海上―
―くっ…厄介ね!装甲が強化されているわ!
遠く見渡しても海と空の青い色しか見えない海上。しかし、その美しい景色を邪魔するように点在する黒いモノを睨み、プリンス・オブ・ウェールズは息を荒げる。
翔一から言い渡された委託任務を終えて帰還途中だったKANSEN達は、セイレーンに行く手を阻まれていたのだ。幸いなことに、現在地は母校からそれ程離れていない。発見したときに翔一に応援を頼んだので、もう少しで彼等と合流できるだろう。
今、共に航行しているのはウェールズ、デューク・オブ・ヨーク、モナーク、ベルファスト、エディンバラだ。
ウェールズとは打って変わり、ヨークは冷静な声音で言う。
―射程も攻撃力も上がっているようね。まさか戦艦でも無い船の砲撃が、こちらの前衛を超えて主力の方まで来るとは
彼女の言う通りセイレーンの砲弾は、精密性はさておき前衛を務めているベルファストとエディンバラの頭上を超え、主力の戦艦達の距離まで達していた。しかしもう1人の戦艦、モナークは敵の激しい攻撃に怯むことなく攻撃を仕掛ける。
―この程度、恐るるまでもない!
彼女の勇ましい声はその力を証明するように、彼女の砲撃の轟音と共に響いた。次々に繰り出される榴弾は確実にセイレーンを弱らせていく。さすが開発艦か、モナークの攻撃はヨークやウェールズのそれより効果が高いようだ。調子づいた彼女は1人でセイレーンに近づいていく。
―モナーク、前に出過ぎよ
ウェールズが言った。
―ふん、ならそちらが合わせれば良いだろう?
そんなモナークの言葉にヨークは間髪入れずに言う。
―いくらそなたが強くても、連携が崩れれば命取りになるわよ
しかしモナークは気にした様子もなく海を駆けていく。
―ちょっと、待ちなさい!
―まったく…しかたのない子ね
このまま彼女を1人にさせて万が一のことがあってもまずい。ウェールズ、ヨークはモナークの後を追いかけるのだった。
一方、前衛を務めるベルファストとエディンバラは、普段より2回りは高い性能を見せる敵艦隊の攻撃を避けていく。しかし、
―ぐあ!
もちろん全てを避けきる事は出来ず、ベルファストが攻撃を受けた。肩の上部分が削れ、キューブの青い粒子が吹き出し、彼女はよろめく。
―ベル!!
エディンバラは妹の身を案じ駆け寄ろうとするが当の本人はそれを制止する。
―姉さん、来てはいけません!2人ともやられてしまいます!
ベルファストに体を向けたエディンバラの目の前に、敵の砲撃による水しぶきが上がった。
―くっ…
エディンバラは渋々といった様子でベルファストから距離をとる。ベルファストは再生されてゆく肩を尻目に、尚も激しく降り注ぐ敵からの砲弾を避けていく。
―ベル、一旦引きましょう!このままじゃ防戦一方だわ!!
―いえ!戦線は維持します!
―でも!
―ただでさえあの火力と装填の速さ、そして耐久力!今私たちが下がれば、主力の方達までこの砲弾の雨に飲まれてしまいます!
叫ぶベルファスト。しかし彼女は一転して優しい声音で言う。
―ご主人様達がもうすぐこちらに来ます。なんとか持ち堪えましょう
彼女がそう言った直後、エディンバラは援護に来たWARS達が近くにいるのを自らのレーダーで感じた。もはやセイレーンのものなのかKANSEN達のものなのか分からない砲撃の音が応酬する中、1つ、
―みんな!大丈夫か!?
通信が入った。
―あ!し、指揮官!
エディンバラはそう言うと、WARSが率いる応援艦隊を肉眼で確認した。彼の後ろには赤城、加賀、三笠が、最後はそれに続き指揮艦が航行している。
―姉様、今回の敵は普段より高い性能のようです
―そのようね。でも大丈夫、今日はかの軍神様がいらっしゃるもの
加賀、赤城の会話に三笠は答える。
―2人とも、私を頼ってくれるのは嬉しいが、油断はせぬようにな
三笠は"とは言え…"と続ける。
―ただの型落ちではないと言う事を後輩達に見せなくてはな
彼女のそんな振る舞いにWARSが言う。
―そう言ってくれると頼もしいよ、三笠
―ん、うむ…そうか…
最近翔一は、重桜の演習に参加している時三笠に色々と助言をもらうことがあった。翔一は彼女に感謝をしているし、その気持ちが今の一言に少しこもっていた。三笠にしては、彼との少なくない付き合いに思うところがあるのか、頬を染め照れ気味に彼の言葉に返した。
いよいよ彼らは、モナーク達が激しく波を蹴立てる戦場を間近にする。
―赤城、加賀、早速攻撃してくれ!
―"了解!"
