海上ー
太陽が真上にきた頃、WARS率いるアズールレーンの艦隊はセイレーン相手に戦闘を行なっていた。飛び交う砲弾と魚雷、戦闘機は危なげなく敵を葬ってゆく。そして残るは量産型セイレーンを制御していた個体のみとなった。残り一体だからと言って油断はする事なく、WARSはレールガンから砲撃を繰り出す。
"ズダンッ"
所々に黄色く光るラインを携え、背中にはシュモクザメを思わせる艤装を纏ったヒト型のセイレーンが見える。
それは今、宙を舞って吹き飛んでいった。
―わあああああ!!
美しく静かな群青の空と海に対比するように大爆発し散ったのはピュリファイアーだった。最後の一撃を決めたWARSに、彼の近くにいたモナークが言う。
―最後の攻撃、見事だったぞ
彼女は優しい眼差しをWARSに向ける。
―ああ、ありがとう
そう返すと、モナークはWARSに近づく。
―セイレーンは撃退した、さあ、もう指揮艦に戻ろう
―そうだな
2人は肩を並べて指揮艦に歩を進める。
少し前にモナークが感情を激しく出して以降、最近彼女は落ち着きを取り戻していた。そしてその雰囲気は、以前のような戦士としての気高さだけでなく、何やら優しさめいたものを翔一に向けていた。今も目を移せば、モナークの横顔はとても柔らかく温かい表情だ。そのおかげか、デュークオブヨークやウェールズとの仲は悪くない方向に向かっているらしい。更に、三笠とも普通に話をしていたのを見た事もある。彼女の状態が良くなったようで安心すると、WARSの目に写っていた横顔がこちらを向いた。
―どうしたんだ?こちらを見つめて
優しい声音で、というより以前の彼女では想像がつかないような甘い声に、翔一はドキッとさせられる。
―いや、なんでもないよ
そう答えると、モナークは"そうか"とだけ短く返しまた顔を前に向けた。
そんな2人は指揮艦の甲板に上がる。WARSが変身を解除すると、目の前にはジト目をして仁王立ちをしている金髪の少女がいた。
―あんた達、とっっっても仲が良いようねっ!
なんだかご機嫌斜めな様子のロイヤルの王女、クイーン・エリザベスが2人の目に写った。モナークは彼女に言う。
―何か問題があるのか?
少し威圧的な態度で返したモナークに気圧され、"う…"と怯むエリザベスだったが負けじと声を張る。
―げ、下僕!
―な、なんだい?
―今朝、モナークと部屋にいたのはなんでかしら!?今日は私が秘書艦なのに!
エリザベスは"私というものがありながら下僕は何してるのよー!"と目を釣り上げるが、彼女の隣に控えていたウォースパイトが"まあまあ"とその感情を諫める。
―お嬢様もこうおっしゃっているわ、指揮官、説明してもらっても?
ウォースパイトにそう言われて、翔一は今日の朝を思い出した。
―え、えぇっと…
――――――――――――――――――――
今朝、翔一の部屋ー
―モナーク…今日も来たのか…おはよう
翔一がそう言うと、モナークはなんとも言えないふにゃっとした微笑みを見せた。
―ふふっ、おはよう指揮官。また鍵が開いていたぞ、最近は疲れているようだな
彼女は"あの日"以来、度々翔一の部屋に特に用事もなく入るようになっていた。朝起きるとモナークが隣にいる事もあり、その時は驚いたものだ。そしてその度に赤城や大鳳、愛宕、隼鷹、ローン…いや多いな。そんな彼女達の修羅場的なものに巻き込まれてしまった事もあったが。それはさておいて、モナークは翔一が鍵をかけ忘れていたと言った。普段は赤城などが夜這いなどと言って、勝手に執務室を開けてその先の翔一の部屋まで来る事がある。しかし当の赤城は昨日から委託任務に出ているので鍵が開いていたのは彼女の仕業ではない。モナークが開けたとも考えにくいし、彼女の言った通り、本当に翔一は鍵を掛け忘れて寝ていたのだろう。
そんな事を考えているとモナークは翔一を見つめる。
―どうした、気分が優れないか?
