WAR AETHERの訓練を切り上げたKANSENたちは、それぞれの寮で昼食をとっていた。
これは、鉄血寮での出来事。ローンが言う。
―ツェッペリンが作る料理はいつもおいしいですね。私、料理を教わりたいです
そう言って、彼女はにこにことしながら食べ続ける。
―暇があればな
ツェッペリンがつぶやいた。
―ふふ、これで指揮官と…
ローンの怪しげな声をよそに、ツェッペリンは周りを見渡した。皆の料理を頬張る顔が見える。いつも見るような当たり前の光景が広がった。
”また皆と何でもないことで笑いあえる”
”小さいからこそ、良いんじゃないか”
翔一に言われたことを思い出した。
平穏な時というものは、いつ終わるか分からない。
”人と接する時間を大切にするがいい。もうすぐそれもなくなる”
いつか翔一に言ったことだ。
「人と接する時間を大切に」
言ったはいいものの、自分はそれをしていただろうか。無意識に、していたかもしれない。ただ本当にそれが出来なくなった時、自分はどうなるだろうか。考えても分からなかった。ただ、底知れぬ不安が募っただけだった。しかし一つだけ気付いたことがあった。
”憎んでいる、すべてを”
最初から全てを否定すれば、不安なぞというものには絶対にぶつからない。心の奥底にある不安から、人によってはおかしな人物だと思われるような言葉を、いつも口走っていたのかもしれない。
ああ、指揮官が余計なことを言ったせいで変な考えが頭をよぎる。
ツェッペリンは本人も気付かぬうちに深刻な表情をしていたようで、ビスマルクに声をかけられる。
―ツェッペリン……ツェッペリン…ちょっと、どうしたのツェッペリン?
―…あ
3度目の呼びかけでようやく我に返ったツェッペリンは、彼女らしくない声で応じた。
―いや、なんでもない…
あまりにもいつもと違うツェッペリンにビスマルクは更に言う。
―本当に…?
―今日の夕食のメニューを考えていただけだ
ツェッペリンは出来るだけ普段と同じような仏頂面を意識して言った。
―そう?…なら、良いんだけど
今は、ビスマルクの心遣いが痛い気がした。そして、ツェッペリンの様子を心配するように、周りがざわついた。ビスマルクも、自分が声をかけたことでツェッペリンを変に目立せてしまい、しまったという表情を見せる。
どこからか、オイゲンの声がする。
―あら、お昼ごはんを食べている時に夕食のことを考えているなんて、食いしん坊なのね
茶化されたツェッペリンはオイゲンを睨みつける。
―おお、怖い怖い…
オイゲンの言葉も、今の暗い雰囲気を自分なりに明るくしたかったためにかけたものだったが、本人に冗談は通じなかったようだ。しかし、
―ふ、ふふふっ
ニーミがらしくない反応をした。それを皮切りに、温かい波が食卓に広がっていった。
―はあ、まったく…
そんな中で呆れたように息を吐いたツェッペリンだったが、その口元は僅かに、ほんの僅かに、優しく弧を描いていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
深い闇の中、セイレーン達が話している。
―今回はこの子でいきましょう
オブザーバーは手に赤黒いキューブを出現させた。その瞬間、ピュリファイアーは彼女の前を通りそのキューブを取る。
―今日は私が行ってきていいよね?
前回まともに戦えなかったピュリファイアーは、やっと戦闘できると我先にキューブを取ったのだ。
―まあ、良いわよ
特に不満もないオブザーバーはそう言った。
そしてもう一人、長い間翔一たちにその姿を現すことのなかった、黒い人影に言う。
―今回はあなたも行ってきて頂戴、新しい力を少しだけ試しなさい
―ああ
その黒い人は静かに歩く。
―行くぞ、ピュリファイアー…
―はいはーい
ピュリファイアーは彼の背にひょこひょことついていく。そしてその背に、テスターが言う。
―くれぐれも本気を出すことのないようにね、アンバランス。まだあの世界は試験段階なのだから
UNBALANCEと呼ばれたそれは答える。
―分かっている
―人類のためだ…
何かに取りつかれたように低いその声は静かに、そして感情を抑えつけたように言った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
海上―
夕日が沈み、月の光が海を照らす頃、出現したセイレーンを殲滅すべく翔一達は出撃していた。メンバーは、主力に赤城、加賀、ツェッペリン、エンタープライズ、前衛にベルファスト、ニーミ、雪風、レーベ、潜水艦にU81、U556だ。
―今回は敵の数が多い。注意してくれ
警報が鳴った時の事前情報は、量産型のセイレーンが多いというものだった。普段の3倍近くだ。
―指揮官さま、2時の方向に敵艦隊を発見いたしました
赤城がそう言うと、彼女の艦載機から敵情報が送信され、指揮艦のモニターに映し出された。続いて加賀が言う。
―分かっていると思うが、その情報だと事前情報の数より少ない。おそらく分艦隊だろう
彼女の言葉に翔一が言う。
―うん、その可能性は高いな。どこから他の艦隊が来るか分からない、念のために俺もそちらで索敵しよう
彼は後ろを向き続ける。
―明石、指揮艦を頼む
―了解にゃ、行ってらっしゃいにゃ
席を立つ翔一を明石は見送る。甲板上に出た彼はWARSブレスを構える。
―エンゲージ!