鋼の翼が宙を裂き、瞬く間にベルファストとエディンバラの頭上を過ぎ去った。
―これは…赤城様と加賀様の艦載機ですね
―これで少しは楽に戦えるわね、ベル
空母2人の攻撃はセイレーンの攻撃機を空に散らし、巡洋艦の航行を阻害し、戦艦を炎上させていった。しかし、
―先程あのメイドから敵の情報が送られてきたが、やはり簡単には落とせないか
―装甲もかなり高いようだし、時間もかかりそうね
赤城と加賀は遠く前方を睨みながら言った。それにWARSが続く。彼はWARSブレスの舵を回した。
―俺はアイテールで空から陽動する。3人はいち早くモナーク達と合流してくれ!
"AETHER DEFORMATION"
―"了解!"
WARS AETHERへのフォームチェンジ音と三笠、赤城、加賀の声が海上に響く。WARSは空に飛び立ちモナーク達の右側へ周り、彼女達に迫る砲弾を自分にも向けさせ弾幕の密度を下げていく。そして他の3人は攻撃しつつ合流を急いだ。
数分の間、砲撃とプロペラの音が戦場に鳴り響くと三笠が口を開いた。
―お待たせした!貴艦たちの応援に参った。私は三笠だ
敵の攻撃を避けながら、彼女にヨークが言う。
―私はデューク・オブ・ヨーク。よろしくお願いするわ。重桜の軍神、噂には聞いていたわ
更にウェールズ。
―プリンス・オブ・ウェールズだ。貴艦たちに感謝する
最後にモナーク。
―モナークだ…と言っても、皆はもう知っているか
一通りメンバーの確認を行うと赤城が言う。
―指揮官様はセイレーンに近づいて陽動を行なっているわ。その間に片付けましょう
ウェールズが"うん、そうしよう"と答えたところでKANSEN達は反撃に繰り出した。
一方、WARSは空を駆けてベルファスト、エディンバラに向く敵の砲身を一部、自分に向けさせていた。アイテールの専用武器、グレイフライヤーを射出し、敵空母から迫る艦載機を撃ち落とす。一つ一つを破壊する事は造作もない事だったが、圧倒的に数が多い。それでも赤城と加賀の戦闘機が戦ってくれる事で、辛うじてこちらのダメージを少なく維持できていた。
グレイフライヤーが爆撃と雷撃を行なう。他のKANSEN達の攻撃が炸裂する。しかし、敵の装甲と回復速度は異様に高く、KANSEN達とWARSの攻撃はいまいち決定打に欠けていた。
"各個撃破した方が良さそうだな"
翔一がそう思うと同時に、ベルファストが通信を送ってきた。
―皆様、私に考えがあります
―どうしたのかしら
ヨークが聞く。
―私の煙幕を全て使い皆様を敵から隠します。その間私は前に出て陽動しつつ、セイレーンの位置情報を共有するので、皆様は煙幕の後ろから攻撃を行ってください。それと、姉さんも隠れていてください
ベルファストは"いかがでしょうか?"とWARSの方を向く。
―わかった。その作戦でいこう
翔一はそう言うと、"ただし、陽動には俺も行く"と続けWARSブレスの舵を回す。ブレスの表示版には駆逐艦のマークが示された。WARS ACHILLESにチェンジするのだ。
"ACHILLES DEFORMATION"
―アキレスでベルの前に出て、相手の攻撃を出来るだけ分散させる。そして、各個撃破だ。俺が攻撃した艦から撃破してくれ
―"了解!"
WARSの話に皆が、いや、モナーク以外がそう言うと、"それでは参りましょう"と、早速ベルファストは動いた。ウェールズとヨークも彼女が撒いた煙幕を前に置く。もちろん三笠、赤城、加賀も同様に動いた。
主力と前衛の間は数kmの距離があった。しかし天まで届きそうな、そして分厚い煙幕に皆が隠されたお陰か、それまでは主力艦達に降り注いでいた砲弾が徐々に、煙幕の中にいないベルファストとWARSに集中していく。そんな中作戦とは異なる動きをする影があった。
―ベル!やっぱり私も行く!!
―姉さん、危険です!
―1人だけで行くなんてやっぱり心配だよ!
そう言う姉の心も虚しく、その言葉は強く否定されてしまう。
―駄目です!!
―うっ…
なかなか聞くことのない妹の強い語気にエディンバラは怯み、足を止めた。しかし、彼女の後方から、
―こんな煙幕、私には必要ない…!
"ドドンッ"と、主砲の轟音が聞こえた。モナークだ。彼女はヨーク、ウェールズとの陣形を完全に崩し、煙幕の壁から身を投げ出してセイレーン達と対峙した。
この時モナークの瞳はほんの少しだけ、金に輝いていた。
―なっ…モナーク様!
ベルファストは彼女の奇行とも思える行動に目を見開いた。当然ウェールズとヨークは彼女を呼び止める。
―モナーク!!
―集中攻撃されるわ!戦艦の機動力でその砲弾の雨は避け切れないわよ!!
言いながら、2人は煙幕の後ろから砲弾を放つ。
―モナーク!戻るんだ!!