―いや、どうだろうな…お前に言われた通り、疲れているかもしれないな
翔一がそう言うと、モナークは彼へ向ける目を強い眼差しへと変えた。
―気をつけろ、この母校のトップであるお前が倒れれば、KANSEN達の士気や人類に関わる
そして再び優しい表情になり、彼女は両手で翔一の頬を覆った。
―しかし心配するな。指揮官、お前に何かあった時は、私がお前を守る
彼女がそう言った時だった。執務室の扉が開かれる音がし、甲高い声が聞こえた。その声の持ち主は翔一の部屋の扉に近づいてくる。
―げぼく〜来たわよ〜。あれ、どこに居るのよ?
―ふふっ、まさか私が秘書艦だから楽しみで眠れなくて寝坊してるんじゃない?まったく下僕はこのエリザベス様がいないと何もできないんだから〜
翔一はエリザベスの声を聞き、今の自分の状況を思い出す。彼は今、モナークとベッドの上で横になり、ほぼ密着状態である。そして彼女に頬を覆われている。こんな所をKANSENに見られたら赤城でなくても色々まずい。まずいと思ったがもう遅く、"がちゃり"と音がしたかと思うと、扉の奥には金の長髪の王女様が顔を引き攣らせて立っていた。
―なっ…なななななな!?
その王女様は頬をみるみる染めていき、言い放つ。
―なぁあにやってんのよぉぉおおお!!
――――――――――――――――――――
場所は戻って海上。
―ということがあってだな…特段何かしたと言うわけではないんだよ
―もおおお!
すっかりご立腹な様子のエリザベス。しかしそんな彼女を気にすることもなく、ブリッジで戦闘を見守っていた明石の声が聞こえてきた。
―指揮官〜そろそろ帰るにゃ。明石は他の仕事で忙しいにゃ
―ん、ああ分かった。すぐそっちに戻るよ
―それじゃあみんな、行こうか
翔一はそう言うと、ブリッジへと足を向ける。それに続いてモナークも彼の隣に来る。そんな中、彼女は右手を翔一の左手に当てた。自分の指を彼の手の甲にちょんと当てただけだ。手が当たった時、翔一はモナークの顔を見た。しかし、彼女はすぐ顔を伏せてしまう。モナークは最近、翔一にアピールというか、彼女なりに精一杯のそれらしい行動を見せていた。エリザベスはそんなモナークを見て、意外と可愛いところがあるじゃないと思いつつも、未だに自分をしっかりと見てくれない翔一にジト目を向け続けるのだった。
そして、ベルファストは2人が並んで歩く姿を眺めていた。特に、翔一の方。当の翔一は、ベルファストの視線には気付いていなかった。
ベルファストは先程からこちらに見向きもしない彼を見つめる。しかし表情は変えない。自分は主人のメイドなのだから。彼女は心の中だけで、少し俯いた。
――――――――――――――――――――
母校、港―
帰港して指揮艦から降りると、待ち受けていたのは加賀だった。
―指揮官、戻ったぞ
―ああ、お疲れ様
昨日から重桜のKANSEN達を委託に出していた。どうやら彼女達はさっき帰って来たらしい。
―指揮官様ぁ〜!
―ぅおっと…
加賀の後ろから赤城が飛びかかる。翔一はそんな彼女を抱きとめた。赤城は翔一の胸に顔を押しつけて思いっきり息を吸うと言う。
―はぁ…やっと指揮官様に再会できました
赤城は全身で翔一の体温を感じながらそう言った。
―ははっ、しっかり任務はこなせたかい?
―はい、もちろんっ
翔一は赤城の頭を撫でながら言う。
―それなら良かった
撫でられた赤城は一瞬体を硬直させたが、すぐにふにゃふにゃと力を抜き猫撫で声を出す。
―んふふ〜。指揮官様の大きい手…もっと感じていたいですぅ…
こんな調子の彼女に翔一が言う。
―赤城
―はぁい?
―君はまだやる事があるんじゃないかな?