”WARS ENGAGED”
暗い夜の風景に、WARSの目と胸のキューブが輝いている。
”AETHER DEFORMATION”
早速アイテールにフォームチェンジすると、前方で索敵するKANSENたちの方へ飛行していく。グレイフライヤーを射出し索敵を開始すると、赤城が発見した敵艦隊が肉眼で見えてきた。すると、今度はツェッペリンから報告を受ける。
―指揮官、12時の方向に敵艦隊だ
肉眼では見えないが彼女の情報を確認した。
―分かった。それなら、こちらも分散しよう。赤城、加賀は右側の艦隊を攻撃してくれ
―”了解!”
2時の方向に見える艦隊は数が少ない。十分な戦闘能力のある彼女たちなら、特に時間もかけずに殲滅できるだろう。
―先に進もう、みんな
―”はい!”
赤城、加賀と別れて15kmほど進むと、ツェッペリンが発見した敵艦隊が見えてきた。
―エンタープライズは航空攻撃を開始してくれ
―分かった
彼女の艦載機が次々と発艦され敵艦隊に迫った。それを追うようにグレイフライヤーも飛行していく。
WARSは続けてツェッペリンに指示を出す。
―ツェッペリン、他の分艦隊がいないか周囲を警戒するんだ
―了解
KANSENたちが更に敵に近づいていき、いよいよ皆で攻撃を開始する。
―よし、ドンパチやろうぜ!
―行きます!
レーベ、ニーミが早速魚雷と砲撃を行う。
―雪風さまの力を見るのだ!
雪風もそれに負けじと動く。それぞれの攻撃が敵に当たり、爆発していった。更にエンタープライズとWARS AETHERの爆撃で確実にセイレーンを撃破していく。
もう全ての敵が殲滅されようとするその時、黄色い光を携え、人型が現れた。
―久しぶりだな、元気か~?
ピュリファイアーだ。その両手にはそれぞれ赤黒いキューブが握られている。
―また何か持っているようですね
ベルファストが言う。ピュリファイアーは彼女に返す。
―お、気づいた?今回は前の子とはちょっと違う感じだよ
ピュリファイアーは楽しそうに言うと、キューブを前にかざす。
―行っておいで、ハイダー!
そして、キューブはピュリファイアーの手から消えていった。
エンタープライズが言う。
―何も現れないじゃないか…
彼女が言うように、目の前にはピュリファイアーしか見えない。
―ふふふ、それじゃ楽しんでね!
そう言いながらピュリファイアーは攻撃を開始する。どうやら新セイレーンの召喚に失敗したわけでもなさそうな彼女の様子と先ほど言った”ハイダー”という名前にに、WARSは1つ思うところがあった。気付いた瞬間に、彼は皆に指示を出していた。
―みんな動け!どこでもいい!!
―え…?
当然KANSENたちは突然の言葉に困惑する。そして、ニーミは次の瞬間に細い光に襲われた。
―く…!
相手のビームらしき攻撃を受け後方に飛ぶニーミ。
―な、なんだ!
エンタープライズがその一瞬の出来事に目を丸くした。波を蹴立ててベルファストが言う。
―おそらく、見えない敵でしょうっ。どこにいるか分からない以上、今は攻撃に当たらぬよう動きまわるしかありません…!
皆が動き回り、まだ殲滅できていない量産型セイレーンを攻撃するがピュリファイアーも攻撃の手を緩めることはない。見えない敵に翻弄され、混沌とした戦場が広がる。
指揮艦から明石が叫ぶ。
―指揮官!見えない奴の情報はレーダーで感知できるかにゃ!?
彼女の問いを聞きWARSはレーダーの確認をするがしかし、
―いや、どうやら2体はいるようなんだが全く位置情報が分からない!