WARSは激しく降り注ぐ砲弾を器用に避け、そして砲撃、雷撃を繰り出しながら叫んだ。しかしその声は届いているのか否か、尚も彼女は砲撃を続けた。それは幸運か、各個撃破の命令のおかげでとどめの一撃をモナークがする形となり、敵艦船を1隻破壊する結果となった。
辛うじて迫り来る砲弾を避け続け、更に1隻、また1隻と撃破していくモナーク。彼女の素の強さももちろんあったが、彼女がセイレーンを撃破できているのは他の皆が同じ艦船を攻撃しているからだ。
―このモナーク、ウェールズやヨークよりも優秀である!指揮官もそう思うだろう!?
変に調子付いた彼女は、遂に敵陣中央に突っ込んでいった。
―おいバカ!止めろ!!
翔一の心からの叫びだったがやはり届かず、モナークは孤立状態で戦おうとしている。彼女は敵の1隻を至近距離から攻撃した。全弾命中すれば流石に硬い装甲も砕け、その艦船は爆散した。
"私は…私1人の力で勝利できる…!私は誰よりも強い!!"
そう思った時だった、頭上でギュンと風を切る音が聞こえた。
―…!?
セイレーンの爆撃機だ。見上げた空は爆弾で埋まっていた。
――――――――――――――――――――
海上、主力艦側―
―モナーク!戻るんだ!!
WARSの声が聞こえた。モナークの行動を見た三笠が言う。
―何をしているのだ、あやつは…!
続く加賀と赤城。
―随分と無茶をするものだな
―私たちが援護しているからまだいいものの…
遠くからモナークの砲撃の音が響いてくる。今は煙幕に阻まれて彼女を肉眼で見ることはできないが、なんとか敵の攻撃を避けていることは分かった。これでも戦艦ではあり得ない機動である。しかしいつ砲弾が直撃してもおかしくない状況。ウェールズとヨークは、自分の姉になるかもしれなかった、しかし今はキングジョージⅤ級の妹を心配していた。そんな時、
―このモナーク、ウェールズやヨークよりも優秀である!指揮官もそう思うだろう!?
―おいバカ!止めろ!!
モナークは敵陣に突っ込んだ。WARSが呼び止めるが聞き入れない。どう言うことだと誰もが思った。
―まずいわ!
ヨークは叫ぶ。そしてウェールズはモナークを連れ戻そうと煙幕の方へ走り出した。
―モナーク!
しかし彼女の名を呼ぶウェールズを厳しく制止する声が響いた。
―持つのだ!行ってはならん!!
三笠だ。ウェールズは振り向くと息を荒げ返す。
―何故だっ。このままだと本当に沈んでしまう!
―2人とも倒れたらどうする。下手にリスクを負うことはするな!
―ならどうしろと!
三笠は煙幕の向こうに全弾斉射すると再び言う。
―今は作戦通りに行動しろ。後はベルファストと指揮官を信じるしかなかろう
ウェールズは歯を食いしばり、渋々という様子で今まで通りの攻撃を続けた。
――――――――――――――――――――
海上、前衛側―
モナークは敵を1隻沈めた。しかしそれで戦闘が終わるわけもなく、彼女の頭上に爆弾が降ってくる。
―…!?
避けようと思った時には彼女の耳を爆音が貫き、その体は宙に投げ出されていた。
―ぅ……ぁあ!!
悲痛な声と共に"バシャン"という海の飛沫を上げて倒れるモナーク。なんとか立ち上がったが上手く海面を走ることが出来ない。目の焦点も合わずふらふらと航行した。艤装もひしゃげている。今の航空攻撃で相手の攻撃が止まるはずもなく、セイレーンの砲が一斉に彼女に向いた。撃たれれば助からないだろう。その時、
"OVER CLOCK"
無機質な合成音声が鳴り響いた。
WARS ACHILLESの特殊能力、オーバークロックの能力で音速で動く彼がモナークに迫り彼女を抱きかかえる。そのまま目にも止まらぬ速さで煙幕の中に入り、そこにモナークを寝かせた。
―モナーク…お前の目は、金ではなかったよな…
モナークは答えず、その金に輝いた瞳を赤紫に変えながら、ゆっくりと閉じていった。WARSが再び煙幕の外へ出ると、彼の目には先程モナークに向けて放たれた砲弾がその標的を失い海に沈んで行く光景が広がった。その時には能力を使って10秒が経過していたので、そのまま超スピードで戦闘は行えないが、主力艦達の攻撃もあって残りのセイレーンの殲滅は時間の問題だった。
これ以降はWARSの通常形態だけでも十分敵の砲撃は避けられるだろう。艦載機の撃破についても赤城と加賀に任せておける。
WARSはブレスの舵を回しフォームチェンジした。
"WARS DEFORMATION"
―ベル、もう陽動は必要ない。俺が囮になるから、お前も煙幕の後ろに行くんだ
―はい
WARSの指示にベルファストは素直に従う。彼女の後ろ姿を見送るとWARSは振り返り右手にレールガン、左手にレーザーを出現させた。
―みんな、もう一息だ!気を抜くなよ!
今まで通りには攻撃が通らなかったセイレーンの量産型相手に、やっと勝利の道筋が拓けたのだった。
どんな所がよかったですか?
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