翔一の言葉に加賀が続く。
―そうです。姉様、報告書をまとめなければなりません
と言うと、赤城は渋々と翔一から離れた。
―そうね…指揮官様、しばしお待ちください。また執務室で
―ああ
赤城と加賀は彼を後にした。離れていく2人が見えなくなると同時に、どこから来たのか愛宕が現れた。
―指揮官、お姉さん貴方に会えなくて寂しかったわぁ
そう言って彼女は不自然に感じるほど自然に翔一の腕に絡み付いた。
―愛宕、お疲れ様
愛宕は"ふふっ"と翔一に微笑むと、彼の腕に絡む力を強くして言う。
―ねぇ指揮官、いつになったらお姉さんのこと求めてくれるの?いつでも待ってるのに
すると、またしても翔一に近づく者がいた。
―あらぁ?私を差し置いてお楽しみなんて…許せませんねぇ
妖艶に微笑み向かって来たローンは、愛宕と同様に翔一に密着し、彼女を一瞥した。その目に光はなく、翔一さえも飲み込まんとする深き闇があった。ちょっと怖い。
委託に出していないローンがなぜここにいるのかは分からないが、取り敢えず2人に離れるように言う。
―愛宕、ローン、そこまでにして離れるんだ
渋々離れる2人だったが、彼女たちは彼を挟んで立ち、互いの目線をバチバチと交差させた。
中々動きづらい状況で、翔一を導くようにベルファストの声が聞こえる。
―ご主人様。そろそろお仕事に戻ってはいかがでしょうか
彼女の声は翔一に少しの安心感を覚えさせた。
―ああ、そうだな。愛宕、ローン。俺は執務室に戻るから、用があればまた来てくれ
―それじゃあお姉さんはこのままついて行けばいいわね
―指揮官、私とたくさんお話しましょ~
結局、2人を引き離すのには時間がかかった。
――――――――――――――――――――
執務室―
―お帰り、指揮官
―ああ、今戻ったよ
執務室に帰ってきた翔一をエンタープライズが迎えた。彼の後ろに続いてベルファストも部屋に入ってくる。
―…
ベルファストはほんの少しだけ浮かない様子で歩いている。気付いたのはエンタープライズだけだったが、彼女はベルファストには何も言わずその姿を目で追うだけだった。
翔一は椅子に座り、机にあるモニターをつける。今回の出撃の報告書を作るためだ。
作業を始め、キーボードを叩く音だけが響く。しばらくすると、そんな静かな執務室に来客が現れた。
―指揮官さま~
スッと執務室の扉が開かれると、姿を見せたのは大鳳だった。
―大鳳、どうしたんだ?
多分大した用はないだろうと思いながらもそう聞いた翔一に、彼女は答える。
―指揮官様に会いたくて会いたくてどうしようもありませんでしたので来てしまいました
彼女はそう言って座っている翔一に絡みつく。大鳳の目には翔一しか映っていない。
―ねぇ、指揮官様ぁ…
―ん?
翔一は大鳳に向いていた目をもう一度モニターに移し、キーボードを叩きながら反応する。
―ずっとそんな作業をしていてお疲れではありませんか?よろしければ大鳳とお散歩でも行きませんこと?もちろん、ふ・た・り・で
―うぅん、いやでもな…
すっかり資料作成に集中してしまった翔一は生返事をすると、大鳳は彼の腕に絡みつく力をさらに強くする。
―もう、指揮官様。こちらを見てほしいですっ
大鳳を翔一は見る。艶やかだが唇を尖らせたその顔はしかし、彼に見つめられ、ほんのりと赤く染まった。
―ふふっ、そんなに見つめられてしまうと照れてしまいます
すると大鳳は翔一を引っ張り立ち上がらせる。
―お、おい…
―さ、指揮官様、大鳳と一緒にお出かけしましょ…ね?
囁くように翔一を誘い、彼を執務室の扉へ連れていく。
―ふっふふ…今日はずぅっと大鳳といましょうね
―あぁ、ちょっと…
自然に無理やり大鳳につれて行かれててしまう翔一は、彼女から離れることができずそのまま廊下に出そうになる。そんな姿を見たエンタープライズは何か言おうとしたが、もう1人のKANSENの動きを見て開いた口を閉ざした。
―い、いけませんっ、ご主人様
ベルファストだ。彼女は両手で翔一の右手の袖口を掴んだ。人差し指と親指でつまむ程度の、自信のなさを感じるような引き止め方だった。
ベルファストそっちのけでほかのKANSENといちゃいちゃしてる指揮官にベルファストがご機嫌斜めなようだにゃ!
WARSの設定についてはここ(ピクシブ)を見てにゃ
感想もよかったらよろしくにゃ
細かい設定、設定画はここ(ピクシブ)にゃ
どんな所がよかったですか?
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