―にゃにゃにゃ!そうしたら、まずはそいつらの姿を見えるようにしなくちゃいけないにゃ!
明石は続ける。
―一瞬でも姿を見られれば、アイテールの超探知で位置情報を確認できるにゃ!
彼女の声を聴き雪風が言う。
―そんな…出来るのか!?
―透明状態を維持できないくらいのダメージを与えられれば、出来るかもしれないにゃ…
明石は自信なさげに言う。
―…分かった。やってみよう
WARSが言ったその時、ツェッペリン口を開いた。
―指揮官、新しく敵艦隊が索敵されたぞ!あちらは量産型だけだ!
―あ、来たか
そして、ピュリファイアーが怪しい笑みを浮かべた。
今前方に見える敵は量産型だけでなくピュリファイアー、見えない敵もいる。こんな状態で万が一全滅でもしたらいけない。まずは確実に対応できる方法で戦おう。そう考えたWARSは皆に言う。
―ベル以外の前衛艦、潜水艦たちは新しく見つかった艦隊にツェッペリンと共に攻撃に行ってくれ!ベルとエンタープライズは俺とこいつらの相手だ!
―”了解!”
ツェッペリンたちは弾けるように一方の艦隊の方へ走り出した。WARS達は目の前の標的を相手にし、そして見えない敵の攻撃を度々受け、疲弊していく。
―指揮官さま!
―どうなっているんだ!?
最初に発見した艦隊を殲滅した赤城と加賀がWARS達に合流した。赤城にビームが迫る。
―…!?
彼女は間一髪でその閃光を避けたが、見えない敵からの追撃を受けてしまう。
―ぐぅ…!
―見えないセイレーンから攻撃を受けているんだ
攻撃を受けて墜落する赤城をWARSは抱きとめて言う。
―そ、そうなのですね
彼女はWARSに抱きしめられるような形となり頬を染めたが長くこの状態を保つわけにいかない。赤城はWARSから離れる。
―どうするんだ…?
敵からの攻撃を避けながら加賀が言った。
―……そうだな…
攻撃する余裕もなくなってきたこの状況を打開する方法を考える。そして、やっとのことで思いついた作戦を言葉にした。
―ベル、そこで煙幕を広範囲に出すんだ!
―はい!
ベルファストは咄嗟のWARSの指示に素早く反応し、周りに煙幕を撒いた。そしてWARSは、
”ACHILLES DEFORMATION”
アキレスにフォームチェンジした。
―みんなは量産型とピュリファイアーに集中してくれ!
―お!どうやって戦うのかな?
ピュリファイアーは、特に何もないところに煙幕を撒かせたことに興味を持ったようで、面白そうと言いたげな顔をする。
そして次の瞬間、煙幕から一直線のビームが放たれてきた。
―そこか!
WARSは煙幕を撒かせることでビームの発射源を分かりやすくしようとしたのだ。煙幕に穴が開いたことを認めると、その瞬間WARSはオーバークロックを発動させた。穴を辿ればセイレーンの姿は見えずとも、ビームの光が途切れているところが発射口だと分かるはずだ。
WARSは音速で煙幕に突っ込む。真横に見えるビームを辿ってその途切れた場所を探す。
―よし、ここだな
途切れたビームの先が手でつかめた。これが砲身だなと確認すると、そのまま見えない体へ手を伸ばした。ハイダーが人型であることが分かり、羽交い締めの形をとる。がっちりと体を固めると、オーバークロックが解除された。
―俺の体めがけて攻撃しろ!
ハイダーはWARSを振りほどこうと暴れている。
KANSEN達は、WARSがハイダーを確保したと理解すると、そこに攻撃が行われた。WARSを中心に爆発が起こる。彼はその瞬間、一瞬だけ透明化が解けたハイダーが見えた。それと同時にその情報が自分のデータベースに記録される。
―指揮官!相手のエネルギー反応が記録されたにゃ!これで超探知を使えば目に見えるはずにゃ!
―よし!
”AETHER DEFORMATION”
明石の声を聞き、WARSはもう一度アイテールに変わると超探知を発動させた。
―見える!みんなにもこの情報を共有するぞ!
―これで安全に戦えます!
先ほどまでは見えなかったハイダーの姿が見えるようになり、ベルファストは言った。
―これで終わらせよう!
エンタープライズはそう言うと、早速航空攻撃を激化させる。
―速く終わらせて、ツェッペリンたちの援護に向かうぞ!
―”はい!”
勝利の道筋を掴んだWARS達の反撃が始まった。
どんな所がよかったですか?
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