたちは指揮艦に乗り込んでいく。

そんな中、一歩引いたところでツェッペリンは考えていた。

 

 生きて帰って、みんなと笑いあう…か

 

彼女は翔一の気持ちを分かったような、分からないような気がした。